転生した新人獣医師オメガは獣人国王に愛される

こたま

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「ハルト様。どうかお気をつけくださいませ」
「ありがとうリノさん。わかってるつもりなんだけどね」

 どうにも自分が妊婦だなんて、実感が沸かない。


 過日。記憶も曖昧な発情期を過ごしてから、また僕は図書館通いをしていた。本から沢山の知識を得て、環境を変えない範囲で役に立つ事を見つけてはアルに伝えた。
 それは例えば、連作で弱った土は収穫量が減ってしまう。ではどうするのか。僕の知っている事としたら、農地を休ませたり転作したり、肥料を与えるとかだ。この国では肥料を与える事があまりなかった。使える素材は何か、調べて考えて試す…という具合だ。
 せっかく北海道に住んでいたのだからもっと農業を学んでおけば良かった。もっと役に立つ知識を蓄えることが出来たかもしれないのに。

 そんな日々のなか、だんだん髪が伸び、生活にも慣れてきていた。アルは僕を甘やかして、いつも膝に乗せたり撫でたり、キスをしてくる。人目を気にしないアルに僕もそんなものかと受け入れていた。

 そしてある朝、起きて顔を洗っていたら

「う…気持ち悪…」

 おえっ、胃液を吐いた。口を濯いで吐き気を我慢したまま起きてきたベッドに戻って休んだ。

「ダメだ。気持ち悪い。治らない」

 う〰️…吐き気をこらえながら横になっていたら

「ハルト様。どうされましたか?」

 出勤時間になったのかリノさんが声をかけてくれた。

「気持ち悪くて。吐き気がして」
「まあ。大変」

 そっと背中をさすってくれるのが子供の頃の母の仕草を思い出し、不覚にも涙が滲んできた。しかし気持ち悪い。

「ハル!大丈夫か?」
「アル…気持ち悪い。頭も痛くなってきた」
「そうか。心配だな、何か欲しいものは?」
「いらない…」

 少し寝ても治らない。喉が乾いたが飲むと吐きそう。

「ハルト様、気分がすっきりするようにハーブ水をお持ち致しました。飲めますか?」

 リノさんが持ってきてくれたのは、爽やかな薫りの冷やしたお茶。何とか少し飲んだ。

「もしかしたら、御懐妊かもしれませんね」
「懐妊?」
「つわりのようにお見受けしました」
「そうなの?わかんないんですけど…」

 おえ〰️…とまた吐き気がして苦しい。脱水になりそうだからハーブ水だけは何とか飲んで寝たり、座ったり。
 夜も心配だからと他の女中さんを探してくれて、24時間体制。病気のような扱いに申し訳ない。

「ハルト…懐妊かも知れないそうだ。とても嬉しくありがたいが、苦しそうで本当にすまない」

 アルがまた来て眉毛を下げて悲しそうにしている。嬉しいんだろうに僕を気遣うところが優しくて良い。

 結局、数日かけてハーブ水の他にも薄くフルーツを煮て冷ましたものやパン粥くらいなら食べられるようになった。
 お風呂も気持ち悪いのでアルが抱えてささっと入れてくれる。匂いが苦手でダイニングルームにも行けないし、図書館にも行けていない。何時まで続くのやら…

「つわりの重さや長さは個人差が多いんですよ。同じ方でも一人目、二人目で違うときもありますし。わたくしもヒトのつわりは存じませんが、我々も種によって妊娠期間も様々でございます」
「そうか。妊娠期間もわからないし、つわりの期間もわからないよね。リノさん、迷惑かけてすみません」
「何をおっしゃいます。是非わたくしにお世話をさせて下さいませ」

 リノさんが力強く言ってくれて嬉しい。まるでお母さんのようだ。お言葉に甘えさせて貰うしかない。妊娠期間は、ライオンだと約100日、人間は約280日前後。この子はどのくらいなのかな?


 しばらくすると気持ち悪さがおさまって来た。いつも通り食べられるし動ける。やっと元気になったぞと図書館通いを再開したところが、部屋を出て廊下にでた時。弱った足が縺れて転びそうになってしまったのだ。

「あっ!」「!!」

 パッとアルが僕を抱きしめ、転ぶ前に助けてくれた。

「ありがとう」
「ハル!危ない!これからは動いてはいけないぞ」
「ええ…?そんな。足がもっと弱りそう」
「私が付き添うから、一人で何処か行かないように。部屋の中の移動も誰かに見て貰いなさい」


 というわけで、部屋の中もリノさんのほか、力のありそうな獣タイプのベータ女性が増えて、何をするにも付き従う。
 何もさせてくれないので、暇で本を読むばかり。それも図書館のご夫妻が運んで来てくれたり。
 ソファーに座って読んでいるとリノさんが暇に任せて髪を結ってくれたり、お茶を飲みながら赤ちゃんグッズを作成したり。
 そんな僕をみたアルが美しい、似合う、可愛い、赤ちゃんグッズが素晴らしいと褒めてばかり。リノさんがますます僕の肌や髪を整えて飾ろうとするのだった。

「だんだんお腹が出てきたなあ」
「そうですね。いつお産まれになるか楽しみですね」
「うん。そうだ。赤ちゃんの時って人型?獣型になるの?」
「わたくしの種では人型で産まれ、赤子の時は激しく泣いたりするときだけピョコンと一時耳が出たり獣化致しますが直ぐに人型に戻ります」
「へえ...そうなんだ。この子はどうなんだろう?楽しみ」


 僕は、自分の体から生命体が出てくるなんて、不思議で仕方ない。とても楽しみだ。はじめはちゃんとアルの後継者となるホワイトライオンが産まれなかったらどうしよう。申し訳ないとか、不安で仕方がなかった。でも、つわりで辛いときに

「ハル。愛している。子供が産まれる産まれないはどちらでも良いのだ。ましてやヒトか獣人かも気にしない。ハルがここにいて私と共にいることがありがたい。貴方が全てだ。何も心配しないで欲しい」

 そう言ってくれて、僕の額や頭に何度も口付けて愛おしんでくれたから。不安が和らぎ、つわりもおさまってからは吹っ切れたように楽しみになったんだ。愛しい子。待っているよ。
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