魔王城すこや課、本日も無事社畜です!

ハルタカ

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2.すこや課、現場入りします

11話

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「じゃあ、必要な素材について説明していくね」

 解毒に効果が見られた成分について簡単な説明を受ける。
 もといた世界のように化学式で表現されるものではないが、この世界独特の体系があるようで興味深い。

(うう……興味深い、けど難しい。もうちょっと理系の科目に興味を持っておけばよかった……)


 社会人になってその重要性に気付く科目は少なくない。
 ところどころ頭に???を浮かべながらも、シオンは必死にメモを取った。


 特定できた毒素は魔塔がほぼノーマークだった物質だった。
 およそ『今まで認知されていたサンドワーム』の体内では合成できるはずがないものだったからだ。

 毒の分析と並行して、討伐後のサンドワームの死骸の解剖も進んでいる。
 しかしそれでも、今のところ大きな情報の更新は無かった。

 結局、どのような突然変異の結果、今回の騒ぎに至ったのか?はまだまだ解明できていないのだそうだ。
 

「それで、特に重要なのがこの植物を乾燥させて抽出する成分なんだけど」


 ノイルはここまで早口で説明をし、困ったようにふう……と息をついた。


「これ、困ったことに魔王城内に備蓄がほとんどない植物なんだよねえ」

 そもそも、生息地がかなり限定されている。
 湿度が高過ぎず温暖で、気候の変化が穏やかな、良く肥えた土地でしか根を張らない。


 この世界の気候はかなり極端だ。
 過酷な環境の土地に定住しているのは魔物やモンスターに限られ、見かける人間の姿は冒険者くらいだ。

 温暖で気候の変化が穏やか……そんな条件の良い土地は、当然人間に開拓されている。
 そして、人間達にとっては一大食糧生産地として重要な地方拠点となっているのだ。

 つまり、魔物達からすると非常に手を出しにくく、交易でしかなかなか手に入らない植物ということになる。

「種はいくらか保存してあるみたいで、さっきナナリーに相談はしたんだけど……ドライアドの力を借りたとしても、大量生産できるようになるには日数が必要でね」

 
 聞けば、解毒剤を作るのに必要な素材の量は、おおよそ六百キロ。
 畑に転がっている牧草ロールを想像すると、あのコロンとした巨大なロール二つ分だ。

 保存してあった種は小瓶にぎっしりひとつ分ほどのものらしく、残念ながら足しにはなりそうもない。


「なるほど……魔王城に出入りしている商人が取り扱っているか、調査を進めますね」


 商人それぞれに得意分野が存在する。
 装飾品や美術品、武器や魔道具、嗜好品や生鮮食品など分野としても様々だ。

 今回のように乾燥させた植物となると、ハーブや魔法薬を得意とする商人にあたるのがいいだろう。

 頭の中で数人をピックアップしながら、シオンはレヴィアスに質問を投げかけた。


「単価がいくらなのかはこれから調査しますが、場合によっては物々交換の方が話が早いかもしれません」

 とにかく、魔王城には外貨が不足している。
 そうなると、多少足元を見られる部分があるかもしれないが、物々交換の方が早いだろう。

 汚染がじわじわと今も広がっている状況下で、必要な分の外貨の調達からスタート、では現場も土地も疲弊してしまう。


「そうですね。優先すべきは入手速度でしょう。……例えばハーピーの尾羽との交換ではどうでしょう」

 レヴィアスの言葉に同調するように、ノイルがぽんと手を打つ。
 
「ああ、それがちょうどいいかもね。……変に武器として使えちゃったり、含有する魔力量が多かったりすると厄介だからねえ」
 

 ハーピーの尾羽は、純粋に装飾品として、高貴な身分の人間達に好まれている。
 軽く、輸送も楽ということもあって、輸出品として優秀だ。

 換金性の高い素材というだけなら、バイコーンの角や、サラマンダーの棘なども好まれる傾向がある。
 しかし、これらは加工次第で強力な武器になる。

 和平を結んでいるとはいえ、かつて刃を交えた相手に兵器の原材料を手渡すのはあまりにリスキーだ。
 結局、魔物と人間との関係性はまだまだ不安定なのだと痛感する。


「わかりました、在庫とあわせて、ここのハーピーの族長さんにもどのくらい出せそうか聞いてみます」

「いいんじゃない?彼らも一方的に支援を受けて終わりじゃなくて、自分達が出せるもので費用を賄えた方が気が楽だろうしねえ」
 

 なるほど、とノイルに向かって一つ頷き、シオンはさらさらと手帳にペンを走らせた。

 合わせてすぐに連絡が取れそうな商人の名前も書きつけていく。
 とはいっても、候補は少ない。
 何せ、泣く子も黙る魔王城だ。

 好き好んで商売相手にしようという奇特な人間は、やはり限られる。トホホ。


「レヴィアス様、サンドワームの解体処理についてなんですが……」

 テントの入口に、どやどやと数人のリザードマンが集まってくる。
 彼らは、討伐した後のサンドワームの調査と処理を任されている班なのだろう。
 手に持っている鉈や斧には、べっとり血だとか体液が付いていて、仕事とわかっていてもドキっとする。


「では、商人との商談はお任せします。物々交換の対象を変える必要があれば、知らせてください」

 それだけ言い残すと、レヴィアスはテントから外へと出ていった。


(あっ……)


 シオンはふと、ポケットに忍ばせていたもののことを思い出す。
 レヴィアスがテントの入り口付近で何かの報告を受け終わったのを見計らって、シオンはノイルに声をかけた。


「すみません、ちょっとだけレヴィアスさんに声をかけてきます」


 はーい、とのんきな返事をしたノイルは、さっそく別の作業に取り掛かっている。
 シオンは小走りでテントの外へと向かった。


「レヴィアスさん」


 今まさに歩き出そうというレヴィアスを、背後から呼び止める。
 振り返るレヴィアスに、シオンはポケットから包みを取り出して手渡した。


「あの、昨日はみっともないところをお見せしてすみません……これ」


 お詫びというか、お礼というか……
 うーん、と何度かもごもご呟きながら、シオンは結局違う言葉を口にした。


「いつもお疲れ様です、ちょっとでも、レヴィアスさんの疲れが取れればと思って」


 差し出した包みの中には、アニタから分けてもらったお菓子が入っている。
 本当は昨日の夜に渡そうと思っていたのだが、すっかり機会を逃してしまっていたのだ。


「って言っても、私も貰い物なんですけど……」


 レヴィアスの表情は変わらない。
 ただ、ゆっくりと手を伸ばし、その小さな包みを受け取ってくれたことに、シオンはにこりと微笑んだ。


「では、また!」

 シオンはペコリとお辞儀して、ノイルが待つテントにいそいそと戻った。

 お待たせしましたー、と声をかけてテントの中を歩いていると、何やらいたるところからの視線が突き刺さる。
 真正面にいるノイルは変な顔をしているし、床の屍たちも顔だけ上げてこちらを見ている。


「えっ、こわっ……」

「いやあ、怖いのは君とレヴィだよ」

 何故だか遠い目をして、ノイルがそう呟いた。
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