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夕暮れに揺蕩う
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そこから、百貨店の催事場へ向かった。
「こっちのが人やべぇな。これ見て回れんのかな」
バレンタイン当日ともなれば混雑は覚悟していたが、想像以上だった。
「色んな種類あるよね。気になるとこ見てこうよ」
貴臣のために来たし、貴臣が楽しそうならいっか。これだけ人が多ければ男2人で来てるのも気にならなさそうだ。
試食させてもらった生チョコの味に感動してどれにするかを迷ったり、びっくりするような値段の板チョコを貴臣が「バイト代はこういうときに使わないとね」とさくっと買ったりした。
「俺に買わせろよ」
「これは雪斗に作るためのものだから。バレンタインはもう作ったけど、また今度作るのに」
「あんだけ板チョコもらったくせに?」
「女子からもらったもので雪斗に作ったりしないよ。雪斗に作るなら、俺がちゃんと選ぶから」
え、とショーケースを眺めていた俺は振り返る。
「ガトーショコラ用じゃねぇの?」
「家族用だよ。分けたりお菓子作ったりするのに板チョコのが使いやすいし」
にこやかな貴臣を見て、こいつってそういうとこあるよなと思った。
うなずいて、ショーケースに目を戻す。俺だって貴臣にあげたい。
「どれがいい? 貴臣がほしいの買ってやるから選べよ」
「雪斗がくれたら何でも嬉しいからなぁ」
「それでも選べよ。ほら、この辺オレンジピールとかレモンピールのチョコもある。レモンって珍しくねぇ?」
何なら俺が食べたいけど、この値段は自分には買う気になれなかった。
「これがいい。半分こしようよ」
「いや、他のにしろよ。お前が食べたいんじゃねぇだろ」
「そんなことないよ。俺も食べたい」
おい、と強く言いかけたところで、貴臣は何も気にしてない。さっさと店員に声をかけて「ありがとう」と俺の肩を叩いた。
貴臣がほしいものを選びに来たのに。
支払いを終えて貴臣のところに戻ると、貴臣が「帰ってチョコ食べよう」とご機嫌で俺の頬をぺちぺち叩いた。わかってんだろ、俺はお前のせいでちょっと不機嫌だよ。
「何で自分がほしいもの選ばねぇの」
「雪斗に食べさせてもらえたら何でもいっかなぁって思ったから」
ちょうど来た下りのエレベーターに乗るときに小声で言われて、俺は耳元を押さえる。だから何でそういうことを言うんだよ。
こんなことで喜んでる俺もどうかしてる。押さえた耳がまるで心臓のように脈打っている気がした。
貴臣の家へ行くと、貴臣の両親は食事で遅くなるらしかった。
毎年恒例のガトーショコラを貴臣の部屋で堪能して、ため息をつく。
「すっげぇうま! 何これ!?」
「あ、わかる? チョコいいやつにしたのと、作り方ちょっと変えたんだ」
「普段もうまいけど、全然違うわ。最高!」
ぐっと親指を立てて貴臣に向けると、貴臣は目を細めて微笑んだ。
近づいてくる貴臣に気づいて、あ、とまぶたを閉じた。吐息がかかるほどの距離で息を止めていると、貴臣が「かわいい」と呟いた。
「……雪斗からもらったチョコ食べてからにしよっかな」
「半端に期待させないでキスしろよ」
「えー?」
わざとらしく首を傾げる貴臣の背中を軽く叩く。
「だってほら、自分が作ったものの味するのつまんないでしょ?」
貴臣は俺が買ったチョコを口に放り込んでから、唇を合わせる。レモンピールのほろ苦さとガトーショコラの甘さが混ざった。
甘い痺れにくらくらしそうになったと同時に、貴臣が離れた。
「何もらっても嬉しいよ」と、満足げに口の端を上げる貴臣。
「バカ、もっと欲張れよ」
「欲張ったら、雪斗が叶えてくれるの?」
「できることなら」
「じゃあとりあえず、両手広げて」
こう、と貴臣がお手本のように両手を広げて、俺はそれを真似した。
「え、何これ」
ぎゅっと抱きしめられて、ふわりと甘い香りがした。ふふっと貴臣がいたずらっぽく笑う。
かわいくて死ぬかと思った。
「こっちのが人やべぇな。これ見て回れんのかな」
バレンタイン当日ともなれば混雑は覚悟していたが、想像以上だった。
「色んな種類あるよね。気になるとこ見てこうよ」
貴臣のために来たし、貴臣が楽しそうならいっか。これだけ人が多ければ男2人で来てるのも気にならなさそうだ。
試食させてもらった生チョコの味に感動してどれにするかを迷ったり、びっくりするような値段の板チョコを貴臣が「バイト代はこういうときに使わないとね」とさくっと買ったりした。
「俺に買わせろよ」
「これは雪斗に作るためのものだから。バレンタインはもう作ったけど、また今度作るのに」
「あんだけ板チョコもらったくせに?」
「女子からもらったもので雪斗に作ったりしないよ。雪斗に作るなら、俺がちゃんと選ぶから」
え、とショーケースを眺めていた俺は振り返る。
「ガトーショコラ用じゃねぇの?」
「家族用だよ。分けたりお菓子作ったりするのに板チョコのが使いやすいし」
にこやかな貴臣を見て、こいつってそういうとこあるよなと思った。
うなずいて、ショーケースに目を戻す。俺だって貴臣にあげたい。
「どれがいい? 貴臣がほしいの買ってやるから選べよ」
「雪斗がくれたら何でも嬉しいからなぁ」
「それでも選べよ。ほら、この辺オレンジピールとかレモンピールのチョコもある。レモンって珍しくねぇ?」
何なら俺が食べたいけど、この値段は自分には買う気になれなかった。
「これがいい。半分こしようよ」
「いや、他のにしろよ。お前が食べたいんじゃねぇだろ」
「そんなことないよ。俺も食べたい」
おい、と強く言いかけたところで、貴臣は何も気にしてない。さっさと店員に声をかけて「ありがとう」と俺の肩を叩いた。
貴臣がほしいものを選びに来たのに。
支払いを終えて貴臣のところに戻ると、貴臣が「帰ってチョコ食べよう」とご機嫌で俺の頬をぺちぺち叩いた。わかってんだろ、俺はお前のせいでちょっと不機嫌だよ。
「何で自分がほしいもの選ばねぇの」
「雪斗に食べさせてもらえたら何でもいっかなぁって思ったから」
ちょうど来た下りのエレベーターに乗るときに小声で言われて、俺は耳元を押さえる。だから何でそういうことを言うんだよ。
こんなことで喜んでる俺もどうかしてる。押さえた耳がまるで心臓のように脈打っている気がした。
貴臣の家へ行くと、貴臣の両親は食事で遅くなるらしかった。
毎年恒例のガトーショコラを貴臣の部屋で堪能して、ため息をつく。
「すっげぇうま! 何これ!?」
「あ、わかる? チョコいいやつにしたのと、作り方ちょっと変えたんだ」
「普段もうまいけど、全然違うわ。最高!」
ぐっと親指を立てて貴臣に向けると、貴臣は目を細めて微笑んだ。
近づいてくる貴臣に気づいて、あ、とまぶたを閉じた。吐息がかかるほどの距離で息を止めていると、貴臣が「かわいい」と呟いた。
「……雪斗からもらったチョコ食べてからにしよっかな」
「半端に期待させないでキスしろよ」
「えー?」
わざとらしく首を傾げる貴臣の背中を軽く叩く。
「だってほら、自分が作ったものの味するのつまんないでしょ?」
貴臣は俺が買ったチョコを口に放り込んでから、唇を合わせる。レモンピールのほろ苦さとガトーショコラの甘さが混ざった。
甘い痺れにくらくらしそうになったと同時に、貴臣が離れた。
「何もらっても嬉しいよ」と、満足げに口の端を上げる貴臣。
「バカ、もっと欲張れよ」
「欲張ったら、雪斗が叶えてくれるの?」
「できることなら」
「じゃあとりあえず、両手広げて」
こう、と貴臣がお手本のように両手を広げて、俺はそれを真似した。
「え、何これ」
ぎゅっと抱きしめられて、ふわりと甘い香りがした。ふふっと貴臣がいたずらっぽく笑う。
かわいくて死ぬかと思った。
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