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密やかな熱愛①
しおりを挟む今までろくに目を合わせてもらえなかったのでここぞとばかりの無遠慮な私の視線以上に、感情の機微を見逃さないと視姦するように見つめられ目尻がじわりと熱くなった。
一時も視線を逸らしたくないと、クリフォードの気配が私にまとわりつき息をするのにも窮屈さを感じるほどに部屋の密度が高くなっていく。
「子どもっぽいってわかっているが」
あっ、わかってるんだ。
「自分だけ覚えていた気にしてたというのがなんだか悔しくて、あとやっぱりフローラを近くに感じると押し倒しそうになるからなるべく接点を作らないようにしていたんだ」
「私はそれで傷つきましたが?」
これくらい言ってもいいだろう。
すると、情けなく眉尻を下げるクリフォードの姿に、とくんと心がざわめく。
こんな表情をされてクリフォードが嘘を言っているとも思えないし、私に愛をささやいたところで利点となるものもないし、まあよくわからないけれど冷たくされた分、愛情があったからだと思うとなんだかもういいかと思ってしまうというか。
私はどうしても義兄のことが嫌いになれないらしい。
「ごめん。フローラが好き」
「そればっかりですね」
「襲わない以外でこの感情をどう伝えたらいいかわからない」
うーん。今までのお付き合いは相手が熱を上げてというところだろうか。
わからないけれど、自分だけにという点が心をくすぐり嬉しくて、傷ついた私の心は性懲りもなく信じたいと言っている。
もうこれはクリフォードの本音がどうあれ嫌いになれないのだろうと、私は諦めの息をついた。
「極端ですが、信じます」
「出て行かない?」
「それは別の話かなと」
タイラーにはすでに働くところと住む場所も準備してもらっている。
嫌われていないというだけで随分心が軽くなったし、好きと言うけれどやはり母とは違い私は平民として産まれ育ってきたので、次期当主となる相手の気持ちをそう簡単に受け入れられるものではない。
好かれているだけで十分というか、ここでめでたしめでたしで、家族としてわだかまりがなくなればきっぱり縁も切れるわけではないし、それくらいが自分たちにはちょうどいいと思う。
そのようなことを居心地が悪くなるほど見つめられながら説明すると、私の言葉に納得がいかないらしいクリフォードはじとりと私を睨んだ。
「なら、出て行きたいと思わないように口説くしかないな」
くいっと顎を上げられて、指の腹で愛おしそうに頬を撫でられじっと見つめられる。
「フローラ。俺と結婚して」
「……どうしてそうなるんですか?」
一足飛びもいいところで、振り幅がすごくて返事をする以前の問題だ。
「俺は添い遂げるならフローラしか考えられない。フローラしかいらないから」
「私はさっきまで嫌われていると思っていたのですが」
「その理由は説明したはずだ」
「展開が早くないですか?」
家を出て行かなければと思っていたら、まさかの求婚。
まだ本当の意味でぴんとはきていないけれど、もともと距離を詰めたいと思っていた相手だったら嫌だとは思わない。
しかも、喜んでいる自分もいるからそういう意味で意識していたのかなとも思わないでもない。でも、ベッドの上ということが生々しくてどういう言動を取れば正解なのかとクリフォードの次の行動を窺う。
「父も義母にも十八まで待てと、それからは好きにすればいいと言われている」
「私の意思は?」
「これからだ。今までの分も絶対幸せにする。だから、出て行かず俺と一緒にいよう」
とろけるような瞳で口元に笑みはり付けながらじっと自分を観察するような視線は、否は断じて受け付けないと語っていた。
彼が望まない返事をしようものなら、有言実行ですぐにでも食べられてしまいそうなほど獰猛な獣の気配が漂う。
「考える時間が欲しいです」
嫌われていたと思っていたら愛されていたと知って、気持ちが動くのはちょろすぎないだろうかとも思うけれど、やっぱりこの顔が良いのが反則でありなんでも器用にこなす義兄は私の事で不器用になっていたのかと思うと親近感が沸いてくる。
恋愛の意味でクリフォードのことを考えてはこなかったけれど、ずっと義兄に好かれたいと思っていたのだ。理性が働かなくなるくらい好きだと言われて、ドキドキと胸が弾む。
「……………………絶対フローラが出て行かないと今、ここで約束するなら、もう少し我慢してもいい」
とても長い沈黙の後、苦渋の選択だとばかりに嫌々告げるクリフォードの様子に思わず笑う。
「それですが、まずはタイラーと話さないことには」
もうすでに話をしてあるので、相手の迷惑になるような行動はしたくない。
そもそも今出て行く予定を早めた原因はクリフォードだ。そしてそれを取り消せと告げるのも彼。
私の勘違いだったとしてもそう思わせる態度をとっていたのは義兄だし、気づけと言うほうが無理なほど冷徹な態度だった。
振り回されてきたこともあってこれは絶対譲れないことだとはっきり告げると、クリフォードはすぅっと表情を消した。宝石そのもののような静かな眼差しに本能的に畏れを覚える。
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