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聖女と離脱
74.聖女と離脱
しおりを挟むマリアンヌの表情に悪寒が走り、総毛立った。
ぶるりと震えると、すかさずベアティが顔を覗き込んでくる。
「エレナ様」
「ううん。なんでもない」
首を振り表情を取り繕うが、悪寒が止まらず身体は震えた。
――やばくない?
さすがに声に出して触れるわけにはいかない。
多分、言わなくてもベアティもほかの四人も気づいているだろうが、狂気としか思えない反応は怖すぎた。
マリアンヌは美貌、権力、有用性、誰もが羨む男を従わせることに優越を覚えるタイプだ。
侍らす周囲を一般的に優良とされる者で固めることで、自分の価値を高め周囲より優位に立ちたい。称賛を浴びたい。
ベアティに誰もが認める価値があれば最強だ。それに気づいたマリアンヌが今後どう動くのか。
スタレット侯爵のこともあり、これ以上目をつけられるといいことはない。
「大丈夫です。やばければこの国から離脱すればいい」
「それは困るな。今ではランドール子爵から得る税は無視できないし、あそこの土地には子爵家にいてもらわなければ我が国は困る」
「なら、この国を黒く侵している原因をどうにかすることだ。俺たちはいつでもエレナ様とともにこの国を出ていける。この国に拘る必要はない」
最悪、どうにもならないときはこの国から離脱する可能性も視野にいれて動いてきたけれど、まさかベアティにそれを提示されるとは思わず目を見張る。
私の反応で私も同じような考えであることがわかったランハートが、ぐっと眉を寄せた。
「エレナもその準備があるということだな。可愛い顔をして抜け目ない。はぁ。責任を取ってもらうためには、先に動けということか」
勝手に納得し話を進めるランハート。
マリアンヌやスタレット侯爵の悪巧みを止められるならこの国のトップである王族に止めてもらいたいが、期待したことはなかった。
だから、最悪の場合は離脱を考えたのであって、それは困るから動くと宣言される。
「これが聖女だなんてふざけたことを続けている国に未来はない」
「そうだよね。偽とか出てる時点で聖女がいるというのなら、やっぱりエレナお嬢様以外ありえない。偽と言われていることも、似つかわしくない人が聖女と呼ばれているこの現状も、空気が悪すぎてここにいる必要性を感じないよね」
ベアティとシリルが言い捨てると、ミイルズとアベラルドもぽんっと手を叩いた。
「ああ~、そういうのもありか」
「そうかもね。僕たちも考える?」
双子は顔を見合わせ、いいかもと頷き合う。
「よくも私の前でそういった発言ができるな?」
「僕たちまだ爵位継いでないんで、どうとでもなるかなぁって。それに僕らは大事なものさえ一緒に持てたらどこでもいいかなって」
「よく考えれば、エレナ嬢のそばほど安全な場所ないと思うんだよね。僕たち発動はないけど、エレナ嬢次第ではありよりのあり」
双子にとって大事なものとは妹で、彼女をぞんざいに扱った伯爵家には思うこともあっての発言なのだろう。
彼らの家のことなので口出しはできないが、私ありきでの発言は荷が重いのでやめてほしい。なぜ、また話をややこしくさせにいくのか。
彼らは一切マリアンヌに視線をやっていないが、明らかに誰のことを指しているのかわかる内容だ。
思わぬところで離脱の話が出たが思っていた感じではないし、ますますややこしくなってきた。
本当、どうしたいのか。
わかるのは、ここで彼らがマリアンヌを完全に拒絶していること。彼らが死に戻り前の聖女から完全に離脱を宣言したことだ。
――まさか、ここにきてこんなことになるとは。
思わぬ方向に話が進むが、結局すべての元凶はマリアンヌだ。彼女が噂を流し絡んできたため、なぜかさらに五人からの重圧がすごくなってしまった。
こうなったらもう全面対決は避けられない。
国からどうするかは状況次第だが、とにかく全員でスタレット侯爵家の支配から離脱は目指すべきだ。
マリアンヌを見ると、顔を真っ赤にして睨みつけてくる。
自分が欲しかった美しい男たちが私の味方をしていることが、よほど悔しいようだ。
「なんでエレナさんなのよ!」
マリアンヌの叫びに、ランハートは冷めた眼差しを向けた。
「上辺だけのものには惹かれない。単純なことだ。物事をよく見もせず、何もせず、目の前のものに媚びを売っていればいいと思っている軟弱な者はいずれ後悔することになるだろう」
ランハートはふっと息を吐きわかりやすい作り笑顔を浮かべ、がんがん煽っていく。
「お父様に言いつける」
「そうか。言えばいい。ただし、君が脅しているのはこの国の王子であることを忘れるな」
父親の名前を出され、ランハートの頬が引きつった。
スタレット侯爵がこれまでしてきたことを考えれば、むしろ耐えたほうだろう。
「あっ。そういうつもりじゃなくて」
「なら、どういうつもりだ? エレナを散々脅し、この国の王子さえ脅す。それがスタレット侯爵家の方針か? 果たしてそれは国を思ってのことかもしくは……。ほかの皆もこれを機に一度あり方を自身に問うてみるといい」
この国の王子に言われ、思い当たるのかさらに周囲が縮こまった。
もちろん身分制度はあるのだから阿らないと弾かれてしまうので、ある意味仕方がない部分はある。
ランハートが言いたいのは、何もせずの部分だろう。
国王が精神支配を受けた状態で、誰を信じていいのかわからず静かに戦ってきた人だからこその言葉には説得力があり、その言葉の重みを感じ取った者と取れなかった者で反応が異なった。
意外にも、ケビンがランハートの言葉に頷いていた。
この状況でもマリアンヌに陶酔しているのはブリタニーくらいで、独特な話し方をする男性もそばにはいるが主張はできずにいるようだ。
状況が変われば、死に戻り前と同じ反応というわけではない。
マリアンヌの聖女としての周囲の影響も落ちているように思える。
「もう。いいですわ。後で後悔することになるでしょう」
これ以上ここで言い争っても勝ち目はないと悟ったマリアンヌは捨て台詞を吐いて、取り巻きとともにその場を去っていった。
そして、その日からさらに学園全体でどこかぎくしゃくした空気が流れ、いつまで続くのかと思われたある日。
私の前から、ベアティが突然と姿を消した。
✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.
聖女と離脱、ここまでです。
お付き合い、いいねやエールをありがとうございます。
今作、当初書いても消してと一向に前に進まなかったので、こねくり回すのはやめて更新とともに勢いで書き進めております。
毎日見守ってくださっている皆様のおかげで、そろそろ終わりが見えてきました。
次章は喪失と執愛です。
あともう少し、お付き合いいただけたら嬉しいです。
いつも励みをありがとうございます!!
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