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聖女と離脱
63.再会
しおりを挟む辺りが光り輝き、そこら中から聞こえてくるうめき声や悲鳴がかき消されていく。
静寂が訪れ、シリルの両親、奴隷たちがぱたぱたと倒れていった。
シリルが慌てて駆け寄り抱き寄せる。
「意識を失っているだけです」
二人の胸や口元を確認し、ほっと息をついた。
「こっちもだ」
「魔法による拘束を受けている者が一時的に意識を失ったようだ。この間に制圧する」
浄化をイメージして全体にかけるように一か八か使ったが、一時的でもその効果はあったようだ。
ランハートの声に、止まっていた時が再び動き出し喧噪に包まれる。
爆発後、建物が崩れるといったことも、火の手が上がる様子もなく、相手の抵抗も少なくその場が制圧されていく。
「俺たちは行きましょう」
「そうね」
長居をして仲間以外に正体がバレるわけにはいかないので、シリルの両親を抱えその場は任せて私たちは撤退する。
去り際、ランハートに視線だけで挨拶し、待機していた奴隷契約解除師に二人を解放してもらい、一足先に王都の屋敷に戻った。
その後、徐々に詳細がわかってくる。
爆発があった部屋は崩れ、悪事に簡単していた関係者を数名捕まえることができたが、大本を仕切っていた者をはじめスタレット侯爵といった重要人物は捕まえることができなかった。
スタレット侯爵の違法取引の証拠を掴むことはできなかったため、この件で侯爵を詰めることはできない。向こうも腹立たしいだろうが、表立ってこちらの動きについて言及できない。
ランハートが率いる騎士団の検挙も一部唐突だと非難の声は上がったが、違法奴隷が売買されていた証拠を提示するとたちまちその声は引いていった。
彼らは証拠を隠滅できたと思っていたようだが、復元スキルを持っている者により証拠が少しずつ上がってきた。
燃え尽きてしまったものは復元できないためすべてではないが、立件するために早急に証拠の確保に動いていた。
一つの拠点を潰せたこと、これを取っ掛かりに今後国を挙げて違法奴隷の撤廃に動くことになっている。
そういった優良な人材の存在を切っていくことで、国王の本気が垣間見える。
午後の陽が、室内で眠る男女を照らす。
ベッドに寝かされた銀の髪の男女のそばで、シリルが祈るように彼らが目を覚ますのを待っていた。
医者に見せたが大きな病気や怪我もなく、精神支配の影響からか深く眠っているだけ。
それだけのはずなのに、彼らは動くことなくただそこに眠っている。
この状態がかれこれ三日ほど続いている。
その間、私も定期的に回復魔法をかけているため身体的な問題はないと思うけれど、精神的なものは目を覚まさなければわからない。
それがいつになるかもわからなくて、漠然とした不安で空気が重くなる。
せっかく見つけたのに、助けられたのに、目の前にいるのに、何もできない状態にシリルの目の下のくまがすごいことになっていった。
「シリル」
そっと肩に手を置くと、シリルが私を見て泣きそうに顔を歪める。
「このまま目を覚まさなかったら……」
ほかの奴隷は問題なく回復していくなか、スタレット侯爵に長年支配を受けてきた彼らは起きる気配がない。
奴隷契約のほかに、何か仕掛けられていたのか。それとも長年の支配によるものなのか。
「あの時、シリルの声が聞こえているみたいだった。あの状態でだよ? 必ず目を覚ましてくれる。だから、シリルが諦めないで」
彼らに黒い靄は見えないので私にはこれ以上何もできないが、シリルがそばにいることが彼らにとってきっとプラスになるはずだ。
確かに絆を感じたし、何より両親が一番にシリルに会いたいはずだ。
「……そうだね。ここまで待ったんだ。勝手に期待して勝手に挫けるところだった。ありがとうございます。僕、諦めません」
それからシリルは寝たきりの彼らの世話をしながら、積極的に両親に話しかけた。
ただ眠るだけの両親。シリルは暗い顔を見せず明るく接してきた。
救出して一週間が経ったある日のこと、いつものように二人を寝かせている部屋に水を持って入ったシリルはそこでお盆を落とした。
水が床を濡らしていくが、そんなことよりも目の前の光景に釘付けになった。
カーテン越しに入る光に照らされ見えるシルエット。
「父さん、母さん!」
シリルがベッドに駆けつける。
震える指先を伸ばすと、両方から伸びてきた腕に抱きしめられた。
「シリル……。シリルなのね」
「こんなに大きくなって。無事でよかった」
かすれた声には彼らの積年の思いが乗り、聞いているほうも切なくなる。
「会いたかった……。とても」
感情を爆発させたシリルが耳としっぽを出し、ふぁっさふぁっさとしっぽを振りながら涙を流した。
やっと言葉を交わすことができた家族。
シリルもここまでよく耐えたと、私は目尻に溜まった涙を拭い、家族水入らずの時間になるように部屋を出た。
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