これは報われない恋だ。

朝陽天満

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131、中の人じゃなかった……

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『なかなか面白い質問だな。よし、俺が知ってる4人の性格を答えよう。この、かっこいい勇者。性格は、気さくで面白いし冗談も通じる。そして、魔王を討伐した報酬として、王様に第三王女を嫁に貰ったんだ。よくある勇者の定番だな。その王女を、今でも深く深く愛しているよ』



 またもきゃあと女性の声が上がる。勇者が王女を娶って一生愛するって、こうやって聞くとすごくロマンチックな話に聞こえるから不思議だ。

 雄太もどこかで聞いてるよな。ものは言いよう、とか突っ込んでそう。思わず口元を緩めると、次は、とヴィルさんが口を開いた。



『皆もお馴染み冒険者ギルドのトップも、この勇者の仲間だったのは知ってるよな。剣と魔法に長けた超美人エルフ。彼女は実は魔王討伐当時、小さな子供がいたんだ。今もその子をすごく可愛がっている、慈愛の人だよ。とても楽しいことが好きだから、運のいい人はもう会ってるんじゃないか?』



 確かに。フレンド登録とか、さくっとしてくれるしなあエミリさん。



『ちなみにな、その美人エルフさんの息子は、トレの街の雑貨屋さんをしてるから、気になる人は会ってみるといいよ。その子もめちゃくちゃイケメンだから。ただし、迷惑を掛けるとぼろぼろにされるから気を付けろよ。その子も剣と魔法は使えるから』



 マイクを通した言葉に、周りの人たちが歓声を上げる。

 ヴィルさんは周りの反応にうんと頷くと、ちらりと俺を見た。



『勇者たちのメンバーには、あと二人、メンバーがいたんだ。もちろん、ちょっとネットを調べた人は知ってると思う。その二人は、魔王討伐の際に命を落としたと言われているんだ。最強魔導士と賢者。二人は実は幼馴染でね、身分違いだったんだけれど、それを越えた絆で結ばれていたんだそうだよ。……っていうのは、ゲーム内図書館に置いてある英雄関連の本に書いてある。気になるやつは、各街の図書館に行って、読んで見ることをお奨めするよ。それにな、色々なスキルを覚えることが出来るかもしれない貴重な場所なんだよ、図書館は』



 今度は男女両方から歓声が上がる。ああ、これでしばらくは図書館が満員御礼状態になるぞ。近付かないようにしよう。



『二人の肝心の性格だけどね』



 ヴィルさんはマイクを持ち直すと、一旦間を置いてから、上に流れる動画を見上げた。



『あまり詳しくは知られていないんだ。ただ、全員が明るくて、魔王討伐に対しても全く悲観していなかったそうだよ。二人、戻ってこなかったけれども。そこらへんも、隈なくADOの世界を歩いたら、わかるかもしれないな。あの世界は、強くなって魔物を退治すること以外にも、たくさんのことが出来るから。探してみたら、特殊職とか特殊スキルだってあると思う。皆も自分なりにADOの世界を楽しんでもらえたら幸いだ』



 ああ、結局二人のことはほぼわからないで終わった。少しだけがっかりしつつ、「ありがとうございました」と伝えると、ヴィルさんは俺にウインクして、次の質問を受け付け始めた。

 それを聞くとはなしに聞きながら、少しずつ移動する。

 街並みを少し奥に行ったところには、公になっているスキル一覧とか、基本職一覧、わかっている上位職等々、そんなものが画面に出ている場所があるみたいだから、そっちに足を向けた。



『上位職になる方法? そうか。君は上位職になるために頑張ってるんだな。そうだな。俺からのアドバイスは一言。街の人たちを大事にしろよってこと。彼らも、自ら考えて動いているんだ。だから、君たちが不快だと思うことは、彼らも不快に感じるし、君たちが彼らを救ったら、彼らは君たちを信頼する。その絆を大切にしない人は、上位の職にはなれないんじゃないか、とだけ。頑張れ』



 マイクを使っているので、歩いていてもヴィルさんの声が聞こえてくる。

 声も似てるんだよな。でもヴィデロさんはあんな風にウインク多発しないし。

 って何俺比較検討してるんだよ。

 ちょっとだけ溜め息を吐いて、レンガのアーチを潜る。右奥に見える人だかりは、ランキングを出せる場所かな。

 左奥に行くと、グッズ販売している場所がある。このまままっすぐ進むと、実際に誰かがログインしてADOで活動している姿が見れる場所があるらしい。

 一覧表があるモニターには人だかりができていて、ちらりとしか画面を見ることが出来なくて、早々に諦めた。こういう時背が高いと上から見れたりするのかな。



 どっちに行こうか迷ってきょろきょろしていると、案内のスタッフさんが「迷ったの? 大丈夫?」と声を掛けてくれた。

 大丈夫です、とそのスタッフさんに返して、足を進める。



 ワクワクしていたはずが、ヴィルさんがいたことで、何か違う感情に置き換わっちゃったみたいだった。ここが現実で、これはゲームフェスタで、俺はマックじゃなくて健吾で。そんなものがすべて、夢の世界だったみたいな、不思議と足が地についてないような感覚に、身体が支配される。ヴィルさんがヴィデロさんにそっくりなのがいけないんだ、なんてちょっと責任転嫁してみる。

 それに、と石像の言葉を思い出していた。



 ヴィデロさんの魂は、俺達に近い。



 お母さんがこっちの世界の人だと言われていたり、向こうの世界の住人にはないはずの『スキル』なんてものを持っていたり、魂はこっちに近いって言われたり。

 ヴィデロさんのことを知れば知るほど、わからなくなる。

 それはアレかな。たとえADOのサービスが終わってしまってログインできなくなっても、ヴィデロさんと一緒にいれるってこと? それとも、心だけは寄り添えるよ、っていう、精神的な運命ってこと? 実はヴィルさんがヴィデロさんの中の人で、こっちにはヴィデロさんの本体がいるってこと? 

 色々と頭がグルグルする中、俺は、ADOを映し出されるモニター前に流されてきていた。

 ふと、ずらっと並んだモニターを見上げると、「今現在ADOの世界に遊びに行っている人たちを見てみよう(追っている人物には許可を得ています)」という文字がモニターの間に掲げられており、そこにはいろいろな街が映されていた。

 中には、トレの街を移動する人もいて。思わずそのモニターに釘付けになる。

 トレの街並を足早に歩くプレイヤーは、ことごとくモニターに向かって手を振っていた。うん、確かに本人に許可を得てるよ、と思わず笑う。そのプレイヤーは冒険者ギルドでクエストを受けたらしく、時々視線を動かしては、よし、と頷いている。

 門に近付き、街の外に出ようとして、門番さんたちと立ち話を少しだけする姿が映し出されていて。

 あ、と思った。

 その門番さんの一人が、ヴィデロさんだった。

 ヴィデロさんはそのプレイヤーと何かを話しながら、森を指さしていた。そして、見送って手を振っていた。



 今現在のことを映しているモニターにヴィデロさんが映っているってことは、ヴィルさんがヴィデロさんの中の人だっていう説は完璧に否定されたわけで。

 ちょっとだけホッとした。だって、話せは話すほど、ヴィルさんは俺の知ってるヴィデロさんとは違う性格だって感覚的に思うから。そこまで話をしたわけじゃないからはっきりとは言えないけど。





 そして、やっぱりヴィデロさんは向こうの世界の人なんだっていう諦めが、心の中に染み込んでいって、少しだけテンションが下がった。



 でもせっかく楽しみにしていたゲームフェスタだし、と俺は気を取り直して、人波をかき分けながらモニター前を移動した。



 

 どっちに向かおうか迷いながら進んでいると、そこは15歳未満の子がADOの世界を体験できるブースだった。

 ずらりと小学生中学生くらいの子たちが並んでいる。ワクワクした顔がすごく眩しい。そういえば俺も雄太と二人でこんな風な顔して15歳になるのを今か今かと待っていたよな、なんて思いながらそこを通り抜けようとすると、体験コーナーのギアの一つをスタッフ数名が囲んでいた。

 その人たちはコスプレじゃなくて、普通にスーツを着ていたので、少しだけ違和感があった。

 なんとなく足を止めて注目していると、人波をかき分けて、スタッフ用の腕章を付けた女性が一人現れた。

 ヒールを履いて、きりっとした顔をした、美人な外人女性だった。



「ああ、これ、設定がちょっとおかしいわ。端末を貸して、すぐに直すから」



 ギアを受け取って少し弄っただけでそう断言した女性は、他のスタッフから携帯端末を受け取ると、線を繋いで何かを打ち始めた。

 すぐに端末からピロンと音がして、女性がギアから配線を抜き取る。



「これで大丈夫よ。ありがとう」



 そう言って端末を返すと、女性は、待っていた子供たちに向かって、にっこりと微笑んだ。



「待たせてごめんね。もう大丈夫。また、ADOの世界を楽しんでくださいね」



 そう言うと、次に並んでいた子を手招いて、自らギアを被せてあげていた。

 はっきり言ってかっこよかった。

 一瞬で不具合を直したり、待たせた子に対するあの対応。

 そして、あの笑顔。ちょっと見惚れるその美形の笑顔は、なんだかどこかで見たことがあるような気がした。



 
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