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黒と光 sideベアティ
憤りと情報
しおりを挟むざぁぁぁと雨音が妙に耳につく。
「シリルと同じ髪色の獣人ですか……。その方たちは何をしていたのですか?」
シリルを気遣いながらエレナが問うと、漂う空気に異変を感じた双子が声のボリュームを落とした。
「動きや位置からして奴隷ぽかったよね。でも、スタレット侯爵と別館に向かうところを一瞬見ただけだからはっきりしたことは言えない」
「それから何度か出入りしているけれど、その一度きりだけ。それをどう捉えたらいいのか僕たちにはわからなくて、通い続けていろいろ様子を見てた」
「マリアンヌちゃんにそれとなくそのことを匂わせてみたのだけど、全く反応がなかったし」
そこで、双子はちらりとシリルを見る。
シリルは表情から感情を一切消し、その場に立っていた。
「シリル……」
エレナが気づかわしげに声をかけると、シリルはゆっくりと瞬きをし、大きく息を吐き出した。
「もしかしたら、両親かもしれない。なくても、仲間かも」
声が震えている。
シリルはあまり口にしないが、両親の安否をずっと憂いており会いたがっているのを知っている。
エレナもシリルにぬか喜びさせてはいけないと密かに行方を捜していたし、ベアティも冒険者稼業のなかで情報を収集していた。
大きな事件や危険な組織とどこで繋がるかもわからないのでそれらは大々的にはできなかったが、皆それぞれ気にかけ動いてきた。
それでも、何年かけてもこれまで全く手がかりを掴めなかった。
だが、高位貴族が囲っていたのなら頷ける。
その珍しさから秘密裏に多額の金が動いているだろうし、奴隷として服従させられ公の場に出ることを許されていないのならわかるはずがない。
「存在を隠されているということですか?」
「多分。マリアンヌ嬢も存在は知っているみたいだけど、管轄は侯爵様のようだった。奴隷を持つこと自体反対しないけれど、隠すということは非合法である可能性も高い」
「怖くて突っ込めないけれどね。表向きものすごく優しい方なのだけど、スタレット侯爵は底知れないというか、正直怖いんだよね」
「それもあって、弱みになるものをスタレット家には見せるべきじゃないと踏み切れなくて。でも、その間妹は弱っていくし僕たちも焦っていて」
双子なりに事情があるのはわかった。
だから、あの過剰な接待になったのかとまでは納得していないし、マリアンヌとの接点を持たせられたことに憤りはある。
だが、ようやく掴めたシリルの両親の手がかり。
それをエレナがみすみす逃すことはしないだろうし、これを聞いたシリルの心中を思うと、ベアティ自身もさすがにこの件は放っておくことはできない。
「一体何が起こってるの……」
そこでエレナがぽつりと呟き、深く考え込むように瞼を伏せた。
その美しい横顔を眺めながら、ベアティも思案する。
先ほどの違和感のこともある。
――あれは、精神支配に似ていた。
自分が受けたものよりは弱いが、こちらが不安定になると一気に覆い被さるように思考が塞がっていく感覚は恐怖そのものだ。
エレナがいなければどうなっていたか。
耐性のあるベアティはまだいいが、シリルも同じ状態だったらやばかったのではないか。
そして、この話。
マリアンヌだけではなく、スタレット侯爵家はかなりきな臭い。
エレナがすっと顔を上げた。
その瞳には揺るぎない強い意思が見え、ベアティは息を呑んだ。決意を秘めたその表情はとても美しく、目が離せない。
「その男女の健康状態はわかりますか?」
「見た感じは問題があるように見えなかった。侯爵に従順に付き従い、綺麗な身なりをしていた」
「そうですか……。もしかしたら鑑賞奴隷、一定の場で見せびらかす奴隷としてそばに置いているのかもしれませんね。シリルは髪色と容姿のため突然襲われ、両親とは生き別れて会えないままです。非合法な取引が行われたため、表立って出せないのかもしれません」
深く頷いたエレナは、怒りを押し殺すような険のある声で告げる。
エレナはこれまで、どこか達観し淡々としていた。無駄があるようで、すべてが結果に繋がり全く無駄がなかった。
掴み切れなかった何か、静かに抑えつけていた内包していたものが弾けそうな気配に、ベアティの胸がどくりと大きく鳴る。
「確かにその線はあるか」
「そうだね。僕らいつもと違う場所から入ったから、侯爵も僕らが見たとは気づいていないと思うし、隠しているのだとしたら納得だ」
エレナは深く頷き、さらりと告げた。
「妹さんは私が助けます」
「自信があるの?」
アベアラルドの揶揄するような言葉にも、エレナは余裕のある笑みを浮かべた。
「状態を見ないとわかりませんが、私ほど適任者はいないと思います。ただし、その場合は他言無用でお願いします」
「こちらのことも内緒にとお願いしているのだから、そうすることに問題はないよ」
「そうだね。いずれは妹にも外の世界をと思っているが、今は僕らも人に知られたくないから絶対誰にも言わない」
態度は少し訝しげではあるが、すでにエレナへの期待値を隠し切れない双子が眩しそうにエレナを見つめる。
――ああ、最悪だ。
エレナは力を隠すことなく、彼らの妹を救うと決めたのだろう。
双子の願い。そして、苦しんでいる彼らの妹のため。
何より、シリルのために。
「そうと決まれば、具体的に相談しましょう」
気づけば、エレナを中心に話が進められていた。
あれだけ降っていた雨はやみ、まるでエレナの行く道を照らすように光が降り注ぐ。
それとは反対に、やはり王都はろくなところではないとベアティは痛感し顔をしかめた。
✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.
黒と光 sideベアティここまでです。
次章はまだ章タイトル決め切れていませんが、紫の殿下出てきます。
やっと五人揃い、ここから現状に混ぜながら徐々に死に戻り前のことも解き明かしていきたいと思います。
ここまで変らずお付き合い感謝いたします!!
お気に入り登録、いいねとエールもたくさんいただけて本当にありがたいです。
今後も見守っていただけたら幸いです。
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