二度目の人生は離脱を目指します

橋本彩里(Ayari)

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黒と光 sideベアティ

優しさと不安

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 気づけばふかふかのベッドに寝かされていた。
 ずっと生きていても意味がないと人生に絶望していたが、初めてとても眩しく温かいものに触れた。とても美しいものを見た気がした。

 その温もりを捜して、そこで気づく。
 思考できる、視野や明るくなり音が明確に聞き取れていることに驚きを覚えた。

 ベアティが目を覚ましたのに気づくと、知らない女性があれこれ世話をし、ばたばたと外に出ていった。
 それからしばらくして、夫婦と一人の少女が部屋に入ってきた。

 ――ああ、この子だ! やっと会えた……。

 自分から湧き出るものが、何から起因するのかわからない。
 だが、エレナを見た瞬間、これまで感じたことがないくらい心が温まった。
 自分は彼女に会うために生きていたのだと、体中から歓喜が湧き上がる。

 ミルクティー色の柔らかでくせのある髪は、ふわふわと彼女が動くたびに優しく動く。
 晴れた色の昼の空はとても美しく、エレナにとても似合っていた。彼女のことをよく知らないけれど、その曇りのない瞳は彼女らしくてとても好ましく思えた。

 視線が吸い寄せられるなんて生易しいものではなく、魂が吸い寄せられるように彼女から視線が外せない。
 まだ完全に体力や思考を取り戻せないが、彼女のことだけは絶対に逃してはダメだと、脳が、身体が、警告してくる。
 この時に、ベアティはエレナのそばから一生離れないと誓った。


 奇跡的な出会いから二年が経った。
 エレナの周囲に男、シリルが増えた。インドラの存在がうまく中和剤となり、たまに牽制しながらも今のところ問題なくやれている。

 領地のあちこちに回復魔法をかけに行くエレナに付き添うたびに、彼女のすごさを思い知る。
 エレナは領地でのんびり過ごしたいとよく言うが、その生活はのんびりとは程遠い。

 領地から極力出ようとはしないが、とにかく精力的に動く。
 その過程でベアティやシリルは助けられたため、エレナの活動を誇りに思うと同時に、いつかベアティたちを貶めた者たちに見つかり、エレナも悪用されるのではないかと心配でもあった。

 エレナの持つスキルは特殊だ。
 本人は回復スキルだというけれど、実際にその魔法に触れたベアティはそれが普通ではないことを知っていた。

 自分にかけられた精神支配魔法は複雑で、一般的な回復魔法では解けるものではない。
 それを時間はかかったが完璧に解いて見せたエレナ。しかも、当時七歳でだ。
 その間、魔法だけではなく、幾度となく存在に、声かけに助けられた。

 ベアティにとってエレナは特別だ。
 命の恩人でもあり、魂が求める女性。
 冗談抜きで、エレナなしでは生きられない。

 そう感じるのは、死んでもいいと諦めるほどの苦しみから救ってくれたから。
 直感がそう言っているから。
 確かにそれもあるだろう。

 でも、それだけではない。
 過ごしてきた時間、与えられた優しさや温もりの一つひとつが、ベアティの心を掴んで離さない。
 理屈ではなく、彼女のすべてが愛おしかった。

 ――エレナ様は必ず守る!

 きっと特別で目を付けられやすいため隠しているのであろうスキルの正体を、そしてエレナ自身を、命にかけても守りたい。
 そのためには二度と捕まるわけにはいかず、抵抗する術を身につけなければならなかった。

 エレナと過ごす時間に充実しながらも自ら厳しく鍛えと忙しく、ベアティは久しぶりに熱を出した。
 高熱でろくに身体を動かす気も起きず、気分も沈んでいく。

「ベアティ、大丈夫?」

 あの頃のようにふかふかのベッドに寝かされ、エレナを見上げる。
 もっと近くに来てほしくて手を出すと、すぐに気づいたエレナがほわりと微笑み手を握ってくれた。
 エレナに触れるだけで、気持ちが落ち着く。

「エレナ様……」
「無理しすぎたんでしょ? 強くなろうとするのはいいけど、そんなに急がなくてもいいのに」

 エレナはとても優しい。出会った時から、この包み込むような優しさは変わらない。
 抱える不安に気づき、そっと寄り添ってくれる。

 だけど、ベアティはその優しさに触れるたびに不安になった。
 初めて出会った時に告げられた、『何の安全の保障もないまま、私から手を離すつもりはない』とのエレナの言葉が忘れられない。

 エレナは寄り添い居場所を与えてくれるが、その言葉はベアティにとって拠り所であると同時に、時限爆弾のようで怖いものでもあった。
 裏を返せば、安全の保障ができたらエレナは簡単に手放すつもりであるということ。
 ベアティに離れるつもりはなくても、エレナがそうだと判断すればあっさりと放り出されてしまうということ。

 それはひどく危うく、ベアティを刺激する。
 少しでも不安に駆られると、ベアティは感情が制御できず再び何もできなかった日々に、いや、それ以上の絶望に陥ることを想像し、震えが止まらなかった。

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