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第四章(上)
新聞記者のとある一日を見てみよう!
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前回のあらすじ、芝居を見に行こうと誘われる。
にぎやかな街並みが見えるレストランの中。女性に人気なこの店は、昼過ぎのこの時間には席が埋まってしまう。
『卵がふわふわだね... 』
『近所の子猫が... 』
そんな中、とある赤髪ショートカットの少女は、店の中だというのにキャップをかぶったまま、食後に一人くつろぎながらメモ帳に鉛筆を走らせていた。
『なんかあ、自分の意思とは関係無く体が動いちゃったんだって』
『すごい怖いじゃん』
(東の町、麻薬か、精神障害か、あるいは... )
赤髪の少女は五つほど離れた席の会話を盗み聞きし、メモ帳に丁寧に断片的な文字を書いていた。
『町のゴロツキに結構多いらしいよ、怪我人も出ているんだって』
『へえ... 』
(あるいは、四天王の能力?)
そして勢いよく鉛筆を走らせ、メモの終わりを示すよう大きなクエスチョンマークを書く。
『あ、ここのお肉、ちょっと小さくなったね』
『ねえ』
「まあ、こんなもんかな?衛兵にも流れていないゴシップ情報。後で編集長に東の町の事について聞いてもらおうかな」
見切りをつけたように赤髪の少女はメモ帳をウエストポーチにしまい、一回り大きなノートを取り出し、鉛筆を向ける。
「(北の町の麻薬事件の裏には第三の四天王が!)... いやあ見出しはもう少し派手に... 」
口元に手を当て、再度鉛筆をノートに向ける。
「(暴れる姫から逃げ惑う勇者)... いやあ、王族が暴れたと書くのは良くないかな。「暴れる少女」に変えておこうか... 」
鉛筆片手に、メガネ越しにノートとにらめっこしている少女は、猫のような口を少し曲げて悩む。
「それにしても... 今回の四天王戦は色々盛だくさんだったなあ。どれを見出しにしたら良いものか... うにゃ?」
そばの窓から街を眺めるとふと、彼女の興味を引くものが目に映ったようだ。勢いよくメガネを外し、そのものを再確認する。
途端席を立ち、ウエストポーチにノートや文具を入れ、銅貨を十数枚程置いて店を出る。
『メイよお、あそこの肉、もう少し噛み応えがあってもよかったと思うんだよな』
『タイランお嬢様の顎が強靭すぎるのかと存じます』
こそこそと店の看板の裏や建物の陰に隠れ、赤髪の少女は派手な格好をした二人の後をつける。
「あれは... 勇者パーティーのタイラン様とその従者!有名人のゴシップネタを引き出せるかも... つけてみるか」
赤髪の少女はメガネとキャップを外し、、ウエストポーチからリボンのついたカチューシャを取り出し、前髪を全てまとめる。更に羽織っていたポンチョを脱ぎ、腰の位置で結ぶ。
『おいメイ、あそこの服屋に寄るぞ』
『かしこまりました』
普段はメガネとキャップをかぶり、顔を隠している赤髪の少女だったが、前髪を上げメガネを外すと、少し明るくなった印象を受ける。
「男のような振舞をするタイラン様が、実は可愛いもの好きだというのはすでに有名な話... ネタとしてはあまりにも弱すぎるかな?」
カランカラン...
赤髪の少女は二人をつけ、洋服店に入る。壁の棚やハンガーにはフリルやレースの付いた派手な色な服が置いてあり、店のあちこちに置いてあるハンガーラックや棚のおかげでにぎやかしい雰囲気になっている。
『俺はあよう、普段着ですらメイド服にしているメイにこういう服を着てみてほしいんだよ』
『普段着で装甲を身に着けておられるタイランお嬢様から、そのようにおっしゃられましても、説得力に欠けるかと存じます』
大剣持ちの少女は適当な服を自身の従者に合わせるように掲げ、片目を瞑ってその風貌を楽しむ。
「タイラン様とその従者の仲睦まじい光景... スクープからは程遠いけれど、勇者パーティーメンバーの普段の様子を書くのも悪くないかな」
ハンガーラック一つ隔てて二人の様子を観察すると、赤髪の少女はメモ帳に何かを書き込む。
『がはは!いいからいいから!大人し目の水色のワンピースとかどうよ!これなんかはメイの集めているアクセサリーとも合うだろう!』
これまで無表情を貫いていたメイド服の少女だったが、大剣持ちの少女の言葉にくちびるをぴくっと震わせ、ワンピースを素直に受け取る。
『... 着替えて参ります』
『おうよ!』
試着室にメイド服の少女を見送ると、置いてある他の服に目を移す。
その様子を興味深そうに観察し、メモ帳に鉛筆を走らせる。
「なるほど... 従者との仲良好、というよりは従者と友達のように接している。タイラン様のあの性格だったら、そういう行動も頷けるかな... っ!?」
書き入れるために彼女がメモ帳に目を落としていた時間はそう長くはなかった。万が一、目の前でスクープとなりそうな事象が起こった時の為、常に周りに気を張り巡らせる必要があるからだ。
だが、彼女が二人から目を逸らしていた一瞬の間に、すでに事は起こっていた。
「なんだお前?」
ハンガーラック越しに二人を観察していたため、服を見定めていた大剣の少女に発見されてしまっていた。
「なんで俺たちの事ジロジロと見てたんだよ。あと何を書いてたんだよ。」
(や、やばい... 勇者パーティーの事を勝手にネタにしてたから新聞の事を良く思っていないだろうし... )
「それにてめえ、どっかで見た事あるな... 」
大剣持ちの少女はハンガーにかけてある服の間隙を縫い、首をぬいっと伸ばして赤髪の少女に詰め寄る。
(見た事... !?まさか、見られていた!?私が勇者パーティーの後をつけていた所を見られていた?)
「... なんか言えよ」
どう動いたのか、赤髪の少女に気付かれずにすでに隣に移動していた。
「ひぇう... えっと... 」
「あ?」
至近距離まで顔を詰められ、無理やり目を合わせられる。
「うーん... お前、髪の毛、前髪下ろしてみろ」
「え?」
「カチューシャを取ってみろって言ってんだよ」
「あ、はい... 」
赤髪の少女は言われた通りにカチューシャを手に持ち、前髪をゆっくりと垂らす。
「うーん... うん、前髪を下ろした方が可愛いぞお前」
「ひゃえ!?えーと、ありがとうございます?」
「次、帽子被ってみろ」
「え... 」
大剣持ちの少女が棚から適当なキャップを取ると、赤髪の少女がうっすらとかいている汗にも気付かず、無理やり頭に被せる。
「うん。良いな。もう少し暗めの色の方が似合うかもしれない。だが何か足りないような...」
「あ、あの!」
「なんだよ」
「が、画家見習いなんです私... だからその... 可愛らしいお二人の姿をスケッチしようかにゃと...」
「スケッチだあ?」
一方の目を大きく開け、もう一方の目を細め、更に詰め寄ってくる大剣持ちの少女。
「でも、冷静に考えたら許可も取らずにそんなの失礼ですよね。出直してきます!」
「ちょっと待て」
大剣持ちの少女の横をすり抜け、出口へ向かおうとするが、後一歩という所で腕を掴まれる。
「許可を取らずに絵を描こうとしたことには怒っていないぜ。世の中には人の事をコソコソ嗅ぎまわってよう、色々誇張して世に出す新聞記者がいる位なんだ。画家なんかどうってことねえぜ」
(そ、それ私の事なんじゃ... 絶対に怒っている... )
「そんな事よりてめえの見た目の事だぜ。ちょっとこのメガネをかけてみろ」
「え、どこからそれを... 」
「細けえ事気にすんなって」
大剣持ちの少女からメガネを手渡されると、赤髪の少女はようやく気付く。自分が置かれているこの状況は、自分が理解しているそれよりも、ずっと危ないものであることに...
(これ... いつも私がしている格好!?)
そんな危機的状況に陥っている赤髪の少女の気持ちなどつゆ知らず、大剣持ちの少女は期待の表情でメガネの装着を待っている。
「え、えっと... 」
「ん?さっきも俺たちの事を描いている時に、ノート見づらそうにしてただろ?画家ならメガネ作った方が良いかもしれないぜ」
曇りなき純粋な眼差しを向けられ赤髪の少女は後ずさりをするが、大剣持ちの少女は当然のように離した距離を詰めてくる。
「タ、タイラン様の方が似合うんじゃないですか?ほら、少し落ち着いた雰囲気になるんじゃ... 」
「俺に眼鏡え?」
「えっと... そう!とても可愛らしい見た目になるかも!」
大剣持ちの少女はくちびるをへの字に曲げ、顎に手を当てながら何かを考える素振りを見せる。
「可愛らしい姿、か... ちょっとそのメガネ貸せ」
「あ、はい... 」
「... だがよお、一つおかしいところがあるぜ。なんだって俺の事をタイラン様なんて呼んだんだ?いやよう、百歩譲ってメイとの会話から名前を聞いたってのは分かる。俺たちの事をスケッチするために観察してたんだからなあ。だけどよお... 」
メガネ片手に大剣持ちの少女は睨み付ける。
「タイラン《様》ってのはどういうことだ?お嬢様と呼ばれていたにしろ、この俺が貴族にでも見えたっていうのか?こんな装甲をつけている俺がよお!」
(ひっ... そうだお忍びで町に来ているんだこの人達!)
「さてはお前... 」
鼻と鼻が触れ合いそうな距離にお互いの顔は近づけられる。一方は思い切り目を細めて睨み付け、もう一方は青ざめた顔で冷や汗をかいている。
(今からでも注意を逸らして出口に... いやここまで私を警戒してたらそれは難しすぎる...)
「俺のファンだな?」
「え?」
「最初からこの俺が、あの有名なタイランだってのを知っていながらつけてきたんだな?」
そのまま静止する二人。すると緊張の糸が解けるように赤髪の少女の強張った顔は和らぎ...
「そ、そうにゃんです!」
「そうかそうか!... で、どうよ可愛くなっているか?」
「はいとても!」
大剣持ちの少女がメガネをかけてポーズを取ると、その姿を赤髪の少女はわざとらしく賛美する。
「そうだ!か、鏡で確認してみませんか!」
「おお、そうだな!ええと確か後ろの方に... 」
大剣持ちの少女が目を離した隙に、ゆっくりと後ずさりをする。そして出口の扉の近くまで来た所、ドアノブに手を伸ばそうと初めて後ろを振り向く。
(これで!ようやく逃げられる!私の記者人生はまだ終わらないんだ!家に帰って他のアクセサリーを探して、もっと地味な服を用意して、そして安心して記事の続きを書いてやる!!)
笑みを少しばかり零しながら、晴れ晴れとした気分で解放への道である、扉の方に目を向け、脱出を試む。
だが、その試みは叶わなかった。
「タイランお嬢様、こちらの記者の方と何をお話しになられていたのですか?」
後ろを振り向いた赤髪の少女が見たのは、青のワンピースを着た大剣持ちの少女の従者だったからだ。
にぎやかな街並みが見えるレストランの中。女性に人気なこの店は、昼過ぎのこの時間には席が埋まってしまう。
『卵がふわふわだね... 』
『近所の子猫が... 』
そんな中、とある赤髪ショートカットの少女は、店の中だというのにキャップをかぶったまま、食後に一人くつろぎながらメモ帳に鉛筆を走らせていた。
『なんかあ、自分の意思とは関係無く体が動いちゃったんだって』
『すごい怖いじゃん』
(東の町、麻薬か、精神障害か、あるいは... )
赤髪の少女は五つほど離れた席の会話を盗み聞きし、メモ帳に丁寧に断片的な文字を書いていた。
『町のゴロツキに結構多いらしいよ、怪我人も出ているんだって』
『へえ... 』
(あるいは、四天王の能力?)
そして勢いよく鉛筆を走らせ、メモの終わりを示すよう大きなクエスチョンマークを書く。
『あ、ここのお肉、ちょっと小さくなったね』
『ねえ』
「まあ、こんなもんかな?衛兵にも流れていないゴシップ情報。後で編集長に東の町の事について聞いてもらおうかな」
見切りをつけたように赤髪の少女はメモ帳をウエストポーチにしまい、一回り大きなノートを取り出し、鉛筆を向ける。
「(北の町の麻薬事件の裏には第三の四天王が!)... いやあ見出しはもう少し派手に... 」
口元に手を当て、再度鉛筆をノートに向ける。
「(暴れる姫から逃げ惑う勇者)... いやあ、王族が暴れたと書くのは良くないかな。「暴れる少女」に変えておこうか... 」
鉛筆片手に、メガネ越しにノートとにらめっこしている少女は、猫のような口を少し曲げて悩む。
「それにしても... 今回の四天王戦は色々盛だくさんだったなあ。どれを見出しにしたら良いものか... うにゃ?」
そばの窓から街を眺めるとふと、彼女の興味を引くものが目に映ったようだ。勢いよくメガネを外し、そのものを再確認する。
途端席を立ち、ウエストポーチにノートや文具を入れ、銅貨を十数枚程置いて店を出る。
『メイよお、あそこの肉、もう少し噛み応えがあってもよかったと思うんだよな』
『タイランお嬢様の顎が強靭すぎるのかと存じます』
こそこそと店の看板の裏や建物の陰に隠れ、赤髪の少女は派手な格好をした二人の後をつける。
「あれは... 勇者パーティーのタイラン様とその従者!有名人のゴシップネタを引き出せるかも... つけてみるか」
赤髪の少女はメガネとキャップを外し、、ウエストポーチからリボンのついたカチューシャを取り出し、前髪を全てまとめる。更に羽織っていたポンチョを脱ぎ、腰の位置で結ぶ。
『おいメイ、あそこの服屋に寄るぞ』
『かしこまりました』
普段はメガネとキャップをかぶり、顔を隠している赤髪の少女だったが、前髪を上げメガネを外すと、少し明るくなった印象を受ける。
「男のような振舞をするタイラン様が、実は可愛いもの好きだというのはすでに有名な話... ネタとしてはあまりにも弱すぎるかな?」
カランカラン...
赤髪の少女は二人をつけ、洋服店に入る。壁の棚やハンガーにはフリルやレースの付いた派手な色な服が置いてあり、店のあちこちに置いてあるハンガーラックや棚のおかげでにぎやかしい雰囲気になっている。
『俺はあよう、普段着ですらメイド服にしているメイにこういう服を着てみてほしいんだよ』
『普段着で装甲を身に着けておられるタイランお嬢様から、そのようにおっしゃられましても、説得力に欠けるかと存じます』
大剣持ちの少女は適当な服を自身の従者に合わせるように掲げ、片目を瞑ってその風貌を楽しむ。
「タイラン様とその従者の仲睦まじい光景... スクープからは程遠いけれど、勇者パーティーメンバーの普段の様子を書くのも悪くないかな」
ハンガーラック一つ隔てて二人の様子を観察すると、赤髪の少女はメモ帳に何かを書き込む。
『がはは!いいからいいから!大人し目の水色のワンピースとかどうよ!これなんかはメイの集めているアクセサリーとも合うだろう!』
これまで無表情を貫いていたメイド服の少女だったが、大剣持ちの少女の言葉にくちびるをぴくっと震わせ、ワンピースを素直に受け取る。
『... 着替えて参ります』
『おうよ!』
試着室にメイド服の少女を見送ると、置いてある他の服に目を移す。
その様子を興味深そうに観察し、メモ帳に鉛筆を走らせる。
「なるほど... 従者との仲良好、というよりは従者と友達のように接している。タイラン様のあの性格だったら、そういう行動も頷けるかな... っ!?」
書き入れるために彼女がメモ帳に目を落としていた時間はそう長くはなかった。万が一、目の前でスクープとなりそうな事象が起こった時の為、常に周りに気を張り巡らせる必要があるからだ。
だが、彼女が二人から目を逸らしていた一瞬の間に、すでに事は起こっていた。
「なんだお前?」
ハンガーラック越しに二人を観察していたため、服を見定めていた大剣の少女に発見されてしまっていた。
「なんで俺たちの事ジロジロと見てたんだよ。あと何を書いてたんだよ。」
(や、やばい... 勇者パーティーの事を勝手にネタにしてたから新聞の事を良く思っていないだろうし... )
「それにてめえ、どっかで見た事あるな... 」
大剣持ちの少女はハンガーにかけてある服の間隙を縫い、首をぬいっと伸ばして赤髪の少女に詰め寄る。
(見た事... !?まさか、見られていた!?私が勇者パーティーの後をつけていた所を見られていた?)
「... なんか言えよ」
どう動いたのか、赤髪の少女に気付かれずにすでに隣に移動していた。
「ひぇう... えっと... 」
「あ?」
至近距離まで顔を詰められ、無理やり目を合わせられる。
「うーん... お前、髪の毛、前髪下ろしてみろ」
「え?」
「カチューシャを取ってみろって言ってんだよ」
「あ、はい... 」
赤髪の少女は言われた通りにカチューシャを手に持ち、前髪をゆっくりと垂らす。
「うーん... うん、前髪を下ろした方が可愛いぞお前」
「ひゃえ!?えーと、ありがとうございます?」
「次、帽子被ってみろ」
「え... 」
大剣持ちの少女が棚から適当なキャップを取ると、赤髪の少女がうっすらとかいている汗にも気付かず、無理やり頭に被せる。
「うん。良いな。もう少し暗めの色の方が似合うかもしれない。だが何か足りないような...」
「あ、あの!」
「なんだよ」
「が、画家見習いなんです私... だからその... 可愛らしいお二人の姿をスケッチしようかにゃと...」
「スケッチだあ?」
一方の目を大きく開け、もう一方の目を細め、更に詰め寄ってくる大剣持ちの少女。
「でも、冷静に考えたら許可も取らずにそんなの失礼ですよね。出直してきます!」
「ちょっと待て」
大剣持ちの少女の横をすり抜け、出口へ向かおうとするが、後一歩という所で腕を掴まれる。
「許可を取らずに絵を描こうとしたことには怒っていないぜ。世の中には人の事をコソコソ嗅ぎまわってよう、色々誇張して世に出す新聞記者がいる位なんだ。画家なんかどうってことねえぜ」
(そ、それ私の事なんじゃ... 絶対に怒っている... )
「そんな事よりてめえの見た目の事だぜ。ちょっとこのメガネをかけてみろ」
「え、どこからそれを... 」
「細けえ事気にすんなって」
大剣持ちの少女からメガネを手渡されると、赤髪の少女はようやく気付く。自分が置かれているこの状況は、自分が理解しているそれよりも、ずっと危ないものであることに...
(これ... いつも私がしている格好!?)
そんな危機的状況に陥っている赤髪の少女の気持ちなどつゆ知らず、大剣持ちの少女は期待の表情でメガネの装着を待っている。
「え、えっと... 」
「ん?さっきも俺たちの事を描いている時に、ノート見づらそうにしてただろ?画家ならメガネ作った方が良いかもしれないぜ」
曇りなき純粋な眼差しを向けられ赤髪の少女は後ずさりをするが、大剣持ちの少女は当然のように離した距離を詰めてくる。
「タ、タイラン様の方が似合うんじゃないですか?ほら、少し落ち着いた雰囲気になるんじゃ... 」
「俺に眼鏡え?」
「えっと... そう!とても可愛らしい見た目になるかも!」
大剣持ちの少女はくちびるをへの字に曲げ、顎に手を当てながら何かを考える素振りを見せる。
「可愛らしい姿、か... ちょっとそのメガネ貸せ」
「あ、はい... 」
「... だがよお、一つおかしいところがあるぜ。なんだって俺の事をタイラン様なんて呼んだんだ?いやよう、百歩譲ってメイとの会話から名前を聞いたってのは分かる。俺たちの事をスケッチするために観察してたんだからなあ。だけどよお... 」
メガネ片手に大剣持ちの少女は睨み付ける。
「タイラン《様》ってのはどういうことだ?お嬢様と呼ばれていたにしろ、この俺が貴族にでも見えたっていうのか?こんな装甲をつけている俺がよお!」
(ひっ... そうだお忍びで町に来ているんだこの人達!)
「さてはお前... 」
鼻と鼻が触れ合いそうな距離にお互いの顔は近づけられる。一方は思い切り目を細めて睨み付け、もう一方は青ざめた顔で冷や汗をかいている。
(今からでも注意を逸らして出口に... いやここまで私を警戒してたらそれは難しすぎる...)
「俺のファンだな?」
「え?」
「最初からこの俺が、あの有名なタイランだってのを知っていながらつけてきたんだな?」
そのまま静止する二人。すると緊張の糸が解けるように赤髪の少女の強張った顔は和らぎ...
「そ、そうにゃんです!」
「そうかそうか!... で、どうよ可愛くなっているか?」
「はいとても!」
大剣持ちの少女がメガネをかけてポーズを取ると、その姿を赤髪の少女はわざとらしく賛美する。
「そうだ!か、鏡で確認してみませんか!」
「おお、そうだな!ええと確か後ろの方に... 」
大剣持ちの少女が目を離した隙に、ゆっくりと後ずさりをする。そして出口の扉の近くまで来た所、ドアノブに手を伸ばそうと初めて後ろを振り向く。
(これで!ようやく逃げられる!私の記者人生はまだ終わらないんだ!家に帰って他のアクセサリーを探して、もっと地味な服を用意して、そして安心して記事の続きを書いてやる!!)
笑みを少しばかり零しながら、晴れ晴れとした気分で解放への道である、扉の方に目を向け、脱出を試む。
だが、その試みは叶わなかった。
「タイランお嬢様、こちらの記者の方と何をお話しになられていたのですか?」
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