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恋でない
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Asterのアルバム発売記念のイベントがあるらしく、俺から春輝くんにAsterに集中してほしいと会うのを避けた。
だけど、今日は放課後一緒にアルバムの特典を見ようという話になってしまった。断っても不自然かなと思うと、断れなかった。――いや、俺が会いたかった。1週間くらい会わなかっただけなのに。
放課後になって、圭吾から「呼ばれてるよ」と言われて、どうせ春輝くんだろうと思ったら今回は違った。
「どうも、春輝がお世話になってまぁす」
明るくて高めの、かわいらしい声――莉奈さんだった。思いがけない登場に一瞬戸惑って、俺はすぐに笑顔を取り繕う。
「春輝くんなら今日はまだ来てないよ。この後約束はしてるけど、まだかかるって言われたから」
「知ってます。だからチャンスだと思って来たんですよぉ。桑原先輩、お時間ありますか?」
艷やかな唇が弧を描く。何だろう、嫌な予感しかない。春輝くんを待っていた手前、時間がないと嘘もつけなかった。
教室を出て、莉奈さんが進む先へついていく。ぼんやりとした日差しが廊下を照らしていた。
何だろう、莉奈さんがわざわざ呼びだしてくる用がわからない。
「さっそく聞いちゃうんですけどぉ」
人気のない廊下の突き当りで、莉奈さんはスカートを翻してくるりとこちらを向いた。
「春輝のこと、どう思ってるんですか?」
「え? どうって……どういう意味?」
のどが張り付いて、うまく言葉が出てこない。
「春輝が誘って色々出かけたりしてるじゃないですか。それってどういうつもりかなぁって思って」
ニコッと微笑みかけられて、背筋が凍った。
同性だからって、頻繁に出かける相手は気になって当然かもしれない。やばいやばい。牽制ってことじゃねぇか。
だとしたら、答え方を間違えると春輝くんにも迷惑がかかる。ちゃんと恋じゃないから、安心してほしいと伝える他ない。
莉奈さんがいるとわかってたから、恋になっちゃだめだと思ってきた。大丈夫。この気持ちは恋じゃない。
「……柊奏多のことが大好きな後輩、だと思ってるよ」
「そういうのじゃなくて、好きか嫌いかの話です」
「難しいなぁ。まっすぐで、一途で、俺とはちょっと合わないかな。でもいい子だってわかるから、嫌いじゃないよ」
明確に線を引いていることが伝わるように、思ってもないことを口にした。合わないなんて、最初から一度も思ったことがない。
「えっ、そうなんですか? 合わないんですか?」
「うん、春輝くんもそうなんじゃないかなぁ。柊奏多にちなんだ場所に一緒に行ってくれる人ほしかったみたいだし、莉奈さんが行ってくれたら解決なんじゃねぇかな。そしたら、もう俺は会う理由もなくなるよ」
会う理由を自分から潰してしまった。でも、このほうがいいに決まってる。
約束さえしなければ、春輝くんと会うことはほとんどないだろう。2人に割り込むつもりは毛頭ないし、莉奈さんが不安になることだってしたくない。
「わたしは一緒に行くつもりはないですけど……桑原先輩は、もう行きたくないんですか?」
「行きたくないわけじゃないよ。ただ、あんまり興味が持てなくて、申し訳ないなぁって思ってる」
ぜんぶ自分が言ってることなのに、どうしてこんなに目の奥が痛むんだろう。せり上がる涙を飲み込んで、口の端を必死に上げた。
「――そうだったなら、もっと早く言ってくださいよ」
後ろから聞き慣れた声がして、はっと振り返る。何でこんなところに?
「莉奈と理玖先輩が一緒にいるから、また莉奈が変なこと言い出すかと思って止めに入ろうと思ったんです」
ははは、と乾いた笑いを漏らす春輝くん。
「いつから聞いてたの?」
「俺と合わないけど嫌いじゃないってあたりからです」
春輝くんに聞かせたいわけじゃなかった。
「ちがっ……わないけど、ごめん」
本当は違う。でも、そんなことを言えば、俺が莉奈さんに嘘をついてまで否定した意味がない。
「迷惑かけてて、すいませんでした。興味がないのにたくさん付き合ってくれて……ありがとうございました」
春輝くんは、傷ついた顔で笑った。俺は何も言えなかった。
耐えかねたように背を向けて、走り去る春輝くん。
「春輝、ちょっと待って! ごめんって!」
莉奈さんの叫びでは、足を止めてくれない。
俺には追いかける資格もなかった。
「あの……桑原先輩」
はっとして、俺は莉奈さんを見る。走っていく春輝くんに何もしない俺を見て彼女はどう思っただろうか。何ともないってことがわかってもらえたなら、よかったのかもしれない。
「行ってあげて。傷つけてごめんって伝えてもらってもいいかな」
自分の声が情けなく震えていることに気づいて、ぐっと奥歯を噛みしめる。傷つけたのは俺だ。俺は泣くべきじゃない。
莉奈さんの足音も聞こえなくなって、俺は小さく「バカだよなぁ」と呟く。
窓に打ちつける雨音だけがうるさかった。
だけど、今日は放課後一緒にアルバムの特典を見ようという話になってしまった。断っても不自然かなと思うと、断れなかった。――いや、俺が会いたかった。1週間くらい会わなかっただけなのに。
放課後になって、圭吾から「呼ばれてるよ」と言われて、どうせ春輝くんだろうと思ったら今回は違った。
「どうも、春輝がお世話になってまぁす」
明るくて高めの、かわいらしい声――莉奈さんだった。思いがけない登場に一瞬戸惑って、俺はすぐに笑顔を取り繕う。
「春輝くんなら今日はまだ来てないよ。この後約束はしてるけど、まだかかるって言われたから」
「知ってます。だからチャンスだと思って来たんですよぉ。桑原先輩、お時間ありますか?」
艷やかな唇が弧を描く。何だろう、嫌な予感しかない。春輝くんを待っていた手前、時間がないと嘘もつけなかった。
教室を出て、莉奈さんが進む先へついていく。ぼんやりとした日差しが廊下を照らしていた。
何だろう、莉奈さんがわざわざ呼びだしてくる用がわからない。
「さっそく聞いちゃうんですけどぉ」
人気のない廊下の突き当りで、莉奈さんはスカートを翻してくるりとこちらを向いた。
「春輝のこと、どう思ってるんですか?」
「え? どうって……どういう意味?」
のどが張り付いて、うまく言葉が出てこない。
「春輝が誘って色々出かけたりしてるじゃないですか。それってどういうつもりかなぁって思って」
ニコッと微笑みかけられて、背筋が凍った。
同性だからって、頻繁に出かける相手は気になって当然かもしれない。やばいやばい。牽制ってことじゃねぇか。
だとしたら、答え方を間違えると春輝くんにも迷惑がかかる。ちゃんと恋じゃないから、安心してほしいと伝える他ない。
莉奈さんがいるとわかってたから、恋になっちゃだめだと思ってきた。大丈夫。この気持ちは恋じゃない。
「……柊奏多のことが大好きな後輩、だと思ってるよ」
「そういうのじゃなくて、好きか嫌いかの話です」
「難しいなぁ。まっすぐで、一途で、俺とはちょっと合わないかな。でもいい子だってわかるから、嫌いじゃないよ」
明確に線を引いていることが伝わるように、思ってもないことを口にした。合わないなんて、最初から一度も思ったことがない。
「えっ、そうなんですか? 合わないんですか?」
「うん、春輝くんもそうなんじゃないかなぁ。柊奏多にちなんだ場所に一緒に行ってくれる人ほしかったみたいだし、莉奈さんが行ってくれたら解決なんじゃねぇかな。そしたら、もう俺は会う理由もなくなるよ」
会う理由を自分から潰してしまった。でも、このほうがいいに決まってる。
約束さえしなければ、春輝くんと会うことはほとんどないだろう。2人に割り込むつもりは毛頭ないし、莉奈さんが不安になることだってしたくない。
「わたしは一緒に行くつもりはないですけど……桑原先輩は、もう行きたくないんですか?」
「行きたくないわけじゃないよ。ただ、あんまり興味が持てなくて、申し訳ないなぁって思ってる」
ぜんぶ自分が言ってることなのに、どうしてこんなに目の奥が痛むんだろう。せり上がる涙を飲み込んで、口の端を必死に上げた。
「――そうだったなら、もっと早く言ってくださいよ」
後ろから聞き慣れた声がして、はっと振り返る。何でこんなところに?
「莉奈と理玖先輩が一緒にいるから、また莉奈が変なこと言い出すかと思って止めに入ろうと思ったんです」
ははは、と乾いた笑いを漏らす春輝くん。
「いつから聞いてたの?」
「俺と合わないけど嫌いじゃないってあたりからです」
春輝くんに聞かせたいわけじゃなかった。
「ちがっ……わないけど、ごめん」
本当は違う。でも、そんなことを言えば、俺が莉奈さんに嘘をついてまで否定した意味がない。
「迷惑かけてて、すいませんでした。興味がないのにたくさん付き合ってくれて……ありがとうございました」
春輝くんは、傷ついた顔で笑った。俺は何も言えなかった。
耐えかねたように背を向けて、走り去る春輝くん。
「春輝、ちょっと待って! ごめんって!」
莉奈さんの叫びでは、足を止めてくれない。
俺には追いかける資格もなかった。
「あの……桑原先輩」
はっとして、俺は莉奈さんを見る。走っていく春輝くんに何もしない俺を見て彼女はどう思っただろうか。何ともないってことがわかってもらえたなら、よかったのかもしれない。
「行ってあげて。傷つけてごめんって伝えてもらってもいいかな」
自分の声が情けなく震えていることに気づいて、ぐっと奥歯を噛みしめる。傷つけたのは俺だ。俺は泣くべきじゃない。
莉奈さんの足音も聞こえなくなって、俺は小さく「バカだよなぁ」と呟く。
窓に打ちつける雨音だけがうるさかった。
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