二度目の人生は離脱を目指します

橋本彩里(Ayari)

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紫と衝動

57.ずるい

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「国王の状態を治療してもらった」
「一気にですか?」

 唸るようなベアティの声に見向きもせず、ランハートは私を見ながら頷いた。

「ああ」

 ベアティとシリルも当然のように私を見ている。

 ――かなり話しにくいのだけど……。

 無防備な状態に視線の圧。
 場所が場所なだけになんとも気まずいが、動くことを許されない以上、この状態を抜け出すには話を終えることだ。

「相手を欺くためにもそうする必要があったの。国王陛下がその状態というのは危険だから、わかるでしょ?」

 ぴりつく二人を宥めるよう補足を入れつつ、今後の方針についても説明する。
 国家機密ともいえる今回のことに関して、協力していくためにも必要だと二人と両親には話すことの許可を国王から得ている。
 大方話し終えたところで、ランハートは好戦的で挑むような表情をベアティとシリルへと向けた。

「――ということで、威嚇はやめてもらえるかな? これからは一緒に戦う者として協力していくことになったのだから、親睦を深めようじゃないか」

 ランハートの言葉にベアティたちを見ると、二人は厳しい顔で王子を見ていた。

「エレナ様を連れ回して疲れさせた人と手を組むのは嫌ですが、必要というなら仕方がありません。ですが、今後は必ず俺たちはそばにいさせていただきます」
「そうだね。僕たちにも関わっていそうだし仲間が多いに越したことはないけれど、エレナお嬢様をこき使ったのはまた別」
「エレナ様の意思を潰すようなことは許さない」
「あくまで僕らはエレナお嬢様の意思のもとに動きます」

 途中から静かに聞いていたと思ったが、ちくちくと棘を含む言葉で反撃する二人に私は苦笑する。
 やはり二人は二人だった。

「二人とも。私は大丈夫だから。次からは気をつけるし、そうそう無理をするようなことは起こらないよ」

 私のためを思ってくれてのことだが、相手は王族。あまり波風立てて今後彼らが生活しにくくなっても困る。
 ランハートはこのようなことで権力を盾に振りかざすような人物ではないとは思うが、まだ完全にどのような人物か把握しきれていないためはらはらする。

「エレナお嬢様は頼られると甘くなるから」
「……確かにそうかもしれないけれど、優先順位はちゃんとあるよ」

 シリルに痛いところを突かれるが、大事なときに動けるようにするために私なりに考えている。
 必要なこと、そうでないこと。できること、できないこと。
 自分の力もだが周囲を信じて、もう二度とマリアンヌに、そしてスタレット侯爵に振り回されないよう、すべきことが明確化したのなら全力で取り組みたい。

「それもわかっているけど、心配なものは心配だ。事が事だけにエレナ様の力が必要なのはわかるし、何より俺がその力のすごさを理解している。前にも話したが、言っても無駄だからもう無茶をするなとは言わないけど、どうしてもそうする必要がある場合はそばにいたい」

 私にどうしてほしいというのではなく、気持ちだけを伝えてくる。
 絶対ではないし、ベアティもわかっているからこその言葉。だからこそ、私もなるべくそうできるようにしようと思った。

「何かするとき、ベアティたちのことを忘れない。それでいい?」
「それでいい。あとは俺たちが勝手についていく」

 なんともらしい言葉に笑う。

「勝手についてくるんだ?」
「エレナ様は前を向いていたらいい。見えないところは俺が守る」
「僕もいるからね」

 すかさずシリルも主張し、結局はこれまでと変わらない構図になんとも言えない気持ちになった。
 しなければ、頑張らなければとこれまで以上に緊張を強いられるが、変わらぬ存在、死に戻り前からは考えもしない形を思うと、まだこれからなのに涙が出そうになった。
 表情が崩れそうになると、ベアティが隠すように私の目元を隠した。

「ここではダメだ」

 隠されるほど変な顔しているのかと思ったが、情けない姿を見られないほうがいいかとそのまま目を瞑る。
 あと、大きな手で覆われると安心してこのまま寝てしまいたい誘惑にかられる。

「君たちは信頼し合っているのだな」

 うとうとしかけると、ランハートの声にはっとして意識を覚醒させる。
 ベアティの手を離させて顔を向けた。

「お互いに大事に思っています」

 そう。自分の未来とともに、彼らの未来も明るいものとなることを願っている。
 スタレット侯爵の悪巧みを知り、強く強くそう思う。

「羨ましいな」

 ランハートの本音らしきものがぽろりと出る。
 マリアンヌの脅威にさらされ、国王の状態など、気が休まることがなく、側近たちとも距離のあるランハートは、心を許せる人を求めているのかもしれない。

 私は領地に逃げ込めたけれど、ランハートはマリアンヌとスタレット侯爵の脅威と常にぎりぎりの戦いをしてきたのだ。
 慎重に確実に、魔の手から避けながら情報を手繰り寄せ私のとこまでやってきた。

「では、これからは私たちの前では少しくらい本音を出して、一緒に寛ぎますか?」

 そこでランハートは眩しいものでも見るように目を細めた。
 ベアティやシリルについ甘くなってしまうのも、死に戻り前のことも含め癒やしてあげたい気持ちがあるからだろう。
 やはり、王族に対してなんてことを言っているのだと頭が働いていない。

「そうか。――確かにずるいな」

 何がとまじまじと顔を見つめると、かぁっと赤くなるランハート。

「大丈夫ですか?」

 これまで気を張り詰めていたため、時間が経って少し気が抜けてしまったのかもしれない。
 ランハートの気苦労を思うと、ただただ心配になる。

「私は参戦しないつもりだったんだがな」

 顔を隠すように手をやり少し指をずらしてこちらを見ると、ランハートが低く唸った。

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