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175、移動開始
しおりを挟む「ここは、健吾が魔法を使った場所だ」
なるほど、確かに乱れてる。だからヴィルさんから警告が来たのか。
「石像の彼がああ言っていたから大丈夫だとは思うんだけどな」
「これが乱れると向こうと通じなくなるってことですか?」
「通じなくなるっていうのとはまた違うんだが、よくわからないんだ。ただ、ここまで揺らいだのはあの魔法を使われた時が初めてだな。天使が使ったときに気にはなっていたんだ」
これで通じなくなったら切実な問題だよ。ログイン出来なくなったら多分生きた屍になりそうだから。
受け取った紙を握りしめて、俺はまっすぐヴィルさんを見た。
「わかりました。あそこの部屋では使いません」
「そうしてくれると助かるし、天使にも伝えて欲しい」
「あ、はい」
俺の返事に満足したのか、ヴィルさんはうーんと伸びをして、背中と頸の骨をゴキゴキ鳴らした。おお、すごくこってる
ずっと座ってるから背中がこったりするんだろうなあ。
「おい佐久間、ちょい休憩だ。コーヒー淹れるぞ」
「おう」
二人で立ち上がり、キッチンの方に向かって行く。
二人とも背が高くていいな、なんて見送りながら、ギアを所定の位置に置いて、簡易ベッドをしまった。
荷物を置いていたところからマフラーをとって首に巻いていると、キッチンから出てきた佐久間さんが絶望的な顔つきをして俺を見ていた。
どうしたんだろう。と思っていると。
「え、健吾帰っちまうの……? 今日は飯作ってくれねえの……? 俺、健吾の飯を楽しみにここに来たのに。ヴィルの野郎普段はこき使うだけこき使って飯は弁当屋の弁当しかよこしやがらねえから。健吾、俺、家庭の料理に飢えてるわけよ。なあ、今から材料買いに行ってくるから作ってくれねえ……?」
「え、あの」
佐久間さんの肩越しから見えるヴィルさんは、佐久間さんの態度にちょっと笑いを堪え気味で俺を見ていた。
ちなみに今日はお昼を作る約束はしていないから、家からまっすぐここまで来た。
時間はまだ12時前。
結局佐久間さんが涙目でごり押ししてきたので、買い物とお昼ご飯作りと相成った。
家に帰ってきたのはなんだかんだで2時ごろとなった。急いでログインすると、工房から門に走った。
息を切らしながら門に着くと、すぐに詰所に通された。
ヴィデロさんは他の門番さんと談笑をしていて、その笑顔に思わず見とれてしまう。カッコいい。
「ヴィデロさん、お待たせ」
「いや、大丈夫だ。奥でブロッサムが待ってるから行こうか」
「うん」
さりげなく手を繋いで、ヴィデロさんが俺を奥に促す。
すると後ろからヴィデロさんと話をしていた門番さんたちが「部屋に連れ込むなよ!」と笑いながらヤジを飛ばしてきた。
「連れ込まれても全然いいのに。むしろ連れ込まれたい」
「そんなことを言うと本当に連れ込むぞ」
「例のアレ、ちゃんと持ってるから大丈夫! 連れ込んで!」
気合いを入れて誘いに乗ると、ヴィデロさんが声を出して笑った。
残念ながらブロッサムさんが待ってるから連れ込む時間がないそうだ。
そんな冗談を言い合いながら、前にも来た部屋に入ると、ブロッサムさんが椅子に座って居眠りしていた。
胸の前で組んでいる腕の太さが凄い。筋肉と腕の筋が漢を感じさせて、顔の渋さと相まって貫禄が。って居眠りに貫禄出してどうするんだよブロッサムさん。
「ブロッサム。マックが来たぞ」
ヴィデロさんが声を掛けると、ブロッサムさんが寝ぼけた声を出して、ハッとしたように目を開けた。
お疲れなのかな。どこでも皆疲れてるみたいだな。俺だけ遊んでるみたいで申し訳ない気がしてきた。
そっとブロッサムさんの前にスタミナポーションを差し出すと、ブロッサムさんは頭をガシガシ掻きながら「ああ、悪い寝てたわ」とこっちを向いた。
セィ城下街に行くまでの道のりは、各街の詰所の馬を乗り換えて向かうらしい。
街を通り過ぎるごとに馬を詰所で交換してもらって、とにかく移動を素早く済ませるとのことだ。
明日の朝出発で、砂漠都市で一泊、その後セィに向かうってことで決まった。
特に気を付けるのは、教会のローブを着た人。
昨日、比較的穏便なはずのトレの聖職者が、プレイヤーと問題を起こして、ブロッサムさんと衛兵さんが走り回っていたらしい。
街中なら衛兵に全部任せるのに問題を起こしたのが門の所だからこっちにまでとばっちりが来やがった、と口をとがらせていた。だからこその居眠りか。お疲れ様。
あれだけの暴挙に出ながら教会がなくならないのは、それでも一定の教会支持者がいるかららしい。教会の集まりに出席しては教会の良さを周りにも勧めるとかで、聞いているとぞっとする話だった。
多分、魅了されてるんだよな。その人たち。
あの、妙に心地よく妙に気持ち悪い部屋の空気を思い出して顔を顰めると、ブロッサムさんが大あくびをした。
そしてセィまでの移動当日。
昨日は早めにログアウトしてゆっくりと寝た俺は、朝スッキリ目覚めてしっかりと腹を満たしてからログインした。
昨日もチェックしたけど、インベントリ内をもう一度チェックして、何か必要な物はないか確認していく。途中の弁当よし。ポーション類よし。調薬キットよし、その他もろもろよし。一気にたくさんになってしまった火酒は数本を残して倉庫にしまい、敵を攻撃する系錬金アイテムをごっそり持ち込む。もちろん錬金術師ジョブで釜もレシピも忘れない。今回は素材集めじゃないからそこまでインベントリの空きはいらない。
よし、と気合を入れて工房の外に出ると、すでにヴィデロさんが黒毛の馬を引いて待っていてくれた。
「おはようヴィデロさん。馬さん移動日和だね」
「ああ。すごくいい天気だな。馬を走らせるのは気持ちいいぞ。おいでマック。乗馬デートしよう」
「うん!」
手を差し出されて、その手を掴む。
門のところまでは馬を引いて歩いて進み、立っていたロイさんに手を振ると、ヴィデロさんと俺は馬上の人となった。
ヴィデロさんが連れて来た馬は、とても足の速い子だった。
ヴィデロさんも俺を抱えるようにしたまま馬を繰って、風の様に馬を走らせる。気持ちいい。
馬を走らせているときは魔物もあまり寄ってこないから、すごく快適にクワットロまで着いた。
門のところで黒毛の馬を引き渡し、今度は栗毛の馬が連れられてくる。
街には寄らずに、ひたすら走った。
途中休憩をとろうということになって、湧水の道に入り、そこで馬も俺達も休憩。お弁当を取り出して、ヴィデロさんに渡した。
少し湧水も汲ませてもらって、また馬上の人となった俺たちは、砂漠に差し掛かっても先に先に進んだ。
順調に進み、日が暮れるころには砂漠都市の門を潜ることが出来た。
門に馬を預けて、ヴィデロさんと二人で宿屋を探す。食堂では名物カクトゥス料理があったのでそれを頼み、ヴィデロさんはしっかりと肉を食べていた。美味しい。
無事宿屋の部屋も取れて、何とか足を休めることが出来た。
「騎乗って楽しいけど疲れるね」
「慣れないとそうだな。俺も久しぶりにこんなに馬に乗ったよ。気持ちよかったな」
「うん。でもずっと俺を支えてたから疲れただろ」
「いや、全然。むしろ嬉しかったな。ずっとマックとくっついていられたから」
並んでベッドに座り、笑いあう。
明日セィに着いたらすぐに宰相にアポイントを取る予定だから今夜は細胞活性剤を使えないけれど、キスだけでも。
そう思って俺はヴィデロさんにくっついた。
伸し掛かって伸びてチュッとキスを奪うと、ヴィデロさんの口から小さな笑い声が洩れた。
「マック、そうやって煽るなよ」
「煽ってるわけじゃなくて、ただキスがしたかっただけだよ」
「そういうのを煽ってるって言うんだ。今日はダメだからな」
「わかってるよ。でも」
ヴィデロさんに跨った俺の下に、ちょっと元気になったヴィデロさんのヴィデロさんがあるんだけど。
意識をすると気になっちゃうわけで。
ヴィデロさんの顔を見上げた俺と目があったヴィデロさんが、ばつが悪そうな顔で目を逸らした。可愛い。
「口で、させて」
「だから、煽るなよマック」
「煽ってない。俺がしたいだけだよ」
「今日は早く休むんだろ」
「そうだけど。ちょっとだけ、ね、ちょっとだけさせて」
気分的に口で奉仕したくなった俺は、ぐいぐいとヴィデロさんを押して、ヴィデロさんの身体を仰向けに転がした。両手を顔の横に突いて上から見下ろす。
ヴィデロさんはそんな俺を見上げて、苦笑した。
イイってことかな。よし、いいってことだよな。そう勝手に解釈した俺は、そっと片手をヴィデロさんの下半身に持って行った。
大きくて熱いヴィデロさんのヴィデロさんを散々口で堪能して散々味わった後、仕返しとばかりに、今度は俺がベッドに転がされた。パンツは脱げなかったけれど、胸の羽根と腰の傷を執拗に攻められて散々喘がされた俺は、疲労困憊状態のままヴィデロさんの腕枕でログアウトした。
もちろん自分の部屋に戻った俺は右手とお友達になりましたとも。だってあの状態辛い。内側にこもった快感でひたすらイかされ続けるから、ほんと辛い。右手で頑張ってしっかりとエロい液体をティッシュに出してようやくすっきりとした俺は、シャワーを浴びて夜ご飯を食べて、目覚ましを早めにセットして眠りについたのだった。
なかなかくすぶったもやもやに寝付けなくて次の日ちょっと寝不足だったのは言うまでもない。
でもログインした瞬間に見たヴィデロさんの寝顔ですべての嫌なことがすっ飛んだ俺は、耐えられなくなってヴィデロさんに抱き着いてしまい、貴重な寝顔を朝の爽やか笑顔に変えたのだった。好き。
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