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第三章 秘匿ダンジョン
第88話 ホシとギンガ
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<三人称視点>
十年以上前。
彦根家の地下三階にて。
「ほれ、行くぞーホシ」
「うんっ!」
五歳のホシを片腕で抱える者がいた。
ひげを伸ばしたこの人物は、彦根ギンガ。
ホシのおじいちゃんだ。
ギンガは右腕をぐっと引くと、空へホシをぶん投げた。
「高い高ーい!」
「わあっ!」
よくある遊びだが──高すぎる。
ギンガの超常的な力により、ホシはぽーんと雲の上まで飛んだ。
地下三階の雲は低めに浮かんでいるが、それでも上空100メートルは飛んでいるだろう。
すると、ギンガはハッと目を見開く。
「しまった、前に飛ばしすぎたわい!」
コントロールが乱れ、真上ではなく前方へと投げてしまったようだ。
ギンガはダンッと地面を蹴り、瞬間移動のごとく着地地点へと走る。
遥か遠くまで飛んで行ったホシだが、ギンガのスライディングでなんとかキャッチした。
「セーフじゃ!」
「あははっ!」
現代で他人に見つかろうものなら、虐待どころの騒ぎじゃない。
しかし、ここは“彦根家”だ。
常識など通用しない。
五歳のホシも怖がるどころか、大喜びだ。
「もっかい! もっかい!」
「はっはっは、ホシは元気じゃのう」
これがホシとギンガの日常だった。
ホシの両親は訳あって家にはおらず、ギンガが面倒を見ていたのだ。
二人の周りには、お馴染みの者たちもいる。
「ホシくーん! 次はお姉さんが抱っこしてあげる!」
両手を広げて走ってきたのは、エリカだ。
だが、ホシはぷいっと顔を逸らした。
「姉ちゃんは嫌。もじゃもじゃがくすぐったいから」
「がーん! こ、これが反抗期なのね……」
「にしては遅すぎるじゃろう」
エリカはギンガの世代からの住人。
実力は成熟しているが、ホシの扱いにはまだ慣れていなかったようだ。
しかし、すでにこの溺愛っぷりである。
エリカの他にはペット達もいる。
めろん、わたあめ、いちごなど、まだ小さな“ホシ世代”たちだ。
「きゅい」「くぅん」「ぼおっ」
その遊び相手は、“ギンガ世代”のペット達。
「ガオ」「ヴォフ」「グワァ」
彼らは種族も違えば、“ホシ世代”より一回り大きい。
めろん達は一緒に遊ぶ内に鍛えられていたのだ。
すると、魔素水の川から声が聞こえてくる。
「ホシー、泳ぎましょーよー!」
「あ、ブルーハワイ!」
この頃のブルーハワイだ。
現代でも小学生のような見た目の彼女だが、この時はさらに幼い。
五歳のホシと似たような体格だ。
ギンガは微笑ましく笑うと、ホシを川へ連れて行く。
「二人も好きじゃのう」
「うん! 泳ぐの楽しいし!」
「今日も負けないわよ!」
ブルーハワイも“ホシ世代”の一人だ。
ホシはペット達と同様、ブルーハワイともよく遊んでいた。
スイミングでよく競っていた二人だが──
「やったあ!」
「うっそお!」
この日は、初めてホシが勝った日のようだ。
ブルーハワイは口をあんぐりさせている。
「セイレーンなのに負けた……」
「はっはっは、ホシが異常なだけじゃわい」
「うぅ……」
ホシがすごいのは理解しているが、ブルーハワイにもプライドがある。
「ホシ、もう一回よ! 次は負けないわ!」
「いいよ、勝負だ!」
こうして、ホシは毎日“最強種”たちに囲まれて育った。
類稀なる才能と実力は、遊び感覚で育まれていたのだ──。
時は経ち、四年前のある日。
「あー疲れたっ」
ホシは中学生になっていた。
疲れを癒そうと、地下二階にやってきたところだ。
すると、ギンガから話を持ち掛けられる。
「ホシよ。地下三階へ行くぞ」
「え? いいけど」
この頃になると、ホシはあまり地下三階へは近寄らないようになっていた。
ギンガにそう言われていたからだ。
久しぶりの地下三階の景色に、ホシはおーっと感心する。
夜にも差し掛かり、空には段々と光が浮かび始めていた。
「話なんじゃが……今回は長くなりそうでの」
「またどっか行くの?」
ギンガは家を明けることが多くなっていた。
その頻度も高くなってきている。
ぶーたれるホシに、ギンガは伝えた。
「今回は一番長くなるかもしれぬのう」
「えー!」
「まあ、そう言うな。エリカがおるであろう」
「姉さんは面倒だからなー」
その瞬間、ホシは後ろからゾワッと気配を感じ取った。
誰かを認識すると、ホシはすぐさま訂正する。
気配の正体は──エリカだ。
「っていう冗談ね~、ははは」
「お姉さん悲しい……しくしく」
「あー、めんど」
しかし、エリカだけではないらしい。
「ホシよー、久しぶりじゃのう!」
「私の目覚めに合わせてくれたのね」
やってきたのはイナリやヤマダさん、二世代のペット達など。
まさに彦根家が大集合していた。
ここまで大規模に集まるのは初めてだ。
不思議がるホシに、ギンガはフッと笑った。
「しばらく会えんじゃろうからな。今日はここでキャンプでもしようかと思うての」
「ふーん。けど早く帰ってきてよ」
「はっはっは、それは分からんなあ」
こうして、ホシとぎんがは彦根家勢ぞろいでキャンプをした。
“用事が終わったら帰ってくるからの”。
そう言い残した数日後を最後に、ギンガとギンガ世代のペットは帰ってきていない──。
★
<ホシ視点>
「……あれから、姉さんには何度か聞いたよね」
昔話も終え、俺は姉さんにたずねた。
「おじいちゃんはいつ帰ってくるのって」
「そうね」
「まったく、その度にはぐらかしてさー」
俺は口を尖らせながら、チラッとエリカに顔を向ける。
「で、最後にヤマダさんや姉さんに伝言していったのか」
「そうなるわね。そして、時が来たみたい」
「……!」
すると、姉さんは一枚の紙を取り出した。
「次のヤマタノオロチを沈められたら、これを渡すように言われていたの。ギンガさんからの手紙よ」
「……っ」
俺は固唾を飲んで、手紙を開封する。
「こ、これは……!」
だけど、すぐに言葉を詰まらせてしまった。
それもそのはず──
「よ、読めない」
「………………」
字が汚すぎて読めなかった。
これには姉さんも真顔だ。
あの姉さんをこんな顔にさせるなんて、やっぱりおじいちゃんは底が知れない。
「貸して、ホシ君」
すると、しょうがないと姉さんは手紙を読み始めた。
どうやら解読できるらしい。
いや日本語なのに解読ってなんだよ。
そう思いながらも、俺は耳を傾ける。
『ホシがこれを読んでいる時、わしはもう家にいないじゃろう』
おじいちゃん、こういうのやるんだよなー。
なんとなく懐かしさを覚えたのも束の間、次の言葉に目を見開いた。
『最奥へ進め。そこに答えを残す』
「……! それって──」
「ええ」
俺が思わず声を上げると、姉さんは頷いた。
「地下三階の最奥は、ホシ君でも最後まで許可されなかった場所」
そう、俺はこのヤマダさんの場所までしか許されていなかった。
というより、これ以降の道が存在しないんだ。
疑問に思っていると、姉さんが一つ渡してくる。
「ホシ君、これを」
「これは……カギ?」
手紙には付いていた、光る半透明のカギだ。
実体があるのか無いのか、目には見えるのに掴むことができない。
「それを山に向けて回して」
「……う、うん」
ヤマダさんが住んでいる山のことだ。
俺は姉さんの言う通りに、不思議なカギを回す。
すると、カギの光は強まり、山に吸い込まれるように溶け込んでいく。
ふと目を覚ましたヤマダさんも、反応を示した。
「ほう」
「ふふっ」
姉さんは「やっぱり」と笑う。
「ホシ君の力が認められたのね」
「え?」
「あれはギンガさんが残したカギ。ふさわしい力を持つ者が回すと、道が開ける」
「……!」
姉さんの言葉を示すように、山の奥に巨大な階段が出現していく。
まるで山から天へと昇っていくように。
「キュイ~」「ワフ~」「ボオ~」
ペットも見惚れているみたいだ。
それほどに幻想的な光景だった。
階段はやがて雲にまで到達し、先が見えなくなる。
そうして、姉さんが笑みを浮かべて口にする。
「さあ、明日にでも進みましょう」
「姉さん。あの先って──」
「そう」
一度だけ、おじいちゃんから聞いたことのある場所の名を。
「あの先に高天原がある」
十年以上前。
彦根家の地下三階にて。
「ほれ、行くぞーホシ」
「うんっ!」
五歳のホシを片腕で抱える者がいた。
ひげを伸ばしたこの人物は、彦根ギンガ。
ホシのおじいちゃんだ。
ギンガは右腕をぐっと引くと、空へホシをぶん投げた。
「高い高ーい!」
「わあっ!」
よくある遊びだが──高すぎる。
ギンガの超常的な力により、ホシはぽーんと雲の上まで飛んだ。
地下三階の雲は低めに浮かんでいるが、それでも上空100メートルは飛んでいるだろう。
すると、ギンガはハッと目を見開く。
「しまった、前に飛ばしすぎたわい!」
コントロールが乱れ、真上ではなく前方へと投げてしまったようだ。
ギンガはダンッと地面を蹴り、瞬間移動のごとく着地地点へと走る。
遥か遠くまで飛んで行ったホシだが、ギンガのスライディングでなんとかキャッチした。
「セーフじゃ!」
「あははっ!」
現代で他人に見つかろうものなら、虐待どころの騒ぎじゃない。
しかし、ここは“彦根家”だ。
常識など通用しない。
五歳のホシも怖がるどころか、大喜びだ。
「もっかい! もっかい!」
「はっはっは、ホシは元気じゃのう」
これがホシとギンガの日常だった。
ホシの両親は訳あって家にはおらず、ギンガが面倒を見ていたのだ。
二人の周りには、お馴染みの者たちもいる。
「ホシくーん! 次はお姉さんが抱っこしてあげる!」
両手を広げて走ってきたのは、エリカだ。
だが、ホシはぷいっと顔を逸らした。
「姉ちゃんは嫌。もじゃもじゃがくすぐったいから」
「がーん! こ、これが反抗期なのね……」
「にしては遅すぎるじゃろう」
エリカはギンガの世代からの住人。
実力は成熟しているが、ホシの扱いにはまだ慣れていなかったようだ。
しかし、すでにこの溺愛っぷりである。
エリカの他にはペット達もいる。
めろん、わたあめ、いちごなど、まだ小さな“ホシ世代”たちだ。
「きゅい」「くぅん」「ぼおっ」
その遊び相手は、“ギンガ世代”のペット達。
「ガオ」「ヴォフ」「グワァ」
彼らは種族も違えば、“ホシ世代”より一回り大きい。
めろん達は一緒に遊ぶ内に鍛えられていたのだ。
すると、魔素水の川から声が聞こえてくる。
「ホシー、泳ぎましょーよー!」
「あ、ブルーハワイ!」
この頃のブルーハワイだ。
現代でも小学生のような見た目の彼女だが、この時はさらに幼い。
五歳のホシと似たような体格だ。
ギンガは微笑ましく笑うと、ホシを川へ連れて行く。
「二人も好きじゃのう」
「うん! 泳ぐの楽しいし!」
「今日も負けないわよ!」
ブルーハワイも“ホシ世代”の一人だ。
ホシはペット達と同様、ブルーハワイともよく遊んでいた。
スイミングでよく競っていた二人だが──
「やったあ!」
「うっそお!」
この日は、初めてホシが勝った日のようだ。
ブルーハワイは口をあんぐりさせている。
「セイレーンなのに負けた……」
「はっはっは、ホシが異常なだけじゃわい」
「うぅ……」
ホシがすごいのは理解しているが、ブルーハワイにもプライドがある。
「ホシ、もう一回よ! 次は負けないわ!」
「いいよ、勝負だ!」
こうして、ホシは毎日“最強種”たちに囲まれて育った。
類稀なる才能と実力は、遊び感覚で育まれていたのだ──。
時は経ち、四年前のある日。
「あー疲れたっ」
ホシは中学生になっていた。
疲れを癒そうと、地下二階にやってきたところだ。
すると、ギンガから話を持ち掛けられる。
「ホシよ。地下三階へ行くぞ」
「え? いいけど」
この頃になると、ホシはあまり地下三階へは近寄らないようになっていた。
ギンガにそう言われていたからだ。
久しぶりの地下三階の景色に、ホシはおーっと感心する。
夜にも差し掛かり、空には段々と光が浮かび始めていた。
「話なんじゃが……今回は長くなりそうでの」
「またどっか行くの?」
ギンガは家を明けることが多くなっていた。
その頻度も高くなってきている。
ぶーたれるホシに、ギンガは伝えた。
「今回は一番長くなるかもしれぬのう」
「えー!」
「まあ、そう言うな。エリカがおるであろう」
「姉さんは面倒だからなー」
その瞬間、ホシは後ろからゾワッと気配を感じ取った。
誰かを認識すると、ホシはすぐさま訂正する。
気配の正体は──エリカだ。
「っていう冗談ね~、ははは」
「お姉さん悲しい……しくしく」
「あー、めんど」
しかし、エリカだけではないらしい。
「ホシよー、久しぶりじゃのう!」
「私の目覚めに合わせてくれたのね」
やってきたのはイナリやヤマダさん、二世代のペット達など。
まさに彦根家が大集合していた。
ここまで大規模に集まるのは初めてだ。
不思議がるホシに、ギンガはフッと笑った。
「しばらく会えんじゃろうからな。今日はここでキャンプでもしようかと思うての」
「ふーん。けど早く帰ってきてよ」
「はっはっは、それは分からんなあ」
こうして、ホシとぎんがは彦根家勢ぞろいでキャンプをした。
“用事が終わったら帰ってくるからの”。
そう言い残した数日後を最後に、ギンガとギンガ世代のペットは帰ってきていない──。
★
<ホシ視点>
「……あれから、姉さんには何度か聞いたよね」
昔話も終え、俺は姉さんにたずねた。
「おじいちゃんはいつ帰ってくるのって」
「そうね」
「まったく、その度にはぐらかしてさー」
俺は口を尖らせながら、チラッとエリカに顔を向ける。
「で、最後にヤマダさんや姉さんに伝言していったのか」
「そうなるわね。そして、時が来たみたい」
「……!」
すると、姉さんは一枚の紙を取り出した。
「次のヤマタノオロチを沈められたら、これを渡すように言われていたの。ギンガさんからの手紙よ」
「……っ」
俺は固唾を飲んで、手紙を開封する。
「こ、これは……!」
だけど、すぐに言葉を詰まらせてしまった。
それもそのはず──
「よ、読めない」
「………………」
字が汚すぎて読めなかった。
これには姉さんも真顔だ。
あの姉さんをこんな顔にさせるなんて、やっぱりおじいちゃんは底が知れない。
「貸して、ホシ君」
すると、しょうがないと姉さんは手紙を読み始めた。
どうやら解読できるらしい。
いや日本語なのに解読ってなんだよ。
そう思いながらも、俺は耳を傾ける。
『ホシがこれを読んでいる時、わしはもう家にいないじゃろう』
おじいちゃん、こういうのやるんだよなー。
なんとなく懐かしさを覚えたのも束の間、次の言葉に目を見開いた。
『最奥へ進め。そこに答えを残す』
「……! それって──」
「ええ」
俺が思わず声を上げると、姉さんは頷いた。
「地下三階の最奥は、ホシ君でも最後まで許可されなかった場所」
そう、俺はこのヤマダさんの場所までしか許されていなかった。
というより、これ以降の道が存在しないんだ。
疑問に思っていると、姉さんが一つ渡してくる。
「ホシ君、これを」
「これは……カギ?」
手紙には付いていた、光る半透明のカギだ。
実体があるのか無いのか、目には見えるのに掴むことができない。
「それを山に向けて回して」
「……う、うん」
ヤマダさんが住んでいる山のことだ。
俺は姉さんの言う通りに、不思議なカギを回す。
すると、カギの光は強まり、山に吸い込まれるように溶け込んでいく。
ふと目を覚ましたヤマダさんも、反応を示した。
「ほう」
「ふふっ」
姉さんは「やっぱり」と笑う。
「ホシ君の力が認められたのね」
「え?」
「あれはギンガさんが残したカギ。ふさわしい力を持つ者が回すと、道が開ける」
「……!」
姉さんの言葉を示すように、山の奥に巨大な階段が出現していく。
まるで山から天へと昇っていくように。
「キュイ~」「ワフ~」「ボオ~」
ペットも見惚れているみたいだ。
それほどに幻想的な光景だった。
階段はやがて雲にまで到達し、先が見えなくなる。
そうして、姉さんが笑みを浮かべて口にする。
「さあ、明日にでも進みましょう」
「姉さん。あの先って──」
「そう」
一度だけ、おじいちゃんから聞いたことのある場所の名を。
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