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もう時間は深夜になっている。だが。扉の隙間から光が漏れていた。
書斎の扉の前に立つと、中から母の声が聞こえた。
父だけでなく、母もいるようだが、その声はひどく取り乱しているようだった。
扉をノックし、ノブに手をかける。
「晴臣です」
中に入ると書斎には父だけでなく、母もいる。これは珍しい。
晴臣はちらっと視線を向けてから「亜季に何か話ましたか?」と尋ねた。
「いいや」
「そうですか……」
父の書斎から歩いてきたと思ったが、両親とは話をしなかったのだろうか──。
照明の落とされた薄暗い部屋の中に沈黙が落ちる。
「母さんもいるなんて、なにかありましたか?」
「それが……」
こちらも珍しく父が言い淀む。
「なにが!」
晴臣も少し焦りを感じて、語気が荒くなる。
「晴臣」
先ほどはひどく動揺しているような声だったが、いまは落ち着いて見えた。
その母に名前を呼ばれて、「はい」と答える。
「亜季がね、『オメガ』だったの」
「!?」
亜季の様子から、アルファではなかったのだろうとは思っていた。きっとアルファだったなら、先ほどの涙もなければ、会ったときに「晴兄さま、亜季はやっぱりアルファでしたよ」と明るく報告していたに違いない。
アルファじゃなく、「ベータ」であったことに落ち込んでいるのかと思っていたが、オメガであることに亜季は悩んでいたのかもしれない。
亜季から相談を引き出せなかったことを晴臣は心から悔やんだ。
「みんな『アルファ』なのに……」
父の言葉にはっと意識を戻す。
亜季がオメガ──。
「どうして、なんで『オメガ』……」
母の声は落ち着いていたが、悲嘆にくれていた。
「父さんも母さんも亜季がオメガだと家族だと認めないと?」
あまりの二人の態度に晴臣の声には怒気がこもる。
「いや、そうではないんだ」
「オメガだろうが何だろうが亜季は大切な息子よ。可愛い末っ子だわ」
二人は即座にオメガでも問題ないという。
では、なぜそんなに──。
晴臣は思ったことをそのまま口にした。
「いや、私たちはみんなアルファだろう? いろいろ大変だとは思う」
「そうよ。可愛い末っ子がこれからしなくていい苦労をすることになるなんて……考えるだけで……」
辛い。
それはそうだ。アルファはただその第二性だけで優遇される。オメガは逆にその第二性というだけで、冷遇されるのだ。
でも、何も問題ないではないか──。
自分で言うのもなんだが、我が家は裕福だ。それこそ亜季が一人働かずに生活していくのは余裕以上に余裕である。それなのに何を憂う必要が……。
「そうね。亜季ちゃん一人くらい……というか、冬紀や夏が働かなくたって死ぬまで食べて行けるくらいよ」
「なら、なんでそんなに……」
思わず口をつく疑問に、母は「だとしても、一生家から出ないで生活は出来ない。発情期だって考えなくてはならない」という。
いまでは、オメガがベータと同じように生活できるように抑制剤や発情期制御の薬が様々に開発されている。それを使えば問題ない。
「薬もいろいろありますし」
「それでも、外は危ないわ。しなくてよかった苦労をさせる」
それでも、可愛い末っ子であることに変わりはない。
家族全員で守り育てよう、そう三人で話し合った。
幸いなことに、他の兄弟二人の反応も似たようなものだった。
翌朝父と母から亜季がオメガであるということを伝えられた、次男 冬紀と三男 夏樹も、「可愛い末っ子がオメガだからなんだというのです?」、「もう亜季を家から出さない」などと口々に言っていた。
アルファばかりの家に生まれて、このような差別意識を一切持たずに「末っ子オメガ」を可愛がることが出来るのはひとえに両親の教育の賜物だと晴臣は思った。
愛らしく育った末っ子に家族全員がメロメロだった。
父も母も、冬紀も夏輝も、そして晴臣も──
「オメガだからといってなんだ」
「家族を引き離すなんてあり得ない」
「いままでと変わらない」
末っ子を大切に育てよう、と家族全員で決意する。
だがそれも、あの事故が起こるまでの束の間の幸せだった。
発情期で淫らに身をくねらせ、後ろの口と上の口に弟二人の欲望を咥えさせられた姿になるまでの──。
書斎の扉の前に立つと、中から母の声が聞こえた。
父だけでなく、母もいるようだが、その声はひどく取り乱しているようだった。
扉をノックし、ノブに手をかける。
「晴臣です」
中に入ると書斎には父だけでなく、母もいる。これは珍しい。
晴臣はちらっと視線を向けてから「亜季に何か話ましたか?」と尋ねた。
「いいや」
「そうですか……」
父の書斎から歩いてきたと思ったが、両親とは話をしなかったのだろうか──。
照明の落とされた薄暗い部屋の中に沈黙が落ちる。
「母さんもいるなんて、なにかありましたか?」
「それが……」
こちらも珍しく父が言い淀む。
「なにが!」
晴臣も少し焦りを感じて、語気が荒くなる。
「晴臣」
先ほどはひどく動揺しているような声だったが、いまは落ち着いて見えた。
その母に名前を呼ばれて、「はい」と答える。
「亜季がね、『オメガ』だったの」
「!?」
亜季の様子から、アルファではなかったのだろうとは思っていた。きっとアルファだったなら、先ほどの涙もなければ、会ったときに「晴兄さま、亜季はやっぱりアルファでしたよ」と明るく報告していたに違いない。
アルファじゃなく、「ベータ」であったことに落ち込んでいるのかと思っていたが、オメガであることに亜季は悩んでいたのかもしれない。
亜季から相談を引き出せなかったことを晴臣は心から悔やんだ。
「みんな『アルファ』なのに……」
父の言葉にはっと意識を戻す。
亜季がオメガ──。
「どうして、なんで『オメガ』……」
母の声は落ち着いていたが、悲嘆にくれていた。
「父さんも母さんも亜季がオメガだと家族だと認めないと?」
あまりの二人の態度に晴臣の声には怒気がこもる。
「いや、そうではないんだ」
「オメガだろうが何だろうが亜季は大切な息子よ。可愛い末っ子だわ」
二人は即座にオメガでも問題ないという。
では、なぜそんなに──。
晴臣は思ったことをそのまま口にした。
「いや、私たちはみんなアルファだろう? いろいろ大変だとは思う」
「そうよ。可愛い末っ子がこれからしなくていい苦労をすることになるなんて……考えるだけで……」
辛い。
それはそうだ。アルファはただその第二性だけで優遇される。オメガは逆にその第二性というだけで、冷遇されるのだ。
でも、何も問題ないではないか──。
自分で言うのもなんだが、我が家は裕福だ。それこそ亜季が一人働かずに生活していくのは余裕以上に余裕である。それなのに何を憂う必要が……。
「そうね。亜季ちゃん一人くらい……というか、冬紀や夏が働かなくたって死ぬまで食べて行けるくらいよ」
「なら、なんでそんなに……」
思わず口をつく疑問に、母は「だとしても、一生家から出ないで生活は出来ない。発情期だって考えなくてはならない」という。
いまでは、オメガがベータと同じように生活できるように抑制剤や発情期制御の薬が様々に開発されている。それを使えば問題ない。
「薬もいろいろありますし」
「それでも、外は危ないわ。しなくてよかった苦労をさせる」
それでも、可愛い末っ子であることに変わりはない。
家族全員で守り育てよう、そう三人で話し合った。
幸いなことに、他の兄弟二人の反応も似たようなものだった。
翌朝父と母から亜季がオメガであるということを伝えられた、次男 冬紀と三男 夏樹も、「可愛い末っ子がオメガだからなんだというのです?」、「もう亜季を家から出さない」などと口々に言っていた。
アルファばかりの家に生まれて、このような差別意識を一切持たずに「末っ子オメガ」を可愛がることが出来るのはひとえに両親の教育の賜物だと晴臣は思った。
愛らしく育った末っ子に家族全員がメロメロだった。
父も母も、冬紀も夏輝も、そして晴臣も──
「オメガだからといってなんだ」
「家族を引き離すなんてあり得ない」
「いままでと変わらない」
末っ子を大切に育てよう、と家族全員で決意する。
だがそれも、あの事故が起こるまでの束の間の幸せだった。
発情期で淫らに身をくねらせ、後ろの口と上の口に弟二人の欲望を咥えさせられた姿になるまでの──。
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