二度目の人生は離脱を目指します

橋本彩里(Ayari)

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紫と衝動

53.国王とスタレット侯爵

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 三人の男性が歩く姿。
 その内二人は私でも知っている。スタレット侯爵とこの国の国王だ。
 ただし、国王と知らない人物は黒い靄がかかっている。

「それでは例の件はそのまま進めてもよろしいでしょうか?」
「うむ。――いや、もう少し待て」
「お言葉ですが陛下、何事もタイミングというものがありますので、あまり時間をかけるわけにはいきません」
「わかっているが周辺諸国との関係もある。目先の利益ばかりを追っては立ち行かぬこともあろう。事は慎重に行うべきだ」

 国王がそう告げると、マリアンヌと同じ金の髪に鋭い目つきのスタレット侯爵はすっと目を眇めた。

「そうですか。――やはり、私はすぐに実行すべきだと思うのですが」

 スタレット侯爵は、そう告げながら国王のほうへと腕を動かした。
 その手を集中して見ていると、もやもやっと気持ち悪い黒い靄が噴き出しているように見える。

 ――そんなっ!?

 とんでもないことが目の前で起きていた。
 あまりのことに声が出そうになり、慌てて口を両手で押さえる。
 逸る鼓動がやけに大きく聞こえるなか、一時も流れを見逃してはならないと集中した。

 黒い靄が国王のほうへと流れていくなか、スタレット侯爵はそこで国王の手を掴んだ。
 家臣が無遠慮に触れる行為にも驚くが、確実にスタレット侯爵が触れた場所から黒い靄が濃くなり、国王の全身を覆い隠すように広がった。

 それらは国王の首辺りで弾かれるように薄くなったが、少し残り国王の顔にかかっていた靄が先ほどよりも濃くなる。
 国王が歩みをぴたりと止め、ぷるりと身体を震わせた。

「――意見は変わらぬ。もう少し時間をかけてこの件は議論すべきだ」

 どのような内容なのかはわからないが、無理やり進めようとしているスタレット侯爵のいいように事が運ぶのはよくない。
 息を詰めて見守っていたが、国王の返答にほっと息をつく。
 同時に横にいるランハートも詰めていた息を吐き出したため、一瞬目を合わせたが頷き視線を戻した。

「わかりました。すぐに陛下の意見が固まることを祈っております」
「……わかった」

 スタレット侯爵がそこで手を離すと、国王の顔の周りの靄以外は引っ込んでいく。
 私はその一連の流れを見ながら、知られざる事実とその重大さに眩暈がした。
 ある程度は予想していた。だけど、想像以上の相手と内容に頭がパンクしそうだ。

 ――いつから?

 ランハートが見てほしがったのはこの国の国王。その状態。
 確かに、目の前で起こったことが公になれば大変だ。また、それと同時にその証明も難しい。
 国王たちが完全に通り過ぎ見えなくなったところで、ランハートが動く。

「確認できたな。こちらへ」

 隣の部屋に移動し、私たちはソファに座った。
 混乱から抜け出せないまま、どのような話し合いになるのかとランハートの様子をうかがう。

 私たちのことを調べ、私の能力もある程度予測はつけているらしいが、果たしてそのまま話してもいいものかどうか。
 そして、すべてありのままに話して信じてくれるのか。

 何かを堪えるように眉間にしわを刻んだランハートの表情からは、苦悩が見て取れた。
 目が合うと、先ほどよりも低く沈んだ声とともに、決意を込めた眼差しが私を射抜く。

「審議や判断はこちらが下す。君は見たものをそのまま話してくれればそれでいい」
「わかりました。それでは私も混乱し正解だと思える言葉選びが難しいため、単刀直入に言わせていただきます。国王陛下は悪意ある精神干渉を受けている状態だと思われます」

 ただ、死に戻り前のランハートたちほどの黒い靄の濃さではないことと、言葉を言い直していたところから、まだ完全な支配状態でないと思われた。
 だとしても、王族が他人に操られようとしている状態は国家の危機である。

「やはりそうか……」

 ランハートはそこでくしゃりと髪をかき上げ、顔を上げると目を瞑った。
 予想していたからこそ私をここに呼んだのだろうけれど、私の言葉を信じるならば家臣が裏切り父親の状態が正常ではないのだ。
 心情すべてを推し量ることはできない。

 私はランハートの様子を黙って見守りつつ、思考を整理すべくできる限りのことを思い出そうと試みた。
 死に戻り前はランハートもベアティたちと同様に精神干渉にあっていたと推測されるが、今回の王子は特に問題がなさそうだ。
 ならば、国王はどうだっただろうか。

 ――正直、あまり覚えていない。

 国王は滅多に表に出る人ではなかった。
 見かけても本当にその姿を遠くから見るだけで、会うこともないまま、私は塔に閉じ込められ家族は追いやられた。

 そこに国王の判断があったはずだが、死に戻り前の国王も精神干渉を受けていたとしたら、スタレット侯爵が裏で国王をいいように操っていたことになる。
 私はそこで大きく息を吐き出した。

「続きを話しても?」
「ああ。頼む」

 ランハートは姿勢を正し、膝の上で両手を握った。
 迷いを捨て重責を背負う覚悟を決めた表情を見て、私もなすがままにすべてを話そうとゆっくりと口を開いた。

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