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喪失と執愛
87.気持ち
しおりを挟むそれぞれの報告が終わり、身体は疲れたけれど話し足りないとベアティと向かい合う。
シリルやインドラ、そして家族も私たちに気を遣って二人きりになった。
湯あみも済ませ、後は寝るだけの無防備な状態に緊張する。
好きだと自覚したばかり。
そして、自覚して初めての二人きり。
シャツのボタンを二つほど外したラフな格好のベアティは色気満載だ。
けれど、彼の私以上にそわそわと落ち着きなく視線を彷徨わせるベアティは可愛くもあって、放っておけないとくすりと笑うと私は両手を広げた。
「ベアティ。改めてお帰り」
「ただいま」
私の反応を見たベアティが、満面の笑みを浮かべものすごい勢いで私のもとに駆けてきた。その勢いのままベッドに二人して倒れる。
とにかくこれまでの時間を埋めるように、私たちはぎゅっと抱きしめ合った。
異性として意識はしているしこれまでと違い心臓が早鐘を打つけれど、今はただその存在を確かめ合いたい。
離れていた時間を埋めるように、相手の鼓動や呼吸に集中した。
そこにある、触れられる幸せをしばらく噛み締め、どちらが言うまでもなく出会った頃のようにベッドに横になった。
自然と手を繋ぎ、向かい合う。
いろいろあった。怒濤の一日だった。
こうして無事だったから言える挨拶に、じわりと目頭が熱くなる。
――そう、本当に無事でよかった。何かあったらと思うと、二度と会話を交わすことができなかったら……。
そう考えるだけで、あの時のようにぎゅうぅぅぅと胸が締め付けられる。
結果がついてきたから、気持ちとともに重なる温もりに心から安堵できる。
だけど、どうしても苦言を呈せずにはいられない。
「もう何も言わずに無茶なことはしないで。もし催眠が解けなかったらどうするつもりだったの? スタレット侯爵は支配魔法を使えたのよ。迂闊に近づいてまた支配されたらと思わなかったの?」
ベアティの無茶は、私にも関わることだったからよりどうにかしようと動いたことも理解している。
ベアティが動いてくれたから証拠も出て、大きな混乱や反乱もなく素早く収めることができた。
だけど、一気に片付き結果としてうまくいったが失敗していたら?
もし、ベアティの催眠が解けなかったら?
それ以上にスタレット侯爵の悪意に捕まっていたらと、考えれば考えるほど心臓が縮み上がりそうになる。
「エレナ様……」
責めるようにじっと見つめると、申し訳なさそうに眉尻を下げながらも、その双眸はどこか自信に満ちていた。
どうしてそこまで自信があるのか、ものすごく心配したし苦しかったのにと、ベアティが揺らがないことが悔しくて泣きたくなってくる。
「心配で、わからなくて、あんなのはもう嫌だ……」
じわりと零れ落ちた涙が頬を伝う。
知らないところで、手が届かないところで、何かあったらと思うと怖かった。
勝手にベアティの自由意思を尊重するためといい、いつかは離れることを考えたのは私だ。
だけど、いざいなくなったらぽっかりと心に穴があき、大事なものがもがれ一生戻らないような気がして、ずっとしんどかった。
自分もベアティも、勝手さでいうと同じなのかもしれない。
だけど、私はベアティの危険なんて一度も望んだことなどない。だから、悔しい。
「俺がエレナ様を忘れるなんて絶対ない。たとえすべてを支配されたとしても絶対抜け出せる自信はあった」
「わからないじゃない」
どうしてそこまで言い切れるのか。
この世に絶対はなくて、思わぬところで足をすくわれることだってあるのに、自ら催眠なんてやっぱりおかしいじゃないかといった気持ちが膨れ上がる。
さっきまでは、無事だったのだから、戻ってきてくれただけでよいと思っていたけれど、安心するとあれもこれもと言いたいことが出てくる。
そばにいるだけでいいじゃないかと思う一方、最悪を考えると今の状況はとても贅沢で心も満たされているのだけど、危険があったことについて一言申したくなる。
気持ちの上がり下がりが激しい。
優しい気持ちで接したい。自ら危ない橋を渡り、乗り越え功労者となったベアティを労うべきだ。
そう頭ではわかっている。
疲労も蓄積され、今は再会に喜ぶ顔だけを見せていればいい。
そう思いながらむかむかする気落ちを隠せない自分に辟易して唇を噛み締めると、ベアティがこつんと額をつけてきた。
「エレナ様、聞いて。俺のすべてはエレナ様でできている。今回も、今後、俺がエレナ様のそばにいるために必要だと思ってしたことだ。エレナ様のためでもあるけれど、俺がエレナ様の一番近くにいるために必要だった」
「どういうこと?」
この仕草も変わらなくて、話すと触れる吐息のくすぐったさとあまりにも自信満々に告げられる内容に、ざわざわ荒立っていた気持ちが凪いでいく。
「エレナ様に釣り合う、隣にいることを誰にも邪魔されない身分」
「身分?」
確かに実力主義なこの国は、時として強者に身分が与えられてきた。
「はい。この国で過ごすなら身分があるほうがエレナ様をより守れる。だから、スタレット家を破滅させるついでに国に恩を売るよう動いてきたし、今回のことは王家も無視できず取り込みにかかってくる」
「それは……。ベアティが縛られるよ」
「俺はエレナ様さえいればいい。俺を縛るのはエレナ様だけ。身分なんて国から出るなら別になくてもいい。だけど、エレナ様はいつでも外に出られるように準備はしているけど、本当は出たいわけじゃない。でしょう?」
家族や領地、そしてこれまでに出会った人々、その関係を簡単に切りたいとは思えない。
できるのならば、このまま平穏に過ごしていきたいと思っている。
頷くと、ベアティが優しく微笑んだ。
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