二度目の人生は離脱を目指します

橋本彩里(Ayari)

文字の大きさ
88 / 105
聖女と離脱

74.聖女と離脱

しおりを挟む
 
 マリアンヌの表情に悪寒が走り、総毛立った。
 ぶるりと震えると、すかさずベアティが顔を覗き込んでくる。

「エレナ様」
「ううん。なんでもない」

 首を振り表情を取り繕うが、悪寒が止まらず身体は震えた。

 ――やばくない?

 さすがに声に出して触れるわけにはいかない。
 多分、言わなくてもベアティもほかの四人も気づいているだろうが、狂気としか思えない反応は怖すぎた。

 マリアンヌは美貌、権力、有用性、誰もが羨む男を従わせることに優越を覚えるタイプだ。
 侍らす周囲を一般的に優良とされる者で固めることで、自分の価値を高め周囲より優位に立ちたい。称賛を浴びたい。

 ベアティに誰もが認める価値があれば最強だ。それに気づいたマリアンヌが今後どう動くのか。
 スタレット侯爵のこともあり、これ以上目をつけられるといいことはない。

「大丈夫です。やばければこの国から離脱すればいい」
「それは困るな。今ではランドール子爵から得る税は無視できないし、あそこの土地には子爵家にいてもらわなければ我が国は困る」
「なら、この国を黒く侵している原因をどうにかすることだ。俺たちはいつでもエレナ様とともにこの国を出ていける。この国に拘る必要はない」

 最悪、どうにもならないときはこの国から離脱する可能性も視野にいれて動いてきたけれど、まさかベアティにそれを提示されるとは思わず目を見張る。
 私の反応で私も同じような考えであることがわかったランハートが、ぐっと眉を寄せた。

「エレナもその準備があるということだな。可愛い顔をして抜け目ない。はぁ。責任を取ってもらうためには、先に動けということか」

 勝手に納得し話を進めるランハート。
 マリアンヌやスタレット侯爵の悪巧みを止められるならこの国のトップである王族に止めてもらいたいが、期待したことはなかった。
 だから、最悪の場合は離脱を考えたのであって、それは困るから動くと宣言される。

「これが聖女だなんてふざけたことを続けている国に未来はない」
「そうだよね。偽とか出てる時点で聖女がいるというのなら、やっぱりエレナお嬢様以外ありえない。偽と言われていることも、似つかわしくない人が聖女と呼ばれているこの現状も、空気が悪すぎてここにいる必要性を感じないよね」

 ベアティとシリルが言い捨てると、ミイルズとアベラルドもぽんっと手を叩いた。

「ああ~、そういうのもありか」
「そうかもね。僕たちも考える?」

 双子は顔を見合わせ、いいかもと頷き合う。

「よくも私の前でそういった発言ができるな?」
「僕たちまだ爵位継いでないんで、どうとでもなるかなぁって。それに僕らは大事なものさえ一緒に持てたらどこでもいいかなって」
「よく考えれば、エレナ嬢のそばほど安全な場所ないと思うんだよね。僕たち発動はないけど、エレナ嬢次第ではありよりのあり」

 双子にとって大事なものとは妹で、彼女をぞんざいに扱った伯爵家には思うこともあっての発言なのだろう。
 彼らの家のことなので口出しはできないが、私ありきでの発言は荷が重いのでやめてほしい。なぜ、また話をややこしくさせにいくのか。

 彼らは一切マリアンヌに視線をやっていないが、明らかに誰のことを指しているのかわかる内容だ。
 思わぬところで離脱の話が出たが思っていた感じではないし、ますますややこしくなってきた。

 本当、どうしたいのか。
 わかるのは、ここで彼らがマリアンヌを完全に拒絶していること。彼らが死に戻り前の聖女から完全に離脱を宣言したことだ。

 ――まさか、ここにきてこんなことになるとは。

 思わぬ方向に話が進むが、結局すべての元凶はマリアンヌだ。彼女が噂を流し絡んできたため、なぜかさらに五人からの重圧がすごくなってしまった。
 こうなったらもう全面対決は避けられない。
 国からどうするかは状況次第だが、とにかく全員でスタレット侯爵家の支配から離脱は目指すべきだ。

 マリアンヌを見ると、顔を真っ赤にして睨みつけてくる。
 自分が欲しかった美しい男たちが私の味方をしていることが、よほど悔しいようだ。

「なんでエレナさんなのよ!」

 マリアンヌの叫びに、ランハートは冷めた眼差しを向けた。

「上辺だけのものには惹かれない。単純なことだ。物事をよく見もせず、何もせず、目の前のものに媚びを売っていればいいと思っている軟弱な者はいずれ後悔することになるだろう」

 ランハートはふっと息を吐きわかりやすい作り笑顔を浮かべ、がんがん煽っていく。

「お父様に言いつける」
「そうか。言えばいい。ただし、君が脅しているのはこの国の王子であることを忘れるな」

 父親の名前を出され、ランハートの頬が引きつった。
 スタレット侯爵がこれまでしてきたことを考えれば、むしろ耐えたほうだろう。

「あっ。そういうつもりじゃなくて」
「なら、どういうつもりだ? エレナを散々脅し、この国の王子さえ脅す。それがスタレット侯爵家の方針か? 果たしてそれは国を思ってのことかもしくは……。ほかの皆もこれを機に一度あり方を自身に問うてみるといい」

 この国の王子に言われ、思い当たるのかさらに周囲が縮こまった。
 もちろん身分制度はあるのだからおもねらないと弾かれてしまうので、ある意味仕方がない部分はある。

 ランハートが言いたいのは、何もせずの部分だろう。
 国王が精神支配を受けた状態で、誰を信じていいのかわからず静かに戦ってきた人だからこその言葉には説得力があり、その言葉の重みを感じ取った者と取れなかった者で反応が異なった。

 意外にも、ケビンがランハートの言葉に頷いていた。
 この状況でもマリアンヌに陶酔しているのはブリタニーくらいで、独特な話し方をする男性もそばにはいるが主張はできずにいるようだ。

 状況が変われば、死に戻り前と同じ反応というわけではない。
 マリアンヌの聖女としての周囲の影響も落ちているように思える。

「もう。いいですわ。後で後悔することになるでしょう」

 これ以上ここで言い争っても勝ち目はないと悟ったマリアンヌは捨て台詞を吐いて、取り巻きとともにその場を去っていった。

 そして、その日からさらに学園全体でどこかぎくしゃくした空気が流れ、いつまで続くのかと思われたある日。
 私の前から、ベアティが突然と姿を消した。



✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.。.:*·゚ ✽.

聖女と離脱、ここまでです。
お付き合い、いいねやエールをありがとうございます。
今作、当初書いても消してと一向に前に進まなかったので、こねくり回すのはやめて更新とともに勢いで書き進めております。
毎日見守ってくださっている皆様のおかげで、そろそろ終わりが見えてきました。
次章は喪失と執愛です。
あともう少し、お付き合いいただけたら嬉しいです。
いつも励みをありがとうございます!!

しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

満場一致で削除されましたが、世界は問題なく回っております』

鷹 綾
恋愛
王太子アルベルトは、ある日、貴族全会の満場一致によって廃嫡された。 断罪もなければ、処刑もない。 血も流れず、罪状も曖昧。 ただ「順序を飛ばした」という一点だけで、彼は王位継承の座から静かに削除される。 婚約者だった公爵令嬢エリシアは、婚約破棄の時点で王都の構造から距離を取り、隣国との長期協定を進めていく。 彼女の世界は合理で動き、感情に振り回されることはない。 一方、王太子が選んだ“新たな聖女”は、どこまでも従順で、どこまでも寄り添う存在だった。 「殿下に従わない者は、私が処理しておきます」 その甘い囁きの裏で、王都では“偶然”が重なり始める。 だが真実は語られない。 急病も、辞任も、転任も、すべては記録上の出来事。 証拠はない。 ただ王太子だけが、血に濡れた笑顔の悪夢を見る。 そして気づく。 自分のざまあは、罰ではない。 「中心ではなくなること」だと。 王都は安定し、新王は即位し、歴史は何事もなかったかのように進む。 旧王太子の名は、ただ一行の記録として残るのみ。 婚約破棄のその後に始まる、静かな因果応報。 激情ではなく“構造”が裁く、最強レベルの心理ざまあ。 これは―― 満場一致で削除された男と、最初から無関係な位置に立っていた令嬢の物語。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

初恋を諦めたあなたが、幸せでありますように

ぽんちゃん
恋愛
『あなたのヒーローをお返しします。末永くお幸せに』  運命の日。  ルキナは婚約者候補のロミオに、早く帰ってきてほしいとお願いしていた。 (私がどんなに足掻いても、この先の未来はわかってる。でも……)  今頃、ロミオは思い出の小屋で、初恋の人と偶然の再会を果たしているだろう。  ロミオが夕刻までに帰ってくれば、サプライズでルキナとの婚約発表をする。  もし帰ってこなければ、ある程度のお金と文を渡し、お別れするつもりだ。  そしてルキナは、両親が決めた相手と婚姻することになる。  ただ、ルキナとロミオは、友人以上、恋人未満のような関係。  ルキナは、ロミオの言葉を信じて帰りを待っていた。  でも、帰ってきたのは護衛のみ。  その後に知らされたのは、ロミオは初恋の相手であるブリトニーと、一夜を共にしたという報告だった――。 《登場人物》  ☆ルキナ(16) 公爵令嬢。  ☆ジークレイン(24) ルキナの兄。  ☆ロミオ(18) 男爵子息、公爵家で保護中。  ★ブリトニー(18) パン屋の娘。

『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』

鷹 綾
恋愛
内容紹介 王太子に「可愛げがない」という理不尽な理由で婚約破棄された公爵令嬢エヴァントラ。 涙を流して見せた彼女だったが── 内心では「これで自由よ!」と小さくガッツポーズ。 実は王国の政務の大半を支えていたのは彼女だった。 エヴァントラが去った途端、王宮は大混乱に陥り、元婚約者とその恋人は国中から総スカンに。 そんな彼女を拾ったのは、隣国の宰相補佐アイオン。 彼はエヴァントラの安全と立場を守るため、 **「恋愛感情を持たない白い結婚」**を提案する。 「干渉しない? 恋愛不要? 最高ですわ」 利害一致の契約婚が始まった……はずが、 有能すぎるエヴァントラは隣国で一気に評価され、 気づけば彼女を庇い、支え、惹かれていく男がひとり。 ――白い結婚、どこへ? 「君が笑ってくれるなら、それでいい」 不器用な宰相補佐の溺愛が、静かに始まっていた。 一方、王国では元婚約者が転落し、真実が暴かれていく――。 婚約破棄ざまぁから始まる、 天才令嬢の自由と恋と大逆転のラブストーリー! ---

知らぬはヒロインだけ

ネコフク
恋愛
「クエス様好きです!」婚約者が隣にいるのに告白する令嬢に唖然とするシスティアとクエスフィール。 告白してきた令嬢アリサは見目の良い高位貴族の子息ばかり粉をかけて回っていると有名な人物だった。 しかも「イベント」「システム」など訳が分からない事を言っているらしい。 そう、アリサは転生者。ここが乙女ゲームの世界で自分はヒロインだと思っている。 しかし彼女は知らない。他にも転生者がいることを。 ※不定期連載です。毎日投稿する時もあれば日が開く事もあります。

【番外編も完結】で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★2/17 番外編を投稿することになりました。→完結しました! ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

処理中です...