44 / 744
連載
130、久し振り
しおりを挟む色々なイベントを取り扱う会場だけあって、一つ一つのゲームブースが十分な広さで展開されていて、頭上にある大型スクリーンからは、そのゲームの見どころのような映像が流れている。これを見てると全部のゲームをしたくなるくらいに、その映像がかっこよくて、時に可愛くて、それを見ているだけで楽しめた。そして、それぞれのブースに立つスタッフたちは、そのゲーム内のコスチュームを着て手を振ったりしている。その服がまた精巧で見ものだったりする。
目指すADOブースは最奥に位置する場所にあった。人気のあるゲームは一か所に集まらないように満遍なく散る配置になっているらしい。とは、結構色々なゲームに手を出したハルポンさん談だ。
「『ADO』が奥だろ。中央には一番人気の『USM』そして入り口から右奥に入っていったところに『マギタイト』置いてるだろ」
次々と人気ランキング上位をゲームを答えていくハルポンさんは、人気上位に位置するゲームは一通りこなしてきたらしいけれど、一番奥が深いのがADOなんだそうだ。
「他のはやっててちゃんとゲームだってどこかでわかってるんだけどな。ADOはそこらへんがものすごく曖昧になるんだ。中の人たちも独自思考型のAIかと思いきやそれともちょっと違う、生身っぽいだろ。だからやり込んじまってなあ。あはは。あ、あのUSMはやっててものすごくインプットされたデータだってわかるから比較対照出来て面白いぞ。何せ店番のNPCがいらっしゃいませしか言わないし道端の人たちは同じ話題を延々と続けてるし。アレが生身って言われたら逆に感動する」
「へえ。さっすが廃ゲーマー」
「俺そこまで廃れてねえよ。もっとヤバい奴いっぱいいるから」
雄太の突っ込みにも笑顔で返すハルポンさんはなんだか大人だった。ゲームに時間を費やすダメな方の大人だけど。俺もそんな風になるのかな。ヤバいそんな未来しか見えなくなってきた。
遠い目をしつつ必死で足を動かしていると、ようやく見えてきたADOブース。そこに備えられた大型のディスプレイには、オープニングムービーが流れていた。ほんとかっこいい。そう思って横を見たら、雄太がなんだか死んだような目をしていた。『高橋と愉快な仲間達』のメンバーも似たような目をしていた。あの赤毛の人が、嫁の尻に敷かれるのが好きな人か……。そう思って見ちゃうと、かっこよさとはまた違う複雑な気持ちが生まれてくるよ。
そして勇者の前に立つ黒い魔王がまた禍々しい。それに対峙する勇者が雄たけびを上げる。この後ろ辺りにエミリさんがいるのかな。
他のメンバーが全く映ってないのが気になる。
サラさんとか見てみたかった。あと、賢者。今も密かに生きていて、世界中を走り回っているんだろ。力になってやってくれって、最後の力を振り絞ってあの本に託したサラさんの希望、少しでも力になりたいよなあ。
優先で入ったはずなのに、やっぱりというかADOブースにはすでに人が大分集まっていた。
でもまあ、去年なんかよりは全然マシか。去年はほんと人の間からあの天井のディスプレイを眺めるだけで終わったから。
人の間から、スタッフが見えるもん。
って、あれ……。
ADOブースで、ADOのNPCの一般的軽装備を身にまとっているあの人。
「おい健吾。なんか門番さんがいるんだけど……」
隣から、雄太の驚いた声が聞こえてくる。
俺も見えた。でもあれ、ヴィデロさんじゃない。ヴィルさんだ。
ヴィルさん、ADO関係者だったのか……?
『皆さん、ようこそここアナザーディメンションオンラインブースへお越しくださいました。15歳未満体験コーナーや、質問に答えようコーナーなど、色々な物が盛りだくさんでありますので、一日楽しんでいってくださいね』
マイクを持ったヴィルさんの声が、ブース内に響く。
他のブースの雑音も気にならない美声に、皆が聞きほれているように見えた。
「なあマック。あれ、この間一緒にいた門番さんか? あの人NPCだと思ってたら、プレイヤーだったのか?」
「違うよ」
違う。
ヴィデロさんの身体は本物だって、獣人の石像が言ってたから。
俺の身体は偽物だってはっきりと言ってたから、だから、ヴィデロさんの身体は死に戻りの出来ない、向こうの世界の住人なんだ。
「そっか。そっくりだけどなあ。でもまあ、あの門番さんはちゃんとNPC表示だったしなあ。しかし、似てる人もいるもんだな」
ヴィルさんは、ヴィデロさんがよく着てるような白いシャツを羽織って、その上から胸当てをして、ズボンにブーツ、腰には剣を刺して籠手を着けていた。
背景もADOの街並みを意識して作られているセットなので、そこだけあの世界が切り取られてきたかのような錯覚に陥る。
「奥のほうでキャラ名入れるとレベル順位が出るっていうのもあるんだってよ」
「順位か。今最高レベルってどれくらいなんだろ」
「あー、『夕凪』のリーダー136越えってのは最近聞いたけど」
横で雄太たちが話してるのを聞きながらも、俺の目はヴィルさんを追っていた。
「とりあえずランキング出してみたい。お前ら行く?」
ハルポンさんは人波をかき分けて、そのランキングが出せるところに行くらしい。もう最後尾ここ、という札が立っている。スタッフさんが街の住民の格好をして札を持っている。
行ってみるかな、と雄太はユイの手を取った。増田とブレイブはそれよりもグッズが気になる、と言って、違うほうに向かおうとしている。
「俺、レベルはたかが知れてるし、ランキングはいいかな。それより」
周りには続々と人が集まってきている。今を逃すときっと前の方になんて出れないから。
「街のセットとか色々間近で見たいから」
そう言って、俺は雄太たちに手を振って、単独で最前線に乗り込んでいった。
ライトアップされたその一角は、どこかで見たことのあるような街並みで、セィ城下街を模しているということが、奥の城壁でわかった。
ああ、あの門で、ヴィデロさんが立派な鎧を着て立ってたんだ。そんなことを思い出させるほどに精巧に作られた街並みは、見ているだけでゲームをしているような気分になってくる。
自分が今、自分自身のはずなのに、アバター姿のマックでここに立っているような錯覚に陥る。
看板とかぶら下がっているのが、向こうの文字だっていうのもすごい。読めない。やっぱりギアつけてないと読めないってことなのかな。
ってことは、言葉もギアがないと通じないってこと……?
そう言えば、向こうの世界の文字って、どうなってた?
こっちの文字を書いて、そのまま残ったっけ……? 文字も翻訳ってされなかったっけ。そもそも、向こうで文字って書く機会がないからなあ。
セットを見ながらそんなことを考えているとドン、と後ろから押された。
「うわっ」
思わず手をついてしまい、いたた、と身を起そうとすると、スッと手が差し出された。
「大丈夫か?」
「あ、大丈……夫……」
顔を上げると、目の前にヴィルさんの顔があった。
「久し振りだね、健吾。今日は来ていたんだな。人がたくさんいるから気を付けて」
「あ、はい。ありがとうございます……」
手を取られて、ひょいっと起こされる。周りからは女性の黄色い悲鳴が上がっていた。
それにしても。と超間近でヴィルさんを見る。
すごくヴィデロさんに似てるけど、見れば見るほど違うなっていうのがわかる。
「それにしても健吾がADOをプレイしていたなんてな。すごい偶然だ。じゃあ、とりあえず、質問コーナーがこの後始まるんだけど、健吾の質問に第一番に答えてあげよう」
別に汚れてはいなかったんだけど、ヴィルさんが俺のお尻の埃をポンポンと払ってくれて、俺だけじゃなくて周りの人全員を対象にウインクした。ほんと美形は様になる。
足が長いから向こうの世界の服を着ても全然違和感がないし。
ヴィルさんは俺が立ち上がったのを確認すると、するりと手を離してマイクを構えた。
『皆色々な物を見て楽しんでいると思うけど、ここでちょっと質問コーナーを設けるよ。何か俺たちに聴きたいことはあるかい? プライベートなこととか、ずるい手口に対する質問以外なら、出来る限り応えるよ』
周りにいた人たちが、一斉に手を上げて質問を投げ始める。うわ、これじゃ何言ってるのか全然わからない。
ヴィルさんは、今度こそ人波に戻った俺に向かってウインクをした。
『よし、じゃあ、そこの今転んだ少年。大丈夫かい? 皆も、無理やり押すと誰かが転んで怪我人が出るから気を付けて。じゃあ少年から。質問があれば、どうぞ」
いきなりそう言われても。とちょっとだけ戸惑う。
疑問に思っても、自分で答えを探さないといけないような内容ばっかりだし。クエストのヒントとかは、それこそここで聞くのは間違ってる気がするし。
取り敢えず、当たり障りのない質問をすることにした。
「15年前に魔王を討伐したメンバーの人たちの性格とか、ちょっと気になる、かな」
いい質問が浮かばなくてそう言うと、ヴィルさんが途端に面白そうな顔をした。
2,477
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
「妹のためです!」
……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
【8話完結】いじめられっ子だった僕が、覚醒したら騎士団長に求愛されました
キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。
けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。
そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。
なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」
それが、すべての始まりだった。
あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。
僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。
だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。
過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。
これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。
全8話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。