32 / 55
9月9日 火曜日
第32話 裏方業務開始
しおりを挟む
「にしても、あんな暴挙に出るなんて」
生徒会室でチーム編成のためのグループを整理しながら、山名さんが苦笑する。もちろん、中村くんと輝の放送室ジャックの件だ。
「いや、あれには俺らでさえもびびったから」
苦笑しながら言う乾に、私もうなずく。
「ほんと、お茶吹きそうになったもん。まさかあんなインパクトで攻めるとは思ってなかったから」
その言葉に嘘はない。でもそれ以上に、本当によく考えられた台本だったなあと感心してしまうのだ。
いきなりの「ヘーイ!」で一気に注意を引きつけたのはもちろん、中村くん一人じゃなく輝──つまりピッチもトーンも全然違う女子の声を一緒に使ったことで、あの放送には聴く者を飽きさせないメリハリがしっかりと生まれていた。
それから、「先生がすっ飛んでくるかもしれない」からと手短に、最小限の情報だけで済ませたのもプラスに働いたに違いない。長く退屈な話は、気の多い高校生の耳には届かないのだ。ちなみに、すっ飛んでいこうとする先生を足止めすべく中村くんによって派遣されていた新垣くん曰く、職員室ではみんな肩を震わせていただけで、特に誰もすっ飛んでいきそうなようすは見せなかったらしい。なんだそれは。
無関係な全校生徒の大半は「合唱委員がなんか変なことやり始めたな」としか思っていなかったと思う。もちろん、それでこそ中村くんの策士っぷりが光るというものだけれど。
「うちのクラスでも超ウケてましたよ」
真紀ちゃんが笑う。
彼女も、合唱祭開催が公になったことで、あの日の宣言通り戻ってきてくれたのだ。
ついに──ついに、合唱祭実行委員が全員そろった。
そこに桐山会長をはじめとする生徒会執行部の面々を加え、私たちは合唱祭を作っていくのだ。
「あ、そうだ。選曲なんですけど」
中村くんの声に、みんな手を止めて彼に注目する。
「ヒデに話つけてきたんで、何人か一緒に来てもらえます?」
まるでなんてことのないような発言に、私は思わずぽかんと口を開けた。
「え、ヒデって? 誰?」
「音楽の芦田先生のことだと思う。たぶん……」
そばでそんな囁き声が聞こえる。やっぱり、芦田先生をヒデと呼ぶのは学校中を探してもこの中村くんだけに違いない。いや、それよりも。
「話つけてきた……って、どういうこと?」
新垣くんが首をかしげる。
そう、それなのだ。一体何の話をどうつけてきたのか。
「まあ、行けばわかると思いますけど……ちょっと選曲に手を貸してほしいって頼んでみたら、快くオーケーもらっちゃったんですよ」
これには一同そろってあっけにとられてしまった。
だって、中村くんは昼休みには放送室をジャックしていたし、放課後にはきっといち早く中庭に駆けつけてくれていたはずなのだ。一体いつのまにそんな行動に出ていたというのだろう。件の放送室ジャックだって、決まったのはつい昨日のことなのに。
でも今は、もっと大事なことがあった。
「行きたい!」
私は立ち上がり勢いよく手を挙げる。
たとえ実際に自分が歌えるのは一曲だけだとしても、当日聴ける曲を選べるのだ。まあ、例によってどれくらい聴けるかはわからないけれど。
「いやお前が行くのは最初から決定事項だから」
乾が何を今更、と言わんばかりの顔で言う。
「え?」
「あ、じゃあ僕も行きます。音楽選択だったので」
そう言って塚本くんが立ち上がったので、中村くんを含めた私たち三人はそのまま廊下に出た。
と、続いてもう一人生徒会室から出てきた人がいる。小柄でかわいらしい雰囲気の女子生徒だ。
「執行部の河野です。私もご一緒しますね」
彼女はそう名乗り、ぺこりと頭を下げた。
正確には河野明美さんという、生徒会執行部のもう一人の副会長だ。
クラスも違うし接点もないのにどうしてフルネームや役職まで知っているのかといえば、春の生徒会選挙に出ていたからだ。立候補演説を聴きながら、外見の印象そのままの、少女のような可憐な声だと思ったのを覚えている。
私たちは互いにぺこぺこと挨拶し、一緒に音楽室に向かった。
生徒会室でチーム編成のためのグループを整理しながら、山名さんが苦笑する。もちろん、中村くんと輝の放送室ジャックの件だ。
「いや、あれには俺らでさえもびびったから」
苦笑しながら言う乾に、私もうなずく。
「ほんと、お茶吹きそうになったもん。まさかあんなインパクトで攻めるとは思ってなかったから」
その言葉に嘘はない。でもそれ以上に、本当によく考えられた台本だったなあと感心してしまうのだ。
いきなりの「ヘーイ!」で一気に注意を引きつけたのはもちろん、中村くん一人じゃなく輝──つまりピッチもトーンも全然違う女子の声を一緒に使ったことで、あの放送には聴く者を飽きさせないメリハリがしっかりと生まれていた。
それから、「先生がすっ飛んでくるかもしれない」からと手短に、最小限の情報だけで済ませたのもプラスに働いたに違いない。長く退屈な話は、気の多い高校生の耳には届かないのだ。ちなみに、すっ飛んでいこうとする先生を足止めすべく中村くんによって派遣されていた新垣くん曰く、職員室ではみんな肩を震わせていただけで、特に誰もすっ飛んでいきそうなようすは見せなかったらしい。なんだそれは。
無関係な全校生徒の大半は「合唱委員がなんか変なことやり始めたな」としか思っていなかったと思う。もちろん、それでこそ中村くんの策士っぷりが光るというものだけれど。
「うちのクラスでも超ウケてましたよ」
真紀ちゃんが笑う。
彼女も、合唱祭開催が公になったことで、あの日の宣言通り戻ってきてくれたのだ。
ついに──ついに、合唱祭実行委員が全員そろった。
そこに桐山会長をはじめとする生徒会執行部の面々を加え、私たちは合唱祭を作っていくのだ。
「あ、そうだ。選曲なんですけど」
中村くんの声に、みんな手を止めて彼に注目する。
「ヒデに話つけてきたんで、何人か一緒に来てもらえます?」
まるでなんてことのないような発言に、私は思わずぽかんと口を開けた。
「え、ヒデって? 誰?」
「音楽の芦田先生のことだと思う。たぶん……」
そばでそんな囁き声が聞こえる。やっぱり、芦田先生をヒデと呼ぶのは学校中を探してもこの中村くんだけに違いない。いや、それよりも。
「話つけてきた……って、どういうこと?」
新垣くんが首をかしげる。
そう、それなのだ。一体何の話をどうつけてきたのか。
「まあ、行けばわかると思いますけど……ちょっと選曲に手を貸してほしいって頼んでみたら、快くオーケーもらっちゃったんですよ」
これには一同そろってあっけにとられてしまった。
だって、中村くんは昼休みには放送室をジャックしていたし、放課後にはきっといち早く中庭に駆けつけてくれていたはずなのだ。一体いつのまにそんな行動に出ていたというのだろう。件の放送室ジャックだって、決まったのはつい昨日のことなのに。
でも今は、もっと大事なことがあった。
「行きたい!」
私は立ち上がり勢いよく手を挙げる。
たとえ実際に自分が歌えるのは一曲だけだとしても、当日聴ける曲を選べるのだ。まあ、例によってどれくらい聴けるかはわからないけれど。
「いやお前が行くのは最初から決定事項だから」
乾が何を今更、と言わんばかりの顔で言う。
「え?」
「あ、じゃあ僕も行きます。音楽選択だったので」
そう言って塚本くんが立ち上がったので、中村くんを含めた私たち三人はそのまま廊下に出た。
と、続いてもう一人生徒会室から出てきた人がいる。小柄でかわいらしい雰囲気の女子生徒だ。
「執行部の河野です。私もご一緒しますね」
彼女はそう名乗り、ぺこりと頭を下げた。
正確には河野明美さんという、生徒会執行部のもう一人の副会長だ。
クラスも違うし接点もないのにどうしてフルネームや役職まで知っているのかといえば、春の生徒会選挙に出ていたからだ。立候補演説を聴きながら、外見の印象そのままの、少女のような可憐な声だと思ったのを覚えている。
私たちは互いにぺこぺこと挨拶し、一緒に音楽室に向かった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる