【完結】悪女を押し付けられていた第一王女は、愛する公爵に処刑されて幸せを得る

甘海そら

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2、メアリの兄

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 メアリが覚えている限りでは、始めはボタンだった。

 父であるデグ・ブラントは繊細とはほど遠い性格をしている。
 家具に服を引っ掛け、ボタンを失うことがよくあったのだ。

 その件について、デグは侍女や侍従から陰でからかわれていたのだが、それが不満のようだった。

『メアリがボタンにいたずらをすれば困っている』

 そう彼は周囲に主張したのだ。
 メアリは昔から目つきが悪かった。
 口数も多くは無く、何か良からぬことを考えていそうな陰気な雰囲気があった。

 周囲は納得した。
 メアリであれば、そのような悪事もするだろう。
 王へのからかいの声はいつの間にか止んでいた。

 それがいつの間にかこうなったのだ。

 自らの失態はメアリに背負ってもらう。
 それが王の習慣になり、そして……王家の習慣となった。

「遅いぞ、メアリ。一体何をしていた?」

 城下でさらし者にされてのすぐだった。
 王宮近くの屋敷である。
 メアリはその一室で深々と頭を下げることになっていた。

「申し訳ございません、お兄様」

 屋敷の華美な一室だ。
 そこの長椅子には大きく足を組んで座る青年がいる。
 ロイ・ブラント。
 メアリの兄だ。
 彼は「ふん」と不愉快そうに鼻を鳴らした。

「父上に呼ばれていたようだがな。それでも俺の呼びつけなのだ。次期の王たるこの俺のな。何を置いても駆けつけるべきであれば、もっと急げ。次は許さんぞ。分かったな?」

「……はい」

「では聞け。少し遊んでやった女がうるさいことを言ってきた。責任をとって妻にしろだと生意気にな。お前が邪魔していることにしろ。お前の妨害があって、俺は仕方なく結婚することが出来ないとする。それで丸く収まるのだ。分かったな?」

 かつて幾度いくどとなくあったことだった。

 ロイの女好きにはかなりのものがあった。
 美女であれば手当たり次第であり、また飽きるのも早かった。
 そこにメアリの出番があったのだ。
 悪女が邪魔をすれば別れざるを得ない。
 そんな言い訳のダシに使われ続けてきた。
 美女たちの憎悪の身代わりに利用され続けてきた。

(……情けない人)

 心中では軽蔑しつつも否とは言えなかった。
『悪いが家族の面倒を見てやってくれ』
 そう父からは伝えられていた。
 そして、それに背いた時には……メアリの周囲には、常に複数の侍女と侍従がいる。
 
 彼らは見張りだった。
 メアリが家族の意向に背くようであれば、また事実を他人にもらすようであれば。
 それは彼らに阻止されると同時に、父へと伝えられるのだ。
 その後は思い出したくもないことだった。
 一度だけ経験があった。
 地下牢へ幽閉されれば、そして……

「……承知しました」

 メアリが頭を下げると、ロイは「当然だ」と頷いた。
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