39 / 64
赤と青の遊戯
35.回復ポーション
しおりを挟む茶会は絡まれて以降は、大きな問題もなく終わった。
マリアンヌは終始ベアティとシリルを気にしているようだったけれど、二人が手を拒んだことからプライドの高いマリアンヌは自ら絡んでくることはなかった。
最初はどうなることかと思ったが、紫の殿下とも挨拶だけでそれっきり。現在のところ、黒い靄はなしという収穫を得ることができた。
死に戻り前は殿下の寵愛があったため、マリアンヌは聖女として崇められていった。
だが、今はそのような噂は聞かないし、彼女と特に親しげな様子にも見えなかった。
多少覚悟はしていたが、ベアティとシリルが私のところにいるように、王都でも少し変化があるのかもしれない。
そんなふうに今の状況を観察していたのが数日前。
今はざあざあと振る雨になすすべもなく、現在私は双子の兄のミイルズと小屋に避難していた。
窓の外を眺めいっこうに止む気配のない雨に嘆息すると、私と同じように窓の外を眺めていたミイルズが眉尻を下げた。
「エレナちゃん、ごめんね」
「いえ。これは不可抗力ですから」
そう答えながら、今頃焦っているだろう二人を思い小さく息をついた。
◇
時を遡り数時間前。
ミイルズとアベラルドの双子に興味を持たれ別荘に招待され、断ることができず私はベアティとシリルを連れて訪れることになった。
「よく来てくれたね~」
「待ってたよ」
兄ミイルズが両手を広げ歓迎の意を表し、弟のアベラルドが小さく笑みを浮かべ私たちを出迎えた。
「先日は貴重な物をいただき、本日はお招きありがとうございます」
手土産を渡し礼を告げると、二人はにこにこと笑みを浮かべた。
「エレナちゃんたちとゆっくり話したかったんだよね~」
「そうそう。早速会えて嬉しいよ」
「ね」
「ね」
二人が見合うと、赤と青の髪が同時に左右に揺れる。
「そうするように仕組んだくせに」
ぼそっとシリルが告げる。
水晶を受け取ってしまったため、正式に招待されて断れなかった。
あまり何も考えていなそうなのに、彼らはこうなることを予想して水晶を贈ったのではと思えるほど次々彼らの思惑通りに進んでいく。
それが水を被った二人は面白くなく、ベアティよりはシリルのほうが彼らに対して手厳しい。
多分だが、香水の匂いで誤魔化されたことをいまだに気にしているのだと思う。
今回の招待も行くか行かないかで二人と揉め、時間を設けて説明し彼らも最後は頷いた。だが、気持ちは納得できていないようだ。
王都に来てからこんなのばっかりだ。早く平和な領地に帰りたい。
「これ、ランドール領のポーション?」
「はい。この度商品化いたしましたので、市場に出る前にと思いまして」
手渡したものを覗き込んだミイルズが驚いた声を出すと、アベラルドが取り出してまじまじと眺めた。
「効能がすごいと聞いている。そのため値段も高くて出し渋っているって話もあったけど」
「確かに効果によってとても高いものもありますが、そういうつもりはありませんでしたよ」
「わかってるよ~。献上品からの噂だからね。陛下に献上するものがそこら辺の質でいいわけないし」
「はい。高い物は本当にごくわずかしか作れず貴重なので。採れる量や製法の確立とこれまで数も絞らないと無理でしたが、ようやく商品化する体制が整いました。お渡ししたものでも十分効果はあります」
もしかして、がめついと思われていての水かけだったのだろうか。
説明すると双子は顔を見合わせ、ミイルズが口を開いた。
「へえ~、そういうことだったんだね。開発にエレナちゃんも関係しているよね?」
「ええ。私の回復スキルが多少影響しているとは思いますが、領地の皆が力添えしてくれたおかげです」
ここまでくれば、スキルがそこそこのレベルであることは隠せない。
だけど、同時にこれらの商品が隠れ蓑にもなる。
金のなる実を一部ポーション化したのは、その効果を独り占めしていると思わせないためと私の力のカモフラージュでもあった。
想像以上に評判がよかったのには驚いたが、それならとことんやってしまおうと量と質を向上させ、商品化プロジェクトを押し進めてきた。
「最初に違法奴隷撤廃を公言し、獣人たちの環境も整えていると聞いた時はすごいことしているなと思ってたけど、今では有能な者が集まる領地としても有名だよね」
「有能さに種族は関係ありませんから。頑張る人にはその頑張りが評価されてほしい。この商品も魔法を行使する物がいなくても少しでも多くの人が助かるようにと作りました。多くの人の手に届けばと思っています」
「確かにこれなら人々に行き渡る、か。領地発展とともによく考えられているね」
アベラルドが顎に手を当て、再びしげしげとポーションを眺めていると、そわそわしたミイルズが言いにくそうに声を発した。
「ねえ。効果によってお願いがあるって言ったら聞いてくれる?」
「ミイルズ!」
いつも兄の言葉を引き取り落ち着いた口調で返すアベラルドが、そこで鋭く静止の声を上げた。
297
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
四の五の言わず離婚届にサインをしてくれません?
白雲八鈴
恋愛
アルディーラ公爵夫人であるミレーネは、他の人からみれば羨ましいと思える立場にいた。
王妹の母譲りの美人の顔立ち、公爵夫人として注目を集める立場、そして領地の運営は革命と言えるほど領地に潤いを与えていた。
だが、そんなミレーネの心の中にあるのは『早く離婚したい』だった。
順風満帆と言えるミレーネは何が不満なのか。その原因は何か。何故離婚できないのか。
そこから始まる物語である。
公爵令嬢ルチアが幸せになる二つの方法
ごろごろみかん。
恋愛
公爵令嬢のルチアは、ある日知ってしまう。
婚約者のブライアンには、妻子がいた。彼は、ルチアの侍女に恋をしていたのだ。
ルチアは長年、婚約者に毒を飲ませられていた。近年の魔力低下は、そのせいだったのだ。
(私は、彼の幸せを邪魔する障害物に過ぎなかったのね)
魔力不足に陥った彼女の余命は、あと一年だという。
それを知った彼女は自身の幸せを探すことにした。
第二王女と次期公爵の仲は冷え切っている
山法師
恋愛
グレイフォアガウス王国の第二王女、シャーロット。
フォーサイス公爵家の次期公爵、セオドア。
二人は婚約者であるけれど、婚約者であるだけだった。
形だけの婚約者。二人の仲は冷め切っているし冷え切っている。
そもそも温度など、最初から存在していない。愛も恋も、友情も親しみも、二人の間には存在しない。
周知の事実のようなそれを、シャーロットもセオドアも否定しない。
お互いにほとんど関わりを持とうとしない、交流しようとしない、シャーロットとセオドアは。
婚約者としての親睦を深める茶会でだけ、顔を合わせる。
親睦を深める茶会だというのに、親睦は全く深まらない。親睦を深めるつもりも深める意味も、二人にはない。
形だけの婚約者との、形だけの親睦を深める茶会。
今日もまた、同じように。
「久しぶりに見る君が、いつにも増して愛らしく見えるし愛おしく思えて、僕は今にも天に召されそうなほどの幸福を味わっている。──?!」
「あたしのほうこそセオ様とお顔を合わせること、夢みたいに思ってるんですからね。大好きなセオ様を独り占めしているみたいに思えるんですよ。はっ?!」
顔を合わせて確認事項を本当に『確認』するだけの茶会が始まるはずが、それどころじゃない事態に陥った。
弁えすぎた令嬢
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。
彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。
彼女は思った。
(今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。
今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。
小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。
私は本当に望まれているのですか?
まるねこ
恋愛
この日は辺境伯家の令嬢ジネット・ベルジエは、親友である公爵令嬢マリーズの招待を受け、久々に領地を離れてお茶会に参加していた。
穏やかな社交の場―になるはずだったその日、突然、会場のど真ん中でジネットは公開プロポーズをされる。
「君の神秘的な美しさに心を奪われた。どうか、私の伴侶に……」
果たしてこの出会いは、運命の始まりなのか、それとも――?
感想欄…やっぱり開けました!
Copyright©︎2025-まるねこ
【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない
春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。
願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。
そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。
※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
【完結】恋人にしたい人と結婚したい人とは別だよね?―――激しく同意するので別れましょう
冬馬亮
恋愛
「恋人にしたい人と結婚したい人とは別だよね?」
セシリエの婚約者、イアーゴはそう言った。
少し離れた後ろの席で、婚約者にその台詞を聞かれているとも知らずに。
※たぶん全部で15〜20話くらいの予定です。
さくさく進みます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる