二度目の人生は離脱を目指します

橋本彩里(Ayari)

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喪失と執愛

89.執愛

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「だって、エレナ様は、エレナは俺の番だ。魂レベルと心でこんなにも刻まれているものにほかの何も侵すことはできない」
「番?」

 内緒にされていた理由に拍子抜けした。
 確かに竜人族は特殊で愛を語るうえで重いとされているけれど、それで内緒にする理由になるのかわからず首を傾げる。

 少し動くだけで触れそうになる距離。
 しばらく離れていたことなどなかったかのように躊躇いなく距離を詰められ、呼ばれ方も変えられ、前とは己の気持ちの在り方も違って心臓がばくばくした。

「そう。俺の愛おしい番。エレナの大事な人たちに認めてもらったから安心して」
「えっ!? 待って。お父様たちにも――」

 子供の時に周囲が認めたら、ベアティが敬称を外して私を呼ぶと話したことがある。
 当時はマリアンヌに下手に目を付けられるのが嫌でとの提案であったが、この状況では少し意味が変わってくる。

 外堀が埋められている。
 気づけば、もう逃げられないところに、ベアティが広げた腕の中以外の選択肢がないところにいる。
 マリアンヌを追いやったと思ったのに、いつの間にかベアティに追い詰められていることの現状に続く言葉が出ず、はくはくと口を動かすことしかできない。

 ベアティはその唇を軽く摘むと、ふふっと微笑んだ。
 すべてを話したことで完全に吹っ切れたのか、私の反応で大丈夫だと思ったのか、ベアティの行動が大胆になってくる。

「番であることは報告してある。ご家族にはエレナを守る術をこの国で確立でき、エレナが気持ちに応えるのなら問題ないと」
「気持ち……」

 もうすでに見透かされているようだ。
 それもそうだ。誰よりも私を見ていると豪語し、私の気持ちを私よりも早く察知する相手に気づかれないわけがない。

 かぁぁっと顔に熱が集中するのが自分でもわかった。
 きっと真っ赤になっているだろうけれど、この熱の逃し方がわからない。

「意識してくれた?」
「ベアティの意地悪。待たせて心配させたくせに」

 くすりと笑うベアティに、なけなしの反撃を試みる。
 ぽん、と胸を叩くとベアティはさらに笑みを深めた。
 その余裕が悔しくて睨みつけると、愛おしげに目を細められる。

「そうだね。ごめん。でも、あれは今後のために必要なことだった。だけど、もう二度と離れないし、次からは起こる前に全力で阻止する。エレナのおかげで俺の中に流れているすべての力が使えるようになったしね。エレナの気持ちを捕まえられたのなら、これ以上のことはないし絶対もう誰にも邪魔させない」

 さっきまで笑っていたのに、最後に真剣な表情を見せたベアティから視線が外せない。
 そばにいても飢えを隠さない渇望を見せられ、その重くナイフのように切り込んでくる鋭さに圧倒される。
 私が尻込みしたのが伝わったのか、ベアティがその本気を少し隠すようにまた微笑んだ。

「ところで、番には驚かないの? 竜人族の番は魂に刻むから片方が死ねば片方も死ぬため、最後の時まで一緒にいることになる。相手しか見えないし、番とそれ以外の区別は他種族よりも明確だから、かなり重いとされているけど」
「正直、竜人族だとか番はそこまで気にならなかった。ベアティが私しか見ていないのはずっとそうだったし、そうなのかくらいかな」

 いろいろ気になる情報がありすぎて忘れていたが、説明されればすとんと違和感なく受け入れていた。

「そっか。そうかぁ。やっぱりエレナだね」
「それよりも私のおかげで力が使えるようになったというのは?」
「そっち? エレナが気になるポイントわからないけど、そんなところもものすごく好き」
「そ、そう……」

 ぎゅっと抱きしめられ、耳元で愛していると告げられる。
 前面に異性としての好意を押し出すようになったベアティの破壊力に慣れなくて固まっていると、額にキスを落としてベアティは続ける。

「催眠は一定時間、条件をかけ今日には解けるようにはしていたのだけど、エレナのさっきの全力の聖女スキルで俺のすべての竜人の本能が解放された」
「本能?」
「そう。力の使い方がなぜか押さえ込まれていたけど、それが解放されて全部の力が使えるようになった。それと同時に、竜人の血が濃く発現してこれまで以上にエレナのそばを離れることは考えられない。こうなる前にさっさとあいつらを潰しておいてよかった」

 愛おしそうに私を微笑みながら、器用にここにいないマリアンヌたちに殺気を放つ姿にひやりと背中が冷える。

 ――もしかして、私は余計なことをしてしまったのだろうか。

 どう反応したものかと悩み瞬きをしていると、極上の笑みを浮かべてベアティは私の両頬を誘うように撫でた。

「それでエレナは気持ちを口にしてくれないの?」

 ん、と笑みをかたどる唇を憎らしく思いながらも、私は想いを伝えるためにその手を掴んだ。

「ベアティがいなくなってとても寂しかった。もう二度と勝手にいなくならないで。――好き、だよ」
「俺はずっと昔からエレナが好き。愛している。エレナに惚れて、番だから好きになったんじゃない。好きになった人が番だった。魂レベルで刻まれているからもう逃すことはできない。覚悟して」

 泣き笑いの表情で嬉しさを全開に出したベアティに引き寄せられ、私たちは唇を重ねた。
 触れるだけの口づけを何度も繰り返していたが、疲れの限界を迎えた私たちは抱きしめ合ったまま眠りについた。

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