19 / 55
9月4日 木曜日
第19話 真相へと向かって
しおりを挟む
「……僕たちは実行委員として、合唱祭が突然中止を宣告されたことに疑問を抱いた。全校生徒はもとより、合唱祭に関して最も重要な立場にあるはずの僕たちにさえ、事情が一切知らされないなんて異常だから」
その口調はよどみない。けれど、どこまで口にするかを慎重に吟味しながら話しているのがわかる。
「そして独自の調査の結果、僕たちはここにたどり着いた。執行部じゃない、君にだ」
「黒幕は桐山──お前だろ」
新垣くんを援護するかのように乾が言い足した。
黒幕──その言葉が脳内にこだまする。
合唱祭を中止したのが桐山会長だなんて、全くの初耳だった。新垣くんも乾も、今日の行き先が生徒会室だということすら教えてくれなかったくらいなのだから当然といえば当然だけれど。
でもそれを桐山会長本人に悟られるわけにはいかない。私はただただ表情筋を殺してやりとりを見守る。
「……新垣くん、それは経緯とは言わない。君が口にしたのは結果だけだ」
桐山会長は、新垣くんだけを見て言った。たとえ要所要所で口を挟もうと、話している相手はあくまで、委員長である新垣くんだということらしい。
新垣くんは眼鏡の奥の目を少しだけ細めて、それから再び口を開いた。
「教育界に顔の利く知り合いに少し調べてもらったんだ。合唱祭中止の決定を下したのが、実際には誰なのかを」
そういえば、新垣くんは親族に教育関係者が多いという話だった。彼の品行方正さとマッチしている気がして、妙に納得したのを思い出す。
「なぜ?」
桐山会長が短く訊いた。
「え?」
「どうして校内ではなく校外に調査の手を伸ばしたんだ? それも、校内の調査をすっ飛ばしてまで」
「それは……」
新垣くんが言いよどむ。彼が独断で「教育界に顔の利く知り合い」を頼ったのは、きっと私と中村くんが「トップダウン」の可能性に言及したからだ。
私はその出所が山本先生であることを明かしてはいないけれど、新垣くんはそれでも迷ったのだろう。
「……私が言ったのよ」
意識して平坦な声で割り込む。
すると桐山会長が「へえ」と小さく目を見開いた。
「木崎さんが?」
そんなにも意外だったのだろうか──そう思ったところでひらめく。
(ああ、そういうことだったんだ……)
さっき桐山会長が言った「君の顔をここで見ることになるとはね」という言葉──あれは本当に、単純な驚きだったのだ。桐山会長は、私が彼にたどり着けるほど聡くはないということを知っていて、だからこその発言だった。
愕然とする。でも悔しいだとか、腹立たしいだとか、そんな感情は一切わいてこなかった。記憶力だけじゃない──いわゆる「地頭」というやつが根本的に違うのだということを、私はとっくに知っている。
「……で、それがちょうど、君が合唱祭実行委員会に解散命令を出したタイミングと重なるんだよ。それで僕は君と理事会の繋がりを確信した」
新垣くんがすかさず話を元に戻した。
(そうだったんだ……)
新垣くんが、陰でそんな行動を起こしていたなんて知らなかった。……いや、本当にそうだろうか。
(──あっ)
どうして気づかなかったのだろう。私はちゃんと、気づくきっかけを与えられていたのに。
先日の昼休み、桐山会長が「おたくの委員長はなんとかならないのか」と苦情を入れてきたときだ。
彼が「おたくの委員長」なんていう呼び方をしたのは、きっと新垣くんが彼個人としてではなく、合唱祭実行委員会の委員長として何らかの行動に出ていたからだ。なのに私は、そんなことにも思い至らなかった。
桐山会長もまさにあのとき、私の勘の悪さに気づいたのだろう。私たちにはそもそも、これまでほとんど接点なんてなかったのだから。
「……でも君ほどの人が、そんな単純なミスを犯すとは考えられないんだよ。ということは、考えられる可能性は一つ──君は最初から、隠すつもりがなかったということになる」
新垣くんの話は続いている。
桐山会長はそれをただ興味深そうに聞いていた。彼自身は何も言わないままに。
「……否定、しないのか?」
しびれを切らしたのか、乾が訊いた。
すると間髪を入れずに、桐山会長も切り返す。
「否定してほしくて来たのか?」
なんだか不毛なやりとりだ──そんなことを思っていたせいだろうか。気づけば私は声に出してしまっていたのだ。「そんなわけないじゃない」と。
桐山会長だけじゃない──部屋中の視線が一気に集まった。けれどまごついている場合ではない。
私は小さく息をつき、桐山会長と正対した。
「……私たちは、推理を披露しに来たわけでも、言質を取りに来たわけでもない。ちゃんと……ちゃんと理由を聞かせて。合唱祭中止の背後にあなたがいたと知ったところで、それだけじゃ私たちが求める答えにはならない」
たしかなことは何もわからない。でもなんとなく、桐山会長は理由もなく行事を潰すような人間ではないという気がするのだ。合唱祭の中止に理由があるのなら、私はそれを知りたいと思う。知らなければならないと思う。
けれど桐山会長は、一つの条件を出したのだ。
「そのためには、僕からの質問にも答えてもらいたい」
その口調はよどみない。けれど、どこまで口にするかを慎重に吟味しながら話しているのがわかる。
「そして独自の調査の結果、僕たちはここにたどり着いた。執行部じゃない、君にだ」
「黒幕は桐山──お前だろ」
新垣くんを援護するかのように乾が言い足した。
黒幕──その言葉が脳内にこだまする。
合唱祭を中止したのが桐山会長だなんて、全くの初耳だった。新垣くんも乾も、今日の行き先が生徒会室だということすら教えてくれなかったくらいなのだから当然といえば当然だけれど。
でもそれを桐山会長本人に悟られるわけにはいかない。私はただただ表情筋を殺してやりとりを見守る。
「……新垣くん、それは経緯とは言わない。君が口にしたのは結果だけだ」
桐山会長は、新垣くんだけを見て言った。たとえ要所要所で口を挟もうと、話している相手はあくまで、委員長である新垣くんだということらしい。
新垣くんは眼鏡の奥の目を少しだけ細めて、それから再び口を開いた。
「教育界に顔の利く知り合いに少し調べてもらったんだ。合唱祭中止の決定を下したのが、実際には誰なのかを」
そういえば、新垣くんは親族に教育関係者が多いという話だった。彼の品行方正さとマッチしている気がして、妙に納得したのを思い出す。
「なぜ?」
桐山会長が短く訊いた。
「え?」
「どうして校内ではなく校外に調査の手を伸ばしたんだ? それも、校内の調査をすっ飛ばしてまで」
「それは……」
新垣くんが言いよどむ。彼が独断で「教育界に顔の利く知り合い」を頼ったのは、きっと私と中村くんが「トップダウン」の可能性に言及したからだ。
私はその出所が山本先生であることを明かしてはいないけれど、新垣くんはそれでも迷ったのだろう。
「……私が言ったのよ」
意識して平坦な声で割り込む。
すると桐山会長が「へえ」と小さく目を見開いた。
「木崎さんが?」
そんなにも意外だったのだろうか──そう思ったところでひらめく。
(ああ、そういうことだったんだ……)
さっき桐山会長が言った「君の顔をここで見ることになるとはね」という言葉──あれは本当に、単純な驚きだったのだ。桐山会長は、私が彼にたどり着けるほど聡くはないということを知っていて、だからこその発言だった。
愕然とする。でも悔しいだとか、腹立たしいだとか、そんな感情は一切わいてこなかった。記憶力だけじゃない──いわゆる「地頭」というやつが根本的に違うのだということを、私はとっくに知っている。
「……で、それがちょうど、君が合唱祭実行委員会に解散命令を出したタイミングと重なるんだよ。それで僕は君と理事会の繋がりを確信した」
新垣くんがすかさず話を元に戻した。
(そうだったんだ……)
新垣くんが、陰でそんな行動を起こしていたなんて知らなかった。……いや、本当にそうだろうか。
(──あっ)
どうして気づかなかったのだろう。私はちゃんと、気づくきっかけを与えられていたのに。
先日の昼休み、桐山会長が「おたくの委員長はなんとかならないのか」と苦情を入れてきたときだ。
彼が「おたくの委員長」なんていう呼び方をしたのは、きっと新垣くんが彼個人としてではなく、合唱祭実行委員会の委員長として何らかの行動に出ていたからだ。なのに私は、そんなことにも思い至らなかった。
桐山会長もまさにあのとき、私の勘の悪さに気づいたのだろう。私たちにはそもそも、これまでほとんど接点なんてなかったのだから。
「……でも君ほどの人が、そんな単純なミスを犯すとは考えられないんだよ。ということは、考えられる可能性は一つ──君は最初から、隠すつもりがなかったということになる」
新垣くんの話は続いている。
桐山会長はそれをただ興味深そうに聞いていた。彼自身は何も言わないままに。
「……否定、しないのか?」
しびれを切らしたのか、乾が訊いた。
すると間髪を入れずに、桐山会長も切り返す。
「否定してほしくて来たのか?」
なんだか不毛なやりとりだ──そんなことを思っていたせいだろうか。気づけば私は声に出してしまっていたのだ。「そんなわけないじゃない」と。
桐山会長だけじゃない──部屋中の視線が一気に集まった。けれどまごついている場合ではない。
私は小さく息をつき、桐山会長と正対した。
「……私たちは、推理を披露しに来たわけでも、言質を取りに来たわけでもない。ちゃんと……ちゃんと理由を聞かせて。合唱祭中止の背後にあなたがいたと知ったところで、それだけじゃ私たちが求める答えにはならない」
たしかなことは何もわからない。でもなんとなく、桐山会長は理由もなく行事を潰すような人間ではないという気がするのだ。合唱祭の中止に理由があるのなら、私はそれを知りたいと思う。知らなければならないと思う。
けれど桐山会長は、一つの条件を出したのだ。
「そのためには、僕からの質問にも答えてもらいたい」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる