ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした

むらくも航

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第三章 秘匿ダンジョン

第85話 ヤマタノオロチさん

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「今回は孫が来たのねぇ。シュフフフっ」

 山から顔を出したヤマタノオロチさん。
 やってきた俺たちを見下ろし、へびっぽい笑いを浮かべる。

 その大きな姿には、コメントが加速した。

《わあ!?》
《巨大な顔が山から出てきた!?》
《ていうか女性!?》
《昔の人みたいな髪型だな……》
《金ぴかの髪飾りもしてるし》
《笑い方こっわ》
《なんて恐ろしい雰囲気なんだ……》

 隣のペット達を含め、みんな驚いているみたいだ。
 まあ、改めて見ると迫力はある。
 顔も怖いし。

「シュフフフフ」

 青紫色の首。
 その先に顔があり、山の頂上からこちらを覗いている。
 全長で言えば、間違いなく今までで一番大きいと思う。

 その山彦やまびこのように反響する声で、ヤマタノオロチさんは話し始めた。

「やはりギンガは一緒じゃないのねぇ」
「はい。おじいちゃんはどこへ行ったのやら」
「……? お前は何も聞いていないのか?」
「え?」

 ヤマタノオロチさんは一瞬首を傾げるも、すぐにハッとする。

「い、いや、今のは無しよ! 何にも知らない!」
「えー、怪しい。というか話し方──」
「……! 私は何も知らないわよ? シュフフフっ」

《ん?》
《あれ?》
《一瞬ボロが出た?》

 すんっと態度を戻すと、鋭い視線でこちらをにらむ。

「それにしても大きくなったわねぇ。ギンガの孫よ」
「ホシです」
「そうか。お主の小さい姿も、まるで昨日のように思い浮かぶぞ」
「そりゃ四年間寝てたからでしょ」
「む」

《言われてみればそうだw》
《起きたら四年経ってるもんな》
《そりゃホシ君も大きくなってるわw》
《てか相変わらず物怖じしねえな……》
《ああ、こんなに怖いのに……》

 そんな中で、ヤマタノオロチさんはカメラに目を向けた。

「先程から、それはなあに? 人語が映っているようだけれど」
「配信です。この様子がネット中継されてるんですよ」
「へぇ? じゃあ──」

 すると、ヤマタノオロチさんは細長い舌をしゅるしゅると出した。
 カメラもそれを引きで捉える。

「この恐ろしい姿を映しているのかしらぁ」

《ひええええええ!!》
《こえええええ!!》
《画面の向こうまで来ないよな!?》
《これがヤマタノオロチかよ……》
《一段と迫力があるな……》
《色んなところがデカい……》
《Aランク探索者です。こんな怪物がいるなら今日で引退します》

 コメント欄は悲鳴で埋まった。
 みんな、ヤマタノオロチさんを勘違い・・・してるみたいだ。
 ここは俺が誤解を解いてあげないと。

「あの、一ついいですか」
「なにかしらぁ?」
「ヤマタノオロチさんの呼び名って、なんでしたっけ」
「む」

 人々をおびえさせてえつひたるヤマタノオロチさん。
 この人にも、ペットや住人同様に呼び名があったはず。
 
「おじいちゃんが付けた名前ありませんでしたっけ? 前回は寝ぼけてたからあんまり覚えてなくて。なんだったかなあ」
「…………」

 でも、ヤマタノオロチさんは何故かはぐらかした。

「……し、知らない」
「え?」
「そんなの知らないわよ! げんがなくなるから言わない!」
「うわわっ」

 ヤマタノオロチさんがじたばたすると、地面が揺れる。

《あ、あれ?》
《やっぱボロ出てね?》
《もしかして怖くないのか……?》
《めっちゃ地面揺れてるけどw》

 視聴者も徐々に本性・・を疑い始めた。
 もう一押しだな。

「じゃあこれ、あげませんよ?」
「そ、それは……!」

 俺はわたあめ(フェンリル)の背中をごそごそとあさる。
 もふもふから出てきたのは、大きなびんだ。
 表面には「秘」と書かれている。

「お、お酒! 持ってきてくれたのね!」

 これは『魔素まそすいしゅ』。
 魔素水に大量のアルコールが混じっているらしい。
 エリカ姉さんだけが採れる場所を知っていて、今回は預かってきたんだ。

「す、すぐにちょうだい! もうのどかわいて!」
「ダメです。呼び名を教えてくれるまでは」
「……! ま、孫のくせに生意気な……!」

《ん?》
《あれ?》
《これって……》
《やっぱりヤマタノオロチさんって……》

 少しずつ気づき始めただろう。
 これで呼び名も判明すれば、より親近感がくはず。

「……ダ」
「え?」
「ヤマダよ、ヤマダ! ああもう、だっさい名前!」
「あーそれそれ!」

 ヤマタノオロチさん、通称ヤマダ。
 名前長くねって言った、おじいちゃんが付けた呼び名だ。

「みなさん、ぜひヤマダって呼んであげてくださいね」
「呼ぶなぁ!」

《ヤマダ!?》
《ヤマノオロチってこと!?w》
《急に威厳なくなって草》
《おじいちゃんのネーミングセンスwww》
《なんだ、やっぱ怖くねえじゃんwww》
《ホシ君ちだなあ笑》
《イナリさんもこんな感じだったな》
《今日も平和な配信でした》
《ヤマダさーん》
《ヤマダー》

 そう、ヤマタノオロチさんは怖くない。
 プライドからか、威厳を出そうと張り切るだけ・・・・・・だ。
 恐怖が消え、流転君たちもほっと一息ついた。

「キュィ」「ワフゥ」「ボウゥ」
「よ、良かった……」

 だけど、ヤマダさんはぷるぷると顔を震えさせた。

「ちょ、調子に乗りおってぇ……こんなに怖いのに!」
「自分で言うんですか──って、あ」
「ふん!」

 すると、俺の手元から『魔素水酒』を奪い取っていく。
 元々あげるつもりだったから良いんだけど。

「こうなったら、実力で恐怖におとしいれてやるわ! がぼぼぼぼ」
「すんごい飲みっぷり」

 ヤマダさんは『魔素水酒』を浴びるように上から注ぐ。
 酒とは言え、力の源である“魔素水”だ。
 それを大量に摂取せっしゅし、ヤマダさんの力がみなぎっていく。

「シュッハッハッハ! これよこれぇ!」
「うわあ」
「私をコケにした罰、受けてもらうわよぉ! シュオオオオ!」

 酔ったように顔が赤くなったヤマダさんは、勢いよく息を吹き出す。
 ドス黒い紫色の吐息だ。

猛毒もうどくの煙よ! それを浴びれば──お前たちは死ぬ!」
「……!」

《やべえキレた!?》
《バカにしてすみませんでした!》
《この攻撃はやばそうだぞ!》
《許してくださいヤマダさん!》
《みんな避けてくれー!》

 ヤマダさんは状態異常をまき散らす攻撃が得意だ。
 でも、この程度なら任せられるな。

「ボウウウウウゥゥゥゥ……!」
「さっすが」
「なにぃ……!?」
 
 俺たちを守るよう、きらびやかな赤色が前方に現れた。
 燃え盛る翼を広げた、覚醒いちごだ。

「ボゥッ」

《いちごだ!》
《炎で浄化したのか!》
《巨大化してるー!!》
《あの可愛いいちごが……!》
《ギャップえぐい!》
《いきなりホシ君は取れねえだろうよぃ》

 その姿に、ヤマダさんは目を見開いた。

「いちごって、あの雛鳥ひなどりの!?」
「四年前の話です。それに、いちごだけじゃない」
「……!?」

 いちごの左右から、二匹の姿が飛び出す。

「ギャオオオオオオオオ!」
「クオオオオオオオオン!」

 ドラゴンのめろん、フェンリルのわたあめだ。
 どちらも覚醒し、すでに巨大化している。
 
「まさか一階のちびっ子たち!?」
「そうです」
「くっ……!」

 焦ったヤマダさんは、首元の山をボコっと殴った。
 山の一部分が崩れ、頂点辺りの巨大な三角形が降ってくる。
 だけど、二匹なら問題ない。

「クオオォォォォォォン!」

 わたあめの得意技『わたあめラッシュ』だ。
 分身に見えるほど高速に動き、十体近くのわたあめが山にキック。
 山が徐々に崩れていき、複数の亀裂きれつが入る。

 あそこまで崩れれば、あと一撃だ。

「ギャオオオオ! ──ギャウッ!」

 吠えためろんが、頭から突っ込む。
 頑丈がんじょうすぎる体は、山を貫通。
 巨大な三角形をした山の一部が、こちらに届く前に崩壊した。

《二匹のコンビネーションだあああ!》
《ペットの活躍嬉しい!》
《わたあめラッシュ久しぶり!》
《めろんは相変わらず脳筋w》
《降ってきたのって山だよな……?》
《それすらおかしいのに、余裕で返すかよw》
《やっぱペット達もレベチじゃねww》
《なんだこいつら……》

 すると、ヤマダさんはさらに力を上昇させていく。

「お、おのれぇ! では、これならどうじゃぁーーー!」
「ん」

 声を上げた途端、山から続くいくつもの川が勢いよくあふれ出る。

 洪水だ。
 いちじるしく上がった水位は、隣の川と合流。
 さらに勢いを増して、ものすごい速さで迫ってくる。

《うわああああ!?》
《ヤマタノオロチの洪水か!》
《それっぽい技使うのかよ!》
《ヤマダさんごめんなさい!》
《今度こそやべえって!!》
《これって……》

「ホシさんこれは無理です! 早く──」
「いや、大丈夫」
「ホシさん……!?」

 流転君もあわてて袖を掴んでくる。
 だけど、俺は動かない。
 最近見た・・・・んだよね、似たような技。

「今度ブルーハワイと遊ぶ時は、どうやろうか考えてたんだ」
「……ッ!」
「うぅぅぅぅ──せいやぁっ!」

 俺は腰を落とし、ぐっと引いた右腕を前方に放つ。
 魔素を込めた渾身こんしんの拳だ。
 飛び出した衝撃波は、洪水の中央を真っ直ぐ突っ切っていく。

 すると、洪水は左右へ真っ二つに割れた。

《え?》
《はああ!?》
《洪水が割れたあ!?》
《モーセかよwww》
《旧約聖書で草》
《おかしいだろwww》
《彼は人ではない、神だ》

「予習してなかったら、ちょっと危なかったかも」
「はは、ホシさん……ははは」

 ブルーハワイが玉依家との対決で見せた【海原創造あたしんち】。
 今度あれを出して時のことを考えて、対策しておいた。
 似た技だったので、それが活きた形だ。

 そうして、ヤマダさんはようやく手を止めた。

「その力……。それに、ブルーハワイとはあのセイレーンのこと?」
「はい。俺もよく遊んでます」
「まさか、ここまで成長しているとは……」

 続けて、ヤマダさんは一瞬ふっと笑みを浮かべる。

「これがギンガの言っていた“新世代”なのね」 
「ん?」

 おじいちゃんの名前が聞こえた気がしたけど、ボソっとしてて聞き取れず。
 そして、ヤマダさんはどこか嬉しそうに声を上げる。

「だったら、加減はいらないかしら」
「「「シュオオオオオ!!」」」
「うわっ!」

 同時に現れたのは、七つの巨大な蛇の顔。
 ヤマダさんのような人型の顔ではない。
 ようやく全貌ぜんぼうが明らかになった形だ。

《ついに出てきたか!》
《これで顔が八つ……》
《真のヤマタノオロチだ!!》
《ヤマダさんはセンターなんだな》
《周りは本当の蛇って感じか》
《でも威圧感がすげえ……》
《こう見ると巨大だな……》

 前回は戦っていないから、最初からこの姿だった。
 おじいちゃんと何か話していたけど、それが関係してるのかな。

「私の真の力に勝てたあかつきには、再び眠りにつくわ。瘴気しょうきも消えるでしょう」
「お」
「そして、ギンガからの伝言も伝えないとね」
「……!」

 おじいちゃんからの伝言?
 俺に伝えてない何かがあるのか。

「わかりました。受けて立ちます!」
「クォン」「ギャウ」「ボオォ」
「と、友達のためなら……!」

 再び向き合った俺たちに、ヤマダさん(達?)はニヤリとした。

「ではその力、計らせてもらうわ!」
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