勇者(俺)いらなくね?

弱力粉

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第四章(上)

噂話を聞こう!

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前回のあらすじ、芝居を観に行った。


赤髪の少女はいまだにお姫様だっこから抜け出せず、強い殺気を感じていた。


(この従者さんやばすぎる... 強すぎる殺気を抱くのもそうだけれど、こんなに強い感情を抱きながら表情を崩すことが無いのはやばすぎる... なによりも... )


「なあメイい... 何か見つかったか?」

「いえ、タイランお嬢様。近隣の猫の散歩ルート、ケーキ屋の新商品の感想、ファッションデザイナーの新しい服に関するインタビューなど、私達と関係無い事や、もうすでに新聞で世に広まっている情報ばかりです」

「猫とケーキ屋の事は詳しく見ておいてくれ!」


(こんな強い感情、タイラン様にどうやって気付かれないようにしていたのだか... それかただ単にタイラン様が鈍感というだけなのか)


「っ!?タイランお嬢様。申し訳ありませんが、記者の方と内密に話をさせていただけませんか?」 

「ん?いいぞ」


すると大剣持ちの少女は、お姫様抱っこの姿勢のまま、そっぽを向き、目を瞑る。

そしてワンピース姿の少女はそっと近づき、赤髪の少女の耳元に口を持ってくる。


「え?あのこれ、良いんですか?」

「問題ありません。タイランお嬢様はそういうお方ですので」


(耳も塞がず、こんな至近距離で内密?)


「それより、こちらに書いてある内容は、本当の事ですか?」

「え?ええと... (願いが叶うおまじない特集)?いや、こんなの嘘に決まってるじゃないですか... ただ子供や女性の間で流行っているものをまとめただけですよ」

「... さようでございますか」


(え?表情が暗くなった... さっきまでの殺気、というよりかは... 失望?)


「それでは、ついでにこちらのページなのですが... 」

「え?ああ、(東の町での殺人事件、加害者二名が自殺... )」


読み終えたのか、ワンピース姿の少女はページを一枚めくる。


「あ、ありがとうございます... (東の町での暴行事件、加害者が無意識に自傷... まるで体が操られたように勝手に動いたという噂)... これがどうしましたか?」

「この次のページに、あなたの予想が記されております。麻薬か、精神障害か... はたまた能力かと。この二つの事件はどこでお聞きになったのですか?これらの事件は、まだ報道されていないものと存じますが」

「ただの噂話ですよ。耳と目が良く効くので、色んな情報が入ってくるんです。新聞記者はまさに私の天職で... まさか、これが本当に四天王に関係あるんですか?」


ワンピース姿の少女は質問を投げかけられるも、応対せずに大剣持ちの少女の肩に手を置く。すると大剣持ちの少女は笑顔を浮かべ... 


「タイランお嬢様。特に流れて困る情報は無いようです。記者の方をお下ろしになってはいかがでしょうか」

「おお、そうか。それで話はもう良いのか?」

「はい、お時間いただき、ありがとうございます」

「どうってことねえよ!... よいしょっと... それじゃあ気を付けて帰れよテラー!」


赤髪の少女は優しくおろされ、荷物を返される。そしてぎこちない笑顔で二人を見送る。


(... 疲れた。とりあえず次から尾行はもっと慎重に... )


「は... ははは... タイラン様もお気をつけて... 」

「あ、てめえの顔はしっかり覚えたから!また会ったときはよろしくな!」


眩しすぎる明るい笑顔だ。だがそれはどこか威圧のようなものを放っており... 


(次は絶対に... 絶対に見つからないようにしなくては... )



*********


日が傾いてきた頃。メイド服の少女は、王城の廊下を歩いていた。

そしてその廊下の突き当たり、一つの扉の前にたどり着くと、ノックをする。


「... メイですか。開いていますよ」

「失礼します」


そこはちんちくりんな少女の部屋だ。ベッドには彼女が部屋着で寝ころんでおり、足をバタつかせながら本を読んでいた。

床には脱ぎっぱなしの服やタオルが乱雑に、デスクにはいくつかの本が積んであったりと、お世辞にも整っているとは言いづらい部屋だった。


「要件はなんですか?晩ご飯まではもう少し時間があるでしょう?」

「... 先ほどタイランお嬢様と出かけた際、奇妙な噂を耳にしました」


メイド服の少女は床から服を拾い上げ、畳み、開けっぱなしのクローゼットにそれをしまいながら話す。


「噂?町の人からですか?」

「はい、記者の方が噂をまとめておりました。四天王戦の情報を記録していた記者の方が後をつけており、タイランお嬢様がその方をお捕まえになりました」

「ようやく見つけましたか... やっぱり、あの赤髪の少女でしたか?」

「はい、南の町でも北の町でも見かけた方でした。名前はテラーさんという方です。お顔も確認しました」


服を片付け終わると、次はデスクの方に向かう。


「なるほど、ありがとうございます。それで噂というのは?」

「東の町にて、不可解な事件が起きたというものでした。暴行や殺人を引き起こした加害者が、操られたように自傷をしたと... 」

「... ああ、最後の四天王が引き起こしたものかもしれない、と... あ、片付けてくれているんですね、ありがとうございます」


メイド服の少女は、デスク周りの本も整理し始める。


「はい。あくまで噂ですので、確証はありませんが... 」

「いえ良いんですよ。東の町で何かが起こったという話も聞きませんから、噂程度でも十分調べる価値はあります」


ちんちくりんな少女は、喋りながらページを一枚めくる。


「まあ、何か事件が起こったと言うのなら、早めに対処した方が良いですね。急な事で悪いのですが、明日出発の準備は出来ますか?」

「明日... ですか。問題は無いのですが、少し急ではありませんか?」

「それは... 」


本から目を離しはしないが、少し言葉に詰まる。


「... もしかすると、勇者様の件ですか?」

「... メイは鋭いですね」


ちんちくりんな少女は本を閉じ、おもむろに窓の外を眺め始める。


「あのへっぽこが、今更本気で強くなりたいと願いはじめてきました。次で最後の四天王ですから、焦っているんでしょうね」


真剣な物言いに、メイド服の少女は片付ける手を止め、ベッドに向きなおる。


「面倒な事です。走らせたり、痛めつけたりしても能力が発動する気配はありませんでしたし、へっぽこの命の危機の時もダメでした」


一拍間を開け、ちんちくりんな少女はくるりと仰向けに寝転ぶ。


「大体何なんですか、魔物を一瞬でチリにするほどの最強の能力って。能力の説明になっていませんよ... 」


ため息をつき、ちんちくりんな少女は再度うつぶせに寝転がり、本を読みだす。


「かといって、へっぽこのあの体ではどう足掻いたって子供にも太刀打ち出来ない事を知らせれば、彼のやる気を削ぎかねません。というわけで多少強引にでも、考える暇を与えずに四天王や魔王戦に連れて行くのが最適解です。戦いの中どさくさに紛れ、能力を発動させることが出来るかもしれませんからね」


空気が緩んだのを感じ、メイド服の少女がデスク周りを再び片付け始める。そんな中、乱雑に置いてある一本の試験管... それは他の物と同じくデスクに放ってあるものだったが、中のピンクの液体に不思議と目を奪われる。


「デスクの上に置いてあるそれ、気になりますか?」


ちんちくりんな少女は本から目を離さないが、ちょっとした変化に気付いたようだ。思わずメイド服の少女は体をビクッと震わせてしまう。


「いえ、その... 失礼しました。こちらは... アン様が作られたお薬でしょうか?」

「はいそうですよ。どうやら自分の血を混ぜて対象に飲ませれば、一時間だけ自分が潜在的に?望む事が叶うそうです。アン本人はもともとカズに言う事を聞かせるために作ったそうですが、どれだけ頑張っても一時間が限界だったようで」

「なんでも、ですか。様々な事に使えそうですね」

「と、思うじゃないですか」


ちんちくりんな少女は本を両手で持ち上げ、仰向けに寝転がる。


「例えばあの馬鹿王に飲ませても、一時間で出来る事なんてたかが知れてますし、敵に盛るよりも戦った方が早いです。まあ、情報を引き出す手間を省くくらいにしか使えませんね。これも私の能力を使えば、薬があっても無くてもそこまで変わりませんが」


メイド服の少女はじっと薬を見据え、同じような事を考える。


「... 話は変わりますが、あれからタイランとはどうですか?」

「どう、と言われましても... いつも通り、何も変わった事はございません。タイランお嬢様はタイランお嬢様で、私はただのメイドです」

「... そうですか。あなたがタイランとどうなりたいか、それが分からない事は感じ取れます。私も同じですから... それで」


パタン...

ちんちくりんな少女は本を閉じ、ベッドにあぐらをかく。


「その薬、日頃のお礼と言ってはなんですが、メイがもらってはくれませんか?」


いつもは無表情なメイド服の少女は、目を見開き、ベッドとデスクの上をゆっくりと交互に見比べる。


「よ... よ、よろしいのですか?」

「はい、私の手に余る物ですし」


そしてメイド服の少女は複雑そうな顔を浮かべ、デスクに手をかける。


「そ、それでは... お言葉に甘えさせていただきます」
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