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マッチングシステムからの返信により、悠希は土曜日の午後に病院のバース科にある面談室でマッチング相手と面会する事になった。
決められた時間の十分前にタクシーで到着し、時間外受付に来院の目的を告げると、担当者は医師に連絡をする。
「すぐに先生が来られるそうです。そちらの椅子でお待ちください」
「はい。わかりました。ありがとうございます」
薄暗い時間外受付の前にある茶色の樹脂張りのベンチ。所々ひび割れた年季の入った座面に腰かけて待っているとまもなく担当医が現れた。
「悠希君、お待たせ。行こうか」
「こんにちは先生。時間外にお手数をおかけしてすみません」
「いや。勤務時間としてちゃんと報酬が支払われるから、気にしないで。相手の人は先に面談室に通したよ」
「もう先にいらしてるんですか?」
「そう。待ちきれなくて一時間前に来て待っているよ」
「え?そんなに早く」
「ふふふ。僕も立ち会うのが楽しみだよ。自分の頃を思い出すね」
「先生。僕は不安と期待といろんな感情で目まぐるしいです」
「それこそ人生の醍醐味だ。気楽にしてね」
「うぅ、はい」
医師について廊下をぐるぐると回る。時間外受付からバース科は遠い。帰り道がわかるだろうかと悠希は心配になるくらいだった。
「さあ、ここだよ」
無機質な会議室のような扉の前に出た。と、ここで医師がはたと気付いて質問する。
「あ、そうだった。来院前に抑制剤追加分を飲んでおいてくれた?」
「はい。連絡のあった通りに、二時間前に追加錠剤を飲みました」
「よし。大丈夫だね」
運命の番では会った途端に発情をきたすことも珍しくない。互いに会う時刻に合わせて弱い追加錠剤を服用してくることになっていた。確認の後にドアが開けられた。
「お待たせしたね」
医師に続いて悠希が入室する。机の前に座っていた青年が立ち上がった。
「こんにちは!ルーカス・リチャードソンです。あなたは先日の生徒さん!」
「あ!英語の先生」
「わぁっ!やっぱり運命だ。お会い出来てとても嬉しいです。来てくれてありがとう!」
「ちょっと。まだ自己紹介は待って。自分の名前もまだ早いって」
「ドクター。私は自分の名前はもう既に学校でもお知らせしています。彼に知られる事に何も問題はありません。私は運命の番に会うために日本に来ているのですから」
「わかった、わかった。とりあえず座って、互いの印象や趣味とか、話し合いからね」
医師に促されて、悠希に向かって広げていた両腕をおさめ、ルーカスは椅子に座り直した。悠希が対面に座り、医師が横の席にかけた。
「こんにちは。先日は体調は大丈夫でしたか?私は自分がラットにならないようにするのが精一杯であなたを気遣えずにすみません。あの後二回目の講義では見かけなかった。再会出来なくてとても心配していました」
「心配してくださってありがとうございます。この病院に来ました。フェロモンは落ち着いて、無事に帰宅しました」
「そうですか。良かったです」
「ふふふ。先生、日本語本当にお上手ですね」
「はい。見た目がガイジンでしょう?でも男性オメガの母は日本人です。アメリカで産まれたので私は日米の二重国籍です」
「そうなんですか。今はアメリカで大学に行ってるんですか?」
「いいえ。飛び級して卒業しています。少し父の会社で働いたのですが、番を見つけるために日本に来ることにしました」
「卒業しているんですか?何歳か伺っても?」
「二十歳です。私は母の国、日本に憧れていましたし長い休みには日本の祖父母の元に滞在することもありました。アメリカでマッチングに登録しても誰も紹介されませんでしたが両親のような運命の番を強く探し求めていました。22歳で国籍をどちらかに決めるまでは日本でも登録できるとわかったので希望して来たのです」
「そうなんですか。それで日本に?」
「はい。ティーチングアシスタントプログラムであれば、色んな学校で多くの人と知り合えますし、身元が保証されてマッチングに入りやすかったのです。あなたと知り合えたのでその選択は正しかったと思います。あなたのことを差し支えない程度に教えて頂けますか?」
「僕は今は高校三年生です。昔はアルファ、オメガのいる家庭だったようですが今は祖父母、両親、兄ともベータの家族だけです」
「そう。ではオメガの特性で困ることはありませんでしたか?」
「離れに住まわせて貰っているので、発情期は一人で過ごせてあまり困りませんでした。ここにいる先生が抑制剤や困ったことの相談にのってくださるので、とても助かっています」
「そうですか。周囲に恵まれて良かったですね」
「はい。先生?は、今後どういう人生設計を考えていますか?」
「先生はやめてどうぞルーカスと呼んでください。私は今後あなたと人生を歩きたいと思います。ですから、あなたが望めば日本国籍を選択し、日本で暮らすことも出来ます。あなたがアメリカ国籍を望むならそうしましょう。仕事は、父の会社で日米どちらでも働けます。祖父の日本の会社も選択出来ます」
「え?僕に合わせたいと?」
「番にとても憧れていました。両親はとても仲の良い番なんです」
「ご両親はどうやってお知り合いになったんですか?」
「母は自立心が強くオメガでも留学したいとアメリカの大学に進学しました。祖父母は反対したそうです。そこで学生同士で知り合ったのが父です。二人は運命の番でした。今はアメリカで二人で会社を経営しています」
決められた時間の十分前にタクシーで到着し、時間外受付に来院の目的を告げると、担当者は医師に連絡をする。
「すぐに先生が来られるそうです。そちらの椅子でお待ちください」
「はい。わかりました。ありがとうございます」
薄暗い時間外受付の前にある茶色の樹脂張りのベンチ。所々ひび割れた年季の入った座面に腰かけて待っているとまもなく担当医が現れた。
「悠希君、お待たせ。行こうか」
「こんにちは先生。時間外にお手数をおかけしてすみません」
「いや。勤務時間としてちゃんと報酬が支払われるから、気にしないで。相手の人は先に面談室に通したよ」
「もう先にいらしてるんですか?」
「そう。待ちきれなくて一時間前に来て待っているよ」
「え?そんなに早く」
「ふふふ。僕も立ち会うのが楽しみだよ。自分の頃を思い出すね」
「先生。僕は不安と期待といろんな感情で目まぐるしいです」
「それこそ人生の醍醐味だ。気楽にしてね」
「うぅ、はい」
医師について廊下をぐるぐると回る。時間外受付からバース科は遠い。帰り道がわかるだろうかと悠希は心配になるくらいだった。
「さあ、ここだよ」
無機質な会議室のような扉の前に出た。と、ここで医師がはたと気付いて質問する。
「あ、そうだった。来院前に抑制剤追加分を飲んでおいてくれた?」
「はい。連絡のあった通りに、二時間前に追加錠剤を飲みました」
「よし。大丈夫だね」
運命の番では会った途端に発情をきたすことも珍しくない。互いに会う時刻に合わせて弱い追加錠剤を服用してくることになっていた。確認の後にドアが開けられた。
「お待たせしたね」
医師に続いて悠希が入室する。机の前に座っていた青年が立ち上がった。
「こんにちは!ルーカス・リチャードソンです。あなたは先日の生徒さん!」
「あ!英語の先生」
「わぁっ!やっぱり運命だ。お会い出来てとても嬉しいです。来てくれてありがとう!」
「ちょっと。まだ自己紹介は待って。自分の名前もまだ早いって」
「ドクター。私は自分の名前はもう既に学校でもお知らせしています。彼に知られる事に何も問題はありません。私は運命の番に会うために日本に来ているのですから」
「わかった、わかった。とりあえず座って、互いの印象や趣味とか、話し合いからね」
医師に促されて、悠希に向かって広げていた両腕をおさめ、ルーカスは椅子に座り直した。悠希が対面に座り、医師が横の席にかけた。
「こんにちは。先日は体調は大丈夫でしたか?私は自分がラットにならないようにするのが精一杯であなたを気遣えずにすみません。あの後二回目の講義では見かけなかった。再会出来なくてとても心配していました」
「心配してくださってありがとうございます。この病院に来ました。フェロモンは落ち着いて、無事に帰宅しました」
「そうですか。良かったです」
「ふふふ。先生、日本語本当にお上手ですね」
「はい。見た目がガイジンでしょう?でも男性オメガの母は日本人です。アメリカで産まれたので私は日米の二重国籍です」
「そうなんですか。今はアメリカで大学に行ってるんですか?」
「いいえ。飛び級して卒業しています。少し父の会社で働いたのですが、番を見つけるために日本に来ることにしました」
「卒業しているんですか?何歳か伺っても?」
「二十歳です。私は母の国、日本に憧れていましたし長い休みには日本の祖父母の元に滞在することもありました。アメリカでマッチングに登録しても誰も紹介されませんでしたが両親のような運命の番を強く探し求めていました。22歳で国籍をどちらかに決めるまでは日本でも登録できるとわかったので希望して来たのです」
「そうなんですか。それで日本に?」
「はい。ティーチングアシスタントプログラムであれば、色んな学校で多くの人と知り合えますし、身元が保証されてマッチングに入りやすかったのです。あなたと知り合えたのでその選択は正しかったと思います。あなたのことを差し支えない程度に教えて頂けますか?」
「僕は今は高校三年生です。昔はアルファ、オメガのいる家庭だったようですが今は祖父母、両親、兄ともベータの家族だけです」
「そう。ではオメガの特性で困ることはありませんでしたか?」
「離れに住まわせて貰っているので、発情期は一人で過ごせてあまり困りませんでした。ここにいる先生が抑制剤や困ったことの相談にのってくださるので、とても助かっています」
「そうですか。周囲に恵まれて良かったですね」
「はい。先生?は、今後どういう人生設計を考えていますか?」
「先生はやめてどうぞルーカスと呼んでください。私は今後あなたと人生を歩きたいと思います。ですから、あなたが望めば日本国籍を選択し、日本で暮らすことも出来ます。あなたがアメリカ国籍を望むならそうしましょう。仕事は、父の会社で日米どちらでも働けます。祖父の日本の会社も選択出来ます」
「え?僕に合わせたいと?」
「番にとても憧れていました。両親はとても仲の良い番なんです」
「ご両親はどうやってお知り合いになったんですか?」
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