転生した新人獣医師オメガは獣人国王に愛される

こたま

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「ハル、その結婚式とは何だろう?」
「ん?」

 以前の転移者である妃の手記。内容を翻訳して欲しいと請われて、細かく説明した。アルはその時の王の行いを検証して同じ轍を踏まないようにしたいのだと言った。

「ああ。この国には結婚式自体が無かったんだね」
「ああ。初めて聞く言葉だ」
「結婚式は、神の前で神父さんが執り行う儀式。二人が健やかなる時も病める時もお互いを伴侶として末長く愛しますと言う宣誓をおこなうんだ。婚礼衣装を着て親族や友人が参列して、式の後にはパーティーをしたりとか。王族だとパレードとか、御披露目したりとかするんだと思う。僕はまだ友人も結婚してないから詳しい事はわからないけど」
「そうか。だが貴方の世界では大切な儀式なんだろう?それをしないで番になってはいけないと思うくらいには」
「女性だと余計に憧れるかもね。綺麗な白いドレス着て結婚式するの」
「よし。結婚式をしよう。ハルは私と結婚式をしてくれるか?」
「え?僕?特に強い憧れがあるわけでも無いけど…」
「いや。禍根を残してはいけない。どのような様式なのか詳しく教えて欲しい。宰相とともに必ずや納得のいく結婚式を執り行うと誓おう」

 俄然やる気になったアルに、一般的知識と過去に出席した親戚の結婚式を思い出して伝えた。

 するとリノさんもノリノリで僕の衣装を揃えると言う。今あるドレスや布地を使って美しく飾りたいと目をキラキラさせて楽しそうにしてくれているのだ。
 料理長も結婚式のケーキを作るべく試行錯誤を始めた。皆が僕の祝福を成功させたいと頑張ってくれている。僕も早くも感動してしまって断る言葉は見つからない。

「アル、初めにここに来た日に居たのは神殿みたいな部屋だよね。多分そこで愛を誓うみたいな感じかな?」
「そうだ。神父は居ないから宰相に進行役を頼んだ」
「指輪をする習慣は無いんだよね?」
「宝飾品としては石があるからそれを編み込んで指輪を作る。チョーカーの小さい物だから簡単だそうだ。他に髪飾りも新たに頼んだ」 

 カトラリーも木で出来ているものが多く、ナイフは石を研いだ感じだったから、確かに金属は少ない。獣人の皆は宝飾品は髪に着けたりネックレス、イヤリングはたまにみるけど指輪はしていない。動かすのに邪魔なのかも。
 普段は指輪をしないなら結婚式に作っても着けないと思うのだが、儀式として僕が説明したから譲れないらしく真剣に検討してくれている。

「ハルト様!婚礼衣装の最終確認です。お召しになって頂いて微調整させてください。本日は針仕事の得意なうちの娘を呼びました」
「はい…娘さんですか。ご面倒おかけしてすみません」
「とんでもございません。この結婚式というのはきっと各種族に流行すると思います。だってとても素敵でお幸せな事ですもの」

 娘さんは僕より年上でお子さんも沢山いらっしゃるという。番になって子供をもうけるのはとても幸せで自然な事なんだと力説し、また僕の婚礼を楽しみにしてくれているそうだ。

「「まあ~!素敵」」

 二人の声が重なった。成人男性の僕がオフホワイトのドレスを着るのは恥ずかしいけど。

「お似合いです。お美しいですわ。素晴らしく良く出来ました」

 二人が跳び跳ねて褒めてくれるので、何とも居心地が悪く恥ずかしい。顔が火照ってしまう。

「早く陛下にお見せしとうございます」
「そうですわね。きっと惚れ直してしまうでしょう」

「結婚式には、リノさんも参列してくれるの?」
「勿論出席させていただくようにお願い致しました。図書館のお二人やうちの娘も、厨房の皆に主だった騎士や各種族の村長も皆が出席希望です」
「そんな大ごとになっているんだ」
「はい。建国以来の大きなお祭りです」
「そっか。皆がお祭りとして楽しんでくれるなら良いかな」

 アルは黒のスーツを新調して僕の白い衣装を映えるようにしてくれるらしい。ベールも作ってブーケも説明したら庭師さんが張り切って作ってくれている。僕も楽しみになってきた。

 結婚式と決めた日。神殿で皆が集まってくれていた。ちょっとおめかししてスーツやドレスを着ている人達。

「ハルト。なんて美しい。この姿の貴方を見ることが出来て幸せだ。結婚式というのは素晴らしい習慣だ」
「そうだね。儀式をするというのは、区切りになる。人前に誓うのは、それだけでも決意を新たにする効果があると思うよ」

 僕はアルと腕を組んで後ろから進む。宰相が待っていて、僕が伝えた結婚の誓いを言ってくれた。

「「誓います」」

 二人で宣誓して、指輪をお互いの左手薬指にはめた。次にアルが白いベールを上げる。高い位置にある顔が膝を折ってくれると僕の高さに揃った。
 そっと目を閉じて待つとアルの唇が僕のに重なった。ほんわかと温かい気持ちがして幸せを感じた。僕もアルが好きだ。
 すると僕の首元に嵌まっていたチョーカーの宝石が光を受けてチカッ、と輝いた。

 アルも僕も目を開けて首をみた。光る宝石。まるで僕達の未来を照らすように。

「ハルト、ハル…愛している。未来永劫、私の生命の火が消えるその時まで」
「ありがとう」



「おめでとうございます」

 宰相の合図で皆が拍手して祝ってくれた。僕達はまだ番では無いけど、結婚式をしたことで僕の中に夫婦となる決意が固まってきたと思う。
 僕の覚悟のためには、必要な儀式だったんだろう。結婚式をして良かったかも知れない。
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