二度目の人生は離脱を目指します

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
66 / 105
紫と衝動

52.のぞき部屋

しおりを挟む
 
「この時間帯、ここで待てば見えるはずだ」
「わかりました」

 小さなのぞき穴に身を寄せるように覗いているため、話すたびにランハートの声が耳をくすぐる。
 こそばゆさに身を縮めながら、私は外の様子をうかがった。

 私はとある部屋にランハートと一緒にいた。
 大人数で移動しバレるといけないため、ベアティとシリルは先ほどの部屋で待っている。

 ランハートの立場や王子が持っている情報から私たちをいいように動かすこともできたけれど、最後は頭を下げた。
 王族が公式ではないとはいえ、頭を下げるなどとんでもないことだ。

 さすがにここまでされると、相手が王族であることは推測できる。
 そのため、相手が誰なのか、どのような状態なのか、ここにいることばバレないだろうか、早く終わらせてしまいたい気持ちと、知る怖さもあり私の緊張は最高潮に達していた。

 身体に力が入っている私を見て、ランハートがふっと小さく笑う。
 頭上から息がかかり見上げると、緊張の面持ちながらもわずかに両目を細めランハートが私を見下ろしていた。

「彼らは随分と君を心配していたな」
「ええ。二人はとても私の身を重んじてくれているのですがたまにいきすぎることもあり、失礼があれば申し訳ありません」
「彼らもわきまえまがら我を出していたから問題ない。君を恩人であること以上に慕っているのがわかる。ここで私が君に何かすれば、身分など関係なく報復されそうだ」
「それは……」

 その先は続けられなかった。肯定も否定もできない。
 ベアティたちにその辺りの分別はついていると思いたいけれど、もし私に何かあれば何もしない彼らも想像できない。
 私は苦笑し誤魔化した。

「まあ、彼らの対応は想像ついたことだが、君のほうは意外だったかな。もっと彼らと依存関係にあると思っていたが違ったな」
「依存関係ですか?」

 それは観察と報告からの推察も入っているのだろう。
 確かにべったり感は否めないが、それぞれ個々ではやるべきことをやっている。観察していたのならベアティたちの活動は知っているだろうと思うと、腑に落ちない。
 それが顔に出ていたのだろうか、ランハートが苦笑し言葉を添える。

「少なくとも、彼らは君がいなければ制御できないというのがわかった」
「共有と共感、そして許容がなければ長年一緒に過ごせないので、互いに相手に身を預ける部分はあるとは思います。私も大事にされている自覚はありますし、彼らに応えられるようにと思って過ごしていますが……」

 意見を述べながら、ランハートのほうこそ意外な面が多いなと思う。
 もともと、紫の殿下は存在が遠いこともあり何を考えているのかわかりにくい人だ。

 死に戻り前はマリアンヌにべったりで寵愛し、充分な証拠もなく彼女に言われるがまま理不尽に私を糾弾し、塔へと閉じ込めた。
 そして領地はく奪の上に家族の追放は、スタレット侯爵家の力もあったが王家も絡まないとできないことだ。
 だから、ランハートに対してはほかの取り巻きたちとは違ってどうしても身構えてしまう。

 今は死に戻り前と違い、マリアンヌと距離を取っている。取り巻きもおり交流しているが、多くを語らずといったスタンスで特別親しい相手はいない様子だ。
 側近ともつかず離れず、ビジネスライクといった関係に見えた。
 ただでさえ、距離を感じ身構えている相手の行動にまだ気持ちや思考がついていかず、急な接近や頭を下げたことも含め、話して意外性が多いのはランハートのほうだろう。

「そういうところだ。君のほうが大人なんだな。そして彼らに対して甘い。だから、彼らも個々で高めながら依存度が上がって隙がなくなっていくのだろう」
「確かにそのように説明されれば思い当たる節はなくもないですが、恩ありきなので時期やきっかけさえあればすぐに変わると思います」

 彼らがまだ私のもとに留まっているのはランハートの言うように、刷り込みのような依存の部分も多少はあるのだろうけれど、恩をまだ彼らが返しきれていないと思っているからだ。
 傷ついたことのある彼らの心は複雑だ。
 だからこそ、傷に敏感でありその分優しくもあり、その形は歪であったりもするし、痛みを知るからこそ簡単に割り切れないこともある。

 だが個々の能力は非常に高く、とっくに独り立ちする実力は持っている。
 私とともに領地にこもっていたため、世間に対してはこれからだ。
 まだ彼らは過去との決着をつけられていないこともあり、それらが無事片付きしたいことを見つければ、あっという間に彼らは羽ばたいていくだろう。

「そう簡単な話ではないと思うがな。来たようだ」

 そのような話を小声でこそこそしていれば、いつの間にかターゲットがすぐそばまで来ていたようだ。
 瞬時に気持ちを切り替え、穴から見えるものに集中すべく視線を凝らした。
 数人の足音とともにやってきた人物、目の前の光景が信じられず私は目を見開いた。

しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

満場一致で削除されましたが、世界は問題なく回っております』

鷹 綾
恋愛
王太子アルベルトは、ある日、貴族全会の満場一致によって廃嫡された。 断罪もなければ、処刑もない。 血も流れず、罪状も曖昧。 ただ「順序を飛ばした」という一点だけで、彼は王位継承の座から静かに削除される。 婚約者だった公爵令嬢エリシアは、婚約破棄の時点で王都の構造から距離を取り、隣国との長期協定を進めていく。 彼女の世界は合理で動き、感情に振り回されることはない。 一方、王太子が選んだ“新たな聖女”は、どこまでも従順で、どこまでも寄り添う存在だった。 「殿下に従わない者は、私が処理しておきます」 その甘い囁きの裏で、王都では“偶然”が重なり始める。 だが真実は語られない。 急病も、辞任も、転任も、すべては記録上の出来事。 証拠はない。 ただ王太子だけが、血に濡れた笑顔の悪夢を見る。 そして気づく。 自分のざまあは、罰ではない。 「中心ではなくなること」だと。 王都は安定し、新王は即位し、歴史は何事もなかったかのように進む。 旧王太子の名は、ただ一行の記録として残るのみ。 婚約破棄のその後に始まる、静かな因果応報。 激情ではなく“構造”が裁く、最強レベルの心理ざまあ。 これは―― 満場一致で削除された男と、最初から無関係な位置に立っていた令嬢の物語。

『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』

鷹 綾
恋愛
内容紹介 王太子に「可愛げがない」という理不尽な理由で婚約破棄された公爵令嬢エヴァントラ。 涙を流して見せた彼女だったが── 内心では「これで自由よ!」と小さくガッツポーズ。 実は王国の政務の大半を支えていたのは彼女だった。 エヴァントラが去った途端、王宮は大混乱に陥り、元婚約者とその恋人は国中から総スカンに。 そんな彼女を拾ったのは、隣国の宰相補佐アイオン。 彼はエヴァントラの安全と立場を守るため、 **「恋愛感情を持たない白い結婚」**を提案する。 「干渉しない? 恋愛不要? 最高ですわ」 利害一致の契約婚が始まった……はずが、 有能すぎるエヴァントラは隣国で一気に評価され、 気づけば彼女を庇い、支え、惹かれていく男がひとり。 ――白い結婚、どこへ? 「君が笑ってくれるなら、それでいい」 不器用な宰相補佐の溺愛が、静かに始まっていた。 一方、王国では元婚約者が転落し、真実が暴かれていく――。 婚約破棄ざまぁから始まる、 天才令嬢の自由と恋と大逆転のラブストーリー! ---

知らぬはヒロインだけ

ネコフク
恋愛
「クエス様好きです!」婚約者が隣にいるのに告白する令嬢に唖然とするシスティアとクエスフィール。 告白してきた令嬢アリサは見目の良い高位貴族の子息ばかり粉をかけて回っていると有名な人物だった。 しかも「イベント」「システム」など訳が分からない事を言っているらしい。 そう、アリサは転生者。ここが乙女ゲームの世界で自分はヒロインだと思っている。 しかし彼女は知らない。他にも転生者がいることを。 ※不定期連載です。毎日投稿する時もあれば日が開く事もあります。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

処理中です...