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紫と衝動
55.謁見
しおりを挟む一度、ベアティたちがいる部屋に戻る。
そして、事の詳細や今後の方針について話し合ってすぐ、今度は国王のいる部屋の前に私は来ていた。
「ランハート殿下。協力するとは言いましたが、展開が早すぎませんか?」
話をすり合わせたらすぐ次と急展開についていけず、さすがに強引すぎないかと周囲の目を気にしながら文句を告げる。
警備している騎士の多さと無言の圧力に顔が引きつりそうになるのを堪えていると、ランハートは目を細めた。
「こちらはこれまで慎重に行動してきた。ここからは迅速であればあるほど、相手に悟られるリスクや攻撃を防げる」
「それはわかりますが……」
「大丈夫だ。すべて責任は取る」
最後は言い切られ、しかもランハートはそのまま扉をノックした。
ランハートの中ではこれもすでに決定事項のようで、どんどん進めていく。
ベアティたちと話す時間を設けてもらえただけ、こちらの事情に配慮や譲歩をしてもらっていると取るべきか。
引き返すには遅く、私は眉を寄せながらも黙ってランハートの行動を見守った。
「陛下。ランドール子爵令嬢を連れてきました」
「入れ」
中から先ほど聞いた国王の声が返ってきて、私は気持ちを切り替えランハートに続き入室する。
軽く二人で会話した後、国王が私に声をかけた。
「よく来たな」
「エレナ・ランドールと申します。このたびは――」
カーテシーをすると、国王は小さく手を上げたので口を噤む。
「だいたいの事情は聞いている。それにランドール子爵には世話になっているからな。堅苦しいのはいい」
「父がですか」
そのようなことは何も聞いていない。
控えめに国王へと視線をやると、国王は頷いた。ランハートと同じ紫の瞳がたまに見えるが、黒い靄がかかって表情は捉えにくい。
「ああ。そうだ。これに身に覚えは?」
そこで国王は胸元から、身に覚えのある装飾品を引っ張り出した。
「それは!? 陛下がお持ちだったのですね」
定期的に聖女スキルの最上級の保護魔法をかけてくれと父にお願いされかけていた物で、ネックレスを身に着けた者を害悪から守るための魔法をかけている。
回復スキルにはそういった魔法はないので大っぴらにしていないが、父が必要と判断したならと誰に贈ったのかは聞いていなかった。
ちなみに家族やベアティたちにも、魔法をかけた装飾品を着けてもらっている。
特にベアティとシリルはマリアンヌに狙われていることもあり、定期的に状態を確認していた。
「最初は半信半疑であったが悪いものではないと判定されたこともあり、定期的なメンテナンス後は思考が晴れやかだったため着けていた」
「それもあって、エレナに話を持っていくことにしてあそこを通ってもらったんだ」
ランハートが後を引き取り告げる。
言っておいてくれたらいいのにむっと口を引き結んで視線を投じると、ランハートは面白そうに口元を歪めた。
強引なところといい、途中から表情を取り繕うつもりはないらしい。
「先ほど陛下の首元辺りで浄化したように見えたと言ったが、それはエレナ自身の力によるものだ。それを受けてすぐに面会する必要があると話を通した」
あの短時間でいつの間に?
確かに殿下は護衛騎士と話していたが、まさかこんなにとんとん拍子で話が進むとは思いもしない。
「事前に教えてくだされば」
「今知れているからいいじゃないか」
「そうですが――。それで私の能力はある程度知られているのならば、これは浄化依頼だと思っていいのでしょうか?」
この国から離脱する下地は作りつつも、その父が信頼、もしくはまだこの国の未来をこの国王に託しているのであれば私は従うのみだ。
国王へと顔を向けると、理知的な紫の瞳がこちらを見下ろしていた。
ほかが見えない分、とても印象的な瞳でなんとなく父が力を貸そうと思った理由がわかった気がした。
「ああ。君には私がどう見えている?」
「私には陛下のお顔はよく見えておりません。ランハート殿下にもお話ししたのですが、私の目には悪意ある魔法が行使された状態の人は黒い靄が見えています。陛下はお顔が見えませんので、経験上から精神支配を受けている可能性があると思っております」
正直に告げると、国王は静かに頷いた。
「――わかった。見える者がほかにいない以上証明はできないが、ほかのことで必ずスタレットの悪事を暴くことを約束する。私のこれを取り払い今後も力を貸してほしい」
「畏まりました」
本来は、何度かにわけて浄化すべきレベルのもの。
だが、あまり頻繁に出入りすると怪しまれ、一気にすると精神的負担が大きいことも承知の上ですぐにでもこの状態から解放されたいとのことだったので、その場で力を行使することになった。
長時間に亘る力の行使はかなり負担であるが、現場を見てしまえば一刻も早く浄化が必要なのはわかるので、無理をして黒い靄を取り払う。
互いになんとか耐え切り、無事国王との対面を終えた。
今すぐ倒れ込んでしまいたいのを堪え、気力を振り絞りながらベアティたちが待つ部屋へと再び戻る。
――さすがに体力も思考ももう限界。
ぼんやりしながら、ランハートが扉に手をかけようとしているのを眺める。
もう少しで休めると一歩足を踏み出したその時、ガチャッと内側から扉が開き私は伸びてきた腕に抱き込まれ部屋の中へと連れ込まれた。
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