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喪失と執愛
79.仕掛け
しおりを挟むあの日からマリアンヌは学園に来なくなり、仲間と探りを入れているがベアティの姿を確認できないまま日が過ぎていった。
重く苦しい空気が流れる。
そんななか、ギルド長が慌ただしく子爵家の屋敷に訪れた。
「以前話していた者たちを含め、何人もが一斉に倒れて動かなくなった」
「そんなことが? 皆さんの状態は?」
部屋に入ると、挨拶もそこそこにギルド長が問題を切り出す。
ギルド長にはベアティの行方を探してもらい、現在マリアンヌのそばにいることも話してある。
以前ベアティルートで私の力を一部開示したこともあるので、ベアティがいない今は直接やりとりをしていた。
「息はあるので眠っている状態だと思われますが、何をやっても目を覚ます気配はなくこのまま眠り続ければどうなるかわからない。冒険者にも何人か同じ状態の者が見つかり、戦闘中に意識を失い亡くなった者もいます」
「そんなっ」
小さな異変がじわじわ広がり、とうとう死人までもが出た。
いったい、何人を犠牲にすれば気がすむのだろうか。
「これは由々しき事態と我々は見ています」
「亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。これ以上被害が出ないように対策が必要ですね。第二弾がないとも限らない」
「はい。きっかけは些細なことだったが、把握していない人数が多すぎる。正直、今眠っている人数だけでも手一杯です」
眠っていても身体はエネルギーを必要とするため、食事をしない状態は危険だ。
寝たきりだと床ずれも起きるし、周りに世話をする人がいなければかなりひどい状態になってしまう。
その人数が増えれば、様々なことが圧迫し体制が機能しなくなる可能性だってあった。
目を伏せ、今こそ私の聖女スキルが必要なときではないかと思案する。
黒い靄が見えないものに対して、このスキルはどこませ幅を利かせることができるのかと思い巡らせていると、ギルド長が書状を私の前に置いた。
「それと、スタレット侯爵家から要望が届いています」
「私に?」
「はい。ぜひとも、エレナ様にもとのことです」
「何かしら?」
嫌な予感がする。
「人々を助けるために、ぜひとも回復スキル持ちのエレナ様にも出てきてほしいとのことです」
開封し、目を通す。
にも、ということはマリアンヌも出るのだろう。回復スキルを封じられている状態でどうするのかはわからないが、勝ち目があると思っての申し出なのだろう。
そもそも、今回の件は娘のマリアンヌを聖女に仕立てるための仕掛けなのかもしれない。
読み終えるとシリルたちに渡し、彼らの眉間にしわが寄っていくのを眺めながら私は覚悟を決めた。
「出ましょう」
インドラが悲痛な声を上げる。
「罠の可能性があります」
「わかってるわ。今回の件はスタレット侯爵が関わってる。ベアティのこともあるし、呼ばれたのなら行くわ。王族には?」
「伝えております。ランハート殿下からはもろもろの処理は任せて好きなようにやってくれとの伝言です」
「……ふっ、そうなのね」
人任せというか、私のことを信頼しすぎというか。
だけど、子爵家の力ではできないことはあるので、それらをどんと任せろとの言葉はものすごく頼りになった。
王族であるランハートならではの後押しに大きく頷く。
「なら、ここで勝負するつもりで必要ならスキル全開でいきます。ベアティも取り戻さないといけないし、いい加減こそこそされるのも飽きてきたもの」
人が何人も一斉に倒れるなんて、死人まで出たなんて許せない。
何を仕掛けたのかしらないが、自分たち以外を物としか思っていない行為にむかむかする。
この間、ロレッタのように何人もの人が虐げられていると思うと動かずにはいられない。
そして、マリアンヌのそばにはマリアンヌがスキルを奪った精神干渉系の元の持ち主がいるはずだ。その人物を救助できれば、彼女の力を削ぐことが可能なはずだ。
問題はスタレット侯爵のほう。
侯爵の精神支配系の能力は本人が持っているものだと思われ、された相手をその状態から解放する以外どう対抗すればいいかわからないが、いつまでも逃げているわけにはいかない。
何より、ベアティはマリアンヌの、スタレット侯爵側にいる。
あれから冷静になって、ベアティが簡単に捕まるのはおかしいと思えるようになった。
そのため、マリアンヌのそばにいるのはベアティの意思である可能性も捨てきれないが、意識不明者が続出している今、黒い靄は見えなかった状態を軽く見てはいけない。
これにはきっと繋がりがある。
私はベアティを信じているし、助けはいらないと言われてもその手を取りにいく。
「ベアティも同じ状態なのかも」
これまでの人たちは日常に戻り過ごしていたのでそこは違うけれど、何らかの縛りはあるはずだ。
死に戻り前、知らずに奪われたものが多くあることを今の世界で知った。
これ以上なく、マリアンヌの卑劣さに嫌悪と悔しさを覚えた。
彼女に大事なものを奪われたのは私だけではなく被害は深刻で、彼女の自分勝手さは決して許せるものではない。
復讐に燃え上がるというよりは、それらを必ず守りきりマリアンヌに恩恵なんて与えてやるもんかとの気持ちがぐつぐつと煮え体中を熱くする。
次の日、スタレット侯爵の要請通り、私は意識を失った者たちが集められた講堂へと足を運んだ。
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