【完結】異世界召喚されたのに命を狙われまくるなんて聞いてない。

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死んで逃げず、生きて向き合う

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「おい!さっさと起きてお前も宮殿の修復に力を貸さんか!」
「いやでも俺がいると怖がる人がいるんじゃ…」
「何を言っている!お前が元のお前だと分からせる必要があるのだから、絶好の機会ではないか!お前がここに籠っていると使える騎士や虎までもそばを離れようとせん!たくさん迷惑をかけたのだからさっさと働け!」
「…はーい」

    しばらく本調子に戻っていなかった俺は過保護なアルウィンにベッドの中に押し込まれ、大人しく回復を待っていたが、問題ないと診断されると即効ライナス王子がぷりぷりと怒りながら部屋へと乱入してきた。
    しかし言われていることはもっともなので、俺は苦笑を溢しながら彼の後ろをアルウィンと獣化したドロモアと共に着いていく。ライナス王子の背中は、一皮剥けたように、大きくなっているように見えた。

    ドロモアは獣人村にたまに帰りはするものの、ほとんどを俺のそばで獣化して過ごしている。元々言葉を話すのが苦手な彼にとって、虎の姿のままのほうが人に話しかけられないから楽らしい。
    彼が言葉に苦手意識があるのは前世の名残かもしれないと罪悪感を抱きつつも、ドロモアはあまり気にしていないようだから俺も表に出すようなことはしない。
    さらに人間と獣人の関係もドロモアの影響で大きく変わりつつあった。ひどく恐ろしい生き物として知られていた獣人が、本当は忠誠心が高く庇護欲が強い、心優しい生き物なのだと俺とドロモアの関係を見て知った人々が増えつつある。
    さらに数日前、俺を心配したウィルマがフードを被らずに突然王宮にやってきたこともあり、彼らの可愛さに胸打たれた人が続出したという。今では普通にドロモアもウィルマも獣耳を隠さずに王宮内を歩いている。

    また、一度獣人村に帰ったドロモアたちの話を聞いた獣人たちも人間に大きな興味を持っているようで、近々初めて人間と獣人の交流会が開かれる予定だ。すでに何人かの獣人たちは、ウィルマと共に王宮にやってきて瓦礫の撤去や修復に力を貸してくれている。
    ドロモアはあまり俺から離れたがらず、ずっと猫のように俺の膝に頭をのせて微睡んだり、俺が順調に回復しているか注意深く観察している様子だった。一度死神の姿になったのが余ほど衝撃的だったのか、不安がぬぐえないようだった。
    そんなドロモアの様子に眉間に深い皺を刻むのが俺の恋人、アルウィンである。たまにドロモアの首根っこを掴んで俺から引きずり離そうとしている。ドロモアもあまり抵抗せずに受け入れていることから、俺の気持ちを尊重してくれているのだろうと思う。

「ミト、足元気を付けろ。俺の腕に掴まれ」
「ありがとう、アルウィン」

    闘いの名残で地面が歪んだ廊下のとある箇所を、アルウィンに支えられながら進む。転移魔法で簡単に移動すればいいのだが、ドロモアがいるとアルウィンの魔力消耗が増えるため、歩いていける範囲内は歩くことにしていた。
    俺の魔力はというと、魂の核が戻ってからというもの、すべての力を失っていた。召喚された時と全く同じ状態になったということである。
    おそらく、一度死神の力が覚醒し、それをおさめたことで俺の魔力は使い果たしたのだと勝手に思っている。だから今の俺は初級基礎魔法である浄化魔法も使えないので毎日アルウィンに浄化魔法をかけてもらっている。この日課が帰ってきたことは、ささやかな幸せを取り戻した感覚だった。
    
    アルウィンとドロモアがさらに過保護になってしまった背景には、俺の魔力消失があるというわけだ。せっかくアルウィンたちを守れる力が俺にもあったと思っていたが、あの闘いを終えた今、もう魔法は使えなくていいやという気持ちが強い。
    元々使えずにこの底辺界で暮らしていたのだし、魔法に頼りきりな生活は慣れていないから何も困ったことはない。アルウィンもなぜか、俺が魔法を使えなくなったと知るとどこか嬉しそうだった。

「お前はここを箒で掃いとけ。力を失ったただの人間に出来ることはこれくらいだが、お前も働かねば不公平だからな!」
「うん、もちろん。安全な場所を選んでくれてありがとう」
「ち、違う!ただの人間に出来る仕事がこれくらいだっただけだ!」

    王宮のあちらこちらにまだ闘いの名残が残っている。ライナス王子が俺に指示をしたのは、すでに瓦礫が撤去され細かい破片が残るだけの外廊下を箒で掃くことだった。
    きっと浄化魔法を使えば簡単に綺麗になるのに、俺に出来ることを残しておいてくれたんだと思う。ライナス王子の不器用だけど細やかな優しさを感じ、俺は箒を受け取って早速自分のできることをやり始めた。

    非現実的な出来事が起こり、混乱を極めた国民たちへ国王とライナス王子が脅威は去ったこと、平穏が訪れたことを言葉を尽くして説明するとまだ波紋は残るものの、波は小さくなっていった。
    俺が死神に変わる姿を目にしたのはあのとき王宮いた者たちだけであり、遠方に避難していた国民は知らない。
    さらに俺は異世界人でも魔界人でもなく、魔界から誘拐された天界人だったことも発表された。そのおかげもあってか、俺への疑惑は残りつつも批判や畏怖の念がこれ以上、国民の中で広がることはなかった。

    俺が張った結界は完全に失われ、このあとの結界はどうすればよいのやらと途方に暮れそうだった国王が、試しにもう一度聖魔法の結界を張ってみると、何とすんなりと出来た。
    この出来事によってはっきりしたのは、女神レティシアが国王の聖魔法の力を弱まっているように見せかけていただけで、本来は何一つ変わっていなかったのだと思われる。
    結界も一人が一度張ったら張り直すことがこれまでなかったことから試されなかっただけで、二度目も問題なく張れることが今回のことによって証明された。よって、最初から結界には何も問題などなかったということである。

    宰相、大神官、国の重鎮という3人を失ったペンドリック王国であったが、国王を支える優秀な人材は他にもいる。ライナス王子が人材育成にも今後力を入れ、さらに優秀な芽が見つかることだろう。
    俺は聖魔法を取得するという目標もなくなり、授業の教師であったおじいちゃん先生がいなくなったこともあり、やることがなくなった。しかしこの世界で生きていくには仕事に就かねばと思っている。
    目下の目標は王宮が元の形に戻るまで破壊した要因の1つである俺がしっかり手伝うことだが、そのうち俺でも役に立てる職について、この国を支えたいと考えている。アルウィンにもその考えを話すと、どこまでも専属騎士として恋人として、俺を守るために着いていくと言ってくれた。

「ミト、寒い。俺、温める」
「ふふっ、確かにちょっと肌寒いけど大丈夫だよ、ドロモア。ありがとね。ドロモアもあっちの瓦礫撤去、手伝ってあげて?」
「…ん」
「もう少し厚着させるべきだったな。ミトは寒がりだから。でもこうすれば寒くない」
「わ、ありがとう、アルウィン!」

    空はよく晴れていたが、空気は肌寒かった。冷たい風に吹かれて、茂みの枯葉が地面に舞っている。
    この前まで夏だったのに突然秋が現れ、俺がその寒さにぶるりと身体を震わせたからか、ドロモアは獣化姿で温めようとすり寄ってきてくれた。ふわふわの頭を撫でてその温かさを掌に馴染ませてから、彼の手を求めている場所に向かわせた。
    ドロモアを離したのはアルウィンが嫉妬心を隠さずムッとしていたからである。案の定、ドロモアが離れるとアルウィンの機嫌はたちまち良くなり、彼の炎魔法で作られた火の小袋が背中につけられる。日本でいう貼るホッカイロのようなもので、じんわりと広がるあたたかな熱にホッと息を吐いた。

「あったか~い。秋でこんなに寒いならこの国の冬ってどのくらい寒いの?俺、のり切れるかな?」
「冬はとにかく雪がよく降るな。炎魔法を使える俺は忙しくなる。あちこちの雪を溶かしに呼ばれるからな」
「そうなんだ。雪かきってしないの?」
「雪かきはしないな。炎魔法で事足りる」
「そっか。部屋の暖炉の火もすごく暖かいし、アルウィンが炎魔法持ちで良かった。俺は寒いのに弱いからすぐに暖めてもらえる」

    何の気なしに言った言葉に、アルウィンはなぜかにやりと何かを企んだような笑みを浮かべると、俺の耳元まで顔を近付けて掠れた声で囁いた。

「いつだって体温であっためるぞ。熱いくらいにな」
「っ…ば、ばか!」

    夜の声と顔をしながら言われた言葉に顔から火が出そうなほど恥ずかしさで赤くなる。背中につけられた火の小袋がいらないくらいには、ポポポッと急激に体温が高まった。
    そんな俺の反応に満足したのか、アルウィンは目を細めて笑う。彼の頬の傷痕が引っ張られ、三日月型になっていた。
    この傷痕を見るたびに、やはりまだ胸の痛みは感じる。意識してしまうと途端に罪悪感に胸が押し潰されそうになる。しかしこれが俺の、一生背負うべき贖罪なのだ。

    死んだらそこで終わる。痛みも罪もそこで終わる。あんなに死にたがっていたのも、殺してほしいと願っていたのも、今なら分かる。俺はただ自分が楽になりたかっただけなのだ。生きて己の罪と向き合う覚悟がなかっただけなのだ。罪を償って死ぬことより、罪を背負ったまま生き続けることの方がずっと苦しいから。
    死にたがりの俺は、弱虫な俺だった。そんな自分からはもう、卒業する。生きることで己の罪と向き合える、強い自分でいたい。彼の隣でなら、きっとそれは叶う。

「どうした、ミト?突然暗い顔をして」
「…アルウィン、今日の夜、話したいことがあるんだけどいい?」
「……別れ話を持ち出したら何するか分からないぞ」
「そんなわけないでしょ!真面目な話だよ。俺の…告白というか、懺悔というか…」
「…まだ気にしているようだな。ミトの性格上、気にするなと言う方が酷なのだろう。いくらでも聞いてやる。そしてそのたびに何度でも、俺がお前の言葉も罪悪感も丸ごと抱き締めてやるから安心しろ」
「っ…うん!」

    俺の考えていることなどお見通しのアルウィンは、先回りして俺を包み込む言葉をくれる。彼の優しさを感じるたびに、さらに彼の虜になる。
    きっとずっと、罪悪感はなくならないだろう。アルウィンが許しても、俺は自分もディラードたちのことも決して許せないだろう。でもそれでいいのだ。
    何度だって懺悔するし、何度だって過去を悔やむ。そのたびにアルウィンに話して、アルウィンの言葉で包んでもらえるのなら。きっとその時間が、意味のあるものになると思うから。

    水色に澄んだ広い空に、秋の静かな雲が斜めに流れる。無惨に荒らされてしまっていた花壇の一部はすでに綺麗に修復され、新たに植えられたコスモスの花が俺たちの会話に耳を傾けていた。

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