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聖女と離脱
70.揺さぶり
しおりを挟む負けないぞと笑みを浮かべると、私の様子を見て目を細めたランハートはマリアンヌのほうへと顔を向けた。
微笑みを維持しているのに、剣呑に吐き捨てる。
「そうだな。聖女だと言われているマリアンヌ嬢が一人の女性を根拠もなく問い詰めるこの図式こそ、『聖女』らしさに欠ける行いじゃないか?」
その場にいる誰もが凍り付くような声音だが、私にはとても温かく聞こえた。
あの時とは違い、私には味方がいる。
私を責めた人たちが、今はマリアンヌに立ち向かう仲間として一緒にいる。
マリアンヌと対峙するとき、これはかなり大きな違いだ。彼女にとってかなり痛手だろう。
「ひどい。なんでそんなこと言うんですか」
懲りずにマリアンヌは長い睫毛を瞬かせ、信じられないものでも見るようにランハートを見て、くしゃりと顔を歪めた。
ショックを受けたと、よろりと周囲に寄りかかる。マリアンヌを支えるだけで、取り巻き男性陣は何も言わない。
侯爵家に睨まれるのも王子と敵対するのも、彼らにとっては好ましくない。この場合、黙るしかないだろう。
だが、ブリタニーはそういった背景など関係なくマリアンヌを擁護する。
「そうですよ。マリアンヌ様がとてもかわいそうです」
「どこが?」
気まずそうにできるだけ影を薄くさせようと息を殺した取り巻きを見て、アベラルドが、はん、と嘲笑する。
ブリタニーは負けじと、ほらと両手を広げ熱弁する。
「寄ってたかってマリアンヌ様をいじめているじゃないですか。身分ある人を味方につけて弱い者いじめしていると思います」
「それ、そのままそっちに当てはまるよね~。なんならそちらのほうが人数多いし、どちらかというと身分を傘に着ているのは君たちのほうだと思うよ」
ミイルズが心底不思議そうに顎を巡らし、肩を竦める。
仲良くしていた双子の反論に、さすがにマリアンヌは演技を続けられなかったのか頬がぴくっと引きつった。
「ミイルズもアベラルドも、そんな偽聖女に加担していたらあなたたちの家に迷惑をかけるわよ」
黙っていられないと、マリアンヌが口を出す。
声音はまだか細く作りこまれているが、目が本気で怒っているのが見て取れた。
「何それ、脅し? マリアンヌちゃん、ものすごく怖くなったね~。僕、震えちゃいそうだよ」
「だよね。人を脅すようになって、僕らが知っている人ではないみたい」
にこにこしながら、当然のようにアベラルドもミイルズの言葉に被せにいく。
マリアンヌはむっとした表情をしたが、悲しげに眉を寄せミイルズたちに手を伸ばした。
「違うわ。私は正しい道を示してあげているだけよ。私のこと好きでしょ? 最近、忙しくてかまってあげられなかったけれど、あなたたちのことも私は大事に思っているのよ。よく屋敷に遊びに来て可愛がってあげたじゃない。それなのに急に離れていったから、悪いことを吹き込まれたのじゃないかと心配しているのよ」
双子は伸ばされた手を払うように押し戻し、私の前に立った。
そのタイミングでベアティに下がるように私は引っ張られ、そのままベアティが後ろに立ち、右手にシリル、左側にランハートと完全に包囲された。
皆身長が高くて、マリアンヌはおろか周囲から完全に隠れる形になる。
「そうだね。とてもお世話になったけど、家門のことは別にして僕たちはそもそも派閥とか面倒なんだよ~」
「そうそう。僕らはエレナ嬢に加担しているのではなくて、彼女のそばが居心地よくてここにいる」
「したいようにしてきただけだからね~。マリアンヌちゃんもたくさんの取り巻きに囲まれているし、僕らがいなくても問題ないでしょ」
「属しているのではなくていたくている。もともと僕らの家門はそういう感じだし、背いているわけではないから悪いことではないよね?」
淀みなく続ける二人に、マリアンヌが不機嫌に言う。
「彼女に騙されているんじゃないの?」
どうしてもそういう設定に持っていきたいようだ。
ぶれないマリアンヌの手強さは、ある意味感心する。
「だから、何を根拠に? 騙されているという証拠は?」
「そうだよね。どうしてそこまでエレナ嬢に突っかかるのかな? そのほうが意味わからない」
「だよね~。そういえば、マリアンヌちゃん学園に入ってから慈善活動もしていないよね? それには何か理由があるのかな?」
双子が同時に、ねっ、と顔を見合わせ、ん~と首を傾げた。
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