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冷徹からの熱愛➂
しおりを挟む「お前がここまで愚かだと思っていなかった」
「私もだ。だが、今は自身の欠落を認識し我慢と伝え方を覚え中だ。そして愛を告げるためにいろいろな恋愛小説も読んで機微を勉強している」
それ堂々と言うものだろうか。
クリフォードが恋愛小説とか似合わないけれど、それも私の常識という言葉を聞いてなのだろう。
そう、よくわからないけれどどこかすっぽ抜けている義兄は諭せばわかる人だった。感情を日常的に抑えることが性格なのかそう育てられたのか日常で冷徹なのは変わらないけれど、素直な面もある。
「小説か……。まあそれも一つか。はぁ……。フローラ嬢はそのままこいつの失態をそのまま覚えておいてくれ。それもこいつの一部だしな。無理だったらはっきり無理だと言えばいい。その時は俺も協力して引き剥がす」
「お気遣い恐れ入ります。もしものときはよろしくお願いいたします」
「任せとけ。俺も友人の欠落は見逃せない。こっちはこっちで叩き込めるものは叩き込む」
私たちのやり取りに、クリフォードはものすごく嫌そうに眉を寄せる。
そのクリフォードを、ザックはまた叩いた。
身分的にザックは伯爵家の子息で下になるのだが、クリフォードもザックに何度叩かれても顔をしかめるだけで特に何も言わないので信頼しているのだろう。
「はあ。思ったよりもひどいな。フローラ嬢に関わるようになってしばらくしてから俺も気づいたけど、ここまでだ歪みがあったとは思わなかった。今まではそつなくこなしていたし、誰にでもそういうやつだと思っていたんだけど違ったみたいだ」
「私にだけと?」
自分を特別のように言うのもあれだけど、本人が言っていたし。親友が言うのなら、本当にそうなのだろう。
私は冷たくされた二年間しか知らないし、やっと本音を伝えられコミュニケーションを取りだしたばかりで、何がどう違うのかまだ判断がつかない。
「迷惑な話だろうけれど」
「迷惑かどうかはこれからフローラが決める」
「……まあ、そうだが。クリフォードの場合また暴走したらと思うとな。フローラが優しくて良かったな。あと、顔が良くて得したなお前」
いろいろ見透かされる。別に本当のことだからいいけれど。
クリフォードも私が彼の顔が好きなのに気づいてたまに仕掛けているのではと思うところもあるし。健気だと思えばずるい大人でもあるのだ。
それと話すなかで、「あの時の子がこんなに大きくなって。今回のことといいクリフォードの密やかな情念の強さには正直驚いた。決して褒めてないからな」とかなんとか言っていたけれど、それはすぐさまクリフォードに止められてその先は聞けなかった。
大きく?
十六歳から身長はさほど変わっていない。出会ったのは二年半前ではなかったのか?
疑問に首を傾げると、「まだ時期じゃない。またいずれ話そう」と追及することを阻まれてしまった。
まだまだクリフォードには心の内に抱えている秘め事があるらしい。
まだ二年半前の出会いのことも教えてもらえていないし、さらに何かあるようなことは気になったけれど、自分たちはこれからなので私は『いずれ』を待つことにした。
それから一年後、ふいにクリフォードのやらかしを知った義父が怒り、一年間私と離れることを言明した。
「許しとは相手の許可を取ってからだ。それを二年という時間だけで判断するとは。なぜフローラのことになるとそう我慢が効かなくなって極端なんだ。お前の想いはわかっていたから反対はしなかったし、態度は非常に悪かったが何よりフローラの生活に不備がないか一番気を遣っていたのを知っていたから任せていた。そもそも、いい大人がそんな意味がわからんことになっているとは。今まで普通だっただろうが……。本当にわからん。いや、……これに関しては私も悪いか。すまないね。フローラ」
「いえ。終わったことですから」
「それではダメだ。仲良くなって良かったと気楽に思っていたのにそんなことがあったとは。今後、一年間はクリフォードからの接触禁止だ。お前はやはりもう少し情緒を学べ」
せっかく詰めてきた距離をゼロに戻されることに、当然クリフォードは反論した。
しばらく言い合いが続き、高ぶっていた気持ちが落ち着いた義父が私にどうしたいかと聞いてくれた。
正直、この一年間でクリフォードの歪みもこれがクリフォードとして受け入れてしまっている。何がどうしてと思うほどのそれでも、話は通じるしクリフォードなりに考え私に合わせようとしてくれている。
ずっと密かに愛されていたことも先ほどの会話のなかにあったようにその痕跡もたくさん気づかされることも多く、このままいつかはと思う気持ちは大きくなってきていた。
だけど、彼を受け入れるということは侯爵家の妻となることで受け止めようかと思いが生じるたびに踏ん切りはつかない。
距離が近づくことで見えた彼の為政者としての顔、仕事ぶりを見て、物怖じしていた。
一度、この機会に一人になって働いてみるのもいいと思った。絆されすぎている気もするので、距離をあけて見つめ直してみたい。
それほどまでに、クリフォードに求められることもだけど、その求めを返すときに起こる様々な重責も感じていた。
今まで母と、そして侯爵家と、家族に守られてきて世間が狭いとここに来て思うことも多かった。
散々、クリフォードにはあの手この手で説得されたけれど、これはお互いにとって良いことであると説得した。
別にその間会わないわけでもないのだからと説得し、侯爵家の遠方の親戚のおばさまのもとでお世話をしながらマナーを学んでいた。
おばさまは前王妃の侍女をしていたほどの人でそれはもうスパルタであった。だけど、それ以外は優しくて学ぶことが多く、私は彼女と過ごせることを光栄に思った。
最初の頃は時間ができれば会いにこようとしていたけれど、無理をしてまで会いに来てほしくないと告げると、手紙とともにプレゼントを贈られるようになった。
接触禁止令が出ているから、その間は触れようとしない。やっぱりこういうところは真面目というかなんというか。
だから爆発するのではとちらっと思ったけれど、まあその時はその時で自分たち次第だろう。そう思えるのは目を合わせて話ができているから。
うん。やっぱり会話は基本である。
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