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一団は、先頭に騎士団長の騎馬、中央にラリーの乗る馬車が位置して周囲を騎馬が取り囲む。馬車の隣には、ニールの騎馬が並走している。
そろそろ自領地を出るというときには、初めてのことに寂しくなってしまった。
「ラリー様、領地を出ます。次の領土では、綺麗な花畑で昼食の時間を取りますね」
ニールが気遣い、話し掛ける。
「ありがとうございます。カーテンを開けて外を見ても大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ。人目を避ける場所ではまた声を掛けるので、そうしたら閉めてください」
窓の外には牧草地帯が広がる。山がちな自分の家の辺りと違う景色を見て楽しむ。
花畑で一旦停止して、野営での食事準備が始まった。
「あの~、僕にも手伝わせて頂けませんか?野菜を切るのは得意です。いつも料理を手伝っていましたから、待っているだけなのは落ち着かないので」
「ゆっくりなさっていいんですよ。でも、そうですね。野菜を切るのはお願いしましょうか」
「はい!」
旅が始まってから初めてのニコニコ笑顔に騎士団の皆が和む。大きなアーモンドアイを細め、口角を上げた可愛らしい顔は、厳つい騎士達の保護欲を掻き立てた。
ラリーは貴族子息とは思えぬ程の鮮やかな手さばきで洗った野菜を刻んでいく。後は干し肉と香辛料で煮込むだけとなった。
騎士の一人が土を掘って石や木を積み作った即席のかまどで火をおこしていた。火力を増すため木筒で息を吐きかけていた時
「あちっ!」
火の粉が飛んで手を火傷してしまう。道中近くに川は無く、貴重な水を自分の火傷を冷やす事に使うのをためらっていると
「少し洗い流したらアロエで治療しましょう。僕、新鮮なアロエを持ってきています」
ラリーは荷物からアロエを出して、火傷した騎士の手を果肉で覆い、布で縛った。
「ラリー様、ありがとうございます」
「アロエとは、王都ではあまり見かけない植物ですね」
ニールが話し掛ける。
「そうですか?うちの辺りでは一般的です。食べると健胃消化にも良いですし、火傷には良く使うんです。田舎の知恵ですかね」
「すごいですね。ラリー様、色々ご存知で、お料理までお出来になるなんて」
褒められて頬を赤らめるラリー。その姿は大変魅力的だった。
旅はすすみ、夕方になって宿に到着した。他の領地の街中の景色にキョロキョロと視線を彷徨わせると
「危ない輩に目をつけられませんように、すぐお部屋にご案内します」
「ありがとうございます。ニールさん、お願いします」
華美では無いが美しく整えられた部屋には、ベッドとバスルームがある。荷物を騎士達が運びいれ、宿の雇い人から使い方の説明を受けた。
「夕食はこちらにお持ちします」
ニールの言葉に
「皆さんもお部屋でお食事ですか?」
「我々は、下の食堂ですが」
「僕も一緒に食べても良いですか?うちはいつも家族と一緒だったので、一人だと寂しいです」
「わかりました。後でお迎えに参ります」
部屋で待っていると、馬を繋いだり、装備の確認を終えた騎士団の皆が食事を取る時間になった。
ニールがラリーの部屋に迎えに行く
「お食事のお時間ですが大丈夫ですか?」
「はい、楽しみです」
地元の食材がふんだんに使われ、自分の所とは異なる調理法や調味料に興味深く、楽しんで夕食を終えた。
宿の料理人から、調理の事を教えてもらったり、食材の値段を聞いたり。見聞が広まる事を楽しむラリーに周囲も暖かい眼差しを送った。
「では、お部屋にお送りしましょう。ゆっくりお休みください」
「すみません、休む前にお湯を少し頂けませんか?」
「はい。宜しいですが、どうされるのですか?」
「初めての一人旅で緊張して眠れないかも知れません。持ってきた乾燥カモミールをお茶にして飲んでから休みたいんです」
「カモミール?」
「ハーブです。お花のお茶は、鎮静と睡眠に良いので」
「わかりました。一度お部屋にお送りしてから私が再度お湯を持って伺います」
お湯とポット、カップを持って来てくれたニールに、一緒にお茶をお誘いした。
「よかったら、こちらどうぞ」
「はい。頂きます。…とても良い香りのお茶ですね。確かにリラックスできます」
「でしょう?これで眠れそうです」
「ところで、ラリー様。失礼ながら伺っても宜しいですか?」
「どうぞ、何なりと」
「ラリー様はオメガでいらっしゃるのにあまり薫りがなされないようですが、何か特別な方策でもされているのでしょうか?」
「ああ、ご存知ないですか?クラリの葉」
「クラリ?」
「うちの庭で育てている薬草です。我が家は代々アルファ、オメガが産まれますが田舎でなかなか番を見つけるのも抑制剤を調達したりするのも大変で。クラリの葉を煎じて飲んでいると発情周期が安定したり、フェロモンが周囲に漏れにくく、自分も感じにくくなるんです。抑制剤みたいなもんですね」
「なるほど...そんな物が」
「いつからか、家の庭で代々育てて飲む習慣になっています。僕の弱いフェロモンがわかるの、ニールさんがアルファだからですね?僕にはニールさんの薫りがわかりませんが」
「ええ、アルファです。でも私も抑制剤を飲んでいるので漏れにくく、感じにくくもなっています。では、ごゆっくりお休みなさいませ」
そろそろ自領地を出るというときには、初めてのことに寂しくなってしまった。
「ラリー様、領地を出ます。次の領土では、綺麗な花畑で昼食の時間を取りますね」
ニールが気遣い、話し掛ける。
「ありがとうございます。カーテンを開けて外を見ても大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ。人目を避ける場所ではまた声を掛けるので、そうしたら閉めてください」
窓の外には牧草地帯が広がる。山がちな自分の家の辺りと違う景色を見て楽しむ。
花畑で一旦停止して、野営での食事準備が始まった。
「あの~、僕にも手伝わせて頂けませんか?野菜を切るのは得意です。いつも料理を手伝っていましたから、待っているだけなのは落ち着かないので」
「ゆっくりなさっていいんですよ。でも、そうですね。野菜を切るのはお願いしましょうか」
「はい!」
旅が始まってから初めてのニコニコ笑顔に騎士団の皆が和む。大きなアーモンドアイを細め、口角を上げた可愛らしい顔は、厳つい騎士達の保護欲を掻き立てた。
ラリーは貴族子息とは思えぬ程の鮮やかな手さばきで洗った野菜を刻んでいく。後は干し肉と香辛料で煮込むだけとなった。
騎士の一人が土を掘って石や木を積み作った即席のかまどで火をおこしていた。火力を増すため木筒で息を吐きかけていた時
「あちっ!」
火の粉が飛んで手を火傷してしまう。道中近くに川は無く、貴重な水を自分の火傷を冷やす事に使うのをためらっていると
「少し洗い流したらアロエで治療しましょう。僕、新鮮なアロエを持ってきています」
ラリーは荷物からアロエを出して、火傷した騎士の手を果肉で覆い、布で縛った。
「ラリー様、ありがとうございます」
「アロエとは、王都ではあまり見かけない植物ですね」
ニールが話し掛ける。
「そうですか?うちの辺りでは一般的です。食べると健胃消化にも良いですし、火傷には良く使うんです。田舎の知恵ですかね」
「すごいですね。ラリー様、色々ご存知で、お料理までお出来になるなんて」
褒められて頬を赤らめるラリー。その姿は大変魅力的だった。
旅はすすみ、夕方になって宿に到着した。他の領地の街中の景色にキョロキョロと視線を彷徨わせると
「危ない輩に目をつけられませんように、すぐお部屋にご案内します」
「ありがとうございます。ニールさん、お願いします」
華美では無いが美しく整えられた部屋には、ベッドとバスルームがある。荷物を騎士達が運びいれ、宿の雇い人から使い方の説明を受けた。
「夕食はこちらにお持ちします」
ニールの言葉に
「皆さんもお部屋でお食事ですか?」
「我々は、下の食堂ですが」
「僕も一緒に食べても良いですか?うちはいつも家族と一緒だったので、一人だと寂しいです」
「わかりました。後でお迎えに参ります」
部屋で待っていると、馬を繋いだり、装備の確認を終えた騎士団の皆が食事を取る時間になった。
ニールがラリーの部屋に迎えに行く
「お食事のお時間ですが大丈夫ですか?」
「はい、楽しみです」
地元の食材がふんだんに使われ、自分の所とは異なる調理法や調味料に興味深く、楽しんで夕食を終えた。
宿の料理人から、調理の事を教えてもらったり、食材の値段を聞いたり。見聞が広まる事を楽しむラリーに周囲も暖かい眼差しを送った。
「では、お部屋にお送りしましょう。ゆっくりお休みください」
「すみません、休む前にお湯を少し頂けませんか?」
「はい。宜しいですが、どうされるのですか?」
「初めての一人旅で緊張して眠れないかも知れません。持ってきた乾燥カモミールをお茶にして飲んでから休みたいんです」
「カモミール?」
「ハーブです。お花のお茶は、鎮静と睡眠に良いので」
「わかりました。一度お部屋にお送りしてから私が再度お湯を持って伺います」
お湯とポット、カップを持って来てくれたニールに、一緒にお茶をお誘いした。
「よかったら、こちらどうぞ」
「はい。頂きます。…とても良い香りのお茶ですね。確かにリラックスできます」
「でしょう?これで眠れそうです」
「ところで、ラリー様。失礼ながら伺っても宜しいですか?」
「どうぞ、何なりと」
「ラリー様はオメガでいらっしゃるのにあまり薫りがなされないようですが、何か特別な方策でもされているのでしょうか?」
「ああ、ご存知ないですか?クラリの葉」
「クラリ?」
「うちの庭で育てている薬草です。我が家は代々アルファ、オメガが産まれますが田舎でなかなか番を見つけるのも抑制剤を調達したりするのも大変で。クラリの葉を煎じて飲んでいると発情周期が安定したり、フェロモンが周囲に漏れにくく、自分も感じにくくなるんです。抑制剤みたいなもんですね」
「なるほど...そんな物が」
「いつからか、家の庭で代々育てて飲む習慣になっています。僕の弱いフェロモンがわかるの、ニールさんがアルファだからですね?僕にはニールさんの薫りがわかりませんが」
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