二度目の人生は離脱を目指します

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
87 / 105
聖女と離脱

73.この五人、お返し…

しおりを挟む
 
 聡明さと強さ、そして幻想的な輝きを持った瞳が私を捉える。

「エレナ様の魅力は俺だけが知っていれば十分だと思っていますが、これまでの流れは気に食わない。根拠がどこにあるのか提示されないまま、一方的に悪いと責めるだけ。何もしてないヤツががたがた煩すぎる」

 前半、付け加える必要があっただろうか。
 だが、四人の心配をよそにベアティから出た内容は彼らと変わりないのでほっと息をつく。

 ――何が飛び出るかと思って変な緊張しちゃった……。

 この国は身分も大事だが実力がものを言う。権力と実力を両方支配した者が強い。
 だからこそ、貴族たちはこぞって強い実力者を支配したがる。時に権力者が食われ、支配権が変わることもある。

 弱肉強食であり、だからこそ先手を打とうと貴族はあれこれ仕掛ける。
 勝気な者はそれらに果敢に挑むし、実力はあっても争いを好まない者は、そういった権力争いに巻き込まれないように身を隠すこともある。
 ベアティは子供の頃に囚われていたこともあり後者だと思っていたが、これでは変な形で目立ってしまう。

「言い方をもうちょっと気をつけよ?」

 ベアティはベアティらしくいてほしいが、さすがにここは貴族たちが多く集う学園。
 余計な争いを生まないためにも言葉遣いは大事だよと指摘するが、ベアティはなんで? と首を傾げた。

 その際に、さらりと艶やかな黒髪がベアティの白い頬にかかる。
 そんな些細な姿でさえも威厳があり、視線は吸い寄せられるが直視するにはあまりにも眩しくて不思議な感覚に陥る。

「どうせ言い方を整えても変わらない。敬うようなところがない相手に意味はない。エレナ様の笑顔を壊す者、俺たちの関係を壊そうとする者は全力で叩きつぶす」

 ひどく静かだが、やけにその声は響いた。
 さっきの場の支配といい、ベアティ個々の能力でいうと実力はギルドの活躍で名が知れて世間でも評価され、この場でベアティが最強であることは誰もが認めることだ。
 そして、この国の王子であるランハートや、獣人や家族たちが認めているベアティの何かは、きっとそういった類いのものではないか。

 攻撃的な言葉とは反対に、私を見る表情はとても甘くて蕩けている。
 ここぞとばかりに好意を駄々洩れにさせ、俺にとっての一番だと表現してくる姿に苦笑する。

 ――本当、助けた時から変わらない。

 ベアティにとって私は特別だ。
 だからこそ、もっとわかれと周囲への牽制と、今まで我慢してきたものを敢えて見せつけているのだろう。

 何度窘めても変わらず、結局絆されてここまできた。
 やっぱり私にとってベアティはベアティで、守るべき対象で、そして守られてきた時間からすべてを受け入れたくなる。

 甘えたで、やけに鋭くて、強くて、尋常ではない身体能力の持ち主で、私のための行動が重く優しい人。
 彼が持つ何かが彼を守る楯となるなら安心だと思うくらいで、それは私にとってはどちらでもいいことだった。

 ベアティが元気にこの世界を生きてくれたらそれでいい。
 奪われてきた時間を死に戻り前のように奪われず、幸せだと思えるものにしてくれるだけでよかった。
 それが、手を差し伸べ一緒に過ごしてきたからこその素直な私の気持ち。

 だからこそ、気になりつつもその時が来るまで待っていた。
 私を守りたいがための怒りという形で曝け出すとは、予想外というか、らしいというか、やっぱりベアティはベアティだと安堵さえ覚える。

「隠さなくていいの?」
「我慢の限度を超えたのでもう無理です。エレナ様には改めてお話しますが、その時は覚悟しておいてくださいね」

 自信ありげな口調だが、その瞳の奥には不安に揺れていた。
 近くで見ている私だけがわかる機微に、私はそっと目元を指でなぞった。

「心配しないで。どんなものを抱えていてもベアティはベアティだよ。私に向ける気持ちや態度が偽りじゃなければ、私は何を聞いても変わらないよ」

 ベアティが自分でここまで言うからには重大な何かがあるのだろうけれど、もう私の心は決まっている。
 にこっ、と笑うと、ほっと安堵の息をついたベアティは、はぁぁぁっと深く長い息を吐きながら甘えるように私の頭に顔をこすりつけた。

「エレナ様以外何もいらない」
「僕もだよ」

 心からのベアティの呟きに、僕もいるよとシリルがすかさず声を上げる。

「僕らも忘れないでね。僕、何でも言うこと聞くよ?」
「芯はあるし情も深いけど、僕らが思いもよらない理由でふらっと手を離しそうで怖いね。監視が必要だ」
「責任を取ってもらう約束だからな。俺たちから逃げられると思わないことだ」

 彼らが自分の側にいることは頼もしいと思ったけれど、これはどうなのだろうか。
 一人、一人、取り扱いがちょっと面倒なのに、五人そろって、しかも連携されては私では手に負えない気がしてきた。

 ――い、今からでも、この五人、お返ししてもいい?

 ふと、そう思った。
 どこになんて明確なものもなく、死に戻り前にマリアンヌの取り巻きだったが、彼らの事情を知った今はマリアンヌだけは絶対ない。
 ただ、ほんのちょっぴり思考に過っただけのそれを、全員が見透かすように私を見下ろした。

 ――思うだけでもダメなの?

 何でわかるのだろうか。
 もう、本当、何も言うまい。

 無言の圧に誤魔化すように笑うと、ぎゅうっとベアティにきつく抱きしめられた。
 いつまでも抱かれたままなのも困るが今そのことに触れたら逆効果になりそうで、さてどうやってこの場を終わらせられるかと視線を周囲へと巡らす。

 ベアティの発言は触れれば爆発しそうに聞こえるのか、さっきの威圧で生徒たちは委縮してしまっている
 マリアンヌを見ると身体を硬直させながらも、その表情はどこか恍惚としていた。

しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

婚約辞退いたします。だってこの国、沈みますもの

鍛高譚
恋愛
「婚約はお断りいたします――この国は近い将来、崩壊しますので」 そう言い放ったのは、社交界でも目立たない子爵令嬢、マリン・アクアリウム。 ある日、とある舞踏会に突如現れた王太子ガイア殿下。 誰もが驚く中、なんと彼はマリンに婚約を申し出る。 周囲は騒然。「子爵令嬢が王太子妃!?」「断る理由などないはず!」 ――だが、彼女は断った。「この国は、もうすぐ滅びます」――と。 そんな不吉な言葉を口にしたことで、彼女は“狂言癖のある嘘つき令嬢”と噂され、 家族にさえ見放され、ついには国外追放の身に。 だが、彼女の予言は本物だった―― 数年後、王国に未曾有の大災厄が迫る。 国土が崩れ、海に沈む都市。人々が絶望する中、思い出されるのは、 あの舞踏会でただひとり“滅び”を告げた少女の名。 「彼女なら、この国を救えるかもしれない……」 皮肉にも“追放令嬢”マリンは、再び王都に呼び戻され、 滅びゆく国で最後の希望として担ぎ上げられる。 信じてもらえなかった過去。 それでも人々の命を守ろうと奔走するマリン。 そして、王子ガイアが差し伸べた、あの日と変わらぬ手。 ――たとえ国が滅んでも、あなたとともに歩んでいきたい。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない

あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。 王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。 だがある日、 誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。 奇跡は、止まった。 城は動揺し、事実を隠し、 責任を聖女ひとりに押しつけようとする。 民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。 一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、 奇跡が失われる“その日”に備え、 治癒に頼らない世界を着々と整えていた。 聖女は象徴となり、城は主導権を失う。 奇跡に縋った者たちは、 何も奪われず、ただ立場を失った。 選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。 ――これは、 聖女でも、英雄でもない 「悪役令嬢」が勝ち残る物語。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

処理中です...