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喪失と執愛
88.居場所
しおりを挟む「この屋敷を出る前、話があると言ったけど、エレナ様もうすうすは俺が人族じゃないかもと気づいているよね?」
「ええ」
獣人たちの反応、両親やランハートたち王族の対応を見ると、思い当たる種族はあった。
だが、それは伝説と言われる種族でまさかという思いもあり、ベアティの口から聞くまでは深く考えないようにしていた。
「俺は竜人族と人族のハーフだ。冒険者をしている時に伯父の居場所も突き止めて、自分が何者であるか確認済みだ」
「いつの間に!? 伯父さん生きておられて会えてよかったね! でも、その時に言ってくれたらよかったのに」
この世に血が繋がった人がいるかいないかは、かなり気持ち的に変わってくる。
その相手がどのような人物かにもよるけれど、何らかの形で繋がりがある人がいる、自分の出生を知る人がいるのは自分のアイデンティティに一本芯が入るくらい重要なことだと思う。
「だって、身内が生きているとわかったら、エレナ様は絶対家族といるほうがいいのではとか余計なことを考える」
「余計じゃないと思うけど」
ベアティにとって伯父がプラスの人であるならば、それに越したことはない。
「俺にとっては余計だ。あなたのそばが俺の居場所だ。それ以外なんて生きている意味はない」
そう告げるとベアティは眩しいほどの生気に満ちた笑顔を浮かべ、己を信じた揺るぎない双眸で私を射た。
「ベアティの気持ちを無視して行けなんて言わないよ。ただ、家族の存在は大きいかなって」
「少しでもそう考えられるのが嫌だった。俺にとってはエレナ様がすべて。エレナ様に勝るものはありません。ただでさえエレナ様は俺たちの平穏の先に違う場所を見ていたから、少しでもそうなるのが嫌だった」
「……うっ、ごめんね」
ベアティの瞳の中の金がぎらりと光り、私を責める。
心当たりがあり過ぎて降参だと私は瞼を伏せると、ベアティが小さく息をつき続ける。
「伯父が生きていたこと、自分が何者かについて情報を得られたのはよかったけれど、伯父についてはそれだけだ」
「わかった。ベアティが納得しているなら言わない。ハーフであることも理解したし、竜人族という希少な種族の血を引いていることもわかった。だけど、どうして黙っていたのかわからないのだけど」
正直、伯父さんのことは話してほしかったとの気持ちはあるけれど、ベアティがすでに向き合い済みで納得して私のそばにいたのならそれでいい。
だけど、どうして竜人族の血を引いていたことを隠すのかわからない。
半分とはいえ竜人族の血を引いているだけで特別な存在なのは、種族関係なく子供でもわかるような常識だ。
竜人族はどの種族よりも身体能力も魔法にも長けており、特に嗅覚が鋭い獣人族は本能的に竜人族にひれ伏し従うほどの力を持っているとされている。
人族は力の一端を見るまでなかなか存在だけでは感じ取れないが、個の強さと獣人族を従えることのできる能力には敵わず、よほどの愚か者ではない限り敵対しようなどとは思わない。
「俺が囚われたのは、竜人族の母が身ごもったのを、そしてその相手が人族であることを知っていた誰かが俺のことをスタレット侯爵に情報を漏らしたことから始まっている。すでにその人物は突き止め相応の報いは受けさせたが、俺の正体を認識するとエレナ様まで狙われる可能性もあった」
「うーん。一緒にいる時点であまり変わらないような」
「違う。知っているのと知っていないことの差は大きい。特に子供の頃は自分でも何者かわからず力が発揮できなかったから、守れる力をつけるまでは話すべきではないと判断した」
そういうものなのか。
正直、あまり差は感じられないけれど、ベアティがそう思っていたということが答えなのだ。
私は、そうかと頷き、話とベアティの気持ちをそのまま受け入れることにした。
取り敢えず、状況は理解できた。
後のマリアンヌの反応を見るからに、ベアティの正体を知っていたのだろう。だから、より固執した。
どれだけ不利な状況であっても、ベアティは全部ひっくり返せる最強カードとしてどうしても手放せなかった。
スタレット侯爵は、死に戻り前も今回も、ベアティを最強の駒として利用しようとしていたのだろう。
けれど、ベアティはそれに打ち勝った。
ベアティのモチベーションが私のそばにいるためだとしても、その事実は私にとっても、この国の未来にとっても大きな一歩だ。
それはとても素晴らしいことだけれど、改めてベアティがベアティらしくいられる喜びが溢れてくる。
「すでに狙われたことのある俺自身が決着をつけなければ、今後エレナ様をさらに危険に晒す可能性はあった。だから、話すならすべてを断ち切ってからのほうがいいと判断したのもあった」
「も?」
「そう」
そこでじっと見つめられる。
「何?」
一度受け入れたけれど、意味深に言われるとうーんと首を傾げてしまう。
状況やベアティの思いはわかったが、私に話すことを躊躇う理由、もっと言えば、家族もどうしてそれをよしとしたかの理由がわからないままだ。
すでにベアティの特別さは際立っていたし、周囲の反応からももしかしたらとは思っていたのだから、どう考えても隠す必要はなかったのではないかと思ってしまう。
腑に落ちないと眉を寄せると、睫毛が触れるほど近くで覗き込まれた。
期待のこもった瞳に見つめられ、これ以上知ると引き戻せない何かが待っているようで妙にどきどきする。
掴んでいた手が離され、ベアティの大きな手が両頬を挟まれる。
形のいい唇が再び動くのを、私はじっと見つめた。
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