60 / 64
紫と衝動
46.失ったもの
しおりを挟む――まさか、そんな!?
いつからこんなことに?
彼女のスキルについて話題はなかったが、マリアンヌの話題に埋もれているだけだと思っていた。
死に戻り前の時のように目立たず役に立てたらいいと、家族が喜んでくれればそれでいいとしたであろう彼女の考えを尊重するべきだと思っていた。
こんなことになっているのなら、もっと早くに彼女の現在の境遇について確認するべきだった。
彼女はマリアンヌと関わりのない人物だったので、彼女にも変化があるなんて考えもしなかった。
「大丈夫ですか?」
「ええ。大丈夫」
ぐるぐると考え込んでいると、ベアティに腰に手を当てられ声をかけられる。私が答えると、ベアティは頷きぴたりと私にくっついた。
力強い手で当然のように支えられ、ものすごく安心する。ほっと息をつき、私は改めてロレッタを見た。
――どうすべきだろうか。
彼女はきっと私に買われることは望んでいない。
そもそも私もここに奴隷を買いにきたわけではない。
だけど、どうしても放っておけなかった。
「彼女がいいわ」
「わかりました」
かつての友人を契約魔法で従えるなんてしたくない。
だけど、ここで私が買わなければ彼女は誰かに買われてしまう。どのような契約がなされ、どのように扱われるかわからない。
なら、ここで私が動くのが一番だ。
事情を聞くにもここでは詳しく話せないし、とにかくここから離れてゆっくり話せる場を設けるしかない。
彼女の両親がいらないというならば、私のもとで保護することが最善である。
ほかも見せてもらえるだけ見せてもらったが、精神干渉を受けている様子の人物はいなかった。
いるとしたらすでにマリアンヌのもとにいるかとは思ったが、もしかしたら商人にかけてという可能性だってあった。
いろいろな可能性を考え確認するのが手っ取り早いと思いやってきたが、思わぬ人物と再会した。
手続きを終え、落ち込んだ様子のロレッタとともに私たちは屋敷に戻った。
「彼女はロレッタ。ここで、インドラの仕事の手伝いをしてもらおうと思って」
出迎えたインドラとシリル、王都の使用人たちに紹介する。
代表して、インドラが誰しも思っている疑問をぶつけてくれた。
「そもそも奴隷は必要としていなかったのでは?」
「そうなのだけど、ロレッタをどうしてもあのままにしておけなくて」
私はロレッタに一度視線をやり、苦笑する。
「そうですか。エレナお嬢様がお決めになったのなら私たちは構いません。彼女はここでどのようなことをさせるつもりでしょうか?」
「彼女は私が学園に通っている間の契約。その後は解放するつもりよ。そのつもりで仕事内容も割り振ってくれたらいいわ」
「わかりました」
こう言えば、敏いインドラなので仕事内容も調整してくれるだろう。
「彼女に確認したいことがあるの。リラックスできるようにセッティングしてくれるかしら」
「すぐにご用意します」
それから私たちは応接室で向かい合った。
客人のように扱われ、ロレッタは戸惑いながらソファに座る。
「ロレッタ。ここで仕事をしてもらうけれど、奴隷だからといってほかの人たちと差をつけるつもりはないわ。私が望むのはお金で買った分、しっかり働いてくれること。そして、これから質問することに答えてくれること。それさえ守ってくれれば、私が学園を卒業する三年後に解放することに偽りはないわ」
「それはありがたいですが、どうしてそこまで?」
あそこまで大金を払ってということだろうか。
「私、お茶会であなたを見たことがあるわ。あまり話したことはないけれど、笑顔がとてもチャーミングだと思っていたから。本来なら学園に一緒に行っていた相手がと思うと、あのまま立ち去ることはできなかったの」
「ランドール子爵令嬢……」
ロレッタは目を見張り、弱々しい声を出した。
まだ不安が拭いきれず、こちらを見る視線は戸惑いに揺れる。
「エレナでいいわ」
「エレナ様、ありがとうございます。私、まだ受け入れられなくて、貴族として同じ茶会に参加していたあなたにこの姿を見られたことが恥ずかしかった。今もまだ気持ちの整理はできていないけれど、しっかり働きます」
最後は前向きな言葉が出る。
本当はお金のことを持ち出したくなかった。
けれど、同情を強調されるより具体的なものを提示するほうがロレッタの心情的にはいいかと思ってだったが、それでよかったようだ。
彼女らしさが垣間見え、私は大きく頷いた。
「言いにくいとは思うけど、ここまで何があったか教えてくれる?」
死に戻り前と彼女が変わった現状には、きっと理由があるはずだ。
普通に過ごしていれば、見落とし気づかない何か。
必ず理由を突き止めてみせると質問すると、ロレッタは神妙に頷き口を開いた。
273
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
四の五の言わず離婚届にサインをしてくれません?
白雲八鈴
恋愛
アルディーラ公爵夫人であるミレーネは、他の人からみれば羨ましいと思える立場にいた。
王妹の母譲りの美人の顔立ち、公爵夫人として注目を集める立場、そして領地の運営は革命と言えるほど領地に潤いを与えていた。
だが、そんなミレーネの心の中にあるのは『早く離婚したい』だった。
順風満帆と言えるミレーネは何が不満なのか。その原因は何か。何故離婚できないのか。
そこから始まる物語である。
公爵令嬢ルチアが幸せになる二つの方法
ごろごろみかん。
恋愛
公爵令嬢のルチアは、ある日知ってしまう。
婚約者のブライアンには、妻子がいた。彼は、ルチアの侍女に恋をしていたのだ。
ルチアは長年、婚約者に毒を飲ませられていた。近年の魔力低下は、そのせいだったのだ。
(私は、彼の幸せを邪魔する障害物に過ぎなかったのね)
魔力不足に陥った彼女の余命は、あと一年だという。
それを知った彼女は自身の幸せを探すことにした。
弁えすぎた令嬢
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。
彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。
彼女は思った。
(今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。
今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。
小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。
第二王女と次期公爵の仲は冷え切っている
山法師
恋愛
グレイフォアガウス王国の第二王女、シャーロット。
フォーサイス公爵家の次期公爵、セオドア。
二人は婚約者であるけれど、婚約者であるだけだった。
形だけの婚約者。二人の仲は冷め切っているし冷え切っている。
そもそも温度など、最初から存在していない。愛も恋も、友情も親しみも、二人の間には存在しない。
周知の事実のようなそれを、シャーロットもセオドアも否定しない。
お互いにほとんど関わりを持とうとしない、交流しようとしない、シャーロットとセオドアは。
婚約者としての親睦を深める茶会でだけ、顔を合わせる。
親睦を深める茶会だというのに、親睦は全く深まらない。親睦を深めるつもりも深める意味も、二人にはない。
形だけの婚約者との、形だけの親睦を深める茶会。
今日もまた、同じように。
「久しぶりに見る君が、いつにも増して愛らしく見えるし愛おしく思えて、僕は今にも天に召されそうなほどの幸福を味わっている。──?!」
「あたしのほうこそセオ様とお顔を合わせること、夢みたいに思ってるんですからね。大好きなセオ様を独り占めしているみたいに思えるんですよ。はっ?!」
顔を合わせて確認事項を本当に『確認』するだけの茶会が始まるはずが、それどころじゃない事態に陥った。
【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない
春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。
願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。
そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。
※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
私は本当に望まれているのですか?
まるねこ
恋愛
この日は辺境伯家の令嬢ジネット・ベルジエは、親友である公爵令嬢マリーズの招待を受け、久々に領地を離れてお茶会に参加していた。
穏やかな社交の場―になるはずだったその日、突然、会場のど真ん中でジネットは公開プロポーズをされる。
「君の神秘的な美しさに心を奪われた。どうか、私の伴侶に……」
果たしてこの出会いは、運命の始まりなのか、それとも――?
感想欄…やっぱり開けました!
Copyright©︎2025-まるねこ
【完結】恋人にしたい人と結婚したい人とは別だよね?―――激しく同意するので別れましょう
冬馬亮
恋愛
「恋人にしたい人と結婚したい人とは別だよね?」
セシリエの婚約者、イアーゴはそう言った。
少し離れた後ろの席で、婚約者にその台詞を聞かれているとも知らずに。
※たぶん全部で15〜20話くらいの予定です。
さくさく進みます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる