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6.誤解(1)
しおりを挟む家に案内し、アルヴィンは暖炉のそばのソファに寝かせる。
互いに乾かし着替える過程で私が四大元素の魔法を使えないことがわかると、ルーカスは驚いた声を上げた。
「よくこんなところで、ろくに魔法も使えず一人で暮らしてこれたな」
「しばらく出かけているため今はいませんが、母もいます」
ララには自分を人に紹介するときは、母と言えと言われている。
「母親? 娘を一人にして魔の森に置いてどこに行っているんだ?」
「有事だとかで、泣く泣く知人に連れて行かれました。なので、放っておかれているとかではありませんし、ここでの過ごし方はしっかり教えてもらっていますので」
無責任な人ではないことを主張すると、ルーカスはバツが悪い顔をした。
「……そうか。悪い」
「いえ。心配していただいてのことだとはわかりますので。それでギルドではどのように私のことが伝わっているのでしょうか?」
私がふるふると首を振り噂の中身を訊ねると、ルーカスは気を取り直すようにこほんと咳をした。
こっちにこいと手招きされ、ルーカスの前に座らされた私は問答無用で彼の風魔法で髪を乾かされながら話を聞く。
「魔……、ギルドに回復ポーションを卸していたミラが、さっきも言ったが独り占めしてポーションを卸さなくなったと聞いた。そのため、在庫も切れたが一行に姿を現さないミラを捜しに、ギルド長が何名か魔の森に入り連行を試みたがたどり着けず失敗。その過程で命を落とした者もいる」
「連行とは穏やかではないですね。そもそも、二度と来るなと言ったのはギルド長のほうなのに」
買わないなら、粘っても仕方がないとそこで引き揚げてきたのが三か月前。
それからララがトットたちに連れて行かれたので、私は言いつけを守り十六になるまで大人しくしていた。
そろそろ食材や日用品が尽きかけてきたので街に出る必要はあったが、前回のこともあったし十六歳になったので、違う街にでも足を伸ばしてみようかと考えていたところだ。
あっという間に乾いた髪に礼を述べ、ルーカスと向き合った。
「そうなのか?」
「ええ。いつも怒鳴りつけてくるので、それを聞いている職員や冒険者たちは多いのですが……」
権力者に逆らえず押し黙っているのだろう。
ルーカスが表情を曇らせ、黒瞳を伏せた。
「なるほどな。ギルド長は無駄に冒険者を死なせたことの罪で、現在は王都で査問を受けている。そのような感じならギルド自体が腐敗していそうだな。ここから出たらそちらの捜査にも乗り出そう」
「……」
私はそれには何も答えず、ルーカスを見た。もう勝手にしてくれという感じだ。
ルーカスのように話を聞いてくれる人がいるのはまだ救いだが、この国のギルドとの関わり方はもう少し考えたほうがいいかもしれない。
それが伝わったのか、ルーカスがふぅっと重い息を吐き出した。
「ミラには申し訳ないことをした。そんな噂もあったのと、アルヴィンがこのような状態だったのもあって、帝都に依頼指名が来たこともあり俺たちはここにやってきた」
「ルーカスも私を連行しに来たのですか?」
いい人だと思ったのにと、一気に気持ちが冷めていくのが自分でもわかる。
軽蔑した眼差しで見ると、ルーカスが大きな声で否定した。
「違う。ギルド長はほかにも余罪があり、現在拘束中だ。そのため、そのような男の一方的な言い分を聞いていては話にならないだろう? ミラからの話、そしてできればポーションを卸してほしいとの交渉役を任されてきた。できれば証人としてギルドに出てもらえるとありがたくはあるが……」
「それだけですか?」
私がアルヴィンに視線をやると、ぽりっと黒髪をかいてルーカスが私をじっと見つめた。
清らかに澄んだ今日の星空のような瞳が、まっすぐみ私を捉える。
「何より、アルヴィンの状態にミラのポーションを試したくて。できればその場でもらえないだろうかと相場よりも多めに金も用意してきた」
「そうですか。ルーカスを信じます。でも、アルヴィンを治すためにポーションをお譲りするのはいいですが、ギルドに卸すのは保留でお願いします」
咄嗟の行動で人の性が見えるというが、そういう面では先ほど誠実さを見せてもらったばかりだ。
何より、明るいところで気づいたが、ルーカスは背中を怪我している。
それをおくびにも出さずに、アルヴィンを守りながらここまできたこと、仲間思いの相手に悪い人はいないだろう。
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