3 / 16
届かない
1
しおりを挟む
昨日のことを気にしてないと言えば嘘になる。どう対策したら似せてないとわかってもらえるのか、わからなくなった。とりあえず、前髪を伸ばすのはやめて近いうちに切りに行こうと思った。
「圭吾は、俺が柊奏多に似てるとか言われてるの聞いたことある? まあ、似てねぇってのはわかってるから、そこは一旦置いといて」
昼休み、いつもの人気のない暗い廊下にあるベンチ。弁当箱の卵焼きをつつきながら隣の圭吾に訊ねる。
「正直、聞いたことはあるよ。けど、どっちかっつーと素顔がイケメンて騒がれてるほうが多かったかな」
「そうなのか。じゃあ、あの後輩が怒ってたみたいなのはあんまりねぇかな」
「ないだろ。俺が言うのもなんだけど、理玖は別に似てないよ。雰囲気の人が良さそうなとこと、タレ目なとこは似てるなくらいのレベルじゃないか」
圭吾にそう言われるとホッとするし、褒められてる気もしてくるから頬が緩んでしまった。
前髪を切ったら、もうそれで許してもらおう。1年生に会いに行こうとは思わないし、自分なりに決着をつけて終わりにすることにした。
「よかったー。そのくらいなら、他にもいっぱいいるか」
「いるいる。気にすんなよ……てかあれ、何か呼ばれてるっぽくない?」
圭吾の視線にあわせて振り向いた。えっ、と声が出そうになったのを、飲み込む。目が合ったら会釈されたから、その人はどうやら俺に用があるらしかった。
こんなところで遭遇したくなかったのに。何でいるんだ。俺は慌ててマスクをつける。
「ぶん殴られたらどうしよう」とふざけて囁くと、圭吾が「そんときは加勢してやるよ」と笑った。
「たぶん大丈夫だけど、助けが必要なときはよろしく」
俺は腰を上げて、春輝くんの前に立つ。静かに息を吸った。
「どうかした? 俺にまだ言いたいことがあるってことなら……えっと、どうぞ」
これ合ってるのか? 目をそらしたい気持ちをぐっとこらえて、見上げたままマスクの位置を直した。
この前より冷たい目で見られている感じはないが、ムスッとしているようにも見える。
どういう感情なのか読みとれない。たぶん、怒ってはないだろう。
「何でマスクしてるんですか?」
「え? あ、これがダメ?」
「風邪ひいてるんですか?」と、春輝くんがまつげを伏せた。マスクをしているからだろうけど、そこを気にしてくれるんだなとふっと口元が緩んでしまった。
「風邪はひいてないよ。いつもマスクしてるだけ」
「マスクしてるから、目元が強調されると思うんですよ」
「そうだね。申し訳ないけど、これは外すつもりはないよ」
言われる前に先手を打っておく。
どこを見ていいか彷徨うように揺れて、俺を見上げる瞳。ようやく目が合った。
「最近、SNSでやたら似てますみたいなのがおすすめで表示されて、うんざりしてたんです。勝手に先輩もそうだって決めつけて、ほんとにすいませんでした。あ、ちょっと言い訳です」
へへと気まずそうな笑みを浮かべる彼を見て、俺は「そっかぁ」とほっと息を吐いた。何だ、そんな理由があったのか。
マスクを外せと言うつもりはなかったみたいだ。昨日の俺はだいぶ空気が読めていなかったのに、わざわざ謝りに来てくれるなんていい人だ。
「好きな人に便乗してるみたいなのって、ファンの人は嫌な気分になることだってあるよね。過去の俺はやってたことだから、やっぱごめん」
「いいです」
先輩のことはわかりました、と春輝くんはうなずいてくれた。俺の向こうにいる圭吾を少し気にするように見てから「で、聞きたいことがあるんですけど」と一歩前に進んで、俺に近づいてくる春輝くん。
とっさに下がりそうになった足を踏ん張って、首を傾げる。
「聞きたいこと?」
「桑原先輩って、柊奏多に興味あるんですか?」
「へ?」
瞬きする間もなくじっと見つめられて、これは答えを間違えられないやつだと思った。急に春輝くんの目がきらめいて見える気がするのは、気のせいじゃないだろう。
悩んでいるうちに「じゃあ好きか嫌いで言えばどうですか?」と質問が追加された。
「……あー、それは好きかな。俺、あのドラマ好きだった。“静かな夜に”ってやつ」
「まあ、流行りましたからね。他はありますか?」
「確か……“家事代行承ります”も、ちょっとだけ出てたけどいい役だったよね」
「なるほど。話は戻るんですけど、柊奏多に興味ありますか?」
何の尋問なんだ、これ。どうするべきか悩んでいると「興味ないですか?」と、春輝くんが悲しそうな声になってしまった。
「は、はいっ。あ、いや、ないわけじゃなくて。興味、あります」
思わず敬語になってしまった。答えはこれであっているのか。ていうか、もはやこれしかないような。
心臓が変な感じで脈を打って、背中にちょっと汗をかいてきた。距離が近い。
「よかったです。放課後、そっちの教室まで行くので、ちょっと時間もらってもいいですか」
何で!? もしかして、適当なこと言ってるってめちゃめちゃ怒られるやつじゃねぇの!?
たじろぐ俺に気づいているのかいないのか、春輝くんは「またあとで」とぺこりと頭を下げて、さっさと行ってしまった。
どうしよう。俺、ほんとにぶん殴られちゃうかもしれない。
「圭吾は、俺が柊奏多に似てるとか言われてるの聞いたことある? まあ、似てねぇってのはわかってるから、そこは一旦置いといて」
昼休み、いつもの人気のない暗い廊下にあるベンチ。弁当箱の卵焼きをつつきながら隣の圭吾に訊ねる。
「正直、聞いたことはあるよ。けど、どっちかっつーと素顔がイケメンて騒がれてるほうが多かったかな」
「そうなのか。じゃあ、あの後輩が怒ってたみたいなのはあんまりねぇかな」
「ないだろ。俺が言うのもなんだけど、理玖は別に似てないよ。雰囲気の人が良さそうなとこと、タレ目なとこは似てるなくらいのレベルじゃないか」
圭吾にそう言われるとホッとするし、褒められてる気もしてくるから頬が緩んでしまった。
前髪を切ったら、もうそれで許してもらおう。1年生に会いに行こうとは思わないし、自分なりに決着をつけて終わりにすることにした。
「よかったー。そのくらいなら、他にもいっぱいいるか」
「いるいる。気にすんなよ……てかあれ、何か呼ばれてるっぽくない?」
圭吾の視線にあわせて振り向いた。えっ、と声が出そうになったのを、飲み込む。目が合ったら会釈されたから、その人はどうやら俺に用があるらしかった。
こんなところで遭遇したくなかったのに。何でいるんだ。俺は慌ててマスクをつける。
「ぶん殴られたらどうしよう」とふざけて囁くと、圭吾が「そんときは加勢してやるよ」と笑った。
「たぶん大丈夫だけど、助けが必要なときはよろしく」
俺は腰を上げて、春輝くんの前に立つ。静かに息を吸った。
「どうかした? 俺にまだ言いたいことがあるってことなら……えっと、どうぞ」
これ合ってるのか? 目をそらしたい気持ちをぐっとこらえて、見上げたままマスクの位置を直した。
この前より冷たい目で見られている感じはないが、ムスッとしているようにも見える。
どういう感情なのか読みとれない。たぶん、怒ってはないだろう。
「何でマスクしてるんですか?」
「え? あ、これがダメ?」
「風邪ひいてるんですか?」と、春輝くんがまつげを伏せた。マスクをしているからだろうけど、そこを気にしてくれるんだなとふっと口元が緩んでしまった。
「風邪はひいてないよ。いつもマスクしてるだけ」
「マスクしてるから、目元が強調されると思うんですよ」
「そうだね。申し訳ないけど、これは外すつもりはないよ」
言われる前に先手を打っておく。
どこを見ていいか彷徨うように揺れて、俺を見上げる瞳。ようやく目が合った。
「最近、SNSでやたら似てますみたいなのがおすすめで表示されて、うんざりしてたんです。勝手に先輩もそうだって決めつけて、ほんとにすいませんでした。あ、ちょっと言い訳です」
へへと気まずそうな笑みを浮かべる彼を見て、俺は「そっかぁ」とほっと息を吐いた。何だ、そんな理由があったのか。
マスクを外せと言うつもりはなかったみたいだ。昨日の俺はだいぶ空気が読めていなかったのに、わざわざ謝りに来てくれるなんていい人だ。
「好きな人に便乗してるみたいなのって、ファンの人は嫌な気分になることだってあるよね。過去の俺はやってたことだから、やっぱごめん」
「いいです」
先輩のことはわかりました、と春輝くんはうなずいてくれた。俺の向こうにいる圭吾を少し気にするように見てから「で、聞きたいことがあるんですけど」と一歩前に進んで、俺に近づいてくる春輝くん。
とっさに下がりそうになった足を踏ん張って、首を傾げる。
「聞きたいこと?」
「桑原先輩って、柊奏多に興味あるんですか?」
「へ?」
瞬きする間もなくじっと見つめられて、これは答えを間違えられないやつだと思った。急に春輝くんの目がきらめいて見える気がするのは、気のせいじゃないだろう。
悩んでいるうちに「じゃあ好きか嫌いで言えばどうですか?」と質問が追加された。
「……あー、それは好きかな。俺、あのドラマ好きだった。“静かな夜に”ってやつ」
「まあ、流行りましたからね。他はありますか?」
「確か……“家事代行承ります”も、ちょっとだけ出てたけどいい役だったよね」
「なるほど。話は戻るんですけど、柊奏多に興味ありますか?」
何の尋問なんだ、これ。どうするべきか悩んでいると「興味ないですか?」と、春輝くんが悲しそうな声になってしまった。
「は、はいっ。あ、いや、ないわけじゃなくて。興味、あります」
思わず敬語になってしまった。答えはこれであっているのか。ていうか、もはやこれしかないような。
心臓が変な感じで脈を打って、背中にちょっと汗をかいてきた。距離が近い。
「よかったです。放課後、そっちの教室まで行くので、ちょっと時間もらってもいいですか」
何で!? もしかして、適当なこと言ってるってめちゃめちゃ怒られるやつじゃねぇの!?
たじろぐ俺に気づいているのかいないのか、春輝くんは「またあとで」とぺこりと頭を下げて、さっさと行ってしまった。
どうしよう。俺、ほんとにぶん殴られちゃうかもしれない。
11
あなたにおすすめの小説
恵方巻を食べてオメガになるはずが、氷の騎士団長様に胃袋を掴まれ溺愛されています
水凪しおん
BL
「俺はベータだ。けれど、クラウス様の隣に立ちたい」
王城の厨房で働く地味な料理人ルエンは、近衛騎士団長のクラウスに叶わぬ恋をしていた。身分も属性も違う自分には、彼との未来などない。そう諦めかけていたある日、ルエンは「伝説の恵方巻を食べればオメガになれる」という噂を耳にする。
一縷の望みをかけ、ルエンは危険な食材探しの旅へ! しかし、なぜかその旅先にはいつもクラウスの姿があって……?
勘違いから始まる、ベータ料理人×氷の騎士団長の胃袋攻略ラブファンタジー!
諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】
カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。
逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。
幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。
友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。
まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。
恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。
ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。
だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。
煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。
レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生
両片思いBL
《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作
※商業化予定なし(出版権は作者に帰属)
この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。
https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
楽な片恋
藍川 東
BL
蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。
ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。
それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……
早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。
ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。
平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。
高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。
優一朗のひとことさえなければ…………
あなたのいちばんすきなひと
名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。
ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。
有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。
俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。
実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。
そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。
また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。
自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は――
隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。
まさか「好き」とは思うまい
和泉臨音
BL
仕事に忙殺され思考を停止した俺の心は何故かコンビニ店員の悪態に癒やされてしまった。彼が接客してくれる一時のおかげで激務を乗り切ることもできて、なんだかんだと気づけばお付き合いすることになり……
態度の悪いコンビニ店員大学生(ツンギレ)×お人好しのリーマン(マイペース)の牛歩な恋の物語
*2023/11/01 本編(全44話)完結しました。以降は番外編を投稿予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる