二度目の人生は離脱を目指します

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
4 / 64
黒と獣人奴隷

4.領地に引っ込む

しおりを挟む
 
「エレナ、本当にいいのか?」

 私は七歳の茶会でとある金髪少女を見てすぐ、気を失い倒れた。
 なんか黒いものがひゅんっと私めがけて飛んできたため、それを避けようとした拍子に椅子ごと思いっきりひっくり返ってしまった。

 頭に受けた衝撃はそれほどでもなかったけれど、目まぐるしい記憶の渦にすぐに熱を出し、そのまま領地に帰ったのだ。
 その後、黒いものを見た者はおらず、どうやら私にだけしか見えていないことがわかった。死に戻る前もたまに黒い瘴気が見えていたし、あまりよくないものだと直感でわかる。

 しかも、私が倒れた直後、その少女、死に戻る前に私をはめたマリアンヌが倒れたと聞いた。
 ただし、今は何の力も発揮していないただのマリアンヌ。

 確か、死に戻る前の彼女は十歳の時に教会で洗礼を受け、そのうちの一つ、回復スキルレベルが高くてそれで聖女と崇められるようになったはずだ。
 必ずしも、スキルを開示しなければならないわけではない。だが、実力を示すために一部を開示する人はおり、マリアンヌも早々に開示していた。

 私も洗礼を受け、死に戻りスキルがあることを知った。あと、本来スキル表示があるところの一つはなぜか真っ黒になっていた。
 基本、スキルは教会で洗礼を受け、自身で認知すると使えるようになる。誰もがスキルを持っているわけではないので、持っているだけで特別だ。
 稀にだが教会で洗礼を受けるまでに身の危険を感じたなど、特殊な環境下で自動的に発現させる人たちもいる。

 とにかく、黒いものはマリアンヌがいた方向から飛んできたので、もしかしたら彼女と関係があるのかもしれない。
 非常に怪しいが、原因追及よりもとんずらだと私は家族を急きたて、足早に領地に帰った。

 ――逃げるが勝ちって言うしね。

 もともとやり直せるなら、関わらないと決めていた。
 彼女に会うまで死に戻りのことを忘れているとは思わなかったけれど、なんとか逃げおおせたのでギリセーフである。

 やたらと呼び出され付き合わされた死に戻り前。一度でも接点を持ちターゲットにされると、彼女はかなりしつこいことを知っている。
 最後の数年のことを考えると、関わるだけで不幸になるような人物だ。

 それに復讐という心に負荷を与えるものを抱え込むくらいなら、自分や自分の大事な人たちのために時間を使うと決めている。
 子爵家の領地は辺境にあるので、一度引っ込んだらそう簡単に呼びつけられない。向こうもわざわざ、田舎くんだりまでこないだろう。彼女は都会が大好きだ。

「はい。遠出ができる体調ではないのでとお断りいただけたら嬉しいです」
「そうか……」

 ぶっ倒れてから半年が経った。
 再び王都での茶会に誘われたが、二度とマリアンヌと関わるつもりはないと私はきっぱり断る。

 ニアミスをしてしまったが、あの場で倒れた私は何とでも言い訳ができる。領地に引っ込んでしまえば、どこで何をしていようがわかりはしない。
 王都の学園に通う十五歳になれば会うことを避けられないが、それまで彼女の陣営とは接点を持つつもりはない。

「そんなことよりもお父様。最近、周辺諸国の紛争のせいでここに移民が多く流れていると聞いております。我が領は種族にかかわらず、多くの者を受け入れる方針であると認識しています。その分法整備やルールの徹底は大事だと思うのですが、その辺りは現状どうなっているのでしょうか?」

 記憶を思い出してから、すっかり大人びたと言われるようになった私だが、これも成長だと受け入れてくれた。

「そんなことよりとは……。はあ、よく知っているな」
「ええ。私はこの地を預かるお父様の娘ですもの。それで、何か問題は起きていませんか?」
「……そうだな。種族間での争いや、移民の差別を増長させる動きがある」

 父はエメラルド色の瞳を翳らせた。動いた際に、ミルクティー色のストレートの髪が頬にかかる。
 私は父と同じ色の髪だが、髪質は母に似てくせっ毛でふわふわとしている。瞳の色は母親譲りの水色だ。
 親の欲目と末っ子のため、よく天使のようと言われ私は家族にとても可愛がられている。
 それは置いておいて、まずは誘導だ。

「それは困ったことですね」
「まあ。急に増えたから、そういった声もわからないでもない」
「確かにいきなり人が増えて今までと生活リズムが崩されて、反発を覚えることもあるかもしれません。ですが、もともと我が領は苦労をしてきた者が助け合いここまで発展しました。助けを求めてきた者を、意味もなく差別するはずはありません。絶対不自然です!」
「そう、か。そうだな」

 父はそこで顎に手をやり考え込んだ。
 可愛げのない七歳児でごめんなさいと心の中で謝罪しながら、この件は譲れないと強めに主張する。

 死に戻り前ではこの時期、王都に本店を持つ奴隷商店が裏で糸を引いて差別運動を起こし、人族ヒューマンではない亜人、とくに獣人を奴隷にしやすい環境を作り斡旋していた。
 父が気づいたころには多くの者が被害を受けており、この領地で闇営業の奴隷商の活動、購入は禁止してもすでに王国全土に広がっており、他領に干渉することもできずとても苦い思いをした。
 しかも、そのせいでランドール子爵家は最後悪者にされ窮地に立たされ追放された。

 ――ここで何としてでも止めてみせる!

 せっかくの二度目の人生、やり直すなら徹底的に自分の住みよい環境にするのだ。
 そのために多少の苦労は厭わないと、私はぐっと拳を握った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

公爵令嬢ルチアが幸せになる二つの方法

ごろごろみかん。
恋愛
公爵令嬢のルチアは、ある日知ってしまう。 婚約者のブライアンには、妻子がいた。彼は、ルチアの侍女に恋をしていたのだ。 ルチアは長年、婚約者に毒を飲ませられていた。近年の魔力低下は、そのせいだったのだ。 (私は、彼の幸せを邪魔する障害物に過ぎなかったのね) 魔力不足に陥った彼女の余命は、あと一年だという。 それを知った彼女は自身の幸せを探すことにした。

四の五の言わず離婚届にサインをしてくれません?

白雲八鈴
恋愛
アルディーラ公爵夫人であるミレーネは、他の人からみれば羨ましいと思える立場にいた。 王妹の母譲りの美人の顔立ち、公爵夫人として注目を集める立場、そして領地の運営は革命と言えるほど領地に潤いを与えていた。 だが、そんなミレーネの心の中にあるのは『早く離婚したい』だった。 順風満帆と言えるミレーネは何が不満なのか。その原因は何か。何故離婚できないのか。 そこから始まる物語である。

弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。  彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。  彼女は思った。 (今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。  今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

第二王女と次期公爵の仲は冷え切っている

山法師
恋愛
 グレイフォアガウス王国の第二王女、シャーロット。  フォーサイス公爵家の次期公爵、セオドア。  二人は婚約者であるけれど、婚約者であるだけだった。  形だけの婚約者。二人の仲は冷め切っているし冷え切っている。  そもそも温度など、最初から存在していない。愛も恋も、友情も親しみも、二人の間には存在しない。  周知の事実のようなそれを、シャーロットもセオドアも否定しない。  お互いにほとんど関わりを持とうとしない、交流しようとしない、シャーロットとセオドアは。  婚約者としての親睦を深める茶会でだけ、顔を合わせる。  親睦を深める茶会だというのに、親睦は全く深まらない。親睦を深めるつもりも深める意味も、二人にはない。  形だけの婚約者との、形だけの親睦を深める茶会。  今日もまた、同じように。 「久しぶりに見る君が、いつにも増して愛らしく見えるし愛おしく思えて、僕は今にも天に召されそうなほどの幸福を味わっている。──?!」 「あたしのほうこそセオ様とお顔を合わせること、夢みたいに思ってるんですからね。大好きなセオ様を独り占めしているみたいに思えるんですよ。はっ?!」  顔を合わせて確認事項を本当に『確認』するだけの茶会が始まるはずが、それどころじゃない事態に陥った。  

【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない

春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。 願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。 そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。 ※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

私は本当に望まれているのですか?

まるねこ
恋愛
この日は辺境伯家の令嬢ジネット・ベルジエは、親友である公爵令嬢マリーズの招待を受け、久々に領地を離れてお茶会に参加していた。 穏やかな社交の場―になるはずだったその日、突然、会場のど真ん中でジネットは公開プロポーズをされる。 「君の神秘的な美しさに心を奪われた。どうか、私の伴侶に……」 果たしてこの出会いは、運命の始まりなのか、それとも――? 感想欄…やっぱり開けました! Copyright©︎2025-まるねこ

【完結】私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした

迦陵 れん
恋愛
「俺は君を愛さない。この結婚は政略結婚という名の契約結婚だ」 結婚式後の初夜のベッドで、私の夫となった彼は、開口一番そう告げた。 彼は元々の婚約者であった私の姉、アンジェラを誰よりも愛していたのに、私の姉はそうではなかった……。 見た目、性格、頭脳、運動神経とすべてが完璧なヘマタイト公爵令息に、グラディスは一目惚れをする。 けれど彼は大好きな姉の婚約者であり、容姿からなにから全て姉に敵わないグラディスは、瞬時に恋心を封印した。 筈だったのに、姉がいなくなったせいで彼の新しい婚約者になってしまい──。 人生イージーモードで生きてきた公爵令息が、初めての挫折を経験し、動く人形のようになってしまう。 彼のことが大好きな主人公は、冷たくされても彼一筋で思い続ける。 たとえ彼に好かれなくてもいい。 私は彼が好きだから! 大好きな人と幸せになるべく、メイドと二人三脚で頑張る健気令嬢のお話です。 ざまあされるような悪人は出ないので、ざまあはないです。 と思ったら、微ざまぁありになりました(汗)

処理中です...