義妹に婚約者を奪われ追放された私。実は国を支えていたと気づいても遅いです。隣国で能力を開花させたので、今さら泣きつかないで。

瀬戸 ゆら

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第5話:結界が消えるまで、あとわずか

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王国の中枢、巨大な魔導炉が据えられた地下室には、かつてない不気味な異音が響き渡っていた。 鈍く震える魔導炉の前に立ち、エリスは額に汗を浮かべて必死に魔力を注ぎ込んでいる。

「エリス! まだか! 国境の第3結界が完全に消滅したぞ!」 ジュリアンの怒声が響くが、エリスの表情は絶望に染まっていた。

どれだけ魔力を流しても、回路の|目詰まりを解消できなければ、それはただの無駄な負荷でしかない。 逆流した魔力に当てられたエリスは、真っ青な顔でその場に崩れ落ちた。

「無理……無理ですわ、殿下……! こんなボロ、もう私の手には負えませんわ!」 「なんだと!? 聖女の貴様が直せないはずがないだろう!」

混乱を極める王都に、国境の村が魔物の群れに襲撃されたという悲報が届いたのは、その数分後のことだった。

一方、帝国の宮廷の一角には、私のために誂えられた「個人工房」が完成していた。 窓からは柔らかな陽光が差し込み、最新の魔導ツールが整然と並べられている。

「私なんかに、こんな立派な場所をいただけるなんて……」 王国では、地下の湿った物置同然の部屋で、一人寂しく回路を編んでいた。 そのあまりの落差に、私は自分の幸運が恐ろしくて、おずおずと指先で作業台に触れた。

「師匠! ツールの配置はこれでよろしいですか! もっと必要なものがあれば、何なりと!」 工房長のガゼルが、大型犬のように甲斐甲斐しく私の周りを動き回っている。

かつて私をと笑った人たちは、誰一人として今の私を想像できないだろう。

「……気に入ったか」 不意に響いた低い声に振り返ると、そこにはシリウス様が立っていた。

彼は無言で私のそばに寄ると、私の左手を取り、一本の指輪を嵌めた。 それは銀色に輝く、美しい|皇帝直属の証だった。

「これは……?」 「俺の目を盗んで、貴様に手を出す不届き者から守るためのものだ。これがあれば、帝国のどこにいても俺が貴様を感知できる」

シリウス様の黄金の瞳が、独占欲を隠そうともせずに私を射抜く。 「貴様は俺の|専属だ。誰にも渡さん」

その絶対的な「所有宣言」に、胸の奥が熱くなるのを感じた。

その後、私は工房に運び込まれた騎士団の古い甲冑を修復した。 指先で冷たい金属を撫で、疲弊した回路を優しく解いていく。

「……っ、体が軽い! 魔力の循環が、以前よりずっとスムーズだ!」 「ありがとうございます、ウェンディ様! これならどんな魔物も恐くありません!」

次々と跪き、私に感謝を述べる騎士たちの姿に、私は初めて「ここにいてもいいんだ」と涙を浮かべた。

その頃、王国ではようやく自分たちの過ちに気づいたジュリアンが、血眼になって叫んでいた。 「ウェンディを連れ戻せ! 捜索隊を組め! あの女さえいれば、結界は直るはずだ!」

だが、その様子を遠くから見つめるシリウス様の独白は、どこまでも冷徹だった。 「もう、誰も戻れはしない。……あの日、全てを捨てさせたのはお前たちだ」

王国の北側には、すでに巨大な魔物の影が立ち塞がっていた。
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