45 / 744
連載
131、中の人じゃなかった……
しおりを挟む『なかなか面白い質問だな。よし、俺が知ってる4人の性格を答えよう。この、かっこいい勇者。性格は、気さくで面白いし冗談も通じる。そして、魔王を討伐した報酬として、王様に第三王女を嫁に貰ったんだ。よくある勇者の定番だな。その王女を、今でも深く深く愛しているよ』
またもきゃあと女性の声が上がる。勇者が王女を娶って一生愛するって、こうやって聞くとすごくロマンチックな話に聞こえるから不思議だ。
雄太もどこかで聞いてるよな。ものは言いよう、とか突っ込んでそう。思わず口元を緩めると、次は、とヴィルさんが口を開いた。
『皆もお馴染み冒険者ギルドのトップも、この勇者の仲間だったのは知ってるよな。剣と魔法に長けた超美人エルフ。彼女は実は魔王討伐当時、小さな子供がいたんだ。今もその子をすごく可愛がっている、慈愛の人だよ。とても楽しいことが好きだから、運のいい人はもう会ってるんじゃないか?』
確かに。フレンド登録とか、さくっとしてくれるしなあエミリさん。
『ちなみにな、その美人エルフさんの息子は、トレの街の雑貨屋さんをしてるから、気になる人は会ってみるといいよ。その子もめちゃくちゃイケメンだから。ただし、迷惑を掛けるとぼろぼろにされるから気を付けろよ。その子も剣と魔法は使えるから』
マイクを通した言葉に、周りの人たちが歓声を上げる。
ヴィルさんは周りの反応にうんと頷くと、ちらりと俺を見た。
『勇者たちのメンバーには、あと二人、メンバーがいたんだ。もちろん、ちょっとネットを調べた人は知ってると思う。その二人は、魔王討伐の際に命を落としたと言われているんだ。最強魔導士と賢者。二人は実は幼馴染でね、身分違いだったんだけれど、それを越えた絆で結ばれていたんだそうだよ。……っていうのは、ゲーム内図書館に置いてある英雄関連の本に書いてある。気になるやつは、各街の図書館に行って、読んで見ることをお奨めするよ。それにな、色々なスキルを覚えることが出来るかもしれない貴重な場所なんだよ、図書館は』
今度は男女両方から歓声が上がる。ああ、これでしばらくは図書館が満員御礼状態になるぞ。近付かないようにしよう。
『二人の肝心の性格だけどね』
ヴィルさんはマイクを持ち直すと、一旦間を置いてから、上に流れる動画を見上げた。
『あまり詳しくは知られていないんだ。ただ、全員が明るくて、魔王討伐に対しても全く悲観していなかったそうだよ。二人、戻ってこなかったけれども。そこらへんも、隈なくADOの世界を歩いたら、わかるかもしれないな。あの世界は、強くなって魔物を退治すること以外にも、たくさんのことが出来るから。探してみたら、特殊職とか特殊スキルだってあると思う。皆も自分なりにADOの世界を楽しんでもらえたら幸いだ』
ああ、結局二人のことはほぼわからないで終わった。少しだけがっかりしつつ、「ありがとうございました」と伝えると、ヴィルさんは俺にウインクして、次の質問を受け付け始めた。
それを聞くとはなしに聞きながら、少しずつ移動する。
街並みを少し奥に行ったところには、公になっているスキル一覧とか、基本職一覧、わかっている上位職等々、そんなものが画面に出ている場所があるみたいだから、そっちに足を向けた。
『上位職になる方法? そうか。君は上位職になるために頑張ってるんだな。そうだな。俺からのアドバイスは一言。街の人たちを大事にしろよってこと。彼らも、自ら考えて動いているんだ。だから、君たちが不快だと思うことは、彼らも不快に感じるし、君たちが彼らを救ったら、彼らは君たちを信頼する。その絆を大切にしない人は、上位の職にはなれないんじゃないか、とだけ。頑張れ』
マイクを使っているので、歩いていてもヴィルさんの声が聞こえてくる。
声も似てるんだよな。でもヴィデロさんはあんな風にウインク多発しないし。
って何俺比較検討してるんだよ。
ちょっとだけ溜め息を吐いて、レンガのアーチを潜る。右奥に見える人だかりは、ランキングを出せる場所かな。
左奥に行くと、グッズ販売している場所がある。このまままっすぐ進むと、実際に誰かがログインしてADOで活動している姿が見れる場所があるらしい。
一覧表があるモニターには人だかりができていて、ちらりとしか画面を見ることが出来なくて、早々に諦めた。こういう時背が高いと上から見れたりするのかな。
どっちに行こうか迷ってきょろきょろしていると、案内のスタッフさんが「迷ったの? 大丈夫?」と声を掛けてくれた。
大丈夫です、とそのスタッフさんに返して、足を進める。
ワクワクしていたはずが、ヴィルさんがいたことで、何か違う感情に置き換わっちゃったみたいだった。ここが現実で、これはゲームフェスタで、俺はマックじゃなくて健吾で。そんなものがすべて、夢の世界だったみたいな、不思議と足が地についてないような感覚に、身体が支配される。ヴィルさんがヴィデロさんにそっくりなのがいけないんだ、なんてちょっと責任転嫁してみる。
それに、と石像の言葉を思い出していた。
ヴィデロさんの魂は、俺達に近い。
お母さんがこっちの世界の人だと言われていたり、向こうの世界の住人にはないはずの『スキル』なんてものを持っていたり、魂はこっちに近いって言われたり。
ヴィデロさんのことを知れば知るほど、わからなくなる。
それはアレかな。たとえADOのサービスが終わってしまってログインできなくなっても、ヴィデロさんと一緒にいれるってこと? それとも、心だけは寄り添えるよ、っていう、精神的な運命ってこと? 実はヴィルさんがヴィデロさんの中の人で、こっちにはヴィデロさんの本体がいるってこと?
色々と頭がグルグルする中、俺は、ADOを映し出されるモニター前に流されてきていた。
ふと、ずらっと並んだモニターを見上げると、「今現在ADOの世界に遊びに行っている人たちを見てみよう(追っている人物には許可を得ています)」という文字がモニターの間に掲げられており、そこにはいろいろな街が映されていた。
中には、トレの街を移動する人もいて。思わずそのモニターに釘付けになる。
トレの街並を足早に歩くプレイヤーは、ことごとくモニターに向かって手を振っていた。うん、確かに本人に許可を得てるよ、と思わず笑う。そのプレイヤーは冒険者ギルドでクエストを受けたらしく、時々視線を動かしては、よし、と頷いている。
門に近付き、街の外に出ようとして、門番さんたちと立ち話を少しだけする姿が映し出されていて。
あ、と思った。
その門番さんの一人が、ヴィデロさんだった。
ヴィデロさんはそのプレイヤーと何かを話しながら、森を指さしていた。そして、見送って手を振っていた。
今現在のことを映しているモニターにヴィデロさんが映っているってことは、ヴィルさんがヴィデロさんの中の人だっていう説は完璧に否定されたわけで。
ちょっとだけホッとした。だって、話せは話すほど、ヴィルさんは俺の知ってるヴィデロさんとは違う性格だって感覚的に思うから。そこまで話をしたわけじゃないからはっきりとは言えないけど。
そして、やっぱりヴィデロさんは向こうの世界の人なんだっていう諦めが、心の中に染み込んでいって、少しだけテンションが下がった。
でもせっかく楽しみにしていたゲームフェスタだし、と俺は気を取り直して、人波をかき分けながらモニター前を移動した。
どっちに向かおうか迷いながら進んでいると、そこは15歳未満の子がADOの世界を体験できるブースだった。
ずらりと小学生中学生くらいの子たちが並んでいる。ワクワクした顔がすごく眩しい。そういえば俺も雄太と二人でこんな風な顔して15歳になるのを今か今かと待っていたよな、なんて思いながらそこを通り抜けようとすると、体験コーナーのギアの一つをスタッフ数名が囲んでいた。
その人たちはコスプレじゃなくて、普通にスーツを着ていたので、少しだけ違和感があった。
なんとなく足を止めて注目していると、人波をかき分けて、スタッフ用の腕章を付けた女性が一人現れた。
ヒールを履いて、きりっとした顔をした、美人な外人女性だった。
「ああ、これ、設定がちょっとおかしいわ。端末を貸して、すぐに直すから」
ギアを受け取って少し弄っただけでそう断言した女性は、他のスタッフから携帯端末を受け取ると、線を繋いで何かを打ち始めた。
すぐに端末からピロンと音がして、女性がギアから配線を抜き取る。
「これで大丈夫よ。ありがとう」
そう言って端末を返すと、女性は、待っていた子供たちに向かって、にっこりと微笑んだ。
「待たせてごめんね。もう大丈夫。また、ADOの世界を楽しんでくださいね」
そう言うと、次に並んでいた子を手招いて、自らギアを被せてあげていた。
はっきり言ってかっこよかった。
一瞬で不具合を直したり、待たせた子に対するあの対応。
そして、あの笑顔。ちょっと見惚れるその美形の笑顔は、なんだかどこかで見たことがあるような気がした。
2,597
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
「妹のためです!」
……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。