高塚くんの愛はとっても重いらしい

橋本彩里(Ayari)

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1-something quite unexpected-

17高塚くんの距離が近い①

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 帰りは家の最寄りの駅まで必ず送ってくれる。今日はバイト先の駅前だ。
 駅に着くと、いつもは改札を出たところで少しだけ話すのだけど、今日はそこを通り過ぎて人通りの少ない場所へと引っ張られていった。

「高塚くん?」

 莉乃の鞄を持ったままぐいぐいと進んでいた高塚くんは、くるりと向き直ると莉乃を閉じ込めるように立ちぼそっとささやく。

「今日は時間が少なくて寂しい」

 逃げる隙間をなくすように密着され、莉乃は戸惑いながら顔を上げた。じぃぃぃーっと穴が空くのではないかと思うくらい観察されている。
 キリッとした形のよい瞳が、希求するように莉乃を見ていた。

「…………」

 高塚くんが自分に何かを求めていることはわかるのだが、何を求めているのかはわからない。
 必死で考えるが、わからなくて莉乃は小さく首を傾げた。

「寂しいっていってるのだけど」
「あっ……」

 すると、すとんと感情を削ぎ落としたような表情で高塚くんがぼそりと告げる。
 その声にぞわりと肌を泡立たせた。怖いのに妙な色気も含んだそれは高揚感も伴わせ、心臓がとくとくとくと早鐘を打つ。

 なんだか一瞬ぞわわっと跳ね上がった心臓はいけない感覚のような気がして、それを無視するように、えっと、えっとと、莉乃は必死で高塚くんが求める正解を導き出そうと考えた。
 ゆっくりと瞬きをして、視線を外さない高塚くんと見つめ合う。真摯な瞳は鋭さもあるのだけど、その奥が言葉通りに寂しいとも告げているような気がして、ぱちりと目を瞬いた。

 これってやっぱり遊べなくて寂しいってことだよね?
 つまり、わざわざ言うってことは本当はもっと遊びたいってことで、いつも周囲に人がいるからまだ早い時間に一人になるのは寂しいってことで。
 大人びていても、こうして莉乃を連れ回すぐらいだから出歩くことは好きそうだし、フットワークはものすごい軽い。本当はもっといろんなことをしたいのかもしれない。

 やっぱり、私では物足りないから、そろそろこの関係性の変化を莉乃から切り出してくれってことかな?

 なんだかんだで、高塚くんから誘われてるし嬉しそうに笑うこともあるから、自分といることを楽しんでくれてるのかなっと思っていたけど、やっぱり毎日は飽きるということだ。
 今日だって一緒に帰っていても、結局すぐバイトだし。
 高塚くんの思うように遊べてなかったのだ言われて、こっちが誘っていたわけでもないのだけど、道中だけ付き合わせているし申し訳ない気持ちになる。

「ごめん。今からでもほかの人を誘って、」
「なんでそうなるの? りのとの時間が少なくて俺は寂しいっていってるんだけど」

 誘ってみたらと提案しようとしたのだけど、繋がれた手を痛いほど握られた。
 うーん。難しい。
 もしかしたら、この放課後一緒にすることが形骸化して高塚くんも引っ込みつかなくなってきたのかなって思ったのだけど、そうじゃなかったみたい。

 周囲から密かに言われている『飽きられる』という言葉は、じわじわと莉乃の中を浸食していき、ついそっちの方向に考えてしまうけれど、まだその時ではなかったみたいだ。
 まだ・・、私と一緒にいたくて誘ってくれてるってことでいいみたいだ。

「ありがとう?」
「はぁー。なんで疑問系? なんでお礼なの?」

 その声は、とても静かに己の感情を抑制するようなものだった。だからこそ、高塚くんが本気で気分を害していることがわかった。
 その声に、ぴくりと莉乃は反応してしまう。

「ごめん」
「よくわかってないのに、謝らないで」
「……ごめ、」
「……はぁ~」
「…………」
「…………」

 思いっきり溜め息をつかれそのまま沈黙が続き、恐る恐る視線を合わせ、莉乃は本気で情けなくなった。
 高塚くんの顔には、あからさまに面白くないと書いていた。
 鋭さを含み悔しそうに唇を噛み締めているそれに、ちょっと自分でも考えがまとまらないまま話して要領を得なかったから、苛立たせてしまったようだと知る。

 もしかして、私は高塚くんの機嫌損ねる天才なのかな?
 いつも誰といても穏やかな表情をしている高塚くんだから、機嫌悪いのとかあまり見たことがない。
 よくよく考えると、私の前だけ? ……そう考えると、ショックだ。

 クラスが違うからずっと見ているわけではないけど、噂だとかでも常に人当たりがいいって言われてるし。
 つらつらとそんなことを考えていると、とすっ、と壁際に追い詰められる。

 背中に硬い感触がぶつかり驚いて見上げると、鞄を足元に置いた高塚くんが手を壁において莉乃を閉じ込めるように覗きこんできた。

「りの、抱きしめてもいい?」

 なんでそうなる?

「む、むり」
「なんで?」
「なんでって。そうする意味がないから」

 今、ここで抱きしめるような展開ではなかった。というか、もういろいろ考えても、この状況自体がよくわからないことになっている。
 友だち同士で抱きしめることって、嬉しさの共有だとか、落ち込んでる時に励ますだとか、そういったときにすることだと認識している。
 むしろ、高塚くんは莉乃に対して苛立っている様子だったのに、ほんとなんで?

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