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165、耳元で囁くのはぜひ工房でお願いします!
しおりを挟む「おま、お、マック……マジかよ……」
驚いた顔のままそんなことを呟くブロッサムさんの前に、現物を見せた方がいいのかな、とランクの高い方を取り出して置いてみる。
ブロッサムさんは恐る恐るといった体でそれに手を伸ばした。
「だってレシピはわかってたからそこまで難しくはなかったんだよ。ただ回り道はかなりしたけど。おかげで聖水は作れるようになったから穢れたら言って。元値は空瓶一本分で作れるからさ」
まあ、呪いが解けるほうが出来たのは偶然に近かったけど。
そう言うと、ブロッサムさんは疲れ切ったように額に手を当てた。
「空瓶一本分の値段であのクソ高え聖水が作れる……って」
「ここで作ってみてもいいけど、俺、祈り始めると自分の世界に入っちゃうんだ。途中でやめるとか出来なそう」
「いや、疑ってるわけじゃねえんだけどな……ハハハ、この話が洩れたら本格的に教会が動いちまいそうだ」
ブロッサムさんは楽しそうに笑い始めた。
これだからマックは面白いって、そこまでの行動はしてないって。
笑いを収めたブロッサムさんは頬杖をついて、じろりと俺を見た。
「マックは教会であの誰が受けるかわからない「祈るための講習」とか言うのを受けてきたのか?」
「違うよ。あんまり教会に行きたくないから、別経路で教えて貰ったんだ。ね、ヴィデロさん」
「ああ、ナスカ村で回復をしていた人が元教会の人らしくてな。マックが薬代の報酬に教えて貰ったんだ」
教会に何回も行って顔を覚えられるのも嫌だし、しばらく教会には行かないよ。っていうか行かなくていいなら二度と行きたくないところの一つだよ。
本格的に祈りのレベルを上げて全部の解呪をできる薬を作らないと検証もままならないんだよなあ。
そして、薬の方も、まだいまいち配合がわからないから、そこらへんもやってみないと。配合が違うとランクが高い素材を使ってもランクSにはならないから。
「なるほどなあ。それにしても仕事早いなマック。マジでびっくりした」
「納得のいく出来まではまだ時間がかかると思う。もっと程度のいい聖水を作らないといけないんだ」
「その貪欲さも薬師向きだな。待ってろ、とりあえずここの気付けの酒を持ってきてみる。使えそうなら融通もしてやる。食堂に入ってくる酒も持ってきてみるか?」
「うん」
部屋を出ていくブロッサムさんを見送りながら、俺はインベントリから簡易調薬キットを取り出してテーブルにセットした。
ここで作ってみて、使えそうなら俺の分も注文頼もう。
でもさっきのブロッサムさんの言葉、ちょっと嬉しかったな。
「俺、薬師向きだって」
ああいう渋い人に認められるってのも嬉しいもんだ、とにこにこしていると、ヴィデロさんがいきなり俺の肩を抱き寄せた。
そして耳元にちゅ、と音を立ててキスしてきた。
「え?! あ、の、ヴィデロさん……?」
不意打ちだ! 心臓跳ねたじゃん。
とドキドキしながらヴィデロさんの方を向こうとすると、耳に押し付けられた唇から囁き声が聞こえた。
「ブロッサムの言葉でそんないい顔するなよ」
「や、やきもち?」
「ああ。でもその顔も可愛い」
悪びれることなく照れることもなく頷いたヴィデロさんは、耳に口をくっつけたままそう続けた。
あ、待ってやめて。耳にダイレクトに囁かれると、年頃の男の子としてノックアウトされちゃうから。
だから囁くなら、細胞活性剤使ってもいい場所でして!
とひたすらあたふたしていると、ヴィデロさんの笑い声が吐息とともに俺の耳を直撃した。ああ、ダメだって。その含み笑い好き。ドキドキが止まらない……。
俺の反応に満足したのか、ヴィデロさんは漸く耳から唇を離してくれた。
はぁ……と盛大に息を吐いて、キッとヴィデロさんの方を向く。
「そういうのはここじゃなくて、俺の工房でして欲しいんだけど。こんなところでそんなヴィデロさんのセクシーな声を聞いても何も出来ないなんて、生殺しだよ」
口をとがらせて訴えると、ヴィデロさんがすごく楽しそうな顔をした。
「工房でならいいのか?」
「うん。ぜひ。俺も耳元で囁いてみていい?」
「もちろん。たくさんイイ声を聞かせてくれ。俺の耳元で」
色気たっぷりな視線でそう返され、思わず悶える。そ、それって囁き声なんかじゃない類の声じゃないですか。エロい、エロすぎるよヴィデロさん……! 否やはないけど!
と悶えていて、ふと思い出す。
「あ……そういえばまだ工房にヴィルさんの身体が転がってる……」
呟いた瞬間、ヴィデロさんの方から舌打ちが聞こえたのは気のせい気のせい……。どうするのかなあのアバター。
そんな風にヴィデロさんと遊んでいると、数種類の瓶を抱えたブロッサムさんが帰ってきた。
「おら、一応ここで手に入れられる酒を持って来たぞ」
「わあ、ありがとう。とりあえず全部試してみていい?」
「ここで出来るのか?」
「道の真ん中でも作れるよ」
ブロッサムさんから酒瓶を受け取り、さっそく一本目を開ける。
聖水とキュアポーションも取り出して、並べて置く。
ブロッサムさんが興味津々で見守る中、俺は解呪薬を作っていった。
結果、気付けの酒が普通にランクCの物が出来た。火酒ほどじゃないけど、結構強いからかな。
残りの物はすべてランクD。全く同じ手順で調薬したから、気付けの酒が一番調薬するのに合ってるってことかな。
ということでブロッサムさんに、今度から俺の分も少し多めに仕入れて貰うようお願いした。
酒の料金はお金じゃなくてポーション類でと約束をして、交渉は成立した。衛兵が使う瓶まで貰ってしまった。なんでも、門番さんとか衛兵さんたちが支給された物じゃない瓶を持ってると、問題があるとかなんとか。大変だね、門番さんたちも。
話はまとまったから、と席を立ち、また増えてしまったディスペルハイポーションをしっかりとカバンに入れて、俺はブロッサムさんとヴィデロさんに手を振った。
街から出ないから送りはいいから、と詰所を出てくる。鎧を着たままのヴィデロさんはもしかしてこの後も門の所に立つのかな。
二人の代わりに立っていた門番さんたちにも手を振って、俺は工房の方を目指した。
そうと決まったらとりあえずひたすら祈りまくってレベル上げないと。
倉庫のインベントリにディスペルハイポーションをしまい込むと、俺はモントさんの所から買ったお茶を淹れるために水を魔法で出した。水魔法、覚えてみればすごく便利。
その水でお茶を沸かして一口含む。
「あー……美味しい。でも普通の水と味は変わらないよな」
そんなどうでもいいことを呟きながら机に移動した。
レベル上げレベル上げ。
聖水を作ってもいいんだけど、祈りのたびに作ってたら聖水だらけになるのは目に見えてるので、とりあえず祈るだけ。もっとレベルが上がったら祈るついでに聖水作ろう。
手を組んで、目を閉じる。
ニコロさんに教わった祝詞を口に出して……。
「天より私たちを見守ってくださる方々よ……」
ログアウトの時間を示すアラームで我に返った。
嘘、俺あれからずっと祈ってたの?
本気で時間を忘れたよ。
どっと疲れが襲ってきて、椅子の背もたれに身体を預ける。
スタミナ切れだ。すっからかんだ。MPもほぼ尽きてる。
だるい腕を動かして、置いていたお茶に手を伸ばしたら、お茶が少しおかしいことに気付いた。
なんか前よりキラキラしてるような……。
まさか。
「か、鑑定」
『聖水(希):ランクC 精神安定成分の入った聖水 服用すると穢れを祓い精神を安定させることが出来る 穢れたものを浄化することが出来る 魔力で出した水に祈りを捧げると出来る』
鑑定の内容を読んで、目の前のお茶をまじまじと見る。
あちゃあ。このお茶、祈られちゃったんだ……。
キラキラしたお茶を見つめながら、思わず笑いが洩れる。
明日は違うお茶を使って祈ってみようかな。スタミナ回復する聖水とか出来そうだ。そしたら呪いを解いた後に全回復、とかも出来るのかもしれない。
でもこれは宰相のクエストには向かないアイテムだよなあ。(希)とかついちゃってるし。きっと希少の希だよなあ。まあ、誰もお茶に向かって祈ったりはしないだろうから仕方ないか。
お茶での実験は置いといて、だ。
まずはこのお茶、飲んでもいいのかな。それが問題だ……。
結局お茶(聖水)は美味しくいただいた。飲まないとせっかくの茶葉が無駄になるから。
キラキラしてるだけで味は普通のお茶と変わりなかったからね。
奥の部屋に移動して、一応鍵を閉めてベッドに転がる。
ヴィルさんはログインする時間が取れないんだろうなあ。あのアバター、ほんとどうするんだろ。でも忙しそうだからこっちから連絡するのは悪いよな。アバターのことで。
向こうから連絡が来るとも思えないし。
しばらくは放っておこう、そんなことを思いながら、ログアウトした。
それから数日は、ひたすらログインして祈って回復してまた祈って時間になってログアウトするを繰り返し、順調に祈りレベルを上げていった。ヴィデロさんの顔も見ずに。見たい。会いたい。
そんなこんなで祈りレベルが10を超えた。そこまでは結構順調に上がるんだよな。どんなスキルでも。まずスキルを手に入れないとはなしにならないから俺の剣技は日の目を見ないわけだけど。
その間色んなお茶で聖水を楽しんだのは内緒。すべて美味しくいただきました。
そして学校が休みの日。
今日も祈るぞーと気合を入れながら朝ご飯を食べていたら、俺の携帯端末が震えた。
誰だろう、と画面をのぞき込むと、そこにはヴィルさんの名前が表示されていた。
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