これは報われない恋だ。

朝陽天満

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144、門番さんたちの正式名称

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 ダメかな。味見もしてないし。もしかしたら美味しくないかもだけど、鑑定では悪い物ではないらしいから、ちょっと試しに飲んで見て欲しいんだけど。でもやっぱり見た事もない薬って、口にするの躊躇うよな。



「ヴィデロさん?」

「……ごめん、ちょっと驚きすぎて」



 俺の言葉に、ようやくヴィデロさんがこっち側に戻ってきた。



「そうだよな、俺の惚れたマックはこういうやつだった……」



 ヴィデロさんは口角を上げてそう呟くと、手に持った薬をまじまじと見た。

 色とか匂いはそんなえぐい物じゃないんだけど。

 それにしても、穢れの応急処置って、穢れ自体はまだ治ってないってことだよな。



「胸、痛い? 酒は応急処置って言ってたから、まだ胸の所完璧に治ったわけじゃないんだよな?」

「あ、ああ。見た目は普通でも、ここら辺に違和感がある感じがまだするから、穢れが消えたわけじゃない」

「もし普段穢れちゃった場合は、どうするの? 教会行けないんだろ」

「酒を掛けて、酒を飲んで、穢れが小さくなっていくのを待つ、ってところか」

「その間、痛かったりとかする……? 人と触れると穢れるってことは、穢れた人はしばらく療養しないといけないってこと?」

「ああ。穢れたやつは基本穢れが落ちるまでは家でじっとしているな」

「もし家族とか恋人とかいたら、代わりに聖水を買いに行ったりはしないの?」

「穢れがひどい時は買いに行くが、そこまでじゃない時は、行かないのが普通だな」



 ヴィデロさんの話を聞いて、思わず顔を顰める。

 聖水ですぐ治せるのに酒でごまかすって。

 基本は教会に寄り付かないってことか。

 聖水を買いに行っても穢れがあると問答無用で捕まって、それでそのお布施を請求されるなんて、教会ってなんかヤバい商売みたいだ。



「胸、見せて」

「あ、バカ、触るな……!」

「触る。俺が穢れてみて、それを飲んでその穢れが治ったら、ヴィデロさんたちだって怪しい薬じゃないってわかるだろ」

「誰も疑ったわけじゃないって……おいマック」



 ヴィデロさんの制止も聞かずに、俺は傷のあった胸に手を伸ばした。もう紫色にはなってないんだけど、でもまだ穢れてるんだよな? 

 触って、穢れを貰って、ディスペルポーションを飲んでみたら、皆も安心して飲めるだろ。

 慌てて止めようとして、結局手で押さえても触ることに変わりないと気付いたヴィデロさんは、諦めたように手を引っ込め、俺が胸に触れた瞬間、俺の渡したディスペルポーションを一気に煽ってしまった。



「あっ!」

「何を驚いてるんだ。俺が実験台だったんだろ?」

「あ、そ、そうなんだけど、俺まだ穢れをヴィデロさんから貰ってなかったから……」

「……あんなものをマックに渡すのは、絶対に嫌だな……どうせならもっとマックが喜ぶものをプレゼントしたいんだけど」



 苦笑するヴィデロさんの顔色は、新薬を飲んでからすぐにいつもの元気な感じに戻った。

 効いたみたいでよかった。

 そう思った瞬間、ヴィデロさんに抱きしめられた。よかった、ヴィデロさんが自分から触ったってことは、本当に穢れが消えたんだ。



「もう違和感はなくなった?」

「ああ……一発で効いた。マックは本当にすごいな。こんなすごい薬を作れるなんて。ありがとう、愛してる」



 蕩けるような顔で愛の告白をしてくれたヴィデロさんの顔につられて思わず小さくチュッとキスした俺は、背中に視線を感じて、ドキッとしながらそっと振り返った。

 あ、注目を浴びてた。ものすごく見られてた。あああ、今一瞬皆がいるの忘れてた……。

 ブロッサムさんは呆れたように、ロイさんは生暖かく、マルクスさんはニヤニヤと。



「ヴィ、ヴィデロさん、ちょっと腰、離してもらってもいい……? 皆にも薬を渡さないと……」



 がっしりと腰を押さえられていた俺は、流石に恥ずかしくなってヴィデロさんの腕をポンポンと叩いた。

 い、いつものことなんだけどね。でも……皆のこと忘れて、俺から人前でキスとかしちゃったよ!

 ああああ、ばっちり見られてたよ! 何やってんの俺……!

 熱くなった頬を両手で隠す俺の耳に、ヴィデロさんの笑う声が微かに聞こえてきた。



「照れたマックも可愛い」

「可愛くないから!」



 ヴィデロさんの腕から何とか逃げ出して、俺は手に持ったディスペルポーションを3人に配った。

 途端に三人に揶揄われて、余計に顔が熱くなる。



「何だあ? これを飲むと、愛の告白したくなるってか?」

「うるさいよマルクスさん! んな薬じゃないから!」

「悪いマック、俺は今愛する人が」

「ちょ、ロイさん違うって……!」

「そんなもん飲んだら俺ヴィデロに殺されるんじゃねえ?」

「ねえもう揶揄ってないで一気に飲んじゃってよブロッサムさん……! 穢れがとれるから!」



 ニヤニヤしてる三人に無理やり押し付けて、三人の顔色を見る。

 薬を一気に煽った三人は、やっぱり目に見えて顔色がよくなった。

 そして、顔色がよくなった三人は、スッとニヤニヤ顔を引っ込めた。



「これは……マジで穢れが消えやがった……」



 全員が険しい顔をしている。いや、穢れが消えたんだから、素直に喜ぼうよ。

 はらはらと見ていると、元気になったヴィデロさんが、いつの間にか隣に立っていた。



「マックの薬師としての腕がいいのは、前から知ってただろ」

「ああ、まあな……でもこれは、世に出たら教会が黙ってないだろうな……」



 ブロッサムさんがそう呟いてヴィデロさんに視線を向けた。ヴィデロさんも小さく頷く。

 ああ、俺を心配して険しい顔してたんだ。

 やっぱりトレの門番さんたちって、いいなあ。ヴィデロさんがここにいるの、すごくよくわかる。



「そこらへんは、宰相の人に何とかしてもらえないかなって。もっとちゃんとした薬が出来上がったら、これを宰相の人に持って行く予定だから」

「宰相って簡単に言うけどよ……」

「大丈夫。あてはあるから」



 そう言った瞬間、ヴィデロさんが「俺も行くから」と呟いた。



「マックがセィの王宮に行く時は、俺も行く。だから、行く時は教えてくれ。ブロッサム、その時は頼んだ」

「まあ、護衛は必要だな。任せとけ。どうせこの間のときよりは長くはならないんだろ。俺が何とかしてやるから、しっかりとマックを守れよ」

「わかってる」



 いつの間にやら、俺の護衛はヴィデロさん、っていう流れで話が進んでいた。

 ブロッサムさんって実は偉いの? そういうの決めれる人なの?

 俺が驚いていると、その顔を見たブロッサムさんがニヤリと笑った。



「お、知らなかったのか? 俺は『トレ街門守護騎士団副団長』なんだぞ?」



 知らなかったよ。門番さんたちにそんなかっこいい肩書があったなんて。



「じゃあ、ヴィデロさんも『トレ街門守護騎士団』……かっこいい……」



 俺が思わず零した呟きに、ブロッサムさんとヴィデロさんが苦笑した。







 トレの門に帰ってくると、立っていた門番さんは俺達を見るなり「肉」発言。ブロッサムさんに拳骨を貰っていた。もちろん、兜をかぶっているから、ゴン、といい音が響く。



「それより森の奥に穢れた魔物がいたぞ。あれは特別変異だ。どこかに魔素が吹き出してるところでもあったのかもしれねえ。森を回ってもらった方がいい」



 ブロッサムさんの言葉に、門番さんが息を呑んだ。



「その魔物はどうしたんだ? 態勢立て直して挑むか?」

「もう消してきたよ」

「はぁ⁈ 5人で?! だって、言っちゃ悪いが、マックも一緒だったんだろ?」



 ちらりとこっちを見ながら、一段階声を落とす門番さん。聞こえてるって。でも俺戦闘は向いてないから仕方ない。薬師だしね。

 そう思っていたら、ブロッサムさんも一段階声を落として、こっちをちらっと見た。



「馬鹿お前、マックやべえぞ、怒らすなよ」



 ちょ、ヤバいって何だよブロッサムさん。

 そこ、ビビったような顔してこっち見るなよ!

 門番さんの喉がごくりと鳴る。



「ど、どんな感じでやべえんだ……?」

「まずはな、戦闘不能状態にさせる薬を投げつけられるだろ。ぎゃあああってなってる間に剣でザクっと。でもって止めに魔法でドカンだ!」

「ひえええ、やべえ怖え!」

「ちょ、何変な説明してるんだよ! 俺そんな危険人物じゃないから!」



 ブロッサムさんに突っ込んだ瞬間、他の門番さんが一斉に吹き出した。あ、ヴィデロさんまで笑ってる! 

 さっきまで変な目で俺を見てた門番さんまで笑っていて、ようやく全力で揶揄われたことに気付いた俺なのだった。

 俺で遊ぶなよ、もう。







 詰所内で、インベントリに入っていた大量の肉を取り出して食堂のテーブルの上に置く。皆も膨らんだカバンから肉を取り出して、留守番部隊の門番さんたちを喜ばせると、そこから酒盛りが始まった。って、明日仕事じゃないの? すっかり深夜なんだけど。

 ワイワイ始める門番さんたちを溜め息を吐きなが見ていると、隣に立っていたヴィデロさんの肩に、ブロッサムさんの手が置かれた。そして、ブロッサムさんがヴィデロさん越しに俺を覗き込んできた。



「マック、さっきのやつをセィに持ってく時は、絶対に俺に声を掛けろ。ヴィデロを連れてけ。こいつならセィも慣れたもんだろ。俺らはあの薬、マックが偉い人の所に持ってくまでは誰にも言わねえから、頼む。あの薬を、広めて欲しい」

「……うん」



 俺はブロッサムさんの言葉に、神妙に頷いた。なんだかすごく重い言葉だった。

 瞬間、ピコン、と何かの通知が来た。

 クエストクリア、かな。

 目の前のイノシシ肉パーティーを横目に、俺はそっとクエスト欄を開いた。



『ユニークボスを討伐せよ



 トレの森深部にユニークボスが現れた!

 トレの精鋭たちと共にユニークボスを討伐し、街を魔物の脅威から守れ!



 クリア報酬:???

 クエスト失敗:ユニークボス討伐ならず トレの精鋭の戦闘不能状態 トレの街南門破壊 トレの街3分の1機能低下



【クエストクリア!】



 誰一人欠けることなくユニークボスを討伐できた!

 街の平和は守られた!



 クリアランク:A



 クリア報酬:セィ城下街への護衛獲得(移動開始から無期限) 騎士団団員親愛度アップ』



 
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