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さらに一週間後、ようやくスタンピードのスタート地点が判明したとの報告が入った。
今までは敵が多すぎて近づけなかったのだが、潜行していたAランク冒険者が辺境伯領の大森林から入り、敵が多い所と少ない所を調査しながら進んだ結果、グレゴリー侯爵領寄りの瘴気の一つが消滅していることが判明したのだ。
過去他国で起こったスタンピード後の調査結果から、瘴気がそこに存在できる限界値を突破して爆発し、大量の魔獣を吐き出すのだろう、ということはわかっていた。
爆発するのであるから、当然その瘴気は消滅し、以後そこから魔獣が発生することはなくなるのだった。
瘴気はこの大陸ができた頃から存在するとされる。
神が人と魔族を分けた時にも、瘴気を消すことはなかった。
できなかったのか、そこまでの必要を感じなかったのかはわからない。
人への試練、と精霊教会は説いているが、実際のところは不明である。
研究者の中には、瘴気は魔族領と繋がっており、そこから魔獣は現れるのだと言う。
誰も魔族領に行ったことはなく、真実は闇の中だ。
侯爵領寄りの瘴気から発生したと確定したことで、何故侯爵領へ侵攻してきたのかの理由はわかったのだった。
大森林を通って辺境伯領へ押し寄せるより、そちらの方が森林の密度は薄く魔獣達が走りやすい。
とはいえ、瘴気の濃度については年に一度調査されており、その場所の瘴気は昨年末に調査されている場所であった。
一年で爆発する程の濃度に変化するなど聞いたこともなく、原因が不明である。
他の瘴気も同じようになるのであれば大陸中がパニックに陥りかねない。
突然の爆発、予期せぬスタンピードの発生。
それにしても、と、王太子は考える。
誰も予測等しようのない事態であるのに、侯爵領の被害は軽微であった。
人的被害は森林公園に勤めているスタッフのみであり、足の速い魔獣が外壁へと押し寄せた時にはすでに門は閉ざされており、西門からの出入りは完全に禁止され、南北東の門についても厳しく制限されていた。
即座に王宮へ救援要請も出しており、手際が良すぎたのだった。
魔獣慣れしている辺境伯領ならばともかく、冒険者の助言を受けたこともない侯爵領の対応としては迅速であり、不審が募る。
かといって瘴気を爆発させる方法を知っているとも思えず、自領を魔獣が押し寄せ危険に晒すというのもおかしな話だ。
だが自領を攻められているにも関わらず侯爵は冷静であり、王宮や現場の対応に口出ししてくることもない。
上層部では不審を共有しているが、その他にはまだ秘密であった。
いつものグレゴリー侯爵であれば、原因が辺境伯領の瘴気であるとわかれば食ってかかるはずであるのに、静かなままでいるのも奇妙であった。
辺境伯も首を傾げ、王宮に詰めている王女達も気味悪がっていた。
油断はできない。
侯爵周辺の監視はすでに行っている。
何か行動することがあれば、即座に報告があるだろう。
東の都市カンズでの魔獣襲撃が落ち着いた、との報告があったのはそれから数日後のことである。
ルイビスタスでSランク冒険者と、他国から集まってくれたAランク冒険者が殲滅に加わったおかげで、反対方向である東へ流れる魔獣が減ったという話であった。
だがまだ皆無ではないため、Bランク以下の冒険者は残し、Aランク冒険者は他の都市へと振り分けた。
殲滅力が上がった南北都市でも少しずつ魔獣の数は減って行き、Sランクに近い敵が現れてもAランクパーティーが複数協力することで倒すことができていた。
幸いであったのは、パーティーが協力すれば倒せる程度の魔獣しか来なかったことである。
Sランク級魔獣のほとんどはルイビスタスで、名誉騎士一行が引き受けてくれていた。
いくつか流されてきたSランク級の敵も、八十階から九十階で出現する魔獣であると教えてくれたのは名誉騎士であった。
弱めのSランクはあえて南北へ流し、Aランク冒険者のレベルを上げようという企みのようである。
戦況を見極め、無理のない配慮をし、戦術を授けて育成しようとする英雄達に冒険者は畏れを抱いた。
同時に、それだけの敵を中央で引き受けてもらっているという現実を突きつけられ、Aランク冒険者達は奮起するのだった。
南北都市でのSランク級魔獣との戦闘はすでにレベル上げの様相を呈しており、Bランク冒険者達もまた、弱めのAランク級は協力して倒すことでレベル上げに勤しむようになっていた。
このスタンピードに参加しついて来た者達は、確実にレベルアップしていた。
周囲に手本となる高ランク冒険者がいて、勉強しながら戦えるのだ。
自然周囲と協力しあうようになり、戦術を考えるようになる。
休憩の為に都市へと戻れば、活発に戦闘方法についての議論が交わされている光景を見ることも多くなった。
逆に、酒場で管を巻いてやさぐれている冒険者達の姿も増えた。
ついて行けない者達に、もはややれることはない。
テントに籠もる者、門に凭れ掛かって酒瓶片手にふて寝する者の姿も多い。
救護テントの利用者は減っていた。
高ランク冒険者になれば、回復できる後衛は必ずセットでいるものだ。
低ランク相手の回復用テントの重要度は当初よりも減っていた。
主に貴族令嬢が詰めていたテントの周辺には護衛も多かったが、少しずつ令嬢は数を減らしていき、最低人数で回せるようになっていた。
アイラやミリアム、ミラは最後まで残るつもりである。
学園は休校となっており、スタンピード討伐への参加協力が出席代わりとなっている為、学園の生徒はほとんどが参加している。
ジャン達のパーティーは東の都市カンズで参加しており、真面目に頑張っているということだった。
王太子一行も、この都市で頑張っている。
今やSランク級の魔獣すらも倒しており、圧倒的な人気であった。
サラは必ず休憩になると救護テントに寄り、アイラ達に顔を見せてくれる。
サラが来るということは王太子一行も同行するということであり、おかげで救護テントにいる貴族令嬢に不埒な真似をしようという輩は皆無であった。
それどころか気遣ってくれる冒険者達が多く、回復の為でなくとも食べ物や飲み物、花やお菓子等の差し入れで顔を出してくれる者が増えたのだった。
護衛を買って出てくれる冒険者達も増え、ホテルへ戻る時にも安心である。
予想していたよりもずっと快適に過ごすことができ、令嬢達はサラに感謝していた。
さらに一週間後、ようやく南北都市の魔獣の侵攻が止まったようだった。
ルイビスタスでも見える範囲に魔獣の姿はなく、ようやく森林公園へ向けて進軍できるということで、南北都市にいるAランク冒険者はルイビスタスへと移動した。
ここまではとても順調であった。
各都市の門を突破されることなく、食い止めたのだ。
ルイビスタスに到着した王太子一行は、大歓声で迎えられた。
転移装置を出てすぐ、先頭に名誉騎士が立っていて驚くが、王太子は表情を変えることなく名誉騎士の元へと歩み寄った。
サラ達もまた後ろに従い、頭を下げる父親を見ていた。
「出迎えご苦労」
「ご無事で何よりです、殿下」
「パーティーメンバーのおかげだ。そして何より、ここで食い止めてくれた皆のおかげである」
「もったいなきお言葉」
「拠点へ行く。貴殿も同行せよ」
「御意」
名誉騎士を先頭に拠点へと歩く。
周囲には人垣が出来、誰もが名誉騎士と王太子一行を見る為に集まっていた。
王太子は王族たる完璧な微笑みで応えていた。
拠点に入り、参加登録を済ませる。
王太子の為にホテルの貴賓室を用意されているので、名誉騎士を伴ったままそちらへと向かい、居間へ入ると名誉騎士は兄妹を抱き寄せた。
「おまえ達が無事で良かった…!」
「父上こそ、ご無事で良かった。武勇伝はいくつも伝わってきてますよ」
「お父様、お元気そうで良かった。私達、強くなりました!」
親子の対面に水を差す者はいなかった。
王太子やカイル達はソファに腰掛け、侍従が茶を用意する。
「随分レベルが上がっている。Sランクへの昇級は問題なさそうだな」
「父上達のご配慮のおかげです」
「最初に提案したのはロジャーだ。Aランクの連中をSに上げれば戦闘が楽になるだろう、と」
「名案だった。おかげでBランク以下の冒険者達も力をつけた」
王太子の言葉に、名誉騎士は頷く。
「ここの者達も軒並みレベルは上がっておりますが、この先はおそらくAランク以上の冒険者でなければ進行は不可能かと」
「それほどか」
「はい」
「聞かせてくれ」
「御意」
父はようやく兄妹を離して移動する。
全員ソファに座って、状況を聞いた。
「森林公園付近に留まっている魔獣がおそらくボスクラスと思われます。映像を見た限り、我々も見たことがない魔獣が何体もおります。その奥にさらにいると思われますが、気配だけで姿は見えないそうです」
「他には?」
「手前にはAランク級、その向こうにはSランク級が」
「そうか。引き離すことは可能なのだろうか」
「ランクの違う敵はリンクしません。ヘイト連動もありませんので、気づかれないよう引っ張れば可能かと思われます」
「なかなか難しいことを言う」
「引っ張るだけならば我々が行い、各パーティーの盾役にヘイトを引き継いでもらえば可能です。ただ…」
「引き受けるパーティーの実力が足りなければ壊滅するし、引っ張ったメンバーの所へ一目散だな」
「はい」
「敵が公園周辺から動かないのであれば、戦闘場所を移さねばならないな。辺境伯領で使っていたような、戦闘場所付近と大本営間を繋ぐ転移装置の設置が急務か」
「それにつきましては、すでに陛下から西国に掛け合って頂き、用意ができております」
「さすがだな。ノスタトルでの経験から見て、今回のスタンピードをどう見るか?」
「前回のボス、ワイバーンロードは森林内を縦横無尽に駆け回り、都市にも飛んで来てブレスを吐き、大量の魔獣をおかまいなしに巻き込んで殺戮しておりました。それに比べれば、今回のボスと思しき魔獣は大人しいことが不気味です」
「ふむ。そのような奔放な魔獣はフランクリンでは見かけなかった。ルイビスタスではどうだったか?」
「何体か猛禽類タイプのSクラス級がおりましたが、都市に被害を及ぼす前に処理は完了しております」
「なるほど、ここに名誉騎士殿のパーティーがいたのは正解だったな」
「ありがとうございます」
サラ達は口を挟むことなく、大人しく座っていた。
「ワイバーンロードは討伐に一週間かかったと聞いている。今回もそうなるようであれば、転移装置だけではなく、野営し、人員を交代しながら物資を運び込んで支援する体制が必要となるか」
「実際にボスを見てみなければ何とも言えませんが…」
「準備はしておこう。会議では映像は見られるのだろう?」
「はい。Aランク冒険者に過不足なく振り分ける為にも、実際に魔獣を見て対応可能か判断して頂くのが適当と判断しました」
「うん、そうだな」
Aランク以上の冒険者が集まる会議は夜開かれる。
森林公園付近に固まった魔獣達は、都市へと動こうとはせずに留まっているからこそ可能なことである。
監視は怠らず、異常があればすぐに報告されることになっていた。
Bランク以下の冒険者達はほぼ役目を終えたと言える。
対応可能な魔獣はほぼいなくなり、今後は一部を残して後は解散の流れとなった。
一足早くCランクの者達は解散となっており、働きに応じて報奨金が支払われる。
救護用テントに詰めていた貴族令嬢達も、帰宅できることになったのだった。
南北東の都市は見回りの為の冒険者は残っているが、拠点は縮小し各領地から集まっていた店は撤収を始めていた。
支援物資や人材はルイビスタスに集中することになったが、低ランク冒険者向けの商売や補助施設は店じまいである。
これらの差配は全て王宮で行っており、王女と宰相、魔術師団顧問が中心となって動いていたが、破綻もなくスムーズに移動が行われており、彼女達の優秀さが際だつのだった。
名誉騎士や王太子一行の働きは逐一大陸中に発表されており、いよいよ最終決戦だと民達の気持ちは高ぶっている。
各国も元々はダンジョン攻略の為に、国の重鎮を送り出しているのだ。関心は高かった。
夜、会議において映像を確認し、振り分けをした。
皆の士気は高い。
王太子は立ち上がり、ぐるりと室内を見渡した。
「未だボスの姿は確認できず、強さも不明である。ノスタトルのスタンピードでは、ボスの討伐に一週間かかった。今回も、Sランク冒険者の皆はその覚悟で臨んでくれる。そうなった際にはAランク冒険者諸君の支援が必要だ。そして冒険者の皆を支える為の物資や人員の用意もある。これが最終局面だ。皆の力を貸して欲しい」
「御意!」
「明日午前八時より行動を開始する。今日はゆっくり休んで欲しい」
いよいよ最終戦であった。
今までは敵が多すぎて近づけなかったのだが、潜行していたAランク冒険者が辺境伯領の大森林から入り、敵が多い所と少ない所を調査しながら進んだ結果、グレゴリー侯爵領寄りの瘴気の一つが消滅していることが判明したのだ。
過去他国で起こったスタンピード後の調査結果から、瘴気がそこに存在できる限界値を突破して爆発し、大量の魔獣を吐き出すのだろう、ということはわかっていた。
爆発するのであるから、当然その瘴気は消滅し、以後そこから魔獣が発生することはなくなるのだった。
瘴気はこの大陸ができた頃から存在するとされる。
神が人と魔族を分けた時にも、瘴気を消すことはなかった。
できなかったのか、そこまでの必要を感じなかったのかはわからない。
人への試練、と精霊教会は説いているが、実際のところは不明である。
研究者の中には、瘴気は魔族領と繋がっており、そこから魔獣は現れるのだと言う。
誰も魔族領に行ったことはなく、真実は闇の中だ。
侯爵領寄りの瘴気から発生したと確定したことで、何故侯爵領へ侵攻してきたのかの理由はわかったのだった。
大森林を通って辺境伯領へ押し寄せるより、そちらの方が森林の密度は薄く魔獣達が走りやすい。
とはいえ、瘴気の濃度については年に一度調査されており、その場所の瘴気は昨年末に調査されている場所であった。
一年で爆発する程の濃度に変化するなど聞いたこともなく、原因が不明である。
他の瘴気も同じようになるのであれば大陸中がパニックに陥りかねない。
突然の爆発、予期せぬスタンピードの発生。
それにしても、と、王太子は考える。
誰も予測等しようのない事態であるのに、侯爵領の被害は軽微であった。
人的被害は森林公園に勤めているスタッフのみであり、足の速い魔獣が外壁へと押し寄せた時にはすでに門は閉ざされており、西門からの出入りは完全に禁止され、南北東の門についても厳しく制限されていた。
即座に王宮へ救援要請も出しており、手際が良すぎたのだった。
魔獣慣れしている辺境伯領ならばともかく、冒険者の助言を受けたこともない侯爵領の対応としては迅速であり、不審が募る。
かといって瘴気を爆発させる方法を知っているとも思えず、自領を魔獣が押し寄せ危険に晒すというのもおかしな話だ。
だが自領を攻められているにも関わらず侯爵は冷静であり、王宮や現場の対応に口出ししてくることもない。
上層部では不審を共有しているが、その他にはまだ秘密であった。
いつものグレゴリー侯爵であれば、原因が辺境伯領の瘴気であるとわかれば食ってかかるはずであるのに、静かなままでいるのも奇妙であった。
辺境伯も首を傾げ、王宮に詰めている王女達も気味悪がっていた。
油断はできない。
侯爵周辺の監視はすでに行っている。
何か行動することがあれば、即座に報告があるだろう。
東の都市カンズでの魔獣襲撃が落ち着いた、との報告があったのはそれから数日後のことである。
ルイビスタスでSランク冒険者と、他国から集まってくれたAランク冒険者が殲滅に加わったおかげで、反対方向である東へ流れる魔獣が減ったという話であった。
だがまだ皆無ではないため、Bランク以下の冒険者は残し、Aランク冒険者は他の都市へと振り分けた。
殲滅力が上がった南北都市でも少しずつ魔獣の数は減って行き、Sランクに近い敵が現れてもAランクパーティーが複数協力することで倒すことができていた。
幸いであったのは、パーティーが協力すれば倒せる程度の魔獣しか来なかったことである。
Sランク級魔獣のほとんどはルイビスタスで、名誉騎士一行が引き受けてくれていた。
いくつか流されてきたSランク級の敵も、八十階から九十階で出現する魔獣であると教えてくれたのは名誉騎士であった。
弱めのSランクはあえて南北へ流し、Aランク冒険者のレベルを上げようという企みのようである。
戦況を見極め、無理のない配慮をし、戦術を授けて育成しようとする英雄達に冒険者は畏れを抱いた。
同時に、それだけの敵を中央で引き受けてもらっているという現実を突きつけられ、Aランク冒険者達は奮起するのだった。
南北都市でのSランク級魔獣との戦闘はすでにレベル上げの様相を呈しており、Bランク冒険者達もまた、弱めのAランク級は協力して倒すことでレベル上げに勤しむようになっていた。
このスタンピードに参加しついて来た者達は、確実にレベルアップしていた。
周囲に手本となる高ランク冒険者がいて、勉強しながら戦えるのだ。
自然周囲と協力しあうようになり、戦術を考えるようになる。
休憩の為に都市へと戻れば、活発に戦闘方法についての議論が交わされている光景を見ることも多くなった。
逆に、酒場で管を巻いてやさぐれている冒険者達の姿も増えた。
ついて行けない者達に、もはややれることはない。
テントに籠もる者、門に凭れ掛かって酒瓶片手にふて寝する者の姿も多い。
救護テントの利用者は減っていた。
高ランク冒険者になれば、回復できる後衛は必ずセットでいるものだ。
低ランク相手の回復用テントの重要度は当初よりも減っていた。
主に貴族令嬢が詰めていたテントの周辺には護衛も多かったが、少しずつ令嬢は数を減らしていき、最低人数で回せるようになっていた。
アイラやミリアム、ミラは最後まで残るつもりである。
学園は休校となっており、スタンピード討伐への参加協力が出席代わりとなっている為、学園の生徒はほとんどが参加している。
ジャン達のパーティーは東の都市カンズで参加しており、真面目に頑張っているということだった。
王太子一行も、この都市で頑張っている。
今やSランク級の魔獣すらも倒しており、圧倒的な人気であった。
サラは必ず休憩になると救護テントに寄り、アイラ達に顔を見せてくれる。
サラが来るということは王太子一行も同行するということであり、おかげで救護テントにいる貴族令嬢に不埒な真似をしようという輩は皆無であった。
それどころか気遣ってくれる冒険者達が多く、回復の為でなくとも食べ物や飲み物、花やお菓子等の差し入れで顔を出してくれる者が増えたのだった。
護衛を買って出てくれる冒険者達も増え、ホテルへ戻る時にも安心である。
予想していたよりもずっと快適に過ごすことができ、令嬢達はサラに感謝していた。
さらに一週間後、ようやく南北都市の魔獣の侵攻が止まったようだった。
ルイビスタスでも見える範囲に魔獣の姿はなく、ようやく森林公園へ向けて進軍できるということで、南北都市にいるAランク冒険者はルイビスタスへと移動した。
ここまではとても順調であった。
各都市の門を突破されることなく、食い止めたのだ。
ルイビスタスに到着した王太子一行は、大歓声で迎えられた。
転移装置を出てすぐ、先頭に名誉騎士が立っていて驚くが、王太子は表情を変えることなく名誉騎士の元へと歩み寄った。
サラ達もまた後ろに従い、頭を下げる父親を見ていた。
「出迎えご苦労」
「ご無事で何よりです、殿下」
「パーティーメンバーのおかげだ。そして何より、ここで食い止めてくれた皆のおかげである」
「もったいなきお言葉」
「拠点へ行く。貴殿も同行せよ」
「御意」
名誉騎士を先頭に拠点へと歩く。
周囲には人垣が出来、誰もが名誉騎士と王太子一行を見る為に集まっていた。
王太子は王族たる完璧な微笑みで応えていた。
拠点に入り、参加登録を済ませる。
王太子の為にホテルの貴賓室を用意されているので、名誉騎士を伴ったままそちらへと向かい、居間へ入ると名誉騎士は兄妹を抱き寄せた。
「おまえ達が無事で良かった…!」
「父上こそ、ご無事で良かった。武勇伝はいくつも伝わってきてますよ」
「お父様、お元気そうで良かった。私達、強くなりました!」
親子の対面に水を差す者はいなかった。
王太子やカイル達はソファに腰掛け、侍従が茶を用意する。
「随分レベルが上がっている。Sランクへの昇級は問題なさそうだな」
「父上達のご配慮のおかげです」
「最初に提案したのはロジャーだ。Aランクの連中をSに上げれば戦闘が楽になるだろう、と」
「名案だった。おかげでBランク以下の冒険者達も力をつけた」
王太子の言葉に、名誉騎士は頷く。
「ここの者達も軒並みレベルは上がっておりますが、この先はおそらくAランク以上の冒険者でなければ進行は不可能かと」
「それほどか」
「はい」
「聞かせてくれ」
「御意」
父はようやく兄妹を離して移動する。
全員ソファに座って、状況を聞いた。
「森林公園付近に留まっている魔獣がおそらくボスクラスと思われます。映像を見た限り、我々も見たことがない魔獣が何体もおります。その奥にさらにいると思われますが、気配だけで姿は見えないそうです」
「他には?」
「手前にはAランク級、その向こうにはSランク級が」
「そうか。引き離すことは可能なのだろうか」
「ランクの違う敵はリンクしません。ヘイト連動もありませんので、気づかれないよう引っ張れば可能かと思われます」
「なかなか難しいことを言う」
「引っ張るだけならば我々が行い、各パーティーの盾役にヘイトを引き継いでもらえば可能です。ただ…」
「引き受けるパーティーの実力が足りなければ壊滅するし、引っ張ったメンバーの所へ一目散だな」
「はい」
「敵が公園周辺から動かないのであれば、戦闘場所を移さねばならないな。辺境伯領で使っていたような、戦闘場所付近と大本営間を繋ぐ転移装置の設置が急務か」
「それにつきましては、すでに陛下から西国に掛け合って頂き、用意ができております」
「さすがだな。ノスタトルでの経験から見て、今回のスタンピードをどう見るか?」
「前回のボス、ワイバーンロードは森林内を縦横無尽に駆け回り、都市にも飛んで来てブレスを吐き、大量の魔獣をおかまいなしに巻き込んで殺戮しておりました。それに比べれば、今回のボスと思しき魔獣は大人しいことが不気味です」
「ふむ。そのような奔放な魔獣はフランクリンでは見かけなかった。ルイビスタスではどうだったか?」
「何体か猛禽類タイプのSクラス級がおりましたが、都市に被害を及ぼす前に処理は完了しております」
「なるほど、ここに名誉騎士殿のパーティーがいたのは正解だったな」
「ありがとうございます」
サラ達は口を挟むことなく、大人しく座っていた。
「ワイバーンロードは討伐に一週間かかったと聞いている。今回もそうなるようであれば、転移装置だけではなく、野営し、人員を交代しながら物資を運び込んで支援する体制が必要となるか」
「実際にボスを見てみなければ何とも言えませんが…」
「準備はしておこう。会議では映像は見られるのだろう?」
「はい。Aランク冒険者に過不足なく振り分ける為にも、実際に魔獣を見て対応可能か判断して頂くのが適当と判断しました」
「うん、そうだな」
Aランク以上の冒険者が集まる会議は夜開かれる。
森林公園付近に固まった魔獣達は、都市へと動こうとはせずに留まっているからこそ可能なことである。
監視は怠らず、異常があればすぐに報告されることになっていた。
Bランク以下の冒険者達はほぼ役目を終えたと言える。
対応可能な魔獣はほぼいなくなり、今後は一部を残して後は解散の流れとなった。
一足早くCランクの者達は解散となっており、働きに応じて報奨金が支払われる。
救護用テントに詰めていた貴族令嬢達も、帰宅できることになったのだった。
南北東の都市は見回りの為の冒険者は残っているが、拠点は縮小し各領地から集まっていた店は撤収を始めていた。
支援物資や人材はルイビスタスに集中することになったが、低ランク冒険者向けの商売や補助施設は店じまいである。
これらの差配は全て王宮で行っており、王女と宰相、魔術師団顧問が中心となって動いていたが、破綻もなくスムーズに移動が行われており、彼女達の優秀さが際だつのだった。
名誉騎士や王太子一行の働きは逐一大陸中に発表されており、いよいよ最終決戦だと民達の気持ちは高ぶっている。
各国も元々はダンジョン攻略の為に、国の重鎮を送り出しているのだ。関心は高かった。
夜、会議において映像を確認し、振り分けをした。
皆の士気は高い。
王太子は立ち上がり、ぐるりと室内を見渡した。
「未だボスの姿は確認できず、強さも不明である。ノスタトルのスタンピードでは、ボスの討伐に一週間かかった。今回も、Sランク冒険者の皆はその覚悟で臨んでくれる。そうなった際にはAランク冒険者諸君の支援が必要だ。そして冒険者の皆を支える為の物資や人員の用意もある。これが最終局面だ。皆の力を貸して欲しい」
「御意!」
「明日午前八時より行動を開始する。今日はゆっくり休んで欲しい」
いよいよ最終戦であった。
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しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。
生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。
それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。
幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。
「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」
初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。
そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。
これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。
これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。
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