転生した新人獣医師オメガは獣人国王に愛される

こたま

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 「陽翔(はると)、悪いなぁ、厩舎の掃除手伝ってくれるか?」
「良いよ、兄さん。ポーちゃんのブラッシングもしてくる」
「就職して初の休みなのに本当にすまない。助かるよ」
「どういたしまして。父さん具合悪いんだからさ。協力するって」

 北海道の広い大地では、農業、畜産業が盛んだ。過去に大変な苦労をして土地を開墾した先祖達のお陰で今の僕達がある。

 僕の家は代々畜産業を営んでいる。乳牛の飼って、牛乳を出荷していた。他にも馬を飼ったり。古くは祖先が本州からまとまってこの地域に移住してきたようだ。父が継承した畜産業のお陰で、僕は産まれたときから近くに動物がいる生活だった。

 自分の馬も与えられて世話をしてきたし、動物達が大好きである。兄が牧場を継ぐということで畜産大に行っていたので、進学の際には希望を聞かれて獣医師になりたいと志望した。

 近隣の国立大学に入学するため、毎日頑張って勉強し、合格後は六年間の学生生活を過ごした。現在24歳である。
 実家の影響や大学での学びを元に将来を考えたところ、食の安全を守るべく公衆衛生獣医師になることにした。
 ペットの小動物を扱う方が収入は良いかも知れないが地元の自治体で役に立とうと思ったのだ。また次男ゆえのおおらかさと楽天的な性格、家業が順調で恵まれていたのかのんびりして、何事もガツガツしていないと言われてきた。公務員が合っているのではないだろうか。

 国家試験に合格して、さあ働きはじめだ、仕事に慣れるぞという5月の連休。父が体調をくずしたため、実家に手伝いに戻っている。普段は役所の近くのアパートで一人暮らしだ。

 その事件があった時は厩舎で掃除をして、次に自分の馬の世話をしていた。

「ポーちゃん、いつもかわいいなあ。おまえは。毛並みが最高だね」

 馬のブラッシングをしながら話しかけていた時のこと。

「うわっ!!何?!」

 突然目映い光に取り囲まれた。目の前にいたはずのポーちゃんが見えない。眩しさに目を閉じると、体が嵐のような風に巻かれて浮き上がっていく。

「わー!!」

 ぐるぐると回りながら上昇していく。おかしい。こんなに上がっているなら天井に着いていてもおかしくないのに…。
 ぐるぐる回転するから目を回しそうで開けられない。気分が悪くなってきて吐き気を催したその時

「わぁっ!」

 ドスン!

 お尻が何処かに着地した。ゆっくりと目を開く。眩しさに目がなれずはっきりしなかったが、しばらくして段々周りが見えてくる。

「何?ここ、何処だよ」

 お尻の下は厩舎の土ではなく、白い大理石の模様で冷たい感触だ。自分の周りが光る文字と線の模様で囲まれている。
 顔を上げて見回すと、白い大理石の教会聖堂のような柱が並んでいた。見渡しても窓が無いし、上には電灯が見当たらないのに随分明るい。

 そして何より、僕を遠巻きにして囲んでいる異様な人?生き物?何だあれは…獣?体が人間で顔が獣だったり、人の全身に何かの動物の耳が付いていたり、尻尾を振っている人や顔が人間で体が馬のようだったり。…夢?
 自分の顔をつねってみようか右手を上げると、そこにはポーちゃんお気に入りのブラシが握られたままだった。え?現実?どういうこと?

「ああ…。わが番。最愛。素晴らしい。ありがとう。神よ、感謝します」

 人垣の奥から、人間そのものの背が高く大柄で筋肉痛ながっしりした身体に西洋人のような彫りの深い美形の顔をした男性が進み出てきた。

「さあ、こちらへ。わが愛する人」

 手を差し出され、腰に手を回し立たせようとしてくる。

「ちょっと待って!ここは何処ですか?あなたは誰?」

 とりあえず発言してみたが、この人の言っている言葉は理解出来た。しかし内容は疑問だらけだ。

「僕は一体どうしてここに?今はどうなってるんですか?」

 何となく年上であろうし、周囲の人?獣?が道を開けたりするから偉い人なんだろうと思って敬語が出ている。

 手と腰を支えられて立ち上がると、僕より20センチ位背が高い人のようだと感じる。

「私はこの国の王、アルバートだ」
「王様?」
「ああ。私の運命の番を呼び出す神の儀式を行った。そこに現れたのがあなただ」
「運命の番?ここ、日本ではないですよね」
「ニホン?…ではない」
「あの人たち、人ですか?動物とヒトのミックス?全部僕の国や世界と違うんですけど?」
「ああ…おそらく世界が異なっているんだろう」
「異世界ってことか…?」
「とりあえず私の部屋で話そう」
「え?僕、帰れませんか?」
「私の番であることは確かだ。そうであればここにいて貰わなければならない」

 アルバート王は、僕の身体をひょいっとお姫様のように横抱きにした。

「わっ、わ」
「捕まっていてくれ」

 王の首に腕を回そうとして、右手のブラシが気になった。武器とか危ない物だと認識されなかったようで、そのまま取り上げられることもなく腕を回して両手でブラシを持った。
 王の顔や首もとに自分の顔が近づくと何とも言えない甘く深い芳香が漂って来た。何だろう。すり寄ってしまいたくなる。もっと深く嗅いでみたい。近づくのをためらってじっとしているうちに、どんどん歩みが進められた。

 大理石に絨毯を敷いたような長い廊下を進んだ先に、大きな両開きの扉がある。
 扉の前には左右に獣と人の混ざったような、鎧を来た人が立っている。手には長い槍のような、サスマタのような先端に鋭利な金属のついたものを持っている。

「開けろ」

 王が命じると双方が反対側に向けて扉を開け、広い入り口から中に入っていく。この間、後ろにも数人が着いてきて来ていたが中には入らず二人だけの入室になった。すると暗かった室内がぱっと明るくなる。
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