80 / 105
聖女と離脱
66.噂
しおりを挟むシリルの母親が告げた噂とは、私が偽聖女だとの悪意のある噂のことだ。
もちろん、聖女スキルのことを内緒にしている私は聖女と名乗ったことはない。
なのに、偽聖女だと、聖女を語るなど傲慢だと言われ、実力もないのに治療魔法を使って人を殺したとまで言われている。
田舎の子爵の小娘が、スタレット侯爵の聖女に喧嘩を売っているだの、身の程知らずなど、マリアンヌと比べ私を蔑む悪意あるものも多い。
私と交流がある人たちはその噂を信じていないが、私をよく思わない者、何も知らない人物はその噂を鵜吞みにしている状態だ。
擁護する人と、それをまたよく思わない人でここ最近かなり学園の雰囲気がよくない。
「善意の行為に対して酷いですよね。できるならば、私も学園に行きおそばでお守りしたいです。それは敵わないのでベアティやシリルたちから決して離れないでくださいね」
インドラがそこで悔しそうに告げる。
「二人とも大丈夫だよ。私は気にしていないから。何も知らないのに言う人は、私が何をやっても気に食わなくて文句を言うのよ。そのような人たちのことを考えるだけ時間の無駄だから」
あまりの内容と噂の出どころを思うと嫌悪は増すが、こちらが委縮する必要はない。
相手は私を貶めたくてあることないこと嘘をばらまいているが、私は私が顔向けできないことはしていない。
ならば、自分の信念を貫き過ごしているほうがいい。
その事実を周囲がわかってくれるだけで十分だ。
「エレナ様が気持ちを強く持たれているのならいいのですが、エレナ様がおっしゃるようにそういう人はどんなことでもいちゃもんつけてきます。足をすくってこようとするので、特にスキルを使う場合は信頼できる人がいるところでしてください」
インドラにもどかしげに言葉を重ねられ、私はきゅっと唇を引き結んだ。
その噂の根源は誰か、どのように流布されたのかはもう調べはついてある。マリアンヌとその取り巻きたちだ。
それに関して、こちらも動いてはいるが次々と勝手な噂を流され追い付いていない状態だ。
もともと王都での人気が違う。慈善活動をしてきた由緒ある侯爵家の娘であるマリアンヌと、ここ最近王都に出てきた田舎娘。
どちらのことを信じるか、忖度も込みでマリアンヌのほうが圧倒的に優勢だった。
最近、私への追い込みがひどく、王都でのランドール子爵家の評判にも影響しそうな勢いだ。
目をつけられているばかりに周囲に迷惑かけてしまってと情けない気持ちになるが、ここで私が謝るのは違うとぐっと堪える。
「うん。一人にならないように気をつける」
二人のように心を砕いてくれている人たちのためにもそういうことにも気にしつつ、マリアンヌなんかに負けないんだからと私は気合を入れた。
美女獣人二人に心配され送り出されたその日。
午前の授業が終わり机の上を片付けていたら、通り過ぎざまに聞こえるように嫌味をぶつけられる。
「ランドール子爵令嬢って、厚顔無恥だよね。一人の少女が死んだって聞いたけどよく堂々と学園に来られるよね」
「金に物言わせて治ったと言えって言われたんだって。そういうことする人だからじゃないの?」
「それなのに殿下に気に入られてさ。きっと騙されているんだよ。殿下たちも目を覚ましたらいいのに」
嫉妬や侮蔑、哀れみと様々なものが入り交ざった棘のある言葉の数々。吐き出した相手に視線を向けると、気まずそうに視線を逸らす人と睨みつけてくる人に分かれた。
ちくちくと一人になる時間を狙ってくるので、微妙に面倒くさいし続けば気分はよくない。
私が見るとそれ以上言ってこないので、明確な証拠もなくただ自分より下だと優位性を見つけて自尊心を満たしているのだろう。
私を攻撃することで、マリアンヌに取り入りたい思惑が透け見える。
自分の正義に酔っている人たちの相手などしていられないと視線を戻すと、今度はずさささっと彼らは一気に距離を空けた。
「エレナ様。また変なのに絡まれているのですか? 駆除しますか?」
「エレナお嬢様はお優しいから許されているのに気づかなくて、さすがに頭大丈夫か心配するレベルですね」
「あ~、僕たちが来て逃げている時点でお里が知れるよね~」
「似た者同士がたむろしても何も成果出ないのにね」
「言葉の責任はいずれ取ることになる。それよりも食堂に行こう」
順番にベアティ、シリル、ミイルズ、アベラルド、そしてランハートと、わらわらと集まった五人を見て私は苦笑を浮かべた。
――次から次へと。
ふぅっ、と小さく息をつく。
それぞれがすっと周囲に視線をやると、私が見た時は挑発的に見てきた人たちも視線を下げた。
彼らの信念なんてそんなものだと、呆れとともに再び五人に視線を戻した。
284
あなたにおすすめの小説
婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~
ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」
義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。
父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。
けれど――
公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。
王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。
さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。
そして下されたのは――家ごとの褫奪。
一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。
欲しがったのは肩書。
継いだのは責任。
正統は叫びません。
ただ、残るだけ。
これは、婚約を奪われた公爵令嬢が
“本当に継がれるべきもの”を証明する物語。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
初恋を諦めたあなたが、幸せでありますように
ぽんちゃん
恋愛
『あなたのヒーローをお返しします。末永くお幸せに』
運命の日。
ルキナは婚約者候補のロミオに、早く帰ってきてほしいとお願いしていた。
(私がどんなに足掻いても、この先の未来はわかってる。でも……)
今頃、ロミオは思い出の小屋で、初恋の人と偶然の再会を果たしているだろう。
ロミオが夕刻までに帰ってくれば、サプライズでルキナとの婚約発表をする。
もし帰ってこなければ、ある程度のお金と文を渡し、お別れするつもりだ。
そしてルキナは、両親が決めた相手と婚姻することになる。
ただ、ルキナとロミオは、友人以上、恋人未満のような関係。
ルキナは、ロミオの言葉を信じて帰りを待っていた。
でも、帰ってきたのは護衛のみ。
その後に知らされたのは、ロミオは初恋の相手であるブリトニーと、一夜を共にしたという報告だった――。
《登場人物》
☆ルキナ(16) 公爵令嬢。
☆ジークレイン(24) ルキナの兄。
☆ロミオ(18) 男爵子息、公爵家で保護中。
★ブリトニー(18) パン屋の娘。
『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』
鷹 綾
恋愛
内容紹介
王太子に「可愛げがない」という理不尽な理由で婚約破棄された公爵令嬢エヴァントラ。
涙を流して見せた彼女だったが──
内心では「これで自由よ!」と小さくガッツポーズ。
実は王国の政務の大半を支えていたのは彼女だった。
エヴァントラが去った途端、王宮は大混乱に陥り、元婚約者とその恋人は国中から総スカンに。
そんな彼女を拾ったのは、隣国の宰相補佐アイオン。
彼はエヴァントラの安全と立場を守るため、
**「恋愛感情を持たない白い結婚」**を提案する。
「干渉しない? 恋愛不要? 最高ですわ」
利害一致の契約婚が始まった……はずが、
有能すぎるエヴァントラは隣国で一気に評価され、
気づけば彼女を庇い、支え、惹かれていく男がひとり。
――白い結婚、どこへ?
「君が笑ってくれるなら、それでいい」
不器用な宰相補佐の溺愛が、静かに始まっていた。
一方、王国では元婚約者が転落し、真実が暴かれていく――。
婚約破棄ざまぁから始まる、
天才令嬢の自由と恋と大逆転のラブストーリー!
---
婚約辞退いたします。だってこの国、沈みますもの
鍛高譚
恋愛
「婚約はお断りいたします――この国は近い将来、崩壊しますので」
そう言い放ったのは、社交界でも目立たない子爵令嬢、マリン・アクアリウム。
ある日、とある舞踏会に突如現れた王太子ガイア殿下。
誰もが驚く中、なんと彼はマリンに婚約を申し出る。
周囲は騒然。「子爵令嬢が王太子妃!?」「断る理由などないはず!」
――だが、彼女は断った。「この国は、もうすぐ滅びます」――と。
そんな不吉な言葉を口にしたことで、彼女は“狂言癖のある嘘つき令嬢”と噂され、
家族にさえ見放され、ついには国外追放の身に。
だが、彼女の予言は本物だった――
数年後、王国に未曾有の大災厄が迫る。
国土が崩れ、海に沈む都市。人々が絶望する中、思い出されるのは、
あの舞踏会でただひとり“滅び”を告げた少女の名。
「彼女なら、この国を救えるかもしれない……」
皮肉にも“追放令嬢”マリンは、再び王都に呼び戻され、
滅びゆく国で最後の希望として担ぎ上げられる。
信じてもらえなかった過去。
それでも人々の命を守ろうと奔走するマリン。
そして、王子ガイアが差し伸べた、あの日と変わらぬ手。
――たとえ国が滅んでも、あなたとともに歩んでいきたい。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
知らぬはヒロインだけ
ネコフク
恋愛
「クエス様好きです!」婚約者が隣にいるのに告白する令嬢に唖然とするシスティアとクエスフィール。
告白してきた令嬢アリサは見目の良い高位貴族の子息ばかり粉をかけて回っていると有名な人物だった。
しかも「イベント」「システム」など訳が分からない事を言っているらしい。
そう、アリサは転生者。ここが乙女ゲームの世界で自分はヒロインだと思っている。
しかし彼女は知らない。他にも転生者がいることを。
※不定期連載です。毎日投稿する時もあれば日が開く事もあります。
【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない
あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。
王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。
だがある日、
誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。
奇跡は、止まった。
城は動揺し、事実を隠し、
責任を聖女ひとりに押しつけようとする。
民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。
一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、
奇跡が失われる“その日”に備え、
治癒に頼らない世界を着々と整えていた。
聖女は象徴となり、城は主導権を失う。
奇跡に縋った者たちは、
何も奪われず、ただ立場を失った。
選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。
――これは、
聖女でも、英雄でもない
「悪役令嬢」が勝ち残る物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる