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朝焼けに彷徨う
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先にシャワーを浴びて、しばらくテレビを見ていると「髪乾かさないと風邪ひくよ」と貴臣が部屋に入ってきた。
「貴臣も髪乾かしてなくねぇ?」
「誰かさんがドライヤー持ってっちゃうからね」
「俺か、悪い。乾かしてやろうか?」
「雪斗が?」
きょとんとする貴臣。俺はさっと立ち上がって、ベッドの上に置いたドライヤーを取りに行く。コンセントを差して「そこ座って」と貴臣をベッドに座らせた。
言われるがままベッドに腰を下ろした貴臣が、俺を見上げてはにかんだ。
「子どもの頃と逆だ。雪斗、いっつも乾かさないで走り回ってたよね」
貴臣の後ろ姿を見下ろしながら、ふと昔とは違う光景を懐かしく思った。
「よく貴臣にやってもらってたな。俺は今やってもあんな丁寧じゃねぇけど」
ドライヤーのスイッチを入れて、貴臣の髪を乾かしていく。指先に触れる髪は柔らかくしっとりしていて、俺の心臓がやけに高鳴った。
「――なあ、言うこと聞く約束ってやめたの?」
思いの外、自分から出た声が小さくて、貴臣には聞こえづらかったらしい。
「どうした?」と首を傾げられて、俺はもう一度声を張り上げて繰り返す。
「言うこと、聞くって約束!」
「ああ、髪乾かしてもらうにしよっかなぁ」
丁寧にやってね。今思いついたと言わんばかりの適当さ。もっとおかしなことを言いだすとばかり思っていたせいか、肩透かしを食らった。というか、わざわざゲームに買ってまで言い出したことのわりにどうでもよさそうでちょっとムカつく。
「これは俺がやるって言ったことだろ。別のは?」
「いいよ、そんな気にしないで。遊びの延長みたいなもんだし」
「……そんだけ?」
ドライヤーのスイッチを切って、聞こえるように訊ねる。俺も隣に腰を下ろす。
「え?」
らーめんを食べているときの呟きが引っかかって、改めて今日を振り返ると貴臣が遠慮してるんじゃないかって気がしてしまった。
「なんつーか、もう俺に飽きてたりする?」
好かれている自信はある。そんなわけはないとわかっていて、わざと大げさに訊ねる。こういう訊き方でもしないと、話してくれないと思った。
「あ、もしかして今日、何か気にさせてた? そしたらごめん。大したことじゃないよ」
「思うことあるなら言ってほしい。俺が悪いとこあったら直すし」
「全然、そんなんじゃない。もう1週間も経つのに雪斗が俺のこと好きなんだって現実に慣れなくて、今日だって朝からずっと雪斗が隣にいて、夢が叶ったみたいで……ほんとに夢って言われても納得しそうで」
ふっと呆れたように笑った貴臣が天井を仰ぐ。
「馬鹿みたいなんだけど、怖くなっただけ」
俺は、貴臣の切なげな顔を綺麗だなあと思った。じわじわ湧き上がってくる幸せに口元が上がってしまう。
「すげぇ今言うことじゃないのはわかってんだけど。貴臣のそういうとこ、かわいくて俺は好きだよ」
「重くない?」
「ははっ、そんなん今さらだろ。貴臣が不安にならないように、俺もがんばる。夢みたいな毎日過ごしたら、さすがに貴臣も慣れて日常になるだろ?」
「……雪斗のくせに、かっこいいの腹立つ」
何とでも言ってくれ。からかうように笑うと、両手を頬に当てた貴臣から睨みつけられた。火照った頬は、シャワーを浴びたせいじゃないだろう。
幸せが不安になるなら、そんな不安を消せるくらい今日のような日を何度だって一緒に過ごせばいいだけだ。そんなの、俺にしかできねぇだろ。
ここで心地良い満足感を感じているのが知られたら余計怒りそうだ。密かに満たされることにした。
「言うこと聞いてもらうの思いついた」
「はいはい。結局やんのかよ。何にすんの?」
「雪斗からキスしてよ」
「――は?」
ん、と少し上目遣いで甘える貴臣の瞳がきらめいて見えた。貴臣から視線が離せない。俺だって、別に自分からキスくらいはできる。
まぶたを閉じる貴臣の肩に片手を置こうとした手が微かに震えてしまって、そっと息を吐く。気を取り直して、肩に手を乗せる。待ってるときの顔、こんな感じなんだ。綺麗で、かわいくて、ずるい。好きだ。
顔を傾け、俺も目を閉じて勢い任せで唇を合わせにいったら、少しだけ位置がずれてしまった。一応、したことに変わりはない。
やれやれと俺がドライヤーを再開しようとすると「一瞬すぎる」と笑顔の貴臣からしっかり口づけられた。
「ほんっとにお前は……俺の心臓は1つしかないんだからな!」
「知ってるよ。まだまだっていうか、かなり、ものすごく手加減してるからね。俺、ほんと偉いと思う」
だいぶ念を押されてしまった。もうすでに手加減されてる気がしねぇんだけど⁉
「善処するから、まだもうちょい手加減してて」
「なら、雪斗のペースに合わせてあげたいんだから、あんま煽んないで」
煽ってねぇよ! と盛大にツッコミを入れた。
貴臣の髪は責任を持ってドライヤーをかけて、俺の髪は貴臣が乾かしてくれた。好きな人に髪を触られる安心感から睡魔が迫るのをどうにか乗り越えて、寝る前の準備をすべて終わらせる。
「えー、まだ寝ないの?」
「貴臣に勝ったら!」
やっぱり得意なゲームを負けたままは終われないので、リベンジを申し込んだ。睡魔撃退にコーヒーも飲んだし、勝つまではやる!
「子供だなぁ、雪斗は」
肩をすくめて苦笑する貴臣を気にせず、俺は躍起になってコントローラーを握った。
「貴臣も髪乾かしてなくねぇ?」
「誰かさんがドライヤー持ってっちゃうからね」
「俺か、悪い。乾かしてやろうか?」
「雪斗が?」
きょとんとする貴臣。俺はさっと立ち上がって、ベッドの上に置いたドライヤーを取りに行く。コンセントを差して「そこ座って」と貴臣をベッドに座らせた。
言われるがままベッドに腰を下ろした貴臣が、俺を見上げてはにかんだ。
「子どもの頃と逆だ。雪斗、いっつも乾かさないで走り回ってたよね」
貴臣の後ろ姿を見下ろしながら、ふと昔とは違う光景を懐かしく思った。
「よく貴臣にやってもらってたな。俺は今やってもあんな丁寧じゃねぇけど」
ドライヤーのスイッチを入れて、貴臣の髪を乾かしていく。指先に触れる髪は柔らかくしっとりしていて、俺の心臓がやけに高鳴った。
「――なあ、言うこと聞く約束ってやめたの?」
思いの外、自分から出た声が小さくて、貴臣には聞こえづらかったらしい。
「どうした?」と首を傾げられて、俺はもう一度声を張り上げて繰り返す。
「言うこと、聞くって約束!」
「ああ、髪乾かしてもらうにしよっかなぁ」
丁寧にやってね。今思いついたと言わんばかりの適当さ。もっとおかしなことを言いだすとばかり思っていたせいか、肩透かしを食らった。というか、わざわざゲームに買ってまで言い出したことのわりにどうでもよさそうでちょっとムカつく。
「これは俺がやるって言ったことだろ。別のは?」
「いいよ、そんな気にしないで。遊びの延長みたいなもんだし」
「……そんだけ?」
ドライヤーのスイッチを切って、聞こえるように訊ねる。俺も隣に腰を下ろす。
「え?」
らーめんを食べているときの呟きが引っかかって、改めて今日を振り返ると貴臣が遠慮してるんじゃないかって気がしてしまった。
「なんつーか、もう俺に飽きてたりする?」
好かれている自信はある。そんなわけはないとわかっていて、わざと大げさに訊ねる。こういう訊き方でもしないと、話してくれないと思った。
「あ、もしかして今日、何か気にさせてた? そしたらごめん。大したことじゃないよ」
「思うことあるなら言ってほしい。俺が悪いとこあったら直すし」
「全然、そんなんじゃない。もう1週間も経つのに雪斗が俺のこと好きなんだって現実に慣れなくて、今日だって朝からずっと雪斗が隣にいて、夢が叶ったみたいで……ほんとに夢って言われても納得しそうで」
ふっと呆れたように笑った貴臣が天井を仰ぐ。
「馬鹿みたいなんだけど、怖くなっただけ」
俺は、貴臣の切なげな顔を綺麗だなあと思った。じわじわ湧き上がってくる幸せに口元が上がってしまう。
「すげぇ今言うことじゃないのはわかってんだけど。貴臣のそういうとこ、かわいくて俺は好きだよ」
「重くない?」
「ははっ、そんなん今さらだろ。貴臣が不安にならないように、俺もがんばる。夢みたいな毎日過ごしたら、さすがに貴臣も慣れて日常になるだろ?」
「……雪斗のくせに、かっこいいの腹立つ」
何とでも言ってくれ。からかうように笑うと、両手を頬に当てた貴臣から睨みつけられた。火照った頬は、シャワーを浴びたせいじゃないだろう。
幸せが不安になるなら、そんな不安を消せるくらい今日のような日を何度だって一緒に過ごせばいいだけだ。そんなの、俺にしかできねぇだろ。
ここで心地良い満足感を感じているのが知られたら余計怒りそうだ。密かに満たされることにした。
「言うこと聞いてもらうの思いついた」
「はいはい。結局やんのかよ。何にすんの?」
「雪斗からキスしてよ」
「――は?」
ん、と少し上目遣いで甘える貴臣の瞳がきらめいて見えた。貴臣から視線が離せない。俺だって、別に自分からキスくらいはできる。
まぶたを閉じる貴臣の肩に片手を置こうとした手が微かに震えてしまって、そっと息を吐く。気を取り直して、肩に手を乗せる。待ってるときの顔、こんな感じなんだ。綺麗で、かわいくて、ずるい。好きだ。
顔を傾け、俺も目を閉じて勢い任せで唇を合わせにいったら、少しだけ位置がずれてしまった。一応、したことに変わりはない。
やれやれと俺がドライヤーを再開しようとすると「一瞬すぎる」と笑顔の貴臣からしっかり口づけられた。
「ほんっとにお前は……俺の心臓は1つしかないんだからな!」
「知ってるよ。まだまだっていうか、かなり、ものすごく手加減してるからね。俺、ほんと偉いと思う」
だいぶ念を押されてしまった。もうすでに手加減されてる気がしねぇんだけど⁉
「善処するから、まだもうちょい手加減してて」
「なら、雪斗のペースに合わせてあげたいんだから、あんま煽んないで」
煽ってねぇよ! と盛大にツッコミを入れた。
貴臣の髪は責任を持ってドライヤーをかけて、俺の髪は貴臣が乾かしてくれた。好きな人に髪を触られる安心感から睡魔が迫るのをどうにか乗り越えて、寝る前の準備をすべて終わらせる。
「えー、まだ寝ないの?」
「貴臣に勝ったら!」
やっぱり得意なゲームを負けたままは終われないので、リベンジを申し込んだ。睡魔撃退にコーヒーも飲んだし、勝つまではやる!
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肩をすくめて苦笑する貴臣を気にせず、俺は躍起になってコントローラーを握った。
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