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赤と青の遊戯
苛立ち sideアベラルド
しおりを挟むなんだかいつになくイライラした。
じろりと睨むが、しらじらと見つめ返されアベラルドは唇を噛んだ。
――普段ならこうならないのに……
兄のミイルズが強引に詰める距離を、それとなく場を整えるのがアベラルドの役目だ。二人で調和がとれ、愛される双子。
多少の悪戯や強引さも、二人だからねと許される。それが全く通じない相手に、アベラルドの感情はすさんでいった。
常にないアベアラルドの横で、マリアンヌがひどく甘ったるい声を上げる。
「エレナ嬢が心配なのよね。あっちにはミイルズもいるし大丈夫よ。そこにいては濡れるわ。こっちにいらっしゃい。ベアティ。ほら、シリルも」
マリアンヌは、ベアティとシリルの腕を掴もうと手を伸ばした。
仲裁というよりは、ベアティたちの好意を得ようとしてのそれに失望する。
否応もなく、エレナたちと自分たちの関係性の差を感じる。
そうすることを選んできたのは自分たちのはずなのに、どうしても意識してしまう。
自分たちで彼らが仲良くなれる場を設けていながら、これまでの時間は何だったのかと虚しくなった。
目の前でするりとその手から逃れるように身体を捻らせたベアティは、冷たい眼差しでマリアンヌを見た。
シリルは無言で後方に下がった。
「触らないでいただけますか?」
「えっ?」
ベアティの感情のこもらない声に、マリアンヌの表情が一瞬強張る。
すぐさま笑みを張り付け直したが、自分までもがそのような仕打ちを受けるとは思わなかったようだ。
ベアティはマリアンヌとより距離をあけながら、淡々と告げる。
「エレナ様以外に触れられるのは慣れていませんので」
「……ああ、そういうこと! これまで領地にこもってばかりで、女性に慣れていないのね。見た目に反してとても可愛いわね。気にしないでいいのよ。これから慣れていけばいいから」
これだけはっきり拒絶されても、斜め上の返答をするマリアンヌが哀れに見えた。
懲りずに手を伸ばす姿に、アベラルドの感情は平らになっていく。
「触るな!」
「うわぁ。空気読めないってこういう感じなんだね」
ベアティはぴしゃりと言い切ると、シリルと一緒にさらに後ろに下がった。
ベアティの取りつく島のない冷たい口調と、シリルの邪気のない声音と辛辣な言葉が容赦なくマリアンヌに向けられるが、マリアンヌはきょとんとしている。
相手に通じないからといってさすがにそれは問題だと、アベラルドは忠告する。
「ちょっと、それはどうかと思うよ? 紳士としても」
「紳士? 触らないでほしいと言っている相手に対して、何度も触ろうとしてくる相手に?」
身分のことも触れようと思ったが、なぜかベアティを前にすると口にしにくい何かが漂っていた。
人間離れした容姿からか、彼が放つ圧倒的な強者の空気からか。
そういった雰囲気と彼の美貌から、マリアンヌはベアティをどうしても自分のものにしたくてしつこく絡んでいるのだろうが、さっきからずっと逆効果だ。
明らかにベアティ、シリル、アベラルドへと話しかける割合と、甘える声音が差を語っていた。
「俺たちからエレナ様を意図的に離しておいて、知らない女性の面倒を見ろと?」
憤りを浮かべた不思議な色合いの瞳が、アベラルドを冷たく見据える。
「面倒なんて……」
「俺たちに押し付けようとしているのが見え見えだった」
「そうだよね。最初から危害を加えようとしたり、それでいて思わせぶりなことを言ったり、僕たちそもそもあなたたちのことを信用してないから」
彼らのこの態度は自分たちが行ったことにすべて起因しているとはっきり言われ、アベラルドは唇を噛み締めた。
「ちょっとよくわからないけれど、喧嘩しないで、ね」
マリアンヌが小首を傾げ、ここでも仲裁に入ってくる。
悲しそうにわずかに伏せられる目と、それでもきゅっと上がった口角。
それからゆっくりと瞬きをして上目遣いで、ね、と告げるそこには、私が言うのだから聞くでしょとの意思が透け見える。
「マリアンヌ嬢、申し訳ありません」
アベラルドは謝罪しながらも、その姿をじっと見た。
初めて見た時は本当に綺麗な子だと思った。回復スキルと流れ聞く評判から、マリアンヌは自分たちの希望だと崇めてさえいた。
だけど、少しずつ違和感を覚え、それが消えないところにランドール子爵領の噂を耳にし、しばらく現状維持でいこうと話し合った。
機嫌を損ねないよう、彼女を慕う男として懐に入り込み、表では騒ぎながら静かにアベアラルドたちは周囲を観察していた。
そもそもこういうところが信用できなくて自分たちは動いているのに……、そう思うと普段は可愛いと思えるが仕草が今は盛大に鼻についた。
――わからないけど、って本当にわかってないんだろうな。
うまくいかないこと、先ほどミイルズと言い合ったこともあって、アベラルドはいつになく苛立ちを抑えきれなかった。
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