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喪失と執愛
83.本物の聖女
しおりを挟むギルド長が眼鏡をかけた役人を連れ、ひっ捕らえた男たちとともに私たちの前に立った。
「失礼する。先ほどの光は彼らが発生させたことがわかった。自作自演の演出だな。服装と祈りのポーズでそれっぽく見せただけだろう」
「俺たちは何もしていないって言っているだろ」
「こんなの横暴だ」
ギルド長にがっちりと腕を掴まれ、先ほどの祈りの際に講堂全体を光らせた二人が反発する。
「光の発生源はスタレット令嬢ではなく彼らです。こちらにある名簿記録には、ライトスキルと書かれていますので言い逃れはできませんね」
眼鏡の役人が司法に権限があるエンブレムを見せながらとんとんと資料を叩くと、男たちは顔を青ざめ発言を一転させた。
「俺らは頼まれただけだ」
「そうだ。光らせただけで悪いことはしていない」
「確かにそうだが、加担したことの内容次第では随分と話が変わってくるな。今回の件で亡くなったヤツもいる。結果次第ではお前たちも覚悟はしとくんだな。あんた、これについてはどう説明するんだ?」
ギルド長が低く唸ると、男たちは黙り込む。
マリアンヌ側につくのにも空気の流れが悪いのを感じ取り、強く出られないようだ。
「あんたなんて、なんて礼儀しらずなの! そこの人たちのことなんて私は預かり知らないことだし、好きにすればいいわ」
そこでマリアンヌは、私にはベアティがいるとばかりに縋りついた。
だが、ベアティは腕を掴まれるも視線を動かすだけで何も動かない。表情さえも変わらない。ただ、そちらに顔を向けるだけの状態だ。
あまりにも不自然で、そのような状態のベアティをそばにいさせるだけで何が楽しいのだろうかと見ていて悲しくなる。
ベアティがそこにいるのに、ベアティを感じられない。
どれだけベアティをもの扱いすれば気が済むのか。
ベアティの人権を無視すればいいのか。
死に戻り前も、今も、そこまでどうしてベアティに執着するのか。
胸が痛くて、痛くて、怒りが爆発しそうになりぐっと噛み締める。
今すぐ駆け寄りたいが堪え、ベアティから視線を外した。
「あれが演出だったなら、これはどう説明するんだよ」
「助けてもらったのはもらったんだよな」
「だけどさ。そもそも症状が前例ないだろ? だったら……」
その先はさすがに貴族の前では言えないのか濁したが、演出が指摘され効果が剥がれ落ちていく様子に周囲が困惑しだす。
疑念が増えていくと、すべての事象に目がいくのは自然のこと。
私はこれからすることに集中すべく、大きく深呼吸をした。
たくさんの人の協力を得てここまできた。マリアンヌの過剰な演出に疑惑を持ち始めた今、ここは私の番だろう。
私にしかできないことがある。
「いろいろ整理することはありますが、まずはまだ目を覚ましていない方が心配なので、スタレット様が何もされないのでしたら、私がスキルを行使しても問題ないでしょうか?」
「出しゃばって……。やれるものならやってごらんなさいよ」
マリアンヌはきっと睨みつけ挑戦的に告げるが、唇は青くなっている。
回復スキルを使えないマリアンヌは自分がすると言えず、頼みの綱であるブリタニーのそばには監視するようにインドラが立っている。
まだ目を覚まさない人たちがいるなか、治療なんてするなと私がすることを否定することもこの流れではできず、そう告げるしかできないだろう。
マリアンヌが回復スキルを使えないことは、これ以上の邪魔がなければすぐに露見することになるだろう。
まずはその邪魔をなくし、マリアンヌの回復スキルよりも上回って見せ完全にこちらの流れにしなけらばならない。
死に戻り前のこと、そしてこれまで起きた理不尽なことの数々をもう二度と繰り返したくない。
周囲も特に異論はないようなので最後にベアティに視線をやり、講堂の中央へと移動した。
今から使用する聖女スキルは、この場にいる誰にも作用する魔法だ。
被害にあった人たちの催眠からの解放と体調の回復イメージをまず練り上げ、この場にいる全員の身体を蝕む病気や怪我、そして催眠や精神干渉と本人の意思を歪めるようなものすべてを元に戻すようにと思いを乗せ魔法の純度を高めていく。
「すべての不調を取り払い、歪められたものを正常に戻して」
今回は隠すのではなく力を見せる必要があるので、わかりやすく言葉をかける。
体中に巡る魔力で身体がぽかぽかとし、洪水のように輝く光が周囲を包み込んでいく。
これだけの人数に対してあらゆることを望むのは初めてだが、ここで出し惜しみしていてはマリアンヌの策略から逃れられないし、ベアティも帰ってこない。
私は精一杯の力を振り絞った。
今までにない魔力の道が開けたと思った瞬間、まるで星が落ちていくかのようにきらきらと細かな粒子が舞い、人々の頭上に降り注ぐ。
まだ眠っていた者は起き上がり、付き添いで足を引きずっていた者が痛みがなくなったと声を上げる。
「聖女様」
倒れた父親の横で泣いていた少女がぽつりと告げたのをきっかけに、周囲の私を称える声が増えていく。
「エレナ様こそ聖女様だ」
「こんなのは初めてだ。ほら、見てくれよ。怪我の影響でろくに膝が曲がらなかったのに動くようになった」
「ああ、俺は頭痛持ちだが、今までにないくらすっきりしている。これこそが本物の力だ」
「俺も長年の傷の痛みが消えたぞ」
周囲で歓喜の声が上がり、私を称える声が大きくなっていく。
――まだ、だ。
まだ、ベアティが動いていない。感情が戻っていない。
もっと、もっと力を込めなければ。すべてを終わらすために。
マリアンヌから、スタレット侯爵からの呪縛を解き放つために、私は全神経を集中させた。
すべてが持っていかれる感覚がするがやめずにいると、明るいけど眩しすぎない優しい光の洪水が部屋中溢れはじけ飛んでいくと同時に、身体の力が一気に抜けた。
ふらりと身体がよろける瞬間、慣れた匂いとともに抱きとめられる。
「エレナ様……」
「ベアティ。遅いよ」
私を見つめる黒と金、オレンジの熱のこもった瞳が私を見下ろすのを確認し、私はとすっとベアティの胸を叩いた。
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